上へと登る階段だと??
スキルの話と、地下11階の話。
新しく覚えた【土魔法】と【光魔法】を使って、ユキと何か新しい事ができないか、考えていると、ふと今さらながらの疑問を抱いた。
「ユキ。【氷魔法】って【火魔法】と【水魔法】の複合なんだよな。じゃぁ、氷の精霊のユキも、【火魔法】使えるのか?」
「キュー。キュー。」
ユキが一生懸命、俺に教えてくれた。【火魔法】とは火を出すだけではないらしい。正確には、放熱と吸熱で成り立っているらしい。【氷魔法】とは、吸熱と【水魔法】を使っていているそうだ。氷の精霊であるユキは、吸熱と【水魔法】しか出来ないのだと。
「じゃあ、【火魔法】の放熱と【水魔法】と使うと、どうなるんだ?」
「キュッキュー。」
「【蒸気魔法】ねぇ。使い道、少なそうだなw」
「キューー!」
「え。兄弟みたいなもんなの!?悪く言ってごめんな。」
ちょっとユキの機嫌が悪くなってしまった。そりゃ兄弟を悪く言われるのは、気分が良くないよね。自分の事だと、笑って流せるのに。
俺はユキの機嫌を直そうと、撫でたり、【蒸気魔法】について色々聞いたりした。なんでも、幻覚への応用や、範囲攻撃には絶大な効果があるらしい。そして蒸気の精霊には、物理攻撃が全く効かないそうだ。話を聞く限り、なかなか強力だが、普通の【風魔法】との相性が最悪なのだそうだ。そりゃそうだ。
ユキの機嫌が直ったところで、俺はユキとの連携を再度考えていく。
・【水魔法】との合わせ技で、沼を作って足元を悪くする。
・地面を局所的に整地して、氷魔法で表面を覆う事で、スケートの要領で滑る氷の道。
・氷の道を広範囲に使って、巨大スケートリンクを創造し、敵の足を奪う。
・砂のナイフを氷で覆って、集中が途切れても形を保てるようにする。
最後は、かなり微妙だ。それなら普通に氷のナイフにするだろう。だが、砂漠では【水魔法】の使用は魔力が余分にいるので、省エネにはなりそうだ。
今のところこれくらいだが、いかんせん砂漠では実験し辛いものばかりである。なので、砂のナイフを作って、それを氷で表面をコーティングして、投げるくらいしかない。
それも数回やれば、実戦で使えるレベルになってしまい、ユキも飽きてしまった。俺の頭の上で、休憩する始末なのだ。
まだまだ昼には時間があったので、俺は何となくだが【土魔法】で砂を操り、長剣を創造してみた。ずっと集中していないと、直ぐに形が崩れてしまうので、維持がかなり大変だ。そこで俺は、長剣の刃を形成する砂を、県の表面で周回させる事で、なんとか安定を図ろうとした。イメージはチェーンソーだ。
意識を集中して砂の移動を早くしていくと、キュイーーンという音を出しながら長剣が震え始めた。なんと、本当にチェーンソーみたいな音を鳴らし始めたのだ。
更にスピードを上げていくと、魔力をどんどん消費する代わりに、既に目では追えないくらいの高速で砂が剣の表面を回転していた。空気との摩擦なのか、砂同士の摩擦なのか、剣は段々熱くなり、赤へと変化していく。もう表面は、白く発光していて砂が移動している様には見えなくなっていた。
「ヤバイもの作っちゃったかも。」
それを遠目から見ていた、ウラガが近づいてきた。物珍しそうに俺の剣を見ている。それに気付いたグラスも、俺達へと近寄ってきた。
「またテルは、面白い事やってんな。」
「凄いですね。こんな使い方聞いたこともありません。」
と言いながら、グラスが迂闊にも俺のチェーンソーへと、手を伸ばしてきた。単純に砂が赤く色づいているだけだと思ったようだ。
「バカ!!」
俺はとっさに【ステップ3】で後ろへと飛んで、グラスから距離を取ったので、グラスが剣に触れる事は避けられた。グラスは驚いたような顔と、不信そうな顔が混ざった状態で俺の事を見ている。
「触るな!!これは、見ため以上にかなり危険なんだ。触れたら一瞬で指が飛ぶぞ!」
「そんなに危険な様には見えませんけど・・・赤く光っていて綺麗です。」
「確かに見た目はそうだよな。ウラガ。俺の荷物から、壊れても良い硬いものを何か出してくれ。」
「それじゃぁ、お古のフライパンで良いか?もうずっと使ってない奴。」
「それでいい。それを俺の剣へと、ゆっくり近づけてくれ。俺はただ剣を持ってるだけにするから。くれぐれも、ウラガ自身は剣に触れるなよ。」
剣の切れ味を確認するため、腕力等が影響しないように、俺は剣をまっすぐに構えるだけだ。そこに緊張した様子のウラガが、フライパンをゆっくりと近づけていく。グラスも固唾をのんで見守っていた。
結果、剣に触れたフライパンは、火花を散らす事も無くスパッと切れていた。そして、切れた断面は、赤くなっており、若干溶けてしまっている。
二人は、目を大きく開いて驚愕の眼差しを俺へと向けてきた。二人の視線が、何をしたんだ!と言っている。
そこで俺は、剣への魔力の供給を止めて、砂の振動をゆっくりと止めていった。すると、砂は赤いままだが、剣の上を砂が移動していたのが、理解できるようへと落ちついた。
俺は剣を砂に突き刺すと、数歩下がってから魔力の供給を完全に停止して、【土魔法】で維持していた砂の剣が崩れ落ちた。周りには、まだ赤いままの砂が広がっていた。
「「なんてもん作ってんだ!!」」
安全を確認した二人から、一斉に突っ込まれてしまった。しかも綺麗にハモっている。
「てへ。」
「「・・・気持ちわる。」」
ちょっと可愛く舌を出しながら、自分で頭を叩くという、漫画的な誤魔化し方をしたら、ウラガとグラスにドン引きされてしまった。そしてなんだか急に恥ずかしくなってきてしまった。あれをテレビでやってのけるアイドルは、鋼の精神の持ち主だろう。
「けど、魔力を結構使うから、大変なんだぞ!普通の人なら、数分ももたないだろうな。」
「数分でも十分脅威だよ。また秘密にする事が増えちまったなぁ。」
ウラガはそんな風に俺が見つけた方法を評価するが、秘密にする程だろうか?と俺は疑問に思ってしまう。
そんなこんなで、再び修行へと戻って午前中は、各々がスキルの確認に勤しんだ。俺は使わなくなった袋や入れ物に、周りの砂を詰め込んで、魔法の袋へと入れておいた。こうしておけば、また必要になった時、砂のチェーンソーを直ぐに作り出せるのだ。
昼食を軽く取ってからは、いざ地下11階を進んでいく。途中にいた砂蟻はできるだけ迂回して、戦闘は避けた。しばらく砂漠を歩いていくと、とうとう目的の砂トンボが姿を現した。
「左前方500m、砂トンボ1。周りに砂蟻なし!」
「まず俺の盾を試させてもらうぜ!」
好都合な事に、砂トンボは一匹で俺達へと迫ってきた。俺達はウラガを戦闘に、戦闘態勢へと入っていく。
すごいスピードで飛んできた砂トンボは、そのまま強靭な顎をウラガへと突き立てた。しかしウラガの【大盾2】ではびくともしなかった。それを理解すると、砂トンボが少し離れて、勢いよく強力な酸を浴びせかけ始めた。それを見越して、グラスは一人、俺達から離れて攻撃し易い位置へと移動している。
「へへ。俺の修行の成果を得と見やがれ!」
ウラガはそう言うと、【大盾】と【土魔法】を併用し始めた。普段は透明な【大盾】が【土魔法】のせいで、淡い土色へと変色していく。魔法で作った盾である【大盾】に【土魔法】で、硬さ等を増やしているようだ。
以前は直ぐに溶け始めた【大盾】出会ったが、今回はビクともしないようで、盾に防がれた酸が、足元の砂へとジュウという音と共に染み込んでいった。
それを確認したグラスは、今まで砂に足を取られていたとは思えない速さで【ステップ】で近づいて、砂トンボの頭を蹴り飛ばした。
注意深く観察すると、グラスは足元の砂を【土魔法】で瞬間的に硬くして、普通の地面と同じように移動しているのだ。そして、敵を蹴る時の瞬間にも、【土魔法】で足や爪、腕などを硬化させて打撃力を上げていた。
その証拠に、いままでは揺さぶる位が関の山だったグラスの蹴りが、砂トンボの頭に、深くめり込んでいた。
グラスは、頭を蹴り飛ばした勢いを殺さずにそのまま回転して、さらに身体へと蹴りを食らわした。砂トンボはその威力によって、地面を数メートルもバウンドしながら転げていった。
「なにあの攻撃力。めちゃくちゃ怖いんだけど。」
飛んで行った砂トンボは、地面の上でピクピク痙攣していた。さすがに硬いので、殺すまでには行かなかったようだが、今までとは比べ物にならない蹴りだった。
俺はグラスの真似をして、【土魔法】で足元のすなを固まらせて、砂トンボへと近づいて、砂ナイフで止めを刺そうとしたが、あまり効果が無かった。やっぱり砂だと威力が出ない。なので“水の一振り”で頭を一突きにして殺した。
ちなみに、足元を固める【土魔法】は、(剣をさすために素早く移動したい。)と念じながら使用すると、意外と簡単に成功した。
それを見ていたグラスは、驚愕の目を俺へと向けていた。後で聞いた話だが、あれを習得するのに、1時間。【ステップ】へと応用するのに、さらに1時間かかったらしい。それを一瞬で真似されたので、心底驚いたそうだ。
それぞれが、砂トンボへの効果が実証できたので、俺達はどんどんと11階を攻略していった。砂トンボと砂蟻のコンビネーションだけに注意さえすれば、砂トンボを倒す事はもう難しくなくなっていた。
3時くらいには次の階への階段へとやってきたが、そこには不思議な光景が広がっていた。
「上へと登る階段だと??」
そうなのだ。そこにあったのは、地下12階への下る階段ではなく、上へと登るための階段があったのだ。
11階は最初の戦闘以外、切りました。話が進まないので。
【土魔法】があるだけで、三人とも格段に強くなりましたね。
やっぱり魔法は、イメージとアイデアと知識なのです。
テル君は、凶悪なものを作りましたね。今後も出番があるのか?
次回は地下12階以下の話の予定。