ウラガの腹時計すら狂わせるくらい、本当に色々あっもんなw
地下16階のお話。
短めです。
グラスは何かを掴みかけている。獣人特有の感覚の鋭さからか、罠に対して察知できるようになりかけているのだ。
そんなグラスの感覚が高まっている今、俺達はダンジョンを進む事にした。罠にいち早く慣れさせる為もある。
グラスもイキイキした顔で集中していた。
その後も何度かゴーレムに遭遇するが、罠には遭遇しなかった。おそらく数々の罠があったはずだが、俺達は引っかからなかった。グラスは危機をも感じて罠を発見しているので、発見の要素が減っているのだ。せっかくの機会が得られなので、グラスはだんだん集中力が切れていく。
「うーん。なんでこんなに罠にかからないのかね?」
グラスもウラガも、「さー?」と言うだけだ。俺はすっかり集中力が切れて、なんだか考え事の方に集中してしまった。
それが効いたのだろうか、突然グラスが叫んだ。
「テルさん。止まって!」
俺は呼ばれるが、考え事に集中していたので咄嗟に止まる事ができずに、振り下ろした左足が、小石状の突起物を踏みしめた。
ガコンという音と共に、横にあった両方の壁に、距離にして5m程、幅3cm程の空洞が、横一線に開いた。
「みんな、しゃがんで!!」
グラスがそう叫ぶ。今度は俺もしっかり反応できたので、俺もウラガも一斉に出来る限りしゃがんだ。すると、左側の壁に出来た空洞から、距離5mもの岩が右側の空洞目掛けて、もの凄い速さで通過した。通り抜けた岩の先端が、鋭利な形状をしていたのか、髪が伸びて、ツンツンになってきていたウラガの髪の上の方が、スパッと切れていた。
「うおー。超怖えー。」
そう言いながら立ちあがろうとした俺とウラガだったが、いきなり突進してきたグラスに地面に押し倒されてしまった。普段なら受け止められるが、立ち上がろうとしていたので、バランスを崩してしまったのだ。
「え。ちょ、グラス、なに?」
そうグラスに質問しようとした瞬間に、こんどは、右の壁から左の壁へと、一枚の巨大な岩の刃物が通過した。もしあのまま立ち上がっていたら、確実に岩にぶつかっていただろう。最悪、俺もウラガも真っ二つだ。
「もう大丈夫ですよ。立ちましょう。」
俺とウラガにのしかかっていたグラスが、先に身体を起こして立ち上がる。俺達もやっと状況を理解して、いそいで立ち上がって、グラスに御礼を言った。
「ありがとうグラス。危ないところだったよ。」
「本当にな!ありがとうなグラス。ってか、普通一回だって思うよな。このダンジョン性格悪いぞ。」
「お二人も無事で良かったです。なんだか、危険な感じが収まらなかったんですよねー。」
本当にグラスのおかげで助かった。だが俺は他の事を考えていたのだ。俺が罠に引っ掛かったタイミングである。集中力の欠如している状態だった。前回もそうだ。
もしかしたら、俺が集中している事で、頭のどこかで危険を感じていたのかもしれない。無意識のうちに、罠を避けていたのではないかと。【周辺把握】や【空間把握】等のスキルが、何らかの働きをしたのかもしれない。要検証だろう。
それからは、ゴーレムに出会う直前だけは集中して、他の時は意識して考え事をするようにした。だが意識して考え事をすると、逆に考えが纏まらない。なんだかなー。
だがそれでも効果があったようで、何度か罠にも引っ掛かった。その都度、グラスが注意してくれたから、大事にはならなかったが、本当に色々な罠に出会った。
有名な天井から落ちてくるギロチン。岩や土の弾丸。タケノコのように急激に地面から鋭い岩が生えたり、しばらく地面が波のように揺れたり、どこからともなく、砂嵐のように砂が舞って視界を防いだりした。
死ぬような物から、行動阻害までと、土には色々できるんだな―という、【土魔法】の参考に出来そうな現象が目白押しだ。
そして、ゴーレムの方は難なく倒せる様になったので、脅威でもなんでもなかった。動きも遅いし、パワーがあるが行動させなければ良いだけなのだ。三人で連携すれば、単体ではもう怪我もしない。
そして、地下17階への階段が近付いた時、再びグラスが罠を感知して、俺達へと警戒を呼び掛けた。俺達は【ステップ】を使って、緊急的に後方へと移動した。今回の罠は、落とし穴だった。移動した俺達は、出来た落とし穴を覗き込んだ。
最初に引っ掛かったのも落とし穴だったが、今回の落とし穴は、落ちた先に剣山のような岩が、無数に突き出すおまけ付きだった。
他に罠が作動しない事を確認した俺達が、移動しようとした時、「あっ!」とグラスが呟いた。俺達は直ぐに周りを警戒するが、別段危険が迫ってくる事は無かった。不信に思った俺達が、グラスの方へ顔を向けると、申し訳なさそうに、スキルを獲得した事を告げてきた。
「おお!おめでとう!でも話は階段で聞かせてくれ。」
もう目の前まで来ていたので、そろそろ安全ゾーンなのだが、一応階段の中に入るまでは警戒を怠れない。俺達は最後まで気を抜くことなく、地下17階へと上がる階段までやってきた。
「ふぅ。とりあえず安全だな。で、グラス。どんなスキル取れたんだ?」
俺達は階段に座りながら、話始めた。
「えーっとですねー。【罠感知】と【危険感知】です。二つも一度に覚えちゃいました。」
グラスは本当に嬉しそうに、照れながらそう報告してきた。スキルを1つ覚えるだけでも普通の人にとっては凄い事なのだ。そのスキルの上級者でしか、スキルとして発現しないからだ。
「おお!そりゃ凄いじゃねーか。しかも、ちゃんとスキルとして発動できれば、確実だもんな。安心して進めるぜ。」
「二つもなんて凄いじゃないか。おめでとう!これで、グラスの夢を叶え易くなったね。」
「はい!ウラガさんも、テルさんも有難うございます!」
「それじゃあ、今日はこのあとどうする?地下17階に行くか?」
「いや止めとこう。慎重に行動した地下15階と色々あった16階で、もう時間も無いだろうし。」
「そういえば、もうすぐ夕方か?色々ありすぎて、わかんなかったぜ。」
「ウラガの腹時計すら狂わせるくらい、本当に色々あっもんなw」
ウラガを茶化しながら、俺は早めの夕食作りを始めた。今日は、パスタだ。これもダンジョンに来る前に乾燥させたやつを用意しておいたのだ。初めてだったが、なんとか乾燥パスタの形には成功したのだ。
それから、俺はグラスの質問に答えていった。もちろん俺の秘密や前世の話だ。おやつを配って、飲み物も用意して、じっくり話あった。ちなみに、おやつは、グラスのお祝いも兼ねて、ジャムを付けたクッキーだ。ダンジョンに来るまでに作った貴重な甘いおやつだ。
ウラガと旅をしてからの内容は、ウラガも一緒に話をしていった。もちろん、グラスに手紙を出したのが、自称神様だという事も伝えた。
グラスからは、俺の前世の生活についての質問が多かった。特に食生活についてだ。さすが食にこだわる獣人族らしい反応だった。俺の説明する料理に、よだれを垂らしながら目を輝かせるグラスが面白くて、何品かはダンジョンを出たら必ず作ると約束した。そしてその日は、グラスが眠りに着くまで、話に付き合った。
やっと地下16階が終わりました。
本当に、15,16階は長かったよぉ。ということで、できるだけサクサク進みましょう。グラスもスキルを手に入れましたしね。
テル君は、質問に根気よく答えてましたね。よく飽きなかったなぁ。
次回は地下17階以降をサクサクと進む予定。