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はぁはぁ。休憩。するぞ。

地下23階のお話です。

「ようテル。お帰り。何か変わった事あったか?」

「俺は何も見てない。見てない。ブツブツ」

「お、おいテル!?大丈夫か?」


ウラガは俺の様子がおかしいのを気にして、身体を揺さぶってきた。俺はあまりの現実に、ちょっと空想の世界へ逃げていたようだ。揺さぶられたおかげで、少し現実へ戻って来れた。


「今は言えないけど、明日もきっと疲れるよ。」

「う・・・聞かない方がよさそうだな。」


グラスも心配そうにしていたが、俺の話を聞いて、顔をらしてしまった。よっぽど聞きたくないようだ。


俺は夕食の準備をしてから、早々に寝る事にした。階段を歩きっぱなしだし、23階のエスカレーターに精神的に大ダメージを受けていたからだ。ちなみに、夕食に何を作ったかは、全く覚えていない。きっと適当に料理したんだろう。


そして翌日。ダンジョン特有の夜の星を散りばめたような輝きから、日中を示す普通の明かりへと変化するのを、俺はボーっと見ていた。


昨日あんまり早く寝過ぎたせいで、早めに目が覚めてしまったのだ。昨日、碌に食べた記憶が無いので、なんだかお腹が減ってきた。


動いてしまうと、今日が始まってしまう。つまりエスカレーターに挑むのだ。心底、億劫おっくうに感じながらも空腹には勝てず、朝食はしっかりしたものを作ろうと“魔法の袋”から食材を出していく。


朝食に、野菜と干し肉で作ったサンドイッチ、それとゆで卵を用意した。サンドイッチと言っても、前世で言うアメリカンサイズで、お腹いっぱいになるやつだ。


「もう野菜も痛んできてるなぁ。なんで、“魔法の袋”の中なのに、時間が進むんだよ!魔法よ、ちゃんと仕事しろよ!」


そう俺が不平を洩らしながら朝食の準備をしていると、やっとウラガとグラスが仲良く起きてきた。


なんだよ。朝から見せつけてくるのか?ちゃんと付き合ったら教えてくれるんだろうなぁ?等と、若干荒んだ心で二人を見つめた後、それを感づかれない声の明るさと笑顔で、朝の挨拶を交わした。


「おはよう!今日はサンドイッチとゆで卵な!しっかり食えよ。」

「おはようテル。・・・今日はまともな食事になったな。」

「おはようございますテルさん。・・・そうですね。ちゃんと食べれそうです。」

「・・・怖いから聞かないよ?話さないでね?」


おそらく、昨日の夕食は最悪だったのだろう。いくら料理担当として、何百食と作ってきて慣れていたとしても、記憶に無い程適当に作ったのだ。まともな味付けになるはずが無い。逆に何を作ったのか、気になってきた。いや。やっぱりやめとこう。


しっかりと朝食をとった俺達は、装備や後始末の確認をしてから、いざ、地下23階へと階段を下りていくのだった。そして、降りた先では、ウラガとグラスがおかしなテンションになっている。


「おいテル!階段が動いてるぞ!!スゲー!超スゲー!!」

「地面がこんなに動くなんて!でも、乗るタイミングが難しそうですね!お!ほっ!難しいw」


二人とも、地面が動くのがそんなに珍しいのか、エスカレーターに大興奮だ。俺はそんな二人を放置して、【地形把握】や【周辺把握】を使って、ダンジョン内部を調べていく。


これまでの地下21階、22階とは異なり、今度は縦に長くなっている。具体的には、約2倍で300mはありそうだ。相変わらず横幅も5km以上あるが、そんなに横には広がっていないだろう。しかし東京の赤いタワーが333mなので、それを登っては降りる。降りては登るを繰り返すなんて、正気の沙汰ではないだろう。


そして何より厄介なのが、二人がはしゃいでいるエスカレーターなのだ。それが、普通とは逆方向・・・に進んでいるのだ。つまり、戻る方向だ。


小さい頃に経験があるだろうか?エスカレーターを逆走したことを。あれが正に目の前で普通に起こっているのだ。前世のエスカレーターより、ゆっくりなのが救いだが、魔獣に襲われて足を止めたら、一気に歩いた距離が無駄になりそうだ。それを防ごうと歩きながら戦う事もできそうだが、万が一の事故に繋がりかねない。


「二人とも。落ちついてくれないか?っていうか、エスカレーターは普通反対方向に動くものだから。」

「“えすかれーたー”っていうのか!ってことは、これに乗れば普通は勝手に、上へと運んでくれるのか??」

「え!なにそれスゴイ!!超便利じゃないですか!大発明ですよ!」

「うん。大発明だね。でもこれは逆に進んでるんだ。やれば分かるけど、結構しんどいよ。」


二人はまだエスカレーターに足を乗せる事も出来ずに、右往左往している。一応、俺の忠告も聞いているようだが、如何せん、実感が湧いていないようだ。


「しょうがない。俺が手本を見せるから、真似してね?出来なかったら、手を引くから。」


まるで、エスカレーターが初めて日本に来た時に、エスカレーターガールに手を引かれて乗せて貰っている、映像の人たちみたいだ。そして、俺が手本に逆走するエスカレーターに、ヒョイっと乗って見せる。


「「おぉ!」」

パチパチパチ。


すると、なぜか二人から拍手と共に、感嘆の声が発せられた。それを俺はエスカレーターを歩きながら、しょうがないなぁと思いながら、受け止めた。


「よし!乗ってみるぞ!」


そう言ってウラガがタイミングを見計らいながら、足を出したりひっこめたりしている。


そして、「えい!」という効果音が出そうな挙動を見せながら、なんとかエスカレーターに乗る事に成功した。身長が180cmを越える大男がやると、なんだか笑いがこみあげてくる。


「わ、私も!!」


続いてグラスも「えい!」と、こちらは本当に声に出しながら、エスカレーターへと飛び乗ってきた。


初めてのエスカレーターを体感した二人は、感動したのか、顔を満面の笑顔で頷き合っている。なにか意思疎通でもしているのかね?


「もういいかな?さっさと進むよ。」

「お、おう。こんなに興奮したのは、久しぶりだからよ。よし!進むか!」


それまでの自分達のテンションの高さに、やっと気付いたようで、若干赤くなりながら、二人は登りのエスカレーターを歩き始めた。


「テル・・・はぁ、はぁ。この“えすかれーたー”って、はぁはぁ。いつまで続きそうだ?」

「たぶん、はぁはぁ、ずっとじゃないか?」

「「!!ずっと!?」」


しばらく歩いていて、二人もやっと気付いたのだろう。逆走するエスカレーターの恐怖を。上へ登るには、エスカレーターを以上の速さで歩かねばならず。もし足を止めたら、歩いてきた分が無駄になる。そして現状維持すら、歩かねばならない。


魔獣も気を使ってか、まだ出てこないが、既に二人はヘトヘトのようだ。最初のテンションの高さと、エスカレーターを称賛した声は、もう出ない。逆に、恨みごとが出てきている始末だ。


ウラガ達の心が既に折れそうになった瞬間に、追い打ちをかけるように、俺の【周辺把握】に魔獣の反応が来た。来る方向が一直線状なので、サソリだろう。なかなかの数がいる。


「あと500m位でサソリが大量に来るぞ!戦闘準備!」


俺がそう忠告すると、二人は顔をキッ!っと切り替えて、やってくるサソリに構えた。俺も、超圧縮した土ナイフを【遠隔操作】のスキルで形を維持しながら、4つ準備した。


「来ます!」


グラスの【危険予知】と【聴覚強化】も使っているのだろう。サソリが最初に使ってくる、土の球を察知した様だ。


「任せろ!」


そうウラガが言うと、【大盾】を使って、俺達を纏めて守るってくれる。そして、サソリの攻撃が飛んできたが、今までとは威力が段違いであり、ウラガの【大盾】に突き刺さったのだ。


「ヤベ!」


そうウラガが言うと、一瞬【大盾】を解除して、一瞬で新しい【大盾】を張り直した。今度は【土魔法】で強度を増したバージョンだ。


ウラガが最初に解除した【大盾】に刺さっていたのは、タケノコをちょと小さくしたような太さと大きさのある、先端のとがった岩だったのだ。


今まで、ただの土の塊だったものが、いきなり岩の、それも先端の尖った、殺傷能力が格段に増した攻撃に変わったのだ。ウラガが本気で防ぐのも納得だ。それでも若干衝撃が来るようで、ウラガは段々歩くのが辛くなってくる。つられて、盾で守られている俺達も徐々に歩くスピードが減って行く。


「クソ!ウラガ、ちょっと頑張ってくれ。俺が瞬殺してやる!」

「おぉ!!」


ウラガへそう声をかけた俺は、意識を集中して、サソリへと圧縮した土ナイフを走らせた。こちらもさらに硬くなっているようで、刃が欠ける速度が増していくが、そんな事を気にする暇も無く、サソリ達を一瞬でも早く減らそうと、頑張った。


おかげで、数分のうちにサソリを倒す事はできたが、かなりの距離を戻ってしまったようだ。


俺達は折れそうな心に鞭を打って、戻った分以上を稼ぐために、素早く歩いて行く。


そして、ちょっと広めの分岐点までやってきた。分岐点は、平らになっており、もちろん床も動かない。


「はぁはぁ。休憩。するぞ。」


俺ももうダメだ。まだ23階の半分くらいしか来ていないのに、昨日一日歩いた分くらい疲れたしまった。


ウラガとグラスに至っては、もう声も出ないようで、荒れた呼吸を整えるのに懸命になっていた。


俺は“魔法の袋”からコップを取り出して、ユキに出してもらった冷たい水を二人に渡してやった。


二人ともが、一気に飲み歩そして、お代わりを無言で要求してきた。俺も、もう一杯欲しかったのでユキにお願いして出してもらった。


これから先の事を考えると・・・やめよう。今はしっかり休憩するんだ。それも【周辺把握】で時々警戒しながらも、ダンジョンまっただ中で、腰をおろして休憩するのだった。




はい。と言う事で、逆エスカレーターです。経験ありますよね?

書いていて思うのですが、あれは遊びだから成立するものだったんだなぁ。と。

テル君は、初めから分かっていたので、他の二人より精神的ダメージは少なそうです。

次回は、地下23階以降の話の予定。

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