さすがに三人だと、【空間魔法】の魔力の消費がバカにならないな。
地下29階の話。
「行くぞ!」
俺はウラガとグラスに肩を掴まれた状態から、【空間魔法1】を使って、先行させていた岩ナイフと自分たちの場所を交換した。転移によって、10mだが、一瞬で移動する能力のおかげで、全員同じ道へと入る事ができた。
今いる29階は、道がそれぞれ独立して、ある程度の範囲をランダムに移動している。その道と道が繋がる時間が、29階では3秒も無いのだ。これでは、三人で同じ道へと移動することなど、不可能なのだ。だが俺達は【空間魔法】によって、それを克服した。
「一般人だと、どうやってクリアするんだろうね?」
「やっぱり3秒以内に、出来るだけ通るんじゃないか?」
「それでも出来て4人が限界ですよ。もし魔獣が居たら、それも無理でしょうけどね。」
道幅は、横に二人並んでも剣を振るえる程の幅はある。なので、道が繋がる事を察知できて、魔獣も来ず、罠による警戒すら無視するのなら、4人くらいは頑張れば行けるだろう。
だが、さらに暗闇も加わるので、余程、スキルに自信があって度胸が無ければ、そんな博打みたいな事はしないだろう。
そして、どんどん道を渡れなかった者と、離れ離れに・・・ついには一人で魔獣を・・・。確実に死ぬだろう。考えただけで怖い。
「まぁ、俺らにはテルがいるから、バラける事は無いなw」
「そうだな。でも、もし離れたらその場に居てくれよ。俺が探しに行くから。」
ウラガが俺へ満面の笑顔で語りかけてきたので、俺も一応の返事をした。そして、万が一が起こった場合の対処法を伝えておく。迷子の時のお約束だ。なんだか、フラグを立てたようで嫌なのだが、言っておかなければならない。
「それじゃ、この階層もサクサク行くぞ!まずは、見えてるモノリスからだ!」
実は、最初に転移した場所にモノリスがいたのだが、向こうは既に臨戦態勢に入っており、ウラガが盾を張って瞬時に守ってくれていたのだ。だから、今も1cm四方に分裂したモノリスからの、マシンガンの様な攻撃に耐えている最中だったりする。
「グラス。準備はいいか?」
「(コクコク)」
「ウラガ、タイミングを見て、左側の盾を開けてくれ。」
「了解!」
ウラガは修行の成果として、若干だが、【大盾】の部分的な開閉に成功していた。そして、モノリスからの攻撃が弱くなった瞬間に、グラスの顔付近の【大盾】が穴を開けたように、消えたのだ。
グラスはそこから顔を出して、【竜力】によって口から出せるようになった【火魔法】を思いっきり吹きだした。
まるで火炎放射気を放つかのように、ゴオオというかボオオという音を立てながら、モノリス達を炎が包みこんでいった。ウラガの盾越しだが、目の前一面が炎で埋め尽くされて、その熱波が盾の隙間を縫って、俺達へも届いていた。かなり熱い。
時間にして10秒程だったが、黒に近い茶色だったモノリスが、真っ赤になって地面に転がっていた。分裂して操作していた岩だけでなく、本体と思しきものも、どこだかわからないが、全てが地面へと落ちていたのだ。
それからしばらくの間、ウラガの盾の中でモノリスの様子を窺っていたが、動く気配はなかった。たぶん殺す事に成功したのだろう。
「どうやら、やったみたいだな。」
「!やったーー!!」
これまであまり役に立てなかったグラスが、やっと自分で敵を倒す機会が得られたのだ。しかも、モノリス6体が分裂した、約2万個の岩をたった10秒で倒したのだ。広範囲攻撃で、しかもかなりの威力。さすが【竜力】に後押しされた、竜人の力だと感心する出来事だった。グラスは、小躍りしそうなほど喜んで、俺やウラガに抱きついて来る。
「それにしても、このままじゃ動けないな。」
少し時間が経ったとしても、目の前には、先ほどまで真っ赤になっていた大量の石があるのだ。まるで絨毯の様だ。
「【空間魔法】で転移しても良いけど、実験させてくれ。」
「何するんだ?」
「ちょっとユキに頼んで、凍らせてもらうんだ。宜しく頼むぞユキ。」
「キュ♪」
それまで俺の頭の上で、おとなしくしていたユキが、フワリと浮き上がり、俺達の目の前で止まった。ちなみにユキの魔力は、俺が寝る前に毎日出来る限りの量を渡しているので、かなりの量が蓄えられているはずだ。
「キューー!!」
ユキは力を込めてから、一気にその冷気を放出した。一瞬で周りの岩は凍りつき、モノリスだった欠片達は、ピシ!パリン!と音を立てながらひび割れていく。
「やっぱり、高温の岩を熱した後急激に冷やすと、岩って脆くなるんだな。」
よく小説や漫画で出てくる事が、この世界でも通用するのかを確かめてみたのだ。一度やってみたかった、というのもある。
「「おおぉ!!」」
二人には初めて知る現象だったようだ。あれだけ硬い岩やモノリスに、熱の変化だけで亀裂が入った事は、感嘆に値するようだ。
「なぁ!なんでこんなにボロボロなんだ?テル!!」
ウラガが俺へと質問を投げかけてきた。グラスも興味津津といった表情で俺を見てくる。俺は簡単にだが、熱膨張と収縮による、物質の劣化を説明した。急激な温度変化は、物の耐久度をドッと下げるのだ。
二人は、フムフムと俺の言葉を聞いているが、そんなもんだと思うしかないようだった。まぁ、岩の膨張と収縮なんて人の目で確認するのは難しい。前世の地球では、線路が夏場の膨張用に少し隙間があいていたり、冬用に電線が弛んでいるので、少しはイメージし易いのだが。
とりあえず、グラスの【火魔法】による広範囲殲滅が可能だと分かったので、それからの敵の攻略は、さらに容易くなった。モノリスだけでなく、蝙蝠達へもグラスの【火魔法】は効果を発揮した。蝙蝠もかなりの強度を誇っていたはずだが、高温の炎には耐えられなかったようだ。
それから数回、魔獣と戦ってみてグラスも完全に自信が着いたようだった。だが、そこで問題が発生した。
「ちょっと、息苦しくないか?」
「テルも思ったか。やっぱりちょっと苦しいよな。」
「私もです。直ぐに息が上がっちゃいます。」
明らかな酸欠状態だった。そりゃあ、ダンジョンの、しかもこんな狭い道で巨大な炎を吐いたら、酸欠にもなる。
「グラス。これから先は、酸素が回復するまで火は禁止だ。」
「えーー!」
「絶対だ。それと、酸素が戻ってもモノリス以外への使用は禁止だ。」
「うーー。はーい。」
グラスはかなりがっかりした様だが、しぶしぶ納得した。自分だって苦しいのだ。それを悪化させるほど、バカではないようだ。酸素が回復したら、また使っていいと言ったのが、プラスに働いているのかもしれないが。
それからは、28階まで同様に、ウラガが防いで、グラスが【聴覚強化】で心臓を見つけて、俺がチェーンソー型の砂ナイフで止めを刺す。そうやって、モノリスも蝙蝠も倒していった。だが、モノリス討伐には、かなりの時間がかかるようになってしまったので、なかなか進む事ができなかった。
グラスの火魔法が禁止されてから、1時間ほどで、やっと29階の中間地点までやってきた。すでに1時間経ったので、ダンジョンの中を流れる空気のおかげで、酸欠状態は回復していた。それを自覚してなのか、グラスが俺の顔をじっと見てくる。
「もう良いんじゃね?」
「そうだな。グラス。もう【火魔法】を使ってもいいけど、モノリスだけにしてくれよ?」
「やったー!!」
それまでの鬱憤を晴らすように、次に出会ったモノリスへは、さらに火力が上がった気がする程の、火炎を吹き出していた。気のせいかもしれないが、モノリスだった岩の表面が溶けている気がする。あんなの動物が浴びたら、骨になるんじゃないだろうか?グラス、コワイ。
ちなみに、グラスが火を吐くのとセットで、ユキにはそれを冷やして貰う作業が増えた。冷やさないと、進めないのだ。ウラガがそのまま進もうとした事があるが、押しのけた石が雪崩のように、後ろを歩く俺達へと転がってきたのだ。もうちょっとで火傷するところだった。
なので、ユキに頑張ってもらう。最初みたいに完全に凍らせる必要はないので、平温まで冷やすだけなので、魔力の消費もそんなに必要ない。
そんなこんなで、移動には俺の【空間魔法】を利用して、確実に3人で移動する事で、さらに2時間ほどで30階への階段までやってきた。
「さすがに人間三人だと、【空間魔法】の魔力の消費がバカにならないな。」
【空間魔法】以外に、【光魔法】、【土魔法】“水の一振り”等へも魔力を使っているので、俺の魔力消費量は、半端ない事になっていた。いくら【魔力回復2】のスキルがあろうが、すでに3割に減っていたのだ。
これから先のフロアでの、魔力消費を気にしながらも、俺は早い昼食の準備を始めるのだった。
グラスの【火魔法】戦闘のお話でした。本当は、もっときちんと書きたかったのに、描写がどうしても上手く書けませんでした。
もっと修行せねば。
テル君は、説明するのが本当は好き見たいです。面倒ながらも、丁寧に教える事でしょう。たぶん。
次回は、地下30階以降の話の予定。