俺。もういっぱいいっぱいだったんだ。
地下16階の話です。
短いです。ごめんなさい。
細切れになったゴーレムと、魔法結晶が真っ二つになって落ちていた。俺が“水の一振り”で切り裂いたのだ。そうこまでしてやっと、ゴーレムは活動を止めたのだ。
俺はゴーレムが動かないのを確認してから、ウラガの元へと急いで駆け寄った。ゴーレムの攻撃が、盾を壊してウラガに直撃したので、心配だったのだ。
「おいウラガ!大丈夫か!?」
「へへ。ちょっと油断したぜ。」
ウラガはそう言いながら、自分の胸に手を置いた。そこにはスライムのシズクが、くっついていた。
「シズクが、衝撃を吸収してくれたおかげで、肋骨にひびが入る程度で済んだよ。」
「大事じゃないか!?【光魔法】で治癒したんだろうな?」
「もちろん。でもちょっと呼吸を整えさせてくれ。」
先にウラガの元へと駆け寄っていたグラスは、心配そうにウラガの背中をこすっている。あまりの衝撃に、肺の空気が抜けてしまったのだろう。ウラガは咳をしながらも、呼吸を整えていく。そして、自分を助けてくれたシズクを優しく撫でていた。
「本当に、【光魔法】覚えておいて良かったな。ダンジョンで怪我したら、命取りだもんな。」
「そうだよな。テルがあの時、無理やりにでも時間を作って、スキルアップさせてくれたおかげだ。」
「本当にそうですよね。テルさん、さすがです。」
さすがです。と言われても。俺が必要に駆られただけなんだけどね。でも治療のできる【光魔法】をウラガも身に着けたのは、本当に良かった。俺だと、剣に関わる事でしか魔法が使えないから、まだ人を治すイメージが掴めていないのだ。だから、俺の【光魔法】は治癒関連では、使い物にならない。
そしてなんといっても、シズクの功績が大きいだろう。打撃に高い耐性をもつスライムだからこそ、ゴーレムのパワーを受け流せたのだ。もしシズクが居なかったらと思うと、恐ろしくなる。
それから、10分くらいウラガの調子を整えるのに使ってから、俺達は地下16階の攻略へと進んでいった。
「そう言えば、ゴーレムはどうだったんだ?みじん切りにされてたけど。」
「ゴーレムは、頭を切っても動いてたんだ。内蔵系も無かったから、とりあえず、きざんでみたら、倒せたんだ。」
「魔法結晶も切れてましたね。やっぱり魔法結晶を壊さないとダメなんでしょうか?」
「確かに魔法結晶を切ったら動かなくなったけど、他にも倒し方があるんじゃないかな?」
「例えば?」
「うーん。魔法道具に刻まれる紋章みたいに、魔法結晶から得られる魔力を使う紋章があるのかもしれない。」
一般人で、スキルが無い人でも魔法が使えるように、魔法道具の開発がこの世界では進んでいる。道具の使用者や、魔法結晶から魔力を流して、紋章に描かれた内容の魔法を発現させるのだ。それに似た機構があるのかもしれないし、無いのかもしれない。俺が一瞬で切り刻んだから、検証していないのだ。
それが無かったら、魔法経路みたいに、魔法結晶から魔力を全身へと通す血管の様なものがあるのかもしれない。
俺がそんな事を考えながら歩いていると、“カチリ”という音と共に、足元の違和感を感じた。すると一瞬で俺を中心に、半径1mの範囲に、深さ1m程の穴が出現したのだ。元あった土が一瞬で消えたのだ。
当然俺はそのまま重力に従って、ストンと落ちてしまった。俺は、やっと意識が戻って、ヤバイと思って足元を確認したが、お約束の竹の槍や骸骨が転がっているなんて事はなかった。
俺以外にはウラガも一緒に落ちていた。ウラガは落ちた瞬間が悪かったのか、バランスを崩して尻もちをついていた。そしてグラスは、いち早く異変に気付いたようで、落とし穴には引っかからなかったようだ。
「イテテ。落とし穴なんて、古典的な罠張りやがって。」
とウラガが愚痴りながら尻をさすりながら、起き上がる。そして俺とウラガは、グラスに引き上げてもらいながら、落とし穴から脱出した。
「それにしても、グラスはよくあの短時間で動けたよな。」
「はい。なんか、テルさんがスイッチを踏む一瞬前に、なんだか嫌な予感がしたんです。こう、ゾワリとくる感じで。」
「へー凄いじゃないか。もしかしたら、【竜力】とか獣人特有の能力かもな。」
第六感というか、危険予知というか、そういうものがグラスは優れているのかもしれない。最近は、しっかりと戦えるようになっていたので、より攻撃に意識を持って行っていたグラスだが、俺はそれを活かすようにグラスを説得する事にした。
「グラス。その力を使えば、もしかしたら罠とかを事前に感知できるんじゃないか?」
「そうですかね?私に罠発見の才能でもあるんでしょうか?」
「あるかもしれないぞ。それに罠を見つけられるになったら、より安全に旅ができるようになる。そうしたら、グラスの夢の同族の発見もより確実になるんじゃないか?」
「確かに。分かりました!ちょっと頑張ります。」
ちょっと卑怯な気もするが、たしかにグラスの夢を叶える役に立つはずなのだ。強くなるのは、後でもできる。生き残る術を手に入れるのが大切なのだ。
それから、俺達は地下16階の探索を再開した。何度かゴーレムの襲撃に会ったが、俺が“水の一振り”で切り裂いていく。
それで分かった事が2つあった。ゴーレムは、周りの土や岩を使って回復しようとすること。だが切り飛ばした手足が、勝手に動き出す事は無いという事だ。
だが、まだゴーレムの特性については理解できていない。俺がすぐに細切れにするから、観察する余裕がないのだ。まだウラガの吹き飛ばされた光景が、目に焼きついているのだ。もうあんな不安で一杯な気持ちになりたくないと思って、攻撃させる前に倒してしまう。
「テル。ちょっと頑張りすぎだぞ。しかも顔が怖いぞ。」
ウラガにそう指摘されて、俺は初めて自分が眉間に皺を寄せて睨んでいた事に気付いた。確かに俺は焦っていたのかもしれない。少し落ち着く必要があるようだ。
俺は落ちつくために、すこし身体を壁に寄り掛からせようとして、壁に手を置いた。すると、手を置いた壁の1m四方が、ガコンという音と共に凹んでしまった。
「ウラガさん!前方に盾を!」
「おう!!」
ウラガが盾を構えた瞬間に、前方の壁から勢いよく三角錐型の石が5つも飛んできた。だがウラガの張った盾で全て防がれた。
「また俺か。ごめん。」
「謝んなよ。怪我もなかったし、支え合うのがチームなんだろw」
俺が時折言っていたセリフを、ウラガが思い出さしてくれた。そのセリフを聞いた俺の目から、涙が溢れてきた。
「お、おい!どうしたんだテル!」
「大丈夫ですかテルさん!」
二人がオロオロしながら俺の周りに集まってきてくれた。
「俺。もういっぱいいっぱいだったんだ。」
泣く予定なんて全くなかったのに、止めることもできずに、涙がポロポロと溢れだしてきた。そんな俺を支えてくれる二人の存在に、俺はますます心が震えてしまったのだった。
全然話が進みませんね。
当初の予定では、とっとと16階をクリアするはずだったのに。
テル君は、もう限界だったのでしょう。責任感に押しつぶされたようです。
次回こそは、地下16階の話の予定。