これで少しでも、皆を守れる。
スキルの話になっちゃいました。
ユニークモンスターや、砂地獄のピンチを切り抜けた今日だが、まだ時間的には余裕があるが、二人はどうだろう?
「まだ3時くらいだけど、地下15階に行くか?」
「そうだな。俺は大丈夫だぞ。」
「私も、なんとか大丈夫です。」
グラスはすっかり泣き止んだようで、今ではやる気に満ちている。ウラガも休憩したから行く気はあるようだ。
と言う事で、俺達は地下15階へと登ってきた。そこに広がっているとのは、いつもの砂漠と、大量の魔獣だった。
【周辺把握】で確認しなくても、明確に視認できる範囲に、すでに砂トンボの集団が、2か所ほど見つかる。しかもちょっと遠くには、さらに砂トンボの集団が数か所ほど確認できる。おそらく砂蟻も大量にいる事だろう。
俺達は襲われる前に、急いで階段へと避難した。
「多いよ!多すぎるよ!」
「スゲーよあれ。笑っちまうなw」
「笑えないですよ!ちょっと【聴力増大】で調べてみたんですけど、情報が多すぎて、耳が痛いくらいです。」
そうなのだ。本当に笑ってしまう程、敵の数が多かったのだ。このままいくと、またさっきみたいに、砂トンボと砂蟻のコンビネーションに苦戦しそうだ。また二人を危険な目に遭わせかねない。
「今日はもうやめていいか?その時間を使って、なんとか遠距離攻撃をできるようになるから。」
「わかった。それに、あんなに居たら、日中に踏破出来なくなるしな。」
「確かにそうですね。無理は禁物だって、テルさんも言ってましたもんね。」
二人の了解を得た俺は、階段を登ったところで、遠距離の修行を開始した。使うのは【土魔法】だ。チェーンソーの様に振動させた砂の剣を、ナイフの形維持したまま、それを遠距離でも維持するのだ。
氷のナイフの様に、一度成形したらかってに維持出来るものと違って、砂のナイフは俺から数メートル飛んだだけで、形を失ってサラサラと地面に落ちてしまう。
「これは、魔法とは別のスキルが必要なんじゃないか?」
という事で、俺はスキル獲得のために自分に念じて、修行を開始する。
(魔法を遠距離で維持する。砂を保ったまま、砂の剣を飛ばす。遠距離でも砂の剣で、敵を突き刺す。)
そう思いながら、まずは砂ナイフを空中で作る。その表面を砂が振動しながら、高速で流れるようにイメージして、それを砂ナイフで再現していく。砂ナイフから、キュイーンという音が聞こえ始めて、準備が整ったのを確認した。
そして俺は、少し遠くを飛んでいた砂トンボ目掛けて、高速で振動する砂ナイフを飛ばしてみた。すると、もの凄い速度でもって砂ナイフが飛んでいき、砂トンボの身体を突き抜けて、後ろにいた他の砂トンボすら突き抜けて、飛んで行った。
俺はその光景に、度肝を抜かれていた。あまりの威力に、自分の砂ナイフが一気に怖いものに思えてきた。そんな風に感じていると、俺の身体をゾクリとしたいつもの感覚が突き抜けた。
ステータスを確認すると、【遠隔操作】というスキルを覚えていた。俺はその【遠隔操作】に少し違和感を覚えた。俺が目指した効果が出ているのだが、【遠隔魔法】ではなく、【遠隔操作】なのだ。
気になった事は、実験してみないと気になるので、俺は魔法の袋から普通のナイフを取り出した。それを地面に置いて、【遠隔操作】で動かしていく。
すると、普通のナイフがフワリと浮き上がり、俺の周辺をグルグルと回転し始めたのだ。まるでファイナル○ァンタジー15の、主人公みたいだ。まだPVしか見たことないけど。
やはり魔法だけでなく、普通の物でも操作できるようになったようだ。試しに、皿や衣服などの物も試すが、うんともすんとも動かなかった。相変わらず、剣以外の物は扱えないようだった。
ちなみに、階段付近は安全地帯なので、敵からは認識できないようだ。俺が砂ナイフで突き刺して被害に遭った砂トンボの仲間達は、突然の攻撃で慌てふためいているが、どこから攻撃されたのか分からず、戸惑っているだけだった。
それを良い事に、俺は何度も砂ナイフを飛ばしていく。しかし、一本の砂ナイフを作るのに時間が掛りすぎるせいで、実戦では使い物になりそうにない。
「クソ。もっと砂ナイフを作れるようにならないと。」
と言う事で、俺はただの砂ナイフを空中に増やしていく。だが2個で限界だった。【土魔法】はとりあえず、おいといて【水魔法】で水ナイフを作って行くと、5個も出せるようになっていた。おそらく【水魔法】がレベル2に上がっていたので、それが影響したのだろう。
「うーん。この前覚えたばっかりの【土魔法】のレベルが、そうそう上がるはずもないしなぁ。なんか良いスキルないかなぁ。」
俺はまた自分に念じながら、スキルを獲得できるかを試してみる。
(魔法のナイフを増やしたい。敵をより多く突き刺すナイフが欲しい。ナイフを魔法で多く作りたい。)
そう念じながら【土魔法】でナイフを増やそうと、頑張ってみる。なかなか難しく、大量の魔力を消費していくのが実感できた。そしてなんとか、苦労しながらも、3個目、さらに4個目と増やす事に成功した。
するといつも通り、ゾクリとした感覚が全身を駆け抜けた。ステータスを確認すると、【ダブル魔法】というスキルを覚えられた。
俺は、頑張って作りだした砂ナイフを全て壊して、もう一度【ダブル魔法】を最初から使って、【土魔法】で砂ナイフを作ってみる。
すると今度は比較的簡単に砂ナイフが4つ作り出せたが、3つ目と4つ目の砂ナイフを作り出す時に、いつも以上の魔力を消費している事に気が付いた。
「うーん。体感で3倍くらいかな?レベルが上がれば、消費魔力が減るのかも。」
だがこれで、大量の砂トンボを倒す目処がついた。だが、俺は致命的な事に気づいてしまった。そう。スキルは三つ以上併用するのは、かなり辛いのだ。疲労感と精神的な負担も、跳ね上がってしまうのだ。
だが俺は、一度実験することにした。直近では、獣人の村で飛んできた蜂を退治するのに使って以来だ。
「まずは【土魔法1】と【ダブル魔法1】で、4つの砂ナイフを作る。うん。ここまでは楽勝。」
そしていよいよ、最大の懸念に挑戦する。
「このナイフを【遠隔操作1】で飛ばす!」
俺がイメージした通りに砂ナイフが、その辺を飛んでいた砂トンボを突き刺していった。
「あれ?平気だ。なんで?」
俺は自分に変わった事が無かったかを、確認していく。スキルや装備に変なところは、たぶんない。【ダブル魔法】が怪しいが、魔法を増やせるだけで、スキルの使用を増やせる訳ではないだろう。
「やっぱりレベルかな?」
一番可能性が高いのが、レベルだった。俺はいつの間にか、レベルが40を超えていたのだ。それが原因で、使えるスキルが増えたのかもしれない。
俺は、急いでウラガへと確認に行った。ウラガとグラスは、地下14階の階段入り口で修行をしていた。俺の邪魔にならない様にとの配慮だった。デートじゃないだろうな?
「ウラガ!ウラガはレベル40越えてるか!?」
「お。テルもういいのか?ってかレベル?ちょっと待ってな・・・おう。40越えてるぞ。」
「じゃぁ、ちょっとスキル3つ併用してみてくれないか?俺は平気になってたんだ。」
「マジか!ちょっとやるわ!」
そう言うとウラガは、【土魔法】と【大盾】、そして【バッシュ】を併用して見せた。なんどか、【バッシュ】を繰り返すが、ウラガはケロっとしている。
「おお!!俺も、スキル3つ使っても何ともない!」
俺とウラガはハイタッチしたり、軽くハグしたりして、全身で喜びを爆発させた。グラスは羨ましそうに、俺達を見つめてきたが、おめでとうとは言ってくれた。
「グラスは、今20以上だよね。3つはやっぱりキツイ?」
「ちょっと待って下さいね。」
グラスは【周辺把握】と【聴力強化】と【遠目】を使ってみようとするが、【遠目】を使おうとした瞬間に、「ウッ」という声と共に、膝を付いて砂に座ってしまう。
「ゴメン。グラス。大丈夫か?」
「おいおい。無茶すんな。すこし階段にで横になろう。」
一瞬だったが急激に体調不良になったグラスを、ウラガが抱えて階段へと連れて行った。俺もそれを追いかけて、階段へと避難した。
「有難うございます。初めてだったので、一気に疲れただけです。」
「そうか。でも今日はもうゆっくりしような。」
「はい。それにしても、テルさんはこれに耐えて、蜂を撃退したですね。凄いです。」
「なんだか褒められると、照れちゃうな。」
「そう言えば、さっき【遠隔操作】と【ダブル魔法】っていうの覚えたんだ。これで砂トンボを軽々遠隔で倒せる様になったよ。」
俺はそう言いながら、高速振動させた砂ナイフを4つ作りだして見せた。それを、階段の外へとぶっ放した。
「相変わらず、早すぎwwしかもめっちゃ強力じゃないかww」
ウラガは笑いながら俺のスキルを褒めてくれた。グラスは顔を引き攣らせながら、苦笑していた。
「これで少しでも、皆を守れる。」
俺は、この力で皆を守って見せる。口に出して、心で言って、深く決意をするのであった。
予定では、地下15階をクリアする予定でしたが、14階でピンチになったので、そのまま行くなんて、バカだと思ったので修行しました。
テル君は、覚悟を新たにしたようです。男前ですね。
次回は、今度こそ地下15階の話の予定。