中サイズの魔法結晶とか初めて獲れた。
地下12階の話です。
「上に登ってんなぁ」
「登ってますね。」
俺の目がおかしくなった訳では無かったようだ。今までは地下へと降りるばかりだったのが、今回は上へと続いているのだ。
もしかしたら、他の場所に地下への階段があるのかとも思ったが、【鷹の目】を使って探しても、そんなものはなかった。
「とりあえず登ってみようか。」
と言う事で、なんだか違和感を感じながらも、階段を上って行く。途中で、休憩を挟んで装備の確認や軽食を取っておいた。そして出口の先には、地下11階同様に砂漠が広がっていたのだった。
「うーん。一応正しい道なのかな?」
「そうだろうな。まぁ、行くしかないだろ。」
ウラガの前向きな言葉を受けて、俺達はとりあえず地下12階?を進む事にした。
地下11階同様に、真っ平な砂漠が広がるが、明らかに砂蟻の数が増えていた。それでも、砂蟻のテリトリーが隣り合っている訳ではないので、避けて通る事ができた。
そして、予想通りと言うかなんと言うか、砂トンボの数も増えていた。11階では1匹や2匹で襲われたのが、12階では平均して3匹以上で襲ってくる。また襲ってくる回数も明らかに増えた。
しかし3匹や4匹くらいなら、新しくスキルを覚えて強くなった俺達の敵ではない。いつものパターンで、ウラガが敵の初撃を【土魔法】で強化した【大盾】で防いで、【バッシュ】で弾き飛ばす。ひるんだところを、俺とウラガで確実に素早く倒していくのだ。
襲われる回数は増えたが、特に苦戦するでもなく、俺達はどんどん地下12階の砂漠を突き進んだ。そして中腹に差し掛かったころ、一際大きな砂トンボと出くわしたのだ。
大きさは、頭から身体の先まで3m近いだろう。羽はその巨体に合ったサイズで、羽ばたきだけで強い風を巻き起こしていた。
「前方500m、砂トンボ1。でかいぞ!」
「お!たぶんユニークモンスタ―だ。気を付けろ。」
「ユニーク?初めて聞くな?普通のとは違うのか?」
「サイズが大きくなるのが一般的で、普通の奴より強い。そんで、特殊な技を使えるのが特徴だな。」
ウラガからそんな説明を受けている間に、巨大砂トンボが俺達に向かって飛んできた。俺達の手前数メートル前まで来ると、俺達を値踏みするように観察し出した。
俺は氷のナイフを連続で飛ばして、敵の集中力を削り、あわよくば羽を傷つけようとするが、やはり砂トンボは硬くて氷のナイフでは、びくともしなかった。
一方砂トンボは俺の攻撃が通じない事が分かると、俺目掛けて酸を吐き出してきた。だが、咄嗟に間に入ったウラガによって、酸の攻撃がは防がれる。酸の強さは変わらないのか、ウラガの強化された【大盾】で完全に止められていた。
俺達へと攻撃に集中していた砂トンボ目掛けて、グラスが背後から近付いて砂トンボの頭へ、かかと落としを決めた。今までの砂トンボなら、これで頭が陥没していたのだが、ユニークモンスターの砂トンボは少し傷が付いただけだった。だが、グラスの存在に驚いて、俺達への酸の攻撃を止めて、距離をとったのだ。グラスも、俺達へと合流する。
「ダメです。かなり硬い。私の攻撃じゃぁ、致命傷にはなりませんね。」
「そうみたいだな。俺が行くしかないか。ウラガとグラスは、防御と警戒をしながら、砂トンボの注意を引いてくれ。ユキ、サポートしてやってくれ。」
「キュ!」
俺はユキに、いつもより多めに魔力を渡して、ウラガ達から少し距離を取ろうとした。しかしその瞬間に、砂トンボの羽から、嫌な音が鳴り出した。
黒板を爪で引っ掻いたような。金属が擦れ合うような。そんな甲高い音が鳴り響いた。咄嗟にウラガが【大盾】を展開するが、音の攻撃なので、防ぐ事ができていない。
遂には俺も我慢できない位の大音量になって、耳をふさいでしまう。獣人であるグラスは、とっくに耳を畳んで、手でさらに塞いでいる。すると突然、念のために【大盾】を展開していたウラガから、驚愕の声が上がった。
「魔力で作ってある・・・【大盾】が震えだしやがった。しか・亀裂が入って・・・。・・・・、割れちまうぞ!」
ウラガがそんな事を大声で伝えてきたが、いかんせん羽音が大きいので、良く聞こえなかた。ウラガは両手で【大盾】を支えているが、ウラガの耳は召喚獣であるスライムのシズクが伸びて、冬の耳当てのようにウラガの耳を守っていた。おかげで、鼓膜が破けるような事は無かった。いいなぁスライム。
この大音量で高音の羽音は、遂に実害を出す程になってしまっていた。おそらく共鳴か何かを利用して、【大盾】へと影響を与えているのだろう。ついでに俺達の行動を制限している。グラスは遂に、片膝をついて砂に今にも倒れそうだ。一刻を争う状態だ。
俺はなんとか打開策を見つけようと、周りをよく観察する。周りの砂へと視線を移すると、砂さえも小刻みに震えていた。だが、振るえている範囲は、砂トンボからみて、俺達の方向だけだった。少し離れただけでの砂は、特に影響を受けていない。
この音波攻撃は、かなりの指向性を持っているようだ。それに気付いた俺は、ウラガへと近づいて、耳元で指示を飛ばした。
「この攻撃!ココだけみたいだ!このまま動かず、グラスを守れ!俺が倒す!」
「わかった!気を付けろよ!」
俺は魔法の鞄から、布の切れ端を取り出して、それを【水魔法】で濡らして、耳へと詰め込んだ。即席の耳栓をした俺は、ウラガの【大盾】の範囲から意を決して、飛び出した。
すると、今まで以上の爆音が俺の身体を震わせてくる。この爆音の効果が切れる数メートルを横切るだけなのが、かなり遠く感じてしまう。
しかもなんだか、以上に身体が熱くなってくるのだ。良く見ると、身体に装備していた防具自体も振るえだして、熱を持ち始めていた。それだけでなく、俺の身体の中から熱くなっている気がする。もしかしたら、身体中の水分に対して共振させて、熱が発生しているかもしれない。
これは、方法は違うが、電子レンジの中にいるようなものだ。長居すると、血液が沸騰して死んでしまう。沸騰する前に、人は死ぬんだけどね。
俺は命の危険を感じて、重い足取りを強引に動かして、【ステップ3】を使って移動した。なんとか大事に至る前に、超音波の効果範囲から抜け出した俺は、休む間もなく、直ぐに砂トンボへと【ステップ】で駆け寄った。
それに気付いていた砂トンボが、羽音を止めて俺に向かって酸を飛ばそうとしてくるが、その酸の攻撃を【ステップ】で無理やり回避して、砂トンボへと接近した。
一撃で倒すために、魔力を通して攻撃力を上げた“水の一振り”で、砂トンボの頭を真っ二つに切り裂いた。さすがに、異常な硬さを誇る砂トンボでも、攻撃力を上げた“水の一振り”では、防ぎようが無かったようだ。
砂トンボは、そのまま地面へと倒れて、息絶えた。俺は直ぐにウラガとグラスへ駆けよるが、二人とも無事だった。だが、かなり疲労しているようで、その場から動けないでいる。
俺は周囲を【周辺把握】や【鷹の目】で警戒しながら、倒したユニークモンスタ―の砂トンボへと近づいた。
砂トンボから魔法結晶を取り出していると、今までの小石サイズとは異なり、拳大の魔法結晶が取れた。俺は【解析2】を使ってその魔法結晶を観察する。
■土の魔法結晶:サイズ・中:品質・高
「おお。中サイズの魔法結晶とか初めて獲れた。」
しかも品質が高だ。大変な思いをしただけの事はある。俺は急いでウラガとグラスへと持って行って、魔法結晶を見せたが、二人とも一瞬笑顔を向けてくれたが、それどころではないようで、また苦悶の表情を浮かべてしまった。
俺はユキと二人で、こっそりと喜びを分かち合うのだった。
なで、ユニークモンスターが出てきたんだろう?
作者的にはさっさと進む予定だったのに、書き始めたら、なぜかこんな結果に。話が進まないじゃないか!
ワケガ、ワカラナイヨ。
テル君達は苦戦しましたね。強くなったからと言って、油断は禁物ですね。
次回は、地下12階以降の予定。