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そう言って貰えると、少しは気が晴れるよ。

地下14階の話です。

「そんなに多いのか?」

「あぁ。もう下手に迂回するより、直進した方が速そうなくらいだ。」

「いいじゃないですか。どっちみち戦うんなら、遠回りしないで、その分早く次の階に行けるって事です。良い方に考えましょ。」


グラスの前向きな発言に、憂鬱な気分になっていた俺も、やる気を出す事ができた。


それから俺達は、砂漠の真ん中を突っ切って歩いていく。そう言えば、今まで気にした事が無かったけど、それぞれの階の上下ってどうなっているんだろう?


俺はレベル3になった【周辺把握】で、平面方向ではなく、上下方向に向かって、スキルを出来るだけ伸ばしてみた。上手くいけば、次の階についての情報が分かるかもしれない。


しかし、結果は残念なものだった。上も下も、天井を含めて500mでスッパリと認識出来なくなった。まるでバリアがあるのか、空間が途切れているかのように、感覚を伸ばす事ができなかった。


俺がちょっとした実験をしている間にも、ウラガやグラスは周りを警戒してくれている。俺だけスキルを伸ばすのは、今後を考えても不都合が出るかもしれないので、二人にも警戒をさせているのだ。もちろん俺もしている。


「前方200m、砂蟻1が近付いています。」


グラスは、耳をピクピクさせながら、俺達へと報告してくる。まだレベルの低いグラスは、【周辺把握】で感じられる範囲が一番狭い。だが限界ぎりぎりでもしっかりと感じられる様だ。もちろん俺達は、もっと手前で敵を感じていた。


砂蟻は、俺かグラスが【ステップ】で近づいて、向こうが仕掛ける前に倒す作業になっていた。いちいちウラガに防御してもらわなくても、砂蟻は足場さえ気を付けていれば、グラスでも、もう簡単に倒せるようになっていた。


砂蟻を倒して、また砂漠を歩いていると、グラスの耳がまたピクピク動いていのに気付いた。それが面白くて、俺が観察していると、いきなり全身をぶるりと震わせて、グラスがステータスを確認し始めた。


「テルさん!ウラガさん!【聴覚増大】ってスキル覚えました!!なんだか、今までより色々聞こえてきます!」

「「おお!おめでとう!!」」


ワームの心臓探しや、今の敵探しで、耳をよく使っていたのだろう。獣人族っぽいスキルを覚えた様だ。


「それで、どんな感じなんだ?距離も増えてそうか?」

「うーん。」


俺がそう質問すると、また耳をピクピク動かしながら、【スキル】の調子を確認し始めた。


「うん。聞こえる範囲が、断然広がっていますね。【周辺把握】以上の距離にいる、砂トンボの羽音が聞こえます。このまままっすぐ行ったところですね。」


そうグラスが応えたので、俺は急いで【周辺把握3】で周りを確認した。すると、450m先に確かに砂トンボが集団で飛んでいた。


「おぉ!少なくとも450m位は聞こえる様だぞ。【周辺把握】よりも範囲が広いな。」

「ほんとですか!ヤッター!」

「おめでとう。じゃぁ、今後は【周辺把握】と【聴覚増大】を使って、監視してくれよな。頼りにしてるぞ。」


頼られるのが嬉しいのか、グラスはモジモジして照れていた。俺達がそんな話をしている間に、砂トンボは俺達に気付いたようで、俺達へと向かって猛スピードで飛んできた。


「敵が近付いてきてる。ひとまずは、戦闘に集中しろ。」

「はい!」


砂トンボは4匹だ。いつも通りウラガが敵を弾き飛ばして、ひるんだ敵を俺とグラスが倒していった。


もう4匹程度では、焦りもしなくなったし、素早く敵を倒す事に、全員が慣れたようだ。地下13階ではひどい精神的ストレスに見舞われたけど、適応すると案外これが普通になってくるのが、不思議だ。


そんな風に俺達は、どんどん砂漠を突き進んでいった。【鷹の目】で見つけた階段まで、あと1kmにもなると、ますます魔獣の数が増えて、数100m進むと戦う位の頻度になっていた。


そんな中で、俺達はちょっとしたピンチになっていた。砂トンボと砂蟻のコンビネーションによって、砂地獄に全員が落ちてしまったのだ。それによって、上空を砂トンボ3匹に取られてしまった。砂蟻は直ぐに倒せたが、上空にいる砂トンボに対して、有効打を与える方法がなかったのだ。


急いで砂地獄から抜け出そうとすると、砂トンボが酸の攻撃で狙い撃ちしてくるのだ。そして、俺達が苦戦していると、また他のところから砂トンボの集団が飛んできて、今や8匹にもなっていた。


「ヤバイな。」

「あぁ。かなりヤバいぞ。」

「テルさん、何か良いアイデアは無いんですか!?」

「そう言われても・・・とりあえずウラガへ合流。」


上空にいる砂トンボは、俺達へと容赦なく酸を浴びせてきた。俺達はそれぞれが避けたり、防いでやり過ごしているが、それも時間の問題だろう。圧倒的に状況が不利だ。連続で降り続いている酸から、ウラガに【大盾】と【土魔法】で防いで貰っているが、魔力にも限界がある。


「ウラガ。このまま坂を登れるか?」

「わかった。行くぞ!」


そうウラガが気合いを入れて、一歩一歩進んでいく。しかし砂トンボも頭が良いようで、俺達が進む方向にある砂目掛けて、酸を吐き出したのだ。


当然、酸は砂へと染み込んでいく。しかし酸は砂自体も溶かしているので、その上を歩いた俺達の靴さえも溶け始めたのだ。しかも水分を含んだ砂は、かなり坂道を上がりにくくしている。踏み込んだところから、沈むのだ。


「クソ。これは、やりたくなかったんだが。」

「なにかあるのか?教えてくれ!」

「・・・俺とグラスを、ウラガが【バッシュ】で撃ちあげるんだ。空中に飛んで、砂トンボを撃ち落とす。」


それを聞いたウラガとグラスの表情が、曇った。氷のナイフが効かない砂トンボを、撃ち落とすにはこれしかないのだ。絶望的だが、それしかないのだ。ユキに凍らして貰おうにも、乾燥した砂漠で、しかも敵は飛んでいるのだ。上手くいく保証はない。


「わかりました。私も代案を思いつきませんし、それしかないようですね。」

「砂トンボへと近づいたら、倒す事よりも羽を使って撃ち落とす事を第一に考えろ。そして、砂トンボを使って、他の砂トンボへと飛び移る。」


まるで、ゲームや小説の様な無理のある作戦だが、これしか方法が無いのだ。そんな無謀な作戦に、ウラガとグラスを参加させるのに不甲斐なさを感じる。もっと強ければと。


俺は【光魔法】でウラガに魔力を渡しながら、チャンスが来るのを待った。そしてそのチャンスは意外と速く来た。酸を出し続けていた砂トンボが、出し過ぎて疲れたのか、酸攻撃を止めたのだ。


そのタイミングを逃すまいと、俺達は、【土魔法】で近くの砂場を硬くして、ウラガの頭上目掛けて飛びあがった。


そしてウラガは【大盾】と【バッシュ】を使って、俺達を全力で撃ちあげたのだ。俺達の跳躍力も手伝って、ギリギリ砂トンボより、少し高い位置まで飛びあがることができた。俺とグラスは、そのまま砂トンボへと攻撃を繰り出していく。


一方の砂トンボは、俺達のトリッキーな方法に驚いたようで、そのまま顔を俺達へと向けて固まっていた。


俺は狙いを定めていた砂トンボの頭の上へと飛び乗り、次の砂トンボへ飛び移る瞬間に、砂トンボの羽を切り落とした。不安定な足場だが、なんとか次々に砂トンボの羽を切り落としていく。


そして、飛び移れる距離に敵が居なくなったところで、そのまま砂トンボと一緒に落ちていった。落ちる間に砂トンボの頭に“水の一振り”を突き刺して絶命させる。そしてグラスへと視線を向けると、グラスも同様な状況だった。それぞれ4匹と3匹を撃ち落とす事に成功したようだ。残りの一匹は、周りの状況にアタフタしているようだった。


「グラス!そのままウラガに飛ばしてもって、最後を仕留めろ!」


ちょうどグラスが落ちる場所に、ウラガが素早く移動して、落ちてきたグラスを再び【バッシュ】で空へと送りだした。そして飛んでいる最後の砂トンボの羽を、爪で切り裂いて、そのままかかと落としを決めて、砂トンボの頭を陥没させた。


一方の俺は、床へと落ちた砂トンボへと、【ステップ3】と【土魔法】で駆けまわり、“水の一振り”で、一気に止めを刺していった。


こうして、無謀な作戦をなんとか成功させた。砂地獄には砂トンボが8匹と、砂蟻が1匹の死体が横たわっていた。俺達は、魔法結晶の回収もしないまま、急いで砂地獄を登った。ちんたらしていたら、また他の砂トンボがやってきかねないからだ。


その後、残りの1kmをなんとか敵を倒しながら、歩き切り階段の中へと避難した。ピンチを脱出してから、階段まで無口だった俺達は、緊張の糸が切れたように、盛大なため息を吐き出した。そして、まるで呼吸を忘れていた後の様に、めちゃくちゃ呼吸が早くなった。


「ヤバかったなぁ。マジで死ぬかと思ったよ。」

「俺も今回は久しぶりに死を覚悟したぞ。めっちゃ怖かったw」

「グスン。私も、めちゃくちゃ・・怖かった・・・」


グラスは、仕舞いには泣き出してしまった。本当に怖かったのだろう。もし砂トンボが驚いて固まっていなかったら、もし砂トンボに着地出来なかったら、確実に俺達は酸の的になっていたはず。色々な偶然が良い方に重なったおかげで、なんとか無傷で乗り越えたられたのだ。こんなラッキーは、そうそうあるものではないだろう。


「こんな方法しか思いつかなかった。二人には無理をさせたな。ごめんな。」

「謝んなよ。俺も何も思いつかなかったんだ。テルを責めるなんて、筋違いってもんだろ。」

「そうですよ。結果的には、私達は無事だったんです。むしろ有難うございます。」

「そう言って貰えると、少しは気が晴れるよ。」


しかし俺はリーダーとしての責任から、今回の事を重く見ていた。いままでは、ピンチにならない方法を考えて、素早い討伐をとってきた。だがそれは、ピンチになった時を考える事から逃げていたのかもしれない。あらゆる可能性から、仲間を守る方法を冷静に考えるのが、リーダーとして俺には足りていない。


俺達は、干し肉を齧りながら、少し長めの休憩をとるのだった。時間はまだ3時くらいだ。頑張れば次の階層へ行けるかもしれない。


「うわーん。怖かったよー。」と泣き出しても良いくらいのピンチだったのですが、伝わりましたでしょうか?

グラスは、獣人っぽいスキルを覚えましたね。私がそれを、役立てられるかどうか・・・。

テル君は、かなり反省しているようです。仲間の命を預かっているという意識が強いようです。


次回は、地下15階以降の話の予定。


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