とりあえず、寝る。
王様に会いに行ってダンジョンへと向かうお話です。
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(テッテレー♪王様からの紹介状♪)
俺は鞄の中から、人族の王様から貰った手紙を出して、そんな事を考えた。我に返ると、恥ずかしい。頭の中だけで留めておいてよかった。言葉にしたら、たぶん恥死してしまう。
俺達は、王城がある1区にある門までやってきた。門と言っても、丸太でできたものだ。そのにいる王城の兵士に俺は話しかけた。
「私は、テル・キサラギと申します。神の手“ラマン”にできたダンジョンに入りたく、許可を頂きたい。」
「無理だ。今は王の命令で警備および道の整備中だ。わかったらさっさと帰れ。」
そっけない感じで、すげなく断られた。分かり切っていたけど、なんか悲しい。
「これは、人族の王からの、紹介状です。ごらんください。」
俺は門番に手紙を渡した。門番は訝しんで読み始めたが、みるみる顔色が青く変わって行き、俺達の顔を何度も見返した。門番はすぐに同僚に伝令を走らせて、手紙を俺達に返した。
「申し訳ありませんでした。確かに人族の王の署名がありました。すぐに王への謁見を申請させますので。」
「いえ。ただダンジョンに入りたいだけなのですが。」
「申し訳ありません。ダンジョンへの立ち入り禁止を訴えたのが、王自らなので、どうしても王の許可がいるのです。」
しばらく馬車でボーっと待っていると、猛ダッシュで犬ぽい兵隊さんが、城の方から走ってきた。そして、門番になにかゴニョゴニョ伝えると、また大急ぎで帰って行った。
「ちょうど王の時間が開きましたので、今すぐ謁見が可能です。申し訳ありませんが、少々お急ぎください。」
「分かりました。案内お願いします。」
そして、また別の兵隊さんが俺達を案内した。たぶん門番さんは、受付のような立ち位置なのだろう。人族の王の署名を知っている事から、そういうのに詳しい専門職なのかもしれない。
俺達は、大急ぎで、3階建ての王城に入って行った。中は、木材がふんだんに使われ、3階もあるので、土台の1階の壁はとても厚かった。樹齢何百年もの木々から、とても良い臭いがする。そして、案の定迷路のように、かなりの回数を曲がって、やっと謁見の間へと到着した。
「テル・キサラギ様。ウラガーノ・インヴェルノ様。グラス・フルール様がいらっしゃいました。」
「通せ。」
中に入ると、そこは横20m、縦50m程のこじんまりとした謁見の間だった。お約束通り、王の前まで赤い絨毯が引かれている。獣人族の王は、亀のお爺さんだった。亀といっても、かなり大きい。体長2mはありそうだ。
「急な訪問にお応え頂き、心より感謝いたします。私は、人族のテル・キサラギ。そしてこちらが、ウラガーノ・インヴェルノ。次がグラス・フルールでございます。」
「前置きはよい。手紙を見せよ。」
王はかなりのせっかちさんらしい。俺は急いで手紙を懐から出して、横に控えた執事さんに手渡した。ちなみに執事さんは、羊ではなくヤギだった。お手紙食べないでね?
「ふむ。なるほどな。この手紙には、あのダンジョンの事は直接聞くように書いてある。そして、出来るだけ要求に応えてやってほしいともな。応えてみよ。」
俺は、ダンジョンについて知っている事を、かいつまんで話した。神のこと。天使の事。異常事態の事。そして、俺達がダンジョン攻略を目指している事。
「手紙がない状態で聞いたら、笑っていたところだ。よかろう。許可する。だが、死んでも知らんぞ。」
「許可、有難うございます。」
「では、とっとと行け。」
本当にせっかちさんだ。あっという間に話が終わって、俺達は退室させられた。ヤギの執事さんが、俺達の後を追いかけてきて、歩きながら許可証を書いている。王のハンコは事前に押されていた。それでいいのか、獣人国。
「大変失礼しました。王は決断も行動も早い方で、せわしなかったでしょう。」
「失礼ながら、亀族なので、のんびりしているのかと。」
「みなさんそう思われます。あんな即決ですが、これまでに決断は滅多に間違っておりません。先を見る力が高いのでしょう。っと。これが許可証です。ラマンにいる兵にお見せください。現場の鳥族の者が、みなさんを空からお連れいたします。」
「有難うございます。お世話になりました。」
そう言って、俺達は王城を出て、宿へと戻った。そしてすぐさま、馬子に馬車を繋げて、俺達は南門から旅立った。昼が過ぎているが、夜にはもう少し時間があるので、ちょっと馬子には頑張ってもらう。
「ちょうどいいや。グラス。【魔力回復】と【魔力上昇】の訓練だ。ちょっと疲れるが、魔力を垂れ流して、倒れるギリギリを維持してくれ。。」
「はい!って、倒れるんですか?守って下さいよ?」
「もちろんだ。気分も悪くなるが、まぁ、頑張れ。」
それからグラスはひたすら、スキルの獲得に勤しんだ。俺とウラガは【鷹の目】や【夜目】や【周辺把握】を使って、魔獣の襲撃に備えた。
「それにしても、魔法の袋、馬車の中のほとんどの物が入ったな。さすがテルだぜ。」
「たしか所有者の魔力に依存するんだろ?それでも、ギリギリだったぞ。あともうちょっと入るけどな。」
「普通の人は、その半分くらいだろ。まぁ、魔法使いが持てば、同じくらいにはなるかもな。」
だから、今の馬車は以前より断然軽い。馬子も軽やかな足取りで、どんどん進んでいった。途中で、オオカミの魔獣に襲われるが、夜は寝ているのか、あんまり襲われなかった。冬だというのも、効いているのだろう。途中の休憩場所で、仮眠をとったが、また直ぐに出発していく。
なんとか、川を渡る船に間にあってからは、いつも通り、早朝に街を出て、夜に休憩所に着くサイクルを送った。そして、蜂に襲われた街までやってきた。
「おお!ようこそ。お早いお帰りですね。もしかして、南に行くんですか?」
「はい。明日の朝には出ますので。何日位で行けますか?」
「そうですね。山は直ぐに見えてきます。北端に着くのは、2日位ですね。」
「以外に近いんですね。」
「そうですね。ですから蜂が飛んでくるんですけどね。」
ヒツジの村守さんは、苦笑していた。俺達は話もそこそこに、宿へと向かい、早々に寝た。
そして翌日、グラスは喜びの声と共に跳ね起きた。【魔力上昇】と【魔力回復】を覚えたようだ。これで、獣人族特有の魔力の低さが少しは解決できただろう。
街を出てから、すぐにラマンは見えてきた。山が近付くにつれ、蜂の魔獣もどんどん出てくるが、もう冬真っ盛りなので、動きがだいぶ鈍っていたので、俺達は苦も無く切り倒していった。
そして、あっという間にラマンの中指の北端へとやってきた。王都で聞いた通り、兵隊が多数ラマンの上へと登る道を作っていた。
「ここの指揮官の方はいらっしゃいますか?王から手紙を貰って来た冒険者です。」
「おう!俺がそうだ。手紙を見せてくれるか?」
出て来たのは、ワシのおっちゃんだ。大きな翼が生えた、かなりかっこいい感じのおじさんだ。
「なるほどね。あんたらを運べばいいんだな。」
「はい。宜しくお願いします。」
「もういくのか?もうすぐ夜だぞ?」
「大丈夫です。あ。馬と馬車をまかせてもいいですか?」
「わかってるって。手紙にもそう書いてある。」
あのヤギの羊さんも、仕事ができる人らしい。色々細かいところまで、対応してくれるらしい。
「じゃぁ行くか。お前等!この人達をダンジョンに運ぶ!用意しろ!」
「「「了解!」」」
そう言って、総勢6名の鳥族の人たちが集まった。普段は高所への資材の搬入などを担当しているらしい。みんなタカやワシ等の猛禽類で、がっしりしている。結構怖い。
「行くぞ。肩と足を借りるから、そこにうつぶせになれ。」
「もしかして・・・落とすんですか?」
「そりゃそうだろう。俺達まで、引きずり込まれちまう。」
「ですよねー。」
ウラガもグラスも、かなり不安な顔を向けていたが、諦めたように地面にうつぶせになった。そして、鳥のお兄さん達に肩と足を掴まれて、空へと飛び立った。
そらから見たラマンは、壮大だった。テレビで見たエアーズロックとか、こんななのかもしれない。果てしなく続く巨大な岩山が南へと連なっていた。
そして、頂上付近で少し南へと進むと、目的地のダンジョンの洞窟が見えてきた。そしてそこから砂がズズズと浮かんできて、俺達へと迫ってくる。兵隊さんは何度か来ているらしく、安全な距離を保っている。
「じゃぁ坊主たち、頑張れよ。」
そう言って、俺達は一斉に放り出された。スカイダイビングを経験したかったけど、すぐに砂に掴まれて引きずられるようにして、ダンジョンの中へと引きずれり込まれていった。もうすこし空の旅を楽しみたかったのに。
それでも安全にダンジョンへとたどり着いた俺達は、今しがた入ってきた時上空を見てみるが、そこには砂の壁があるだけだった。
入口に見えた岩でできたものの中は、蟻地獄の様に、直ぐに砂であり、俺達はダンジョンの中へと落とされたのだ。
「入ったな。」
「そうだな。入った。」
「入りましたね!これからどうするんですか!?」
「「とりあえず、寝る。」」
グラスはウキウキした表情から、一気にしかめっ面へと変化した。かなり楽しみにしていて、意気込んでいたのだろう。俺達は、そういう浮ついた思いが怪我になるという、もっともらいい理屈でグラスを納得させて、眠りに着いた。
ただたんに、ダンジョンの様子を確認してから、寝たかっただけなのだ。もう夜だものね。翌日からのダンジョンに、俺もドキドキしていたのは、秘密だ。
時間が無かったので、ダンジョンは次回からになります。
私も残念。
テル君も意外と、ウキウキしているようです。刺激が欲しかったのかな?
(*´ω`*)
次回はダンジョンのお話の予定