5秒も、道が繋がっている時間ないじゃん。
修行と29階の話。
短めです。ごめんなさい。
グラスが、火の魔法結晶を誤飲して、結果的に火魔法を覚えるという、とんでも無い事件が起きました。ウラガの投げた魔法結晶が、空中で変な軌道を描いて曲がったのが、原因です。ちょっと自称神様、出て来てお話してくれませんかね。
「グラス。本当に大丈夫なんだよな?」
「だーい丈夫ですってばwそれよりほら!見て下さいよ!」
そう言って、グラスは新しく覚えた【火魔法】を使って、口から火を噴きだした。しかも、レベル1のはずなのに、かなりの高温が出ている。
「熱!熱いよ!止めろ。酸素が無くなる!」
「!!」
調子に乗っていたグラスもようやく自体を把握したのか、口から火を吐くのをやっと止めた。グラスが火を吹きつけていた壁は、真っ赤になっている。よほどの高温だった事が窺える光景だ。
「まぁ。グラスが魔法を覚えられたのは、僥倖だな。これで、複数に囲まれても安全だ。しかも、【光魔法】程じゃないけど、明るくなるしな。」
なにはともあれ、結果が良ければそれでいいのだ。
「とりあえず、まだ時間あるから、小さな炎を出せるかとか、火属性の付与とか、何ができるか調べておいてくれ。くれぐれも、小さな炎で頼むぞ。それじゃ俺は俺の修行に移るから。」
「はーい♪」
グラスは自分だけが覚えた【火魔法】が余程嬉しいようで、それからの修行は鼻歌を歌いながら行っていた。色々試そうとしているが、意外と出来ない事が多そうだ。
俺はグラスの様子を時々見ながら、自分の修行に移る。【空間魔法】と【遠隔操作】を強化しようと思うのだ。何かとこれからも役に立ちそうだからね。
まず【土魔法】を使って、そこらへんの岩から岩ナイフを大量に作り出した。砂のように、魔法を止めたからと言って、形が崩れる事もないので目の前には、ズラっとナイフが並んでいる。
そしてそれを、【遠隔操作】で自分の周りに配置しては、【空間魔法】を使って収納していく。身体から近くだと、【土魔法】だけで維持出来るので、その段階で【空間魔法】を使えば同様に、俺の身体にくっ付いて、収納したナイフも着いて来る。しかし、距離が出ると魔法だけでは維持できないので、【遠隔操作】が必要なのだ。
そして、1本、5本、10本とどんどん空間に消えていく。やはり個数の制限ではなく、重量もしくは体積に依存して空間に収納できる限界が定まっていそうだ。
一応、“魔法の袋”が、体積依存なので、そうだろうとは思っていたんだけどね。
そして少し特徴的なのが、剣以外でも、剣が刺さったり触れていれば【空間魔法】で収納できる点だ。剣以外の物は、それ単体ではもちろん収納出来ない。なので、所謂抜け道と言ったところだろう。別名、裏技だ。
それから俺は、【遠隔操作】と【空間魔法】を駆使して、土ナイフを入れたり出したりを繰り返した。それはもう、目にもとまらぬ速さで、【空間魔法】を使用していく。だが一向にレベルが上がりそうな気配が無かった。
「そもそも、最近覚えたんだしなぁ。そう簡単にレベルは上がらないか。」
俺はそう思いながらも、土ナイフを使って修行を繰り返すが、何か良い方法が無いのか考える。
(やっぱり【空間魔法】って、体積もしくは質量依存だから、そういうのが大きい方がいいのか?【土魔法】も魔力を大量に使って、チェーンソー型砂ナイフを使えば、レベルアップも早かった。28階層で、実質三人も運んだ時は、魔力の消費が激しかったよなぁ。つまり、収納より転移の方が負荷が大きい。モノは試しって言うし、実験してみるか。)
俺はそういうと、安全地帯の端から端。およそ10mの距離に土ナイフをそれぞれ1本ずつ置いた。そして別の土ナイフを一本持って、その間を【空間魔法】で転移し続けた。
転移の法則は、自分が剣を所有している事。そして、基本は剣と剣の位置を交換している、という事だ。なので、何もない空間にいきなり転移する事は出来ない。剣ありきの能力なのだ。
「本当に、俺の固有能力って不便。」
俺の【オール・フォー・ソード】のせいで、あらゆるスキルが短時間で覚えられて、レベルも上がりやすい。けれど、使用する時は剣が絡まないと、何も発動しないのだ。何かを経由して剣へと移す等、裏技はあるのだが、それを見つけるのがかなり難しいのだ。
俺はその後、夕食の時まで、転移を繰り返した。大量の魔力が必要になるが、俺の魔力量と回復速度があれば、人一人くらいでは、消耗は緩やかに減少する程度だ。
最初のグラスの修行の時に、料理は完成しているので、もう一度準備する必要は無かった。今回は、かぼちゃを使った温くても美味しいスープがメインだ。しかもお肉は、土鍋の様な入れ物に入れて保温していたので、今も暖かい。
「で、修行の所為かはどうだった?ちなみに俺は、何もレベルは上がらなかった。」
「俺も同じだ。盾の修行してたけど、なかなか難しいな。」
「あたしは【火魔法】を色々使ってみたんですけど、口以外から炎を出す事は出来ませんでした。」
「?手の先とかから出せないのか?ウラガの【水魔法】みたいに。」
「それができなかったんです。どうにかこうにかしてみたんですけど、全く出ませんでした。」
「そっか。手から火は出なかったか。火属性の付与は?」
「それなら、全身できました!髪の毛から爪の先まで、バッチリです。」
「そっか!良かっじゃないか。おめでとう。」
「おめでと。」
「えへへ。有難うございます。」
(ところで、髪の毛ってwなんでそこまでやってみたんだろうww)
声にも顔にも出さないが、俺は内心で爆笑していた。髪の毛が真っ赤に染まって、うねうね動くグラスを想像してしまったのだ。ちょっとグラスは天然なのかもしれない。俺の笑いのツボも、ちょっと変だがw。
それから色々と話をしてから、その日は早々に眠る事にした。
そして翌日。俺達は29階へとやってきた。
29階は、階段を出た瞬間から、既に真っ暗だった。【光魔法】で光ナイフを作って、辺りを照らさないと、隣にいるはずのウラガやグラスの姿さえ見えないくらい暗い。
そして、【遠隔操作】で光ナイフを操作して、移動する道の速度を確認する。道のギリギリで光ナイフで照らしていると、そこに映し出されたのは、かなり面倒な光景だった。
「5秒も、道が繋がっている時間ないじゃん。」
28階からは、道が常に移動しており1分くらいですれ違っていた道同士が、今では5秒程になている。これでは3人が安全に移動するなんて、不可能だ。5秒で道がすれ違うので、人が通れるくらいの空間は3秒も無いだろう。
敵に接触される危険性を考えれば、ダメージ覚悟で、無理やり渡ろうとしない限り無理だ。いや。敵がいなくてもギリギリ無理かもしれない。
ウラガもグラスも、事の重大さに気付いているが、解決方法も分かっている。なので、二人の視線は、俺へと一身に注がれていた。俺の【転移魔法】に全てがかかっているのだ。先が思いやられると感じながらも、二人に対して力強く頷いて、唯一の解決策を実行していくのであった。
修行をしましたが、成果が出たのはグラスだけ。そうそう成果が出て堪るもんですかい!
テル君は、29回も予想して修行していたのでしょうか?それなら賢いですね。結果は出なかったけど。
次回は、地下29階以降の話の予定。