これで、罠を見つけるコツを掴めるな!
地下16階の続きです。
短いです。ごめんなさい。
「ゴメン。・・・ちょっと待って。すぐ泣き止むから。」
俺は荒れた呼吸を整えるようにして。ゆっくりと自分の心を落ちつけていく。流した涙のおかげで、少しだが心にもゆとりを持てるようになっていた。
ダンジョンのど真ん中だが、ゴーレムは周りにいないし、罠も動かなければ発動しないはずだ。
呼吸もゆっくりになり、涙も止まった。それでもウラガとグラスは、俺が話始めるまで待っていてくれていた。俺は二人の顔を見られなくて、下を向きながらポツリポツリと話始める。
「俺。・・・二人を守らなきゃって。・・・俺がダンジョンに巻き込んだから、・・・二人が怪我とかするのに、耐えられなくて。・・・俺がなんとかしなきゃって。・・・」
俺がそこまで言って黙ってしまうと、頭をコツンと殴られた。顔を上げると、ウラガが顔を真っ赤にしながら、横を向いていた。
「バカが。俺は俺の意志で、テルと一緒にいるんだ。テルだけの所為じゃない。それに俺だって、二人を守れなかった事を気にしてんだぞ。」
ウラガは早口で、そう言い放った。そして、顔を俺から見えないようにしたが、袖で顔を拭うように動かしているので、おそらくウラガも泣いたのだろう。
グラスはというと、俺を横からギュっと抱きしめてくれた。そして、俺の身体から離れて、俺の目をまっすぐ見つめて優しく話しかけてきた。
「私なんて、手紙に言われて付いて来ちゃったんですよ?誰かの所為だとしたら、手紙を書いた人でしょうね。テルさんに責任なんてありませんよ。私を強くしてくれてるので、感謝しているくらいです。」
そういうと、またギュっと俺を抱きしめてくれた。
俺は二人の気持ちも知らずに、一人突き走っていたようだ。思い上がりだったのかもしれない。少し反省すると共に、改めて二人の存在の大きさと、心の広さを再確認した。
「ついでだから、グラスにも俺の秘密を打ち明けようと思うんだ。」
「無理に話して下さらなくても、いいんですよ?もっと落ち着いてからからでも。」
「いや。今話したいんだ。安全地帯になったら、質問を受け付けるけど、今は聞くだけ聞いてくれ。」
それから俺は、今までの事を洗いざらい話した。前世で死んだ時から、神様の事や固有能力の事。ウラガの事に、奴隷にされた事。トレーネ湖に、天使様の事。世界を守るために、ダンジョンを回っている事。
簡単に話したが、話の内容が変わる度に、グラスは驚きの声を上げていた。顔も驚いた顔や怒った顔。困惑する顔など、千変万化のごとく、コロコロ変わっていた。ちょっと面白かった。
「そんな秘密が。秘密にするのも頷けます。色々質問がありますが、今日の夜用にとっておきます。」
最後に、グラスは満面の笑顔を浮かべてそう答えた。
かなりの時間を費やしたが、俺の心はすっかり軽くなっていた。仲間の気持ちも知る事ができたし、無駄な時間では決してなかった。
「よし!テルも復活したし、サクッと16階を攻略するぞ!」
ウラガが先陣を切って、歩き始めた。俺もグラスも急いで立ち上がって、ウラガの後を追いかけていく。ウラガの顔も、なんだか晴れやかになっていた。笑顔がとても似合っている。
その後、ゴーレムに遭遇した時は、戦い方にも違いが表れていた。まず防御が足りていないウラガは、【土魔法】や【水魔法】を駆使して、ゴーレムの動きや注意を俺とグラスから逸らしてくれる。
グラスも、岩や土でできたゴーレムに致命傷を与えられないので、俺が動きやすいように、ゴーレムの動きを制限している。振り上げようとしている腕に先回りして、肘の関節に踵落としを食らわせて、腕を上げさせないとかだ。
そうした二人のアシストを受けながら、俺も安全にゴーレムを切って行く。すると、観察する余裕ができたからか、魔力の糸の様なものを感じた。太い血管の様に、腕へと延びていたが、腕を切り飛ばした瞬間に、切れた腕への魔力の流れが止まっていた。
やはり、魔法結晶から全身へと魔力を流しているようだ。それで岩や土でできているゴーレムとして、全身を操作しているようだ。
だがそうなると、どこかに指令をだす器官があるはずなのだ。そうでなかったら、魔法結晶が意思を持っている事になる。
俺はとりあえず、ゴーレムのどこかにある魔法結晶を砕くために、全身を切って行く。切り飛ばした方には魔法結晶が無いので、小さくしていくと自ずと分かるのだ。
そしてついに、魔法結晶へと“水の一振り”が触れた瞬間に、魔法結晶とは別に何かが弾ける感じがしたのだ。集中しないと分からない程度だが、確かに何かが壊れている。
「微かなんだが、魔法結晶を切る瞬間に、何かが壊れる感触があったんだ。」
「つまり、それが脳にあたる部位だってことか?」
「おそらく。でも魔法結晶に近い位置にあったから、ゴーレムから完全な形で魔法結晶をとる事はできないだろうな。」
「そっか。まあ、ゴーレムから獲れる魔法結晶も、小型だから諦めるか。無理して怪我するなんて、俺達にはそんな余裕ないもんな。」
俺とウラガがそう喋りながら歩いていると、グラスがいきなり叫んだ。
「ウラガさん!止まって!」
グラスがそう言うやいなや、全身を硬直させて動きを止めた。ウラガが足を踏み下ろす予定だったところには、小さいながら丸い小石が置かれていたのだ。
俺達の話に参加せず、ずっと黙っていたグラスは、罠の発見に全力を注いでいたようだ。その結果として、事前に罠に気付く事ができたようだ。
「凄いじゃないかグラス!これで、罠を見つけるコツを掴めるな!」
グラスが感じたという微かな違和感と、不安感というか危機感を、より鋭敏なものにすることができれば、より早く。より正確に罠を感知できるようになるだろう。これからのグラスの成長に期待を膨らませていた。
人の心は、言葉にしないと伝わらないのです。言葉にしたとしても、全てを伝えられるものでは無いけれども、仲間になら言葉を惜しまず、打ち明ける機会があってもいいのでは?と思い、この内容になりました。
テル君だけでなく、ウラガもグラスもスッキリ良い顔になったはずです。
次回は、地下16階以下の話の予定。