絶体絶命だな。
地下6階から8階の話です。
「このままじゃじり貧だな。どこだよ心臓。」
「ちょっと静かに!!」
いきなりグラスが大声を上げた。【ステップ】で敵からの攻撃を回避しながら、耳に手を当てて、何かを聞いているようだ。俺もできるだけ静かにしながら、グラスに注意が行かないように攻撃を加えていく。
「心臓の音がします!ここ!この奥にある!」
グラスが心臓の音を聞き当てて、場所を指示するがワームが動き回っているので、正確な位置がわからない。だいたいの位置に“水の一振り”を突き刺していく。
「もうちょっと下!ああおしい!もうちょっと左上。そっちじゃなくて、背中側!」
何度か刺すが、微妙に違うのか、なかなか心臓に刺さらない。グラスの指示に従って、ようやく心臓を刺す事にやっと成功した。
俺は急い切り飛ばしたもう片方のワームに視線を向けると、ウラガが必死にワームを抑えてくれていた。
「グラスが心臓を見つけられる!もうちょっと耐えてくれ!」
「早く頼む!かなり重い。」
「ちょっと静かにな!音が聞こえにくい!」
俺とグラスは、ウラガへと駆け寄っていく。駆け寄る間に、グラスには氷のナイフを渡しておいた。そして指示を与えておく。
グラスはワームへと近づいて、3つある心臓の残り2つを探す。ひとつは直ぐに見つけることができたようだ。
「見つけた!ココ!!」
グラスはそう言うと、2本の氷のナイフをワームへと突き刺した。そのナイフの延長線上で、交差する点に心臓があるのだ。これで、正確に俺の剣が刺せる。“水の一振り”を突き刺すと、ワームは一瞬苦しそうにしたが、また直ぐに襲いかかってくる。
「ギュギャギャギャ!!!」
「くそ!しつこいな!」
「黙ってって言ってんでしょ!」
ヒィ!!ごめんなさい。女性、怒ると怖いんよ。
俺達は静かにワームの注意を注意をひきながら、グラスが心臓を見つけるまで、耐え続けた。だが最後の心臓がなかなか見つけにくいみたいだ。ワームもずっと騒いでいるし。
「五月蝿いって言ってんでしょうが!!!」
グラスがキレて、ワームの顔へと思いっきり蹴りを食らわした。そのおかげでワームは横たわり、声を出すのを止めて、苦しんでいた。その間にグラスがワームの周りを探し回る。
「ココ!!」
ようやく最後の心臓を見つけた様で、俺も刺されたナイフの先を、すぐさま剣で突き刺した。
すると、ようやくワームも死んだようで、俺達も一息つく事にした。
「皆大丈夫か?」
「俺は大丈夫だ。怪我もない。」
「私も怪我はないわ。」
「そうか。俺も何もない。これから、あのワームをどうやって倒すか話し合おうか。」
「とりあえず、俺は防御係だな。それと切り離すのは無しで頼むぜ。」
「私は、心臓を探す係ね。その間は少し静かにお願い。」
「俺は止め係だな。心臓を2つ潰すと暴走するみたいだからな。心臓は3つ見つかるまでは、おとなしくしてるよ。」
「でも、最初は半分くらい砂漠に埋まってるだろ?どうすんだ?」
「あーーー。どうしよう?」
その後、色々と意見を出し合うが、良い案が出ない。砂丘の頂上に連れて行って、そこから飛び出すような状況に持っていくとか出たが、現実味が無かったし、出なかった時はどうしようもなくなる。
結局、やっぱり身体を半分にして、強制的に下半分を出さす事にした。先ほど同様に、ウラガに半分を任せる事になった。
その後、俺達は砂漠を歩いていく。普通の砂漠とは違い、熱くはないのが数少ない救いだった。ワームは単独行動が多いようで、毎回、一体だけで襲いかかってきた。
事前の計画通り、俺が身体を半分にして、グラスが心臓を探し、その間にウラガが半分のワームを相手する。この方法で、ワームはそんなに手こずらずに倒せる様になった。やり方が分かれば、ただの大きなミミズだ。
この地下6階は、思いのほか早くに地下への階段を見つけることができた。軽めの食事を取った後に、すぐに地下7階へと降りていく。
地下7階も同様に砂漠が広がっているが、砂丘の高低差が増えた気がする。しっかりした丘へと変わっている。そのために傾斜もきつくなっている。
「滑り落ちないように、気をつけないとな。」
ワーム以外の魔獣も出てこないが、地面の下で口を開けて待ち構えている奴もいる。移動して襲いかかってくるワームもいるが、普通なら、待ち構えられると非常に厄介だ。だが俺達には【周辺把握】があるので、わざわざワームに襲われることも無いと、ちょっと迂回して戦闘を避ける。むやみに体力を削りたくないからね。
そして地下7階も、別段困る事も無くすんなりと終わった。遅めの昼食をとって、少し休憩した後に俺達は地下8階へとやってきた。
「これは、もう山だな。」
「だよなぁ。山一つを越えるのだけでも、かなり疲れるぞ。」
相変わらずの砂漠だったが、砂丘の高低差はさらに大きくなっていた。坂の勾配もきつくなっており、転ぶと下まで転げ落ちそうだ。ワーム一体と、一つの山を越えるだけで、30分近くかかってしまった。
「やばいな。こりゃ何時間かかるか分かんないぞ。」
「確かに時間がかかり過ぎるな。精神的にも先が見えないのはキツイぜ。」
「そういえば、何かアイテム買いませんでしたっけ?空を飛ぶ系のやつ。」
「確かに買ったけど、あんまり量が無いんだ。たぶん地下9階と10階はさらに山が高くなるぞ。そこまで温存だな。」
「うへーー。」
グラスがもの凄くヤル気を失っているようだ。それでも進まない事にはクリア出来ないので、一歩一歩を進めていく。
それから何度もワームの攻撃を受け、待ち伏せ型を迂回し、山を登っては降りていく。そして、予期していた事態が起こってしまった。
俺達は山の頂上で、こちらに移動してきたワームと戦闘を開始した。いつも通り、身体を半分にして、片方をウラガに任せる。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺とグラスが片方のワームに対応している時に、ウラガの叫び声が聞こえた。【周辺把握2】で確認すると、ワームに押されたウラガが、山の頂上から転げ落ちていくのが感じ取れた。
「グラス!一端ウラガと合流する!行くぞ!」
「はい!」
グラスがワームを蹴り飛ばしてから、俺達はウラガが転げ落ちていった先へと駆けだした。だが坂道が急すぎて、俺達もバランスを崩しそうになる。その間にも、2体に分かれたワームが砂漠を潜って、ウラガへと迫っていた。
「くそ!!ユキ!長方形の氷の板を2枚作ってくれ!」
「キュ!!」
それまで俺達の周りをフヨフヨして、氷のナイフ作りに協力してくれていたユキに、坂道を下る用のボードを作ってもらった。イメージとしては、砂漠や雪山でタンボールを使って滑り降りるレジャーだ。
直ぐにユキは氷の板を作ってくれて、俺達はそれに寝そべって、砂の山をもの凄い速度で滑り降りていく。途中でワームを越したが、あまりにスピードが出てしまって、俺達もウラガの近くで、砂に頭から突っ込んでしまった。
すぐさまウラガが引っ張りだしてくれたので、なんとかワームが来る前に俺達は戦う体制を整える事ができた。だが、悪い事は重なるようだ。
「新しい敵!後方200m、1匹」
半分に切ったワームと、新しいワームの合計3体のワームが迫ってきた来ている状態だ。ウラガもグラスも、困惑した様子で俺の顔を見てくる。俺も必死で頭を使って考えるが、それを待たずに、3体のワームが砂から身体を出して、こちらに迫ってきた。
「絶体絶命だな。」
そう言いながらも、俺は必死に何かないか考えている。そんな俺の前に、ユキがフヨフヨとやってきて、自分を頼れと言っている風に俺には感じられた。そこで、一か八か賭けに出る事にしたのだった。
砂漠の山を登るのは、想像以上に大変なのですねー。
そして、話を進めるために、7階はバッサリとw
テル君達は、かなりのピンチ見たいです。
(*'ω')bがんばれー
次回は、地下8階以降の話の予定。