契約書にサインします。
とりあえず、白いフワフワは害が無さそうなので放置して、俺は折れた右腕をどうにかする事にした。
長い布で固定する必要があるので、とりあえず服の裾を切るために服を脱いだ。そして俺は驚愕することになった。なんと、マッチョになっていたのだ。ちょっと言いすぎた。細マッチョってところだろう。地球にいた時は、動かない研究職とニートを経ていたので、腹筋は見る影もなく、腹はタプタプ。胸筋も衰えてoppaiになりかけていた。
そんな身体が、腕も含めて二周りは大きくなっている。肩幅は、水泳をやっていたから、広い方だったので、そんなに変わった気がしない。テレビで観た某有名パフォーマーばりの、良い身体だった。
「マッチョだ。嬉しい。」
おそらく気が動転していて、自分の身体の変化に気付かなかったんだろう。きっとそうだ。そうに違いない。こんなに身体が変わっていたの気付かないなんてね。自分でも色々びっくりだよ。
一通り筋肉を堪能した後、本題の腕の固定に取り掛かった。服の裾を切り、長い布にして、剣を添え木代わりに、グルグル巻きにして固定した。不格好だが短剣を裸のまま持つのも危ないので、一石二鳥と思い、諦めた。服は裾を切ったせいで、へそ出しルックになっていた。長ズボンに、半袖、へそ出し。めっちゃ恥ずかしい。
「よっしゃ。とりあえず進もう!」
イノシシの死体が近くにあるここでは、いつまでもいては危険だと判断して、さらに西へと歩みを進めた。ちなみに白いフワフワは付いて来た。
日が沈みかけた頃、道の脇に小さな広場があるのが見えてきた。幅10m×50mの整地された広場が、道に沿って広がっていた。高さ2mほどの街頭が両端に建てられていた。おそらく街道の休憩地点なのだろう。日没までに見つけられたのは僥倖だった。俺は街頭の横に腰をおろして、周りを見渡した。
「今日は散々だったなぁ。」
休めるところに着いたからか、今日の事を振り返っていた。トラックにはねられ、異世界に転生。軽い神様の手紙に、イノシシとの死闘。ゴブリンに荷物を盗まれ、白いフワフワに助けられる。盛りだくさんだった。
そういえば白いフワフワはどこ行った?と周りをきょろきょろすると、近くにあった看板横の、水飲み場の上で休んでいた。自由なやつである。
「なになに?ゼーの街:西に馬車で1日。ザルツの街:東に馬車で2日」
確かドイツ語でゼーは湖、ザルツは塩だったかな?大学で真面目にドイツ語とってて良かった。ドイツ語通りの意味とは限んないけどね。
馬車で一日ってことは、徒歩だと二日くらいか。
そういえば、普通に読めたけど、これって何語なんだろうと考えてしまう程に、見たこともない文字だった。なんとなく英語チックな文字で、漢字等とは大きく違っていた。これが世に言う転生者補正ってやつなのかもしれない。実感してみると便利である。
「おーい。そこの君。」
日が落ちて、肌寒くなってきていた時、街道の東側、俺が歩いて来た方向からガラガラという馬車の音と男の声がした。街頭の下で寝そべっていた俺は、その音に驚いて飛び起きた。人の声がこんなに嬉しいと思ったのは初めてだ。馬車に乗った男は広場に入って馬車を止めると布で覆われた荷台に向かって何か言うと、俺に駆け寄って話しかけてきた。
「君大丈夫かい?そんな格好で夜を迎えると凍えてしまうよ?」
「有難うございます。でもこの服しか持ってないんです。ちょっとアクシデントに遭いまして。」
「見る限り、命からがらってところだね。災難だったね。」
俺の折れた右腕に視線を向けながら、男は優しい口調で話しかけてきた。
「名乗るのが遅れたね。僕はネーロ。ネーロ・パスコロ。商売人だよ」
「僕は。如月輝。テルって呼んでください。」
「失礼だけど、変わった名前だね。ここらでは聞かない感じだ。どこから来たんだい?」
俺は迷っていた。正直に異世界からですと言うと、怪しまれる。ここは記憶喪失のふりをしよう。記憶喪失って便利だしね。
「すみません。自分がどこから来たのか覚えてなくて。気がついたら、腕が折れた状態で倒れていたんです。」
「おぉ!可哀そうに!記憶喪失というやつだね。なにか他に覚えている事は無いのかい?」
「あいにく自分の名前だけでして。」
「そうか。そうか。せんない事を聞いたね。だが安心したまえ。隣町までだが、俺が送り届けてあげよう。その後は教会を頼るといい。」
「え。良いんですか!?俺みたいな怪しい奴。お金も持ってないですし。」
「気にするな。困った時はお互いさまだろ。でもそうだなぁ。じゃあ街まで銀貨1枚でどうだ?今日の晩飯もつけよう。その短剣を売れば銀貨50枚にはなるだろうから、街で売るといい。業物のようだしね。」
ちなみに、金貨1枚は銀貨100枚で、銀貨1枚は銅貨100枚。銅貨1枚は、屑銅貨100枚。
屑銅貨一枚が、1円相当なので、銀貨1枚は1万円らしい。
「それでよかったら、契約書にサインしてくれるかね?」
「契約書ですか?」
そういうと、何か書かれた紙に、書き足していった。今の条件を追加しているのだろう。いきなり物騒になってきた。
「商売柄ね。小さなことでも契約書にすることにしているんだよ」
ここで救いの手を断るなんて、できるわけが無い。
「分かりました。契約書にサインします。」
俺はペンを受け取り、サインをした。男は笑っていたけども、この笑いが邪悪なものだと後から知る事になろうとは。
やっと次から話が進みます。
長かったぁ。
(:3冫 ノ)ノ