もしかして。エスカレーターか?
地下22階のお話です。
俺達は遅めの昼食をとってから、次の地下22階へと脚を進めるのだが、すでに気が重い。なんせ、目の前に続くのは先の見えない程の長さの階段が、登りと下りの二つあるのだ。
「はぁ。今回は、さらに広くなってるよ。どっちに行くかなぁ。」
俺が【地形把握】や【周辺把握】で確認するが、直線で5km以上ある。つまり、23階への階段が見つかっていないのだ。
そしてここからは、さらに分岐が多くなっている。間違えると、タイムロスは確実だ。
「とりあえず、グラス。どっちが危なそうだ?」
「【危険予知】ではどちらも同じくらいですね。すみません。役に立てなくて。」
「いや。俺も行き先が分からないんだから。気にすんな。」
「二人ともわかんないのかぁ。じゃあ、とりあえず降りる道にしねぇ?登りたくないしなw」
ウラガがそう言って、目の前にある分岐。登りと下りの、下りを選択した。俺もグラスも、他に頼る情報が無いので、とりあえず進む事から始めてみる。
俺達が重い足を上げて、それでも午前の遅れを取り戻そうと、懸命に階段を歩いていると、俺の【周辺把握】に魔獣が引っ掛かった。
「魔獣が来る!けど・・・全体から?」
「全体ってどういう事だ?階段の横は、直ぐ壁だぞ?」
幅2m程のかなり広めの階段であるが、階段の直ぐ横は壁なのだ。天井も3くらいしかない。なので全体から迫ってくるなんて、普通あり得ない。地面を潜らない限り。
「!!そうか、地面を潜っているんだ!」
自問自答で解答を得た俺がそう言うと、ウラガは前方を。グラスは左。俺は右と後ろを自然と担当する布陣をとった。それぞれが武器を構えて、敵の接触を待った。
「来ます!まずは上から!」
グラスがそう言ってから数秒後。ウラガの頭の上の土が崩れて、魔獣が顔を出した。その可愛らしい顔には似合わない程の、凶悪な爪を携えて、その魔獣はウラガへと襲いかかった。
「チッ!モグラかよ!」
地中で生活する動物と言えばモグラ!と言われるほど、この世界でも知名度は抜群なようだ。ウラガがそう叫んでいるから分かる。
しかし、普通のモグラとは明らかに違う。まず、身体が大きい。顔を手しか見えていないが、拳大程の顔と、それに不釣り合いな程大きな、人の顔と同じくらいの大きさの手が生えているのだ。手の先の爪は、真っ白で、見るからに硬そうだ。
俺は、その愛くるしい顔を見ながら、ウラガが“帯電の剣”を使って、モグラを突き刺しているのを、見守っていた。攻撃される前に倒してしまったので、どんな攻撃をしてくるのか分からない。とりあえず、“帯電の剣”程度の攻撃力で、モグラを刺せるので、それほど硬くない事は分かったからいいか。
「どんどん来ますよ!」
グラスがそう言うと、あちこちの地面からモグラが一斉に顔を出した。とりあえず、俺もグラスも攻撃される前に、モグラの頭を突き刺して倒していく。
だが数が少し多いので、モグラの攻撃を許してしまった。
まずモグラがしてきたのは、爪を飛ばす事だった。見るからに頑丈そうな爪が、次々とモグラから発射されてくるのだ。しかも、飛ばした後は直ぐに爪が生えてくるようだ。若干モグラの殻がが光っているので、もしかしたら爪は【土魔法】で作られたものかもしれない。
だが、その威力は十分だった。俺が捌き切れずに、数発の爪に当たってしまうが、人族の王都で貰った、頑丈な鎧の防具おに突き刺さっていたのだ。普通の爪なら簡単に弾き返せたはずなのに、モグラの爪の威力を思い知らされる。
もし顔や防具の無い皮膚に当たると、最悪、貫通するかもしれない。
「グラス!絶対に爪の弾丸に当たるな!回避を中心に、行けるなら攻撃!」
「はい!」
グラスにも装備は回与えているが、俺達が人族の王城で貰ったものよりは、遥かに強度が低いのだ。無理はさせられない。
そして、爪の弾丸が避けられると分かったモグラは、今度は直接切りつけに来た。
俺はその爪をギリギリのところで避けて、そのままモグラに剣を突き刺そうとした。だが層は行かなかった。
「イッテー!このクソモグラが!!」
げふんげふん。ちょっと感情的になってしまった。俺は確実に避けたと思ったのに、俺の脚は、がっつりと切り裂かれていたのだ。
俺はすぐさま、その原因のモグラへ視線を向けると、先ほどより爪が伸びているのだ。よく漫画や小説で出てくる手だ。限界ギリギリで避けさせて、実は伸びるんだよ!ははは、ザマー見ろ!というやつである。
「モグラのくせに!!」
俺はモグラに一杯喰わされた事にカチンときてしまい、魔力を込めた“水の一振り”で、モグラを爪ごと切り裂いた。魔力を込めて攻撃力をました“水の一振り”は、非常に硬いはずのモグラの爪をやすやすと切り飛ばし、モグラを絶命させる。
もうカワイイ等の思ってやる事も無く、俺は一心不乱にモグラ共を殲滅していった。ウラガもグラスも若干引いていたが、お構いなしに殺していく。
「ふぅ。スッキリ。」
「何がスッキリだよ!めちゃくちゃ怖かったぞ。」
「え?そりゃ魔獣だぞ?俺達の命がかかってるんだ。真剣にもなるさ。」
「最初は、可愛がってたクセに。まぁいいか。とりあえず、足出せ。【光魔法】で治すから。」
俺はウラガにそう言われて、足をウラガの方に良く見えるように差し出した。ウラガは【光魔法】で俺の脚を綺麗に治療してくれたのだ。ちなみに俺も【光魔法】を使えるが、使える対象が剣のみなのだ。不便極まりない。
「早く、剣に付随した治癒方法を見つけないとなぁ」
「そうだよな。俺だけに回復を任されると、この先不安だからな。」
ウラガは防御に魔力をよく使っているのだ。【大盾】は魔力で作った盾だし。【土魔法】で強度を上げているのにも魔力を使う。維持にはそれほど魔力は使わないようだが、新たに盾を作る時は、それなりの魔力を使ってしまうのだ。
その後俺達は、階段の先を急いだ。途中、サソリの大群や、モグラの襲撃に会いながらも、特にピンチになる程の事は無かった。
そこで余裕が出てきた俺は、一度サソリをよく観察してみる事にした。
体長は尻尾を含めて60cm程だろう。尻尾の先をクルンとまいて、前方に向けているので、実質の見た目は40cm位だ。土の球は、尻尾の先から出しているようだ。そして、こちらも巨大なハサミを持っていた。見るからに硬そうであり、そして何よりジャキンジャキン言っている。もの凄く切れそうだ。
色は茶色、クリーム色、そして黒などある。それぞれが岩の色と似て様な色合いをしているのだ。もちろん足は複数あって、カサカサと壁を縦横無尽に走ってくる。マジで気持ち悪い。
「まあ毒が無いだけ、ましかな。」
「そうだな。砂蟻や砂トンボみたいに、強力な酸とか飛ばされると、階段だから後始末が大変だからな。」
もし登りの階段で、大量の酸を出されでもしたら、例えウラガの盾で防げても、盾を解除しな瞬間に、酸の波に呑まれてしまう。相性としたら最悪だ。あれが砂漠でよかったと、今さらながら感謝していた。
そして23階への階段を【地形把握】で見つけてからは、階段に迷うことなく、どんどん進んだ。そして、早い事に4時くらいには23階への階段に着いてしまったのだ。
「ふぅ。とりあえず休憩だな。」
「もう足パンパンだぜ。」
「私もです。もう一歩も歩けませんよ。」
俺も連続する階段に辟易しており、何より足腰への負担が半端なかった。こちらの 世界に来てから体力や筋力が爆発的に増えているが、それでもこの階段地獄は過酷だった。
「とりあえず今日はここまでにしよか」
「「さんせー」」
二人は、もう横になって休憩の体制に入っていた。丁寧に自分の足をもんでいる。
「俺はとりあえず、次の23階を見てくるよ。その後、早めの夕食にしよう。」
「「いってらっしゃーい」」
ダレた二人に見送られて、俺は明日の予習の為に23階へと降りていった。そして、階段を下りた先にある階段に、俺は愕然としてしまうのだった。
「もしかして。エスカレーターか?」
エスカレーター。察しの良い方は、次の展開が分かりそうですね。期待を裏切らず、正にそうなります。
テル君は、意外とスタミナありますね。二人がダレているのに予習なんて。知らない方が幸せな夢を見れたのにね。
次回は地下23階以降の話の予定。