奴隷にされるだと!?
「次は教会だけど、きっと魔法で治すんだろうなぁ」
ギルドの横に、これまた大きな建物があった。ヨーロッパの街並にマッチした、教会だ。ガラスがあんまり普及していないのか巨大な一枚ガラスではなく、くすんだガラスが数枚組み合わされた、ステンドグラスが嵌められていた。教会の木の扉を押しあけると、正面には、五つの輪を円形に連ね、さらに中央に小さな円が描かれた旗が掲げられていた。その旗を見上げていると、女性の声が聞こえてきた。
「まぁ!まぁまぁ!どうなさったんですか!?見せて下さい。・・・あらぁ。完全に折れていますね。」
「はい・・・。そ、そうなんです。骨折したので治して頂けないかと伺ったのですが。」
「まぁ。まぁまぁ。では治療室までどうぞ。」
シスター風の女性のテンションに若干気圧されながらも要件を伝えると、横の部屋へと案内された。床一面に魔法陣が描かれ、その上に人が寝られる石台が置かれていた。
「それでは、右腕骨折の治療を開始しますね。」
「あの、お金は先払いしなくても?」
「いいえ結構ですよ。ですがもしよろしければ、治療の後に教会へのお布施をして頂けると嬉しく思います。」
なるほど。国民に開かれた教会だから、お金のない人への救済もあるのだろう。なんてったって今の服装は、布の服と長ズボンだもんね。みすぼらしいよね。
俺が石台の上に腕を置くと、シスターさんは準備に入った。シスターさんから出た白い輝きが一端床の魔法陣に流れると、ひときわ輝きが増した後、俺の腕へと光が移動した。腕の中が、ウゴウゴするのを感じた後、光の消失と共に痛みも消えた。
シスターさんの顔を見ると、笑顔で返された。治療が完了したのだ。包帯を取ると、腫れも引いていて、手も違和感なく動かせるようになったいた。俺はポケットの中の銀貨5枚を握り締めて、シスターさんに差し出した。
「少ないですが、教会へ寄付させて下さい。」
「まぁ。まぁまぁ。有難うございます。神の御加護がありますように。」
うん。この人の口癖なんだな。そしてやっぱり魔法なんだろうな。俺も使えるようになりたいなぁ。
教会を後にすると、商人のネーロさんが待っていてくれた。すでに太陽は完全に落ちていた。
「無事に治ったんだね。よかったね。じゃあ僕の家に行こうか。」
ネーロさんのお家は、湖にほど近い二当地と言われる場所で、かなりの大きさだった。ちなみに一等地は、湖に面した小高い丘にある領主の館周辺らしい。ネーロさんお金持ちの豪商だったんだなぁ。ネーロさんのご厚意で、馬車に泊めてもらう。もちろん夕食と朝食も出してくれた。
俺は今までに借りたお金を計算してみた。街までの運賃、街への入場料、身分証に治療費。占めて銀貨8枚か。ネーロさんの話だと、短剣が銀貨50枚になるから余裕で払えるな。余ったお金で服を新調しよう。ギルドで薬草集めから初めて、コツコツ生きよう。自称神様が世界を救ってほしいとか言ってたけど、目先の生活の方が大事です。俺は今後を考えながら、異世界二日目の夜を過ごした。
翌朝、俺はネーロさんに教えてもらった武器屋に行った。ネーロさんは武器を扱ってないらしく、知り合いを紹介された形だ。
「こりゃー業物だけど、駄目だね。血糊が固まっているし、なにより割れかけてる。出して銀貨20枚だね。潰した素材としての価値と、ネーロさんからの紹介だから色付けてあげるよ」
「・・・そうですか。」
言われると、確かにひびが見られた。腕が折れる程の衝撃だったのだから、仕方ないか。
「では、銀貨20枚でお願いします。」
ネーロさんの紹介で色をつけてもらっているので、ほかの店でもこれ以上金額が上がる事は無さそうだ。だったら気前よく言ってくれているうちに売ってしまおう。
俺は手に入れた銀貨20枚でネーロさんへの借金を返そうと、ネーロさんの家を訪ねた。
応接室に通され、ボディーダードを連れたネーロさんと向かい合う形で、俺は銀貨8枚を机に出した。
「お借りした銀貨8枚をお返しします。」
「何を言ってるんだい?契約によると、君は私に、金貨一枚を払う義務があるんだよ。もし今日の昼までに払えないなら、契約不履行という事で、君には奴隷になってもらうからね。」
「はぁ!!?いきなり何言ってるんですか!?奴隷にされるだと!?」
優しい顔をした悪魔が、本性を現し始めた瞬間だった。
奴隷を買うのはよく見るけど、奴隷にされるのは珍しいよね。
契約書はきちんと読みましょう。
(||´Д`)