へへw。これでこの階層も楽になるぞ!
地下23階と24階の話です。
今は23階のまだ中盤だが、俺達は既にヘトヘトだ。
理由は、逆エスカレーターのせいで、一向に進まないからだ。しかも、魔獣に襲われれば、歩みを止めた分だけ戻されてしまう。精神的にも参っているのだ。
「今中間くらいだから、もうちょっと頑張ろう。」
「まだ中間かぁ。ダンジョンって、奥に行くほど敵が増えるしなぁ。」
いつも陽気で積極的なウラガでさえ、かなり嫌そうだ。グラスも体力は回復した様だが、行きたくないようだ。
「それでも行くしかないだろ。」
俺は冷たいようだが、行動する事を提案する。ダンジョンの真っただ中にいるのだ。せめて安全な階段までは進むべきなのだ。
二人もその事は分かっているようで、なんとか気力を振り絞って立ちあがった。
「よし!行くぞ!」
「「おー」」
弱弱しくも返事をしたので、きっと大丈夫だろう。戦闘になったら本気になるはずだ。
それからも、逆エスカレーターと襲ってくるサソリとモグラの魔獣達に苦戦しながら、俺達は歩き続けた。【地形把握】によって、すでに24階への階段は見つけてあるから、最短距離を選んである。それでも、かなりの時間がかかりそうだ。
それからおよそ3時間、歩き続けて、戦い続けてやっと階段へとやってきた。階段を目にしたウラガとグラスは、猛ダッシュで24階への階段へと突っ込んでいった。
階段に俺も走って行くと、既に二人は倒れるように寝ころんで休憩していた。足がパンパンになっているようで、寝ながら熱心に揉んでいた。
そしてウラガの方から、グーー。という大きな音が聞こえてきた。俺がウラガの方を見ると「へへへ」とお腹を擦りながら、物欲しそうな笑顔でこちらを見てきた。
この23階だけで、既に5時間かかっている。つまりもう昼なのだ。逆エスカレーターのせいで、腹ペコになっているのもうなずける。
俺も腹が減ってしまっていたので、昼食にする事にした。次の休憩がいつになるか判らないので、いつもより多めに食事をとる。ついでに、ダンジョンの中でも食べられるように、サンドイッチを用意しておいた。
一時間ほど、たっぷりと休憩した俺達は、次の24階へと歩みを進めた。あんまりぐずぐずしていると、夜までに次の階段に辿り着けなくなる。
だが、次の24階の光景は俺達の心を打ち砕くのに、十分な威力を秘めていた。エスカレーターの速さが増しているのだ。
先ほどの23階は比較的ゆっくりだったが、今の24階は前世で見たエスカレーターと同じか、若干遅いくらいだ。どう考えても進むのが困難になっている。振り返ったウラガとグラスの表情は、かなりひどいものだった。まるでこの世の絶望の様だ。きっと俺も同じ様な顔をしているに違いない。
「行くしかない。」
俺は自分へそう言葉をかけて、一歩を踏み出した。
ちなみに、【地形把握】によって全体を見てみるが、高さがさらに増していた。先ほどが300m程だったが、今度は500m程になっている。横の広がりも5km以上ある。
やはり、エスカレーターの速さが増しているので、もう駆け足状態にならないと、まともに階段を上る事も出来ない。それなのに、敵は以前よりも増えているようなのだ。
元々、数で攻めてきたサソリとモグラが、さらにその頻度まで増しているのだ。うんざりだ。
それでも、ウラガに盾で防いでもらって、俺ま圧縮した土ナイフでできるだけ高速で敵を排除したていく。
そうしながら、1時間くらい経ったころだろうか、サソリを退治している最中に、俺の身体をゾクリとした感覚が駆け巡った。
俺達はサソリを倒した後、急いで分岐点までやってきた。分岐点は、平らな地面なので、一息出来る唯一の場所なのだ。
そこで俺はステータスを確認する。すると【土魔法2】へとレベルアップしていたのだ。こんな短期間でと思ったが、いつも以上に【土魔法】に魔力を注いで、チェーンソーのような砂の剣や、圧縮した土ナイフを使用していたのだ。それが原因で、早いレベルアップになったのだろう。
そして、【土魔法2】と【空間把握2】のおかげで、上位スキルの【空間魔法】を覚える事ができていた。
「よっしゃ!【空間魔法】覚えたぞ!」
「おお!ってことは、【土魔法】のレベルが上がったんだな?おめでとう!」
「凄いです!!【空間魔法】を覚えられる程実力のある人は、獣人国でも数える程しかいないんですよ!おめでとうございます!」
「二人ともありがとう。ちょっと【空間魔法】を知りたいから、ここでしばらく実験させてくれ。」
「「任せろ(て)!!」」
ウラガとテルに周りの警戒を頼んで、俺は手早く【空間魔法】を調べていく。と言っても、普通の【空間魔法】は使えず、剣に関わる事にしか使えないはずなのだ。
とりあえず、【空間魔法】でできそうな事をやってみる。まず試みたのは、空間の形成だ。“魔法の袋”から取り出した数本のナイフを地面に並べて、それを別の空間に収納するイメージだ。
すると、剣のあった空間がゆらりと揺れて、空気へ溶けるようにして剣が見えなくなった。俺は恐る恐る剣のあった地面を手で触るが、完全に消えていた。だが俺の意識の中には、確かにそこにあるのだ。
感じるのに見えないし触れない。まるで幽霊の様だと思った。それから再び出現すように【空間魔法】を使うと、また空間が揺らいでナイフが現れた。
次は、その剣を空中に収納できるかだ。俺は【遠隔操作】でナイフを身体の前の空中に並べて、【空間魔法】を使ってみる。すると、先ほどと同様に空間に溶けるように消えた。俺が移動すると一緒にくっ付いてきた。おそらく俺のスキルで、擬似的にだが俺と繋がっていたので、その距離を維持した空間に収納されたのだろう。
次は、皆の憧れ瞬間移動だ。床に5本並べたナイフの中央の一本を、少し離れた場所へと移動するように【空間魔法】を使ってみる。だが、これは制御が難しいようで、最初は5本まとめて移動してしまった。
それから何度か練習して、ようやく一本一本別々に転移する事に成功した。これで、敵に気付かれることなく配布を背後から刺せるだろう。ますます暗殺者になれそうだ。
だがこの瞬間移動には欠点があった。自分の見えている場所にしか転移出来ないのだ。何度か、俺の背後に転移を試みたが、うんともすんとも動かない。
だが見えていれば良いので、【鷹の目】等と併用するする事で、その欠点も解除出来た。
他にも制約は色々あった。まずは距離だ。最高で100mしか転移出来ない。次は消費魔力だ。距離が増えるに比例して、消費魔力が増えていく。そして重量だ。これも重くなればなるほど消費魔力が増えていく。
「よし。最後の実験だ。」
某ファイナルなファンタジーの15番目の主人公の様に、自分と剣の場所を入れ替えるのだ。もし失敗すれば、どうなるか分からない。どこか別の空間に移動するのかもしれないし、成功しても、地面の中に埋まるかもしれない。
色々と嫌な未来を想像するが、俺は意を決して少し離れた場所に置いたナイフへ意識を集中して【空間魔法】を使用した。
俺が【空間魔法】を使用したと思った瞬間には、もう転移は終了していた。しかも、地面に埋まることなく、別次元に移動する事も無く綺麗に成功していた。
「ぃよっしゃーー!!!!!!!!!」
「おぁ!?!?」
俺は自分の転移が成功した事に感動して、大声を上げて喜んでいた。そして、俺の修行を観察していたウラガは、俺がいきなり転移した事と、俺の雄たけびに心底驚いて、変な声を上げていた。グラスも【周辺把握】を使っていたので、感覚として俺が移動したのを感じたようで、驚きの表情で俺を見てきた。言葉にならないようで、口をパクパクさせている。
「へへw。これでこの階層も楽になるぞ!」
俺のその言葉を聞いたウラガとグラスは、驚きの表情から一変、満面の笑みを浮かべて、俺を抱きしめてきた。
俺は一通り試した事を説明して、二人に理解してもらった。そして、二人と俺は手をつないで実践してみる事にした。
俺は【土魔法】で作ったナイフを【遠隔操作】で、100m先のエスカレーターへと放り投げた。そして、間髪いれずに【空間魔法】でナイフと場所を入れ替わる。俺だけじゃなくて、俺と手を握っていたウラガとグラスも、無事に転移出来たようだ。
ちなみに、ユキは俺の頭に乗っていたし、スライムのシズクは俺の背中にくっ付いている。今後、安全なところで、直接触れる必要が無いかを試さないといけないな。と頭のメモに記録しおく。
俺の【空間魔法】による転移が成功したのを皮切りに、ダンジョン攻略はスムーズになった。魔力の消費が激しいので、転移の乱発はできないが、それでも1回で100mも稼げるのはかなりの負担軽減に繋がったようだ。
ウラガとグラスもの表情にも積極性が見え始めて、その後の24階はそれまでに比べて、簡単に踏破する事ができた。それでもかなりの時間がかかってしまい、25階への階段に到着したのは、日が沈んでから数分後の事だった。
23階は、もうスパッと終わらせました。だって同じなんだもん。読者様もつまんないじゃないですか?ね?
そして話を進めるために、こじつけですが【土魔法】のレベルを上げました。
テル君は【空間魔法】をさっそく有効活用しているみたいです。でも人間3人は、さすがに魔力消費が莫大なようで、いくらテル君でも連発できないようです。だって制約が無ければ、チートも甚だしいじゃないですか。ね?
次回は、地下25階以降の話の予定。