もう階段は見たくないけど、そうもいかないよなぁ。
地下21階の話です。
車酔いならぬ、トロッコ酔いになった俺達だが、なんとか誰一人吐く事も無く、復活できた。ウラガもグラスも、着いた瞬間は世界がゆらゆらしているのか、壁に寄り掛かって移動する程だったが、今では、干し肉をモグモグしている。
「もう良いかな?結構時間食っちゃったから、そろそろ行きたいんだけど。」
「おう。なんかこのままダラダラしそうな勢いだったしな。行こうか。」
「新しいフロアだから、楽しみです。」
ということで、俺達は新しいフロアへと降りてきた。内心では俺もドキドキなのだ。次はどんな仕掛け待っているのだろうか?
そして階段を下りたその先に広がったのは!・・・階段だった。
「え?まだ階段続くのか?」
「いや。もう21階に入ってるだろ。たぶん階段のフロアだ。」
「へー。」
なんだかワクワク感が一気に薄れてしまった。普通の階段が延々と続いている。一応【地形把握2】と【周辺把握3】を使って、ダンジョンの構造と敵を探していく。そしてこのフロアに俺は絶句した。
「このフロア、狭いけど、縦にやけに広い。ってか階段ばっかりじゃないか。」
感知できる5kmギリギリの下の方に、階段と思しき穴を見つける事ができた。そして魔獣はたくさん存在した。1階からなんでこんなに多いんだろう?
そして何よりの問題は、階段ばかりということだ。登っては降りて、降りては登っていく。脇道も多く、一度間違えればかなりのタイムロスになるだろう。まぁ、俺達はスキルで確認していくから、そんなヘマはしないんだがね。
「敵、200m先に居ます!かなりの数かも!?」
グラスに索敵能力を向上させる意図で、未だに索敵をさせているが、俺もウラガも自分でも索敵しているので見逃す事はまず無い。
「来ます!」
グラスがそう言った瞬間に、土の弾丸が、数十発も飛んできた。ウラガが俺達の一歩先に出て、盾を構えた。レベルアップした【大盾】は階段全体を覆える程の大きさになっていた。そしておそらく色合いから、【土魔法】での高質化も使っていないだろう。
「へ!こんな軟な攻撃じゃ、いつまででも耐えられるぜ!」
ウラガは盾役として地震を取り戻したようで、イキイキと土の弾丸を防いでいく。だが、土は質量があるのだ。水の様に流れていかないで、だんだんとだが、盾の前に土が堆積していく。階段なので、足場が悪いのに、さらに悪化してしまっていた。
「チッ。面倒なことしやがって!」
ウラガがそう愚痴るが、俺も同じことを思っていた。攻撃がいやらしい。
それから、数分間も土の弾丸は続いていた。もうウラガの盾の前は、大量の土砂で埋まっている。この状態で盾を解除すると、その土砂が流れてきてしまう。
俺達がそんな事に気をもんでいると、ピタリと土の弾丸が止まった。
「魔獣が近付いてます!」
グラスがそう言うと、階段の奥からゾロゾロとサソリ型の魔獣が大量に湧いてきた。
今度はゴーレムの様に一撃必殺では無く、数の暴力で攻めてきたようだ。サソリは階段の壁や天井にも這いまわって、俺達を狙ってきた。
「サソリとか、砂漠で出るのが普通だろ。ってか多すぎるよ。」
もう場違いな突っ込みだと分かっているが、出てしまったものはしょうがない。だって、サソリは砂漠と決まっているじゃないか。決まってるよね?
「暢気にボケてんじゃねえよ。なんとか倒してくれ!」
ウラガが【土魔法1】で強度を増した【大盾】で、懸命に防いでくれていた。俺はとりあえず、グラスに情報がないか聞いてみる。
「グラス。サソリについて知ってる事は?」
「ありません!」
潔い返事だった。その方が頭を切り替えられる。とりあえず、遠距離から攻めてみるか。
俺は【土魔法】と【遠隔操作】、【ダブル魔法】を使ってウラガの前にあった土を使って、土のナイフを作り上げていく。まだ【土魔法1】なので、【ダブル魔法】を使っても4つが限界だ。
そして作り上げた土のナイフを、一体のサソリへと放つ!
ガキン!という音と共に、土ナイフが砕け散ってしまった。
「あのサソリ、見ため以上に硬いぞ!」
分かり切っていたはずなのに、出し惜しみしてしまっていた。俺は本気を出して、敵をせん滅する事に決めた。土のナイフに、魔力をさらに加えて、土を圧縮していく。小さくなった分は、さらに土を加えて、さらに圧縮していく。
これでもかという位に圧縮した土ナイフは、表面がツルツルしていて、周りの光を反射していた。
「美しい。」
そんな感想をウラガがこぼしている。グラスも見とれてしまっている。
俺はそんな渾身のナイフを遠隔操作で、先ほど土ナイフを防いだサソリへと突き刺した。すると、サソリの身体へプスリと突き刺さり、サソリを容易く殺す事に成功した。
「よし!」
俺はその土ナイフを【遠隔操作】で引き抜いて、全体へと縦横無尽に走らせた。4本の土ナイフに全集中力をつぎ込んで、次々に倒していく。
その光景に危機感を感じたサソリは、魔力を使って身体全体を淡く光らせる。何をするんだ?と思いながらも、どんどんとサソリを駆除していくが、しばらくして俺は異変に気付いた。
サソリが光り出してから、俺の圧縮した土ナイフが欠けていくのだ。刃こぼれとでもいうのだろうか?
俺の推測だが、あの魔力の光は、【土魔法】で自分の身体を固くしているのだろう。だから俺の土ナイフが欠けるのだ。
「ふっ。なめるなよ。」
たぶん俺は今、極悪な顔をしているだろう。それもそのはず。いくら土ナイフが欠けたとしても、また土を加えて圧縮すれば、元通りなのだ。
俺は2本を走らせながら、1本は土を加えて修繕していく。命令を二つに分けているので、なかなかコントロールが難しいが、すぐ慣れるはずだ。ピアノを弾く時に、右手と左手を別々に動かす要領だし、なにより固有スキルの【オール・フォー・ソード】があるのだ。剣に関わる事なら、即座に習得できる。
案の定、数分でそれをマスターした俺は、満足感でいっぱいだ。なんせ、サソリはとっくの昔に全部倒してしまったのだから。後半は、俺の修行の時間と化していたのだ。
「おい、テルそろそろ行くぞ。」
「あ!待たせて悪い。ちょっと修行に本気になってた。」
置いて行かれそうになった俺は、二人の後を追いかける。だが、グラスの顔はすぐれなかった。
「グラス。顔色がすぐれないようだけど、大丈夫か?」
「え?えぇ。大丈夫ですよ。ただ、役に立てなかったなぁと思って。」
確かに今回は、グラスの出る幕は無さそうだ。魔力の低いグラスにとって、土を圧縮するだけでもかなりの魔力を使う上に、【遠隔操作】のスキルが無いので、打ちだしたらそれで終わり。つまり使い捨ての土ナイフになってしまう。
どうしたものかねぇ。俺達は、グラスが活躍できる事を考えながら、ひたすら階段を歩いて行く。
「階段ってキツイな。この世界に来て、こんなに階段を上ったのは久しぶりだ。」
「本当にキツイな。体力自慢の俺も、もう疲れたぜ。」
「私も、足が震えてます。」
それから、何度か大量のサソリに襲われたが、先ほどと同じ要領でこちらの被害も無く、殲滅に成功していた。
そして、階段の上り下りを初めて、かれこれ2時間。やっとの事で、地下22階への階段へとたどり着いた。
階段は思った以上に、足への負担が大きいのだ。体力だって消費する。階段と縁の薄いこの世界においては、これほど連続で階段を使用することも無かっただろう。というか、前世でもこんな事は経験できない。東京の赤いツリーを、階段で登るのが有名になるくらい、前世でも階段は滅多に長時間登らないのだ。
「もう階段は見たくないけど、そうもいかないよなぁ。」
俺達はこれから先のダンジョンについて、思いを巡らすだけで、精神的にもかなり疲れてしまうのだった。
もうちょっとサソリちゃん描写をした方が良いのかな?次話で書こう!
というか、階段です!純粋な土だけを使った、全体規模のシステムって難しい。
現代では、エスカレーターかエレベーターですもんね。階段を登るのは、数える程度でしょう。非常に体力的に辛いのです。よかったら是非体感して下さい。ヘロヘロになるでしょう。
テル君達は、階段に嫌気がさしてますね。トラウマを抱えるかもしれません。
次回は、地下22階以降の話の予定。