さすがに死ぬかと思ったけど、なんとか無事だ。
ちょっと短いです。
「はぁ。はぁ。マジヤバかったぜ。あのまま【大盾】を続けてたら、俺の盾も溶けてたな。」
「盾どころか、ウラガさんまで溶けてましたよ。」
「やっぱり魔獣を確認しといてよかったな。もし不意打ちでも食らってたら、それこそ大惨事になってたな。」
「だなww」
蟻の蟻酸を完全に防いでいたウラガの盾を溶かす程強い酸を、砂蟻から出てくるなんて想定外だった。魔獣事態は、頭を突き刺せば簡単に倒せたので、気をつけるのは砂地獄と酸だろう。
俺達は落っこちたすり鉢状の穴から這い上がって、砂漠を進んでいく。【周辺把握2】を使っていれば、砂蟻を避ける事は簡単だと思っていた。
【右前方500m先、敵3!】
平らな砂漠なので、見晴らしが良いが、普通の人間なら点にしか見えないだろう。だが【遠見2】を使える俺には、しっかりと姿が確認できた。
「大きなトンボだ。全長3mくらいはありそうだな。」
「砂トンボです!砂蟻が成虫になったら、砂トンボになります。」
「ってことは、やっぱりあの強力な酸も?」
「もちろん持っているでしょう。しかも移動速度が凄く早いので、強敵です。」
俺とグラスが話していると、あっという間の砂トンボは俺達の目の前へと迫ってきていた。見た目はトンボが縦に飛んでいる様な姿だが、強靭そうな顎と、いかにも酸が詰まっていますと言わんばかりの長く太い胴体。そしてその巨体を飛ばすための羽が6枚も背中から生えていた。
もちろん話ながらも戦闘準備は万全にしている。俺はユキと協力して氷のナイフを連射していくが、羽に当たったはずのナイフは、カキーーンという甲高い音を響かせると、羽に傷をつけることなく砂へと落ちてしまった。
「あの羽、見ため異常に硬いぞ。注意を惹きつけることくらいしかできない。」
「ちょっと拙いぞ。俺も酸を飛ばされたら、長く持たないぞ。」
「一匹ずつ確実にです!」
そんなことは分かってるんだよ。でも砂場だから、【ステップ3】じゃあ普段のスピードが出せないんだ。なんか良い方法はないものかね。
俺が色々悩んでいる間に、砂トンボは最前列のウラガに噛みつきにかかった。一匹は完全に防ぐが、残りの2匹も次々とウラガに群がって行く。これにはたまらずウラガも【受け流し】を使って、最初の砂トンボを後方へと反らしていった。
それを見ていた俺は、自分に【カウンター】のスキルがある事をようやく思い出した。ちょうどいいタイミングで、最初に攻撃してきた砂トンボが標的を俺へと変更して、俺に噛みつきに飛んできた。
俺は【カウンター1】を使って、まず強靭な顎の攻撃を剣の背で受け流して、返す刃で砂トンボの片側の3枚の羽を、根元から切り飛ばした。
砂トンボはバランスを崩した様で、砂へと落ちていく。そしてもう一度飛び立とうとするが、片方だけの羽では飛び立てないようで、砂の上をグルグル回っていた。
そんな砂トンボの隙を逃すはずもなく、グラスが駆け寄って頭に蹴りを何発も食らわしていく。グラスの攻撃力では、一撃で砂トンボの装甲を破る事はできなかったが、何度も蹴ることで、なんとか砂トンボを撃破する事に成功していた。
俺はその間にウラガへと駆け寄り、残りの二匹との戦いに参加する。ウラガは【バッシュ】や【大盾】、【受け流し】等を使って、なんとか砂蟻の攻撃を捌いていたのだ。
俺がウラガに近づいた事で、一匹の砂蟻が俺へとターゲットを変更して、襲いかかってくる。だが先ほどと同じように、【カウンター1】を使って砂蟻を受け流して、羽を切らずにそのまま頭を縦に切り飛ばした。
そんな俺の様子を見ていた最後の砂蟻は、俺達から距離をとると、長い身体の先を俺達へと向けて、お尻の先から強力な酸を強烈な勢いで飛ばしてきた。
それを予見していた俺とウラガは互いに近づいて、ウラガの盾のなかに隠れた。どちらを狙うか分からなかったからだ。
「拙い。今、【大盾】を解除すれば、俺達全身で酸を浴びちまう。」
砂蟻違い、砂トンボは長い時間、酸を俺達へと浴びせ続けていたので、【大盾】を解除する事ができなくなってしまった。一時的な攻撃だと予想し、ウラガへと駆け寄った結果、俺も動く事ができなくなっていた。
「グラス!一瞬で良いから、砂トンボの攻撃を止めてくれ!」
「分かりました!ちょっと待ってて下さい。」
「早くしてくれよ!俺の【大盾】もどんどん溶けて行ってる。」
唯一、自由に動けるグラスgが無理やり【ステップ】で砂蟻へと近づいて、後ろから頭へとかかと落としを決めようとしたが、砂蟻は持ち前の素早さで、グラスの攻撃をかわしてしまう。それでも、なんとか俺達への酸を飛ばす事を中断できたので、ウラガはすぐさま【大盾】を解除した。
「あぁ。俺の盾が少し溶けてる。」
【大盾】によって、盾を中心に魔法の壁を展開させていたが、魔法の壁は溶けてしまって、実物の盾まで被害を受けたようだ。大事にしてきた盾だけに、ウラガの落ち込みようは大きかった。
だがまだ戦闘中と言う事で、ウラガも直ぐに盾を構えて、砂トンボを警戒する。砂トンボはと言うと、俺たちの次の動きを見極めるかのように、少し離れて様子を伺っていた。
俺達は三人ともバラバラに移動して、先ほどのように、酸の連続攻撃で動けなくなることを警戒しての布陣だ。
砂トンボは苛立ちを隠せなくなったのか、俺目掛けて、酸をピュ!ピュ!と浴びせかけて来た。俺は【ステップ3】でそれらを避けながら、徐々に後方へと追いやられていく。
すると、いきなり俺の脚元の砂場が崩れて、瞬く間に砂地獄へと姿を変えた。その中心には、砂蟻が俺の事を待ち構えて、顎をガチガチ鳴らしていた。
そう。俺は砂トンボの策にまんまと嵌ってしまったのだ。俺を追いやる事で、砂地獄へと落とす作戦だ。
俺がバランスを崩して、片膝をついて地面に座り込んだところを、砂トンボが上空から酸を浴びせようと、狙いを定めていた。
俺は自分がピンチなのだと気付くが、どうにも対処する方法が思いつかない。俺がもうダメかと思ったその時、いきなりグラスが空を飛んで、砂トンボへと蹴りを食らわした。
まともにグラスの蹴りを受けた砂トンボは、砂地獄へと落ちていき、ちょうど砂蟻の近くに落ちた。
俺は魔獣達が争う事を期待したが、さすがに同族なので争うことはせず、砂蟻は砂を振るわせるのを止めて、砂トンボが立ちあがりやすいようにする。
そんな状況を黙ってみているはずもなく、俺は砂トンボと砂蟻へと【ステップ3】で駆け寄ると、次々に頭に“水の一振り”を突き刺した。
最後は呆気なかったが、なんとかこのピンチを乗り切る事ができたようだ。俺は砂地獄から這い上がって、心配そうにしていたウラガとグラスに笑顔を向けた。
「心配掛けたな。さすがに死ぬかと思ったけど、なんとか無事だ。」
俺はそういうと、ウラガとグラスにハイッタッチをして、互いの健闘を喜んだ。
戦闘だけで終わってしまった。
時間が無くて、キリが良いとこまでしか上げられませんでした。ごめんなさい。
テル君は、今回本当に死ぬかもと思ったようです。内心、ドキドキだった事でしょう。
次回は、地下11階の続きの予定。