ちょっと壁を切るから、二人は下がってて。
地下17階、18階の話です。
グラスに質問攻めされた翌日。俺達は、眠たい目をこすりながら朝食を食べ、地下17階へとやってきた。
地下17階も相変わらずザ・ダンジョンという趣だ。そして【地形把握2】で確認するが、やはり広大だ。半径5km以上なのは相変わらずだ。
それでも、気分が良い俺達は気後れする事も無く、歩いていく。ウラガとグラスに至っては、鼻歌を歌いながら歩いている。色々と吹っ切れたようだ。俺もなんだか楽しくなってきた。
ダンジョンの罠はと言うと、昨日スキルを獲得したグラスのおかげで、滅多にかかることは無かった。俺達が罠へと近づくと、グラスが注意してくれた。しかもスキルの効果からか、今までのギリギリではなく、一歩前には教えてくれる。
唯一罠にかかる瞬間は、ゴーレムと戦闘している時だ。グラスは、3つ以上スキルを使えないので、戦闘に集中すると、罠まで気が回らないのだ。それで俺達が不注意で発動させるのだ。
そして俺達だけでなく、ゴーレムも罠を発動させる。それに、とばっちりを食らうのだ。岩や土の弾丸や、ギロチンが発生すると、それに対して気を使わなければならず、何度かゴーレムのパンチが繰り出された。だがゴーレムの力強さを知っている俺達は、これを食らうわけがない。全力で回避するからだ。
ちなみに、ゴーレムは罠をもろともしなかった。元々岩や土でできているので、ギロチンで切られたとしても、回復していく。
「なんだか、ゴーレムのスピード上がってないか?しかも、回復速度も。」
「確かにな。初動が明らかに早まってる気がする。」
「回復速度も、16階に比べるとかなり早いですよ。ちょっとしたキズなら、10秒ほどで治ってます。」
さすがに階層が深くなっているので、ゴーレムも強化されているようだ。だが幸運なことに、ゴーレム以外の魔獣は出てこないので、ゴーレムに集中できる。しかも今のところゴーレムは単体で攻めてくるので、かなり楽だ。
ゴーレムが楽な代わりに、罠が明らかに数と脅威が上がっていた。土の弾丸の数や、岩の砲弾に至っては回転も加えられている。ギロチンも枚数や、往復で攻めてくる事が多くなった。数が増えているせいで、ゴーレムによるとばっちりも断然増えた。非常に面倒くさい。
そんなこんなで、俺達は地下17階を歩いていくが、特に問題も起こることなく、地下18階の階段を見つけられた。俺達は階段で一息ついた後、特に疲れても居ないので、すぐに18階へと上がるのだった。
「あれ?」
俺達が地下18階へと上がっ瞬間に、声を上げていた。今まではどの階でも、その階の端っこに出ていたのに、今回は、階層のたぶん中心へと出たようだ。周りを確認すると、さらにダンジョンが広くなったようで、どっちに進んでいいのか分からない。
「困った事になった。どっちに進んで良いかわかんない位広い。長方形なのか、前方と後方が5km以上あるみたいだ。左右はそれぞれ3kmくらいかな。」
「そっか。俺の感知能力もテルと同じかそれ以下だからな。任せるよ。」
「私もあんまり分かりませんけど、何となく北側の方が危険な気がします。」
「それって【危険予知】のスキルで分かるのか?」
「ええ。そんな距離は出ないんですけど、なんとなく北側の方が、危険だって思うんです。」
俺は少し考えてみた。(ここは“神の手”だ。これまでを考えると、もしかしたら“神の手”の中をうろついているのかもしれない。階段を上がっている事からも、ここが“神の手”のどれかの指だろう。だから左右が狭くて、南北に長いのだ。それなら納得がいく。次はどっちに行くかだけど、グラスは来たが危ないと言っている。Web小説の知識に頼るなら、危険な方が正解だろうが、確実じゃあないな。だが他に判断の方法がない。なら仲間を信じる方が、後悔は少ないか。)
「グラスが危ないって言う、北に向かおう。ダンジョンの特徴から、進む毎に危険性が増している。危険なのは分かっているけど、つい来てくれるか?」
「もちろんだ。だけど、ついて行くんじゃないぞ?一緒に行くんだ。」
少しだけニュアンスが違うのだろう。ウラガはウラガの意志で、テルと共に行くのだと言っているのだ。責任は俺も持つとも。そしてニカっと笑った。俺もニカッと笑い返した。良い奴だ。
「グラスも一緒に行く?」
「もちろんです。行きますよw」
グラスも良い笑顔だ。自分の意志で賛同したのが、伝わってくる。やっぱり16階での出来事は、俺達を成長させてくれたようだ。
それから俺達は、北へと向かった。ちなみに北かどうかは、磁石で分かる。この世界でも高価だが磁石が売られているのだ。小さな磁石でも、金貨1枚、100万円はするのだ。それを水の上に浮かべて、方角を探る。
俺達は、18階へと進んでいく。そして、もう顔なじみのゴーレムと遭遇したので、いつものように切り刻もうと、まずゴーレムの腕を切り飛ばした。だが、確かに切ったはずのゴーレムの腕が、切れて落ちないのだ。
「どうしたテル!?なんで切れてないんだ?」
「いや!ちゃんと切ってるよ。切ったそばから回復しているんだ!」
そうなのだ。“水の一振り”で確かに切り飛ばしているのだが、その切っ先が通貨する瞬間には、ゴーレムが回復を行って切った事を無かった事にするのだ。
「クソ!どうしろって言うんだ。」
「剣の幅とか変えられないのか?」
「やってみる!」
ウラガにそうアドバイスを受けて、“水の一振り”の剣の厚みを増やして切ってみると、確かに切り飛ばす事には成功した。だが、直ぐに周りの壁に腕を切れた腕を付けると、ズズズという音と共に、ゴーレムの腕が復活するのだ。
しかも、罠の数が多いので、なかなか直ぐにゴーレムを切り刻めない。切っては回復され、また切っては回復される。いたちごっこだ。
「あー!!もう!面倒臭い!なんか良い方法ないのか!?」
俺の短気が発動していた。効果的に、ゴーレムの回復を止められないものか?
俺が切れていると、フヨフヨと俺達の戦いを見守っていた精霊のユキが、俺の頭に不時着した。頭がひんやりとして、とっても気持ちいい。頭に上った血液が、どんどん落ちていくようだ。
「キュッキュー♪」
「え?ユキはアイデアがあるのか?頼む。助けてくれ。」
俺がそう頼むと、ユキは“水の一振り”に触れると、みるみる“水の一振りが”真っ白になって行く。急いで【鑑定】してみる。
■水の一振り:氷属性付与
ユキの能力によって、水の一振りに氷の属性が付いたのだ。見た目は、水から白へと完全に変わってしまっている。
「キュー♪」
ユキは、信じて切って!とでも言っているかのようだった。その言葉を信じて、俺はゴーレムへと駆け寄って、ゴーレムの腕を切り飛ばす。
すると、切った場所が氷漬けされたように、切り口の岩や土は真っ白に色づき、表面には氷が覆うように発生した。
それでもゴーレムは気にせず近くの壁に切れた手を触れるが、氷が邪魔するのか、切り口自体が凍ってしまったからか、全く再生できないようだった。
「さすがユキ!!」
俺はユキへと言葉を投げかけてから、またゴーレムへと剣を向けていく。その後も切り口は凍り、ゴーレムは為すすべなく魔法結晶を切られて、動かなくなった。
戦闘が終了した後はユキを呼んで、がっしりと抱きしめた。いつも俺にアドバイスをくれたり、ピンチを救ってくれる。日頃の感謝も含めて、ユキを抱きしめて、撫でまわした。
ユキも俺と繋がっているからか、俺の思いを感じてくれたようで、「キュー♪キュー♪」と嬉しそうに鳴いている。いつもありがとうな。
それからのゴーレムは、氷属性を付与された“水の一振り”でゴーレムを倒していった。罠なんかお構いなしで、攻撃してくるゴーレムを、ウラガとグラスの協力も得ながら、どんどん切って行った。
そして、18階も終わりが見えてきた頃。【地形把握】で把握したはずの地形が変わっている事に気が付いた。
「?みんなちょっと待って。なんだか、ダンジョンの構造が変わった。かも。」
「?どういうことだ?気のせいとかじゃないんだよな?」
「もう階段は見つけてあるから、そこまでの道をずっと辿ってたんだけど、いきなり行き止まりになってる。」
「テルがミスした訳じゃなさそうだな。またダンジョンの罠か?」
「そう言えば、テルさんが話してくれた、水のダンジョンでも同じ事ありませんでした?鏡の壁でしたっけ?」
「おぉ!!すっかり忘れてた。じゃあ、一応このまま進んでみようか。」
俺達はすっかり忘れていたが、水のダンジョンでも同じような経験があるのだ。行き止まりだと思っていた壁が壊せる仕様になっていて、近づかないと分からないのだ。グラスに話していて良かった。
と言う事で、俺達は怪しい壁やってきた。だが近づいて見てみるが、完全に壁なのだ。だがその先には確かに道が続いている。
「さすが土のダンジョンだな。完全な壁になってやがる。」
ウラガがそう言いながら、壁をペチペチ叩いているが、水のダンジョン見たいに見せかけではなく、本当に壁になっているのだ。厚さも1m位ある、しっかりした壁だ。
「ちょっと壁を切るから、二人は下がってて。」
俺はそう言うと、久しぶりに【スラッシュ】を使って、力一杯に壁へと切りかかった。そして、壁一面に切れ込みを入れた後は、ウラガに頼んで【大盾】と【バッシュ】で吹き飛ばしてもらった。
大量のガレキが道へと散乱するが、確かに道が開通した。もしこんな事をしている間に、ゴーレムに襲われたらと思うと、少々厄介だなぁと思いながら、開かれた道へとをずんずん進んだ。
その後も何度かゴーレムに遭遇し、突然の壁を切り崩して進んでいく。それ以外は特に問題も発生する事も無く、俺達は地下19階への階段へと駆けこむのだった。
パパっと済ませた気がするのですが、なぜか話が進まない。
不思議です。
テル君はユキとも信頼を確かめたようですね。繋がっているとしても、言葉にするのを惜しむ理由にはならないでしょうね。
次回は地下19階以下の話の予定。