子供たちの事、宜しくお願いします。
子供と甜菜と開拓のお話。
「まずは、これを食べてみてくれ。もちろん危険なものじゃないよ。」
開口一番、俺は甜菜糖とジャムを、子供たちの代表に渡した。子供達は俺の事を怪しんで、なかなか手を付けようとしなたっか。なので、子供の前に出したビンから、甜菜糖のかけらを取り出して、俺が毒見をしてみせる。ウラガは、ジャムの瓶にスプーンを突っ込んで、自分の手に乗せてから食べた。そして、ニカッと笑う。
それを見た子供達も、おずおずと甜菜糖のかけらに手を伸ばして、味見する。
「「「あっまーーーい!!!!!」」」
「これって、砂糖ってやつだろ?商人が大事に持ってるのを見た事あるぞ!」
「なんだって!これが砂糖か。まさか私たちからお金を取る気なの!?」
「こっちの“じゃむ”って奴も、すっごく甘いよ!イチジクの味がする。」
「小さな子たちにも食べさせたいなぁ。残しといてね。」
「バカ!相手のペースに呑まれてるぞ、まだ信用できないんだから、ヘラヘラすんな。」
子供達は、あれこれ感想を言い合っているが、甜菜糖とジャムは気に入ったようだ。
「俺は、この甜菜糖をツッカー君達に作ってもらいたいと思ってるんだ。」
「砂糖を、俺達で?」
「そうさ。砂糖は獣人族の国で作られていて、高級品なんだろ?それを君達に作ってもらうんだ。」
「この“じゃむ”は作らせないのか?」
「ジャムには、砂糖が必要なんだ。君達が作った砂糖を、オーブストのアップフェルさんに買い取ってもらう。その砂糖で、アップフェルさん達がジャムを作るんだ。砂糖は、きちんとした金額で買ってもらえるよう、俺が確約するよ。」
「・・・それで、お前達に何の得があるんだ?」
「テル。そしてウラガ。」
「・・・テルさんと、ウラガさんには、何の得があるんだ。」
うんうん。ちゃんと名前で呼ばないとね。
「得は、僕の料理の種類が増える事かな。僕は趣味が料理だからね。砂糖は、必需品なんだよ。」
「そんな事を信じろっていうのか!?」
「うーーん。そう言われてもね。僕にとっては、大事な事なんだけどなぁ。」
「テルの料理は、スゲーんだぞ!ちょっと食材を多く使うけど、味は別格だ!」
ウラガが俺を褒めてくれるが、なんだかこのままだと、子供達全員の料理を作ることになりそうだから、やめてほしい。めっちゃ嬉しいんだけどね。
「今、料理を見せるのは出来ないけど、かわりに甜菜糖を実際に作ってみせるね。」
俺はそう言うと、アップフェルさんに貰った寸胴を並べて、即席の竈も用意した。今回は、街で作ったよりも少量だ。少量と言っても、寸胴の1/4くらいある。
ユキに水を出してもらって、ウラガにお湯にしてもらう間に、子供達には甜菜を小さく刻んで来てもらった。俺は、ぼーーと待つだけだ。
準備ができてからは、俺の仕事なので、ひたすらかき混ぜた。前回よりも量が少ないので、砂糖になるまで意外と早く終わった気がする。
女の子達は、熱心に俺の調理を見学して、温度や注意する点などを聞いてきた。すこし心を開いたようで、俺も嬉しくなって色々教える。石灰が手に入った場合、より綺麗に砂糖ができる話までした。そして、出来上がったものを見て、ツッカー君が発言した。
「確かに、簡単に砂糖になるんだな。」
「だろ?これなら子供達でもできるからね。」
「街の連中に、知られたりしないのか?」
「アップフェルさんしか、まだ知らないよ。彼には口止めしてあるし、なにより、君達を応援しているみたいだった。寸胴も、もう少しプレゼントしてくれるって言ってたよ。」
「わかった。俺は、おま・・・テルさん達の話にのることにする。皆はどうする?」
「「「さんせー」」」
「良かったぁ。それと、この甜菜なんだけど、君達でも栽培できるはずなんだ。なんせ、道端で生えてたくらいだからね。」
「でも、森の中じゃ場所が無い。森の外は、大人達に見つかってしまうし。」
「それは任せてほしい。チョチョッっと森を切り開くから。」
俺はウラガに視線を向けると、お互いに頷き合った。俺達は子供達に、ウラガの盾だけ返してもらうよう頼んだ。盾が到着してから俺達は、近くの木々に近寄って行く。
「じゃぁ、ウラガ。俺が木をまとめて切るから、こっちに倒れないように、向こうに押してもらえるかな?」
「わかった。任せとけ!」
俺は自分の手の甲から、“水の一振り”を取り出す。そして、【剣戟1】だけに集中して、一気に剣を振りぬいた。
「セイッ!!」
俺が声を出すのと同時、剣戟が俺の前方の広範囲にわたって飛んで行った。範囲は広いが距離は無く、せいぜい3m程だ。あまりに綺麗に切れたのか、その後、木は全く動く気配が無かった。
するとウラガが盾を構えて、剣戟が通った、真ん中の木に向かって突進した。なんだか、いつもの盾の周りに透明な壁が見える気がした。ウラガが突進した後は、広範囲にわたって、木が向こう側へと倒れて行った。
「よかったぁ。ちゃんと切れてた。」
後でウラガに聞いたが、【大盾1】と【バッシュ1】を使ったらしい。【大盾】とは、普通の盾の周りに、魔力で透明な壁を作り出すスキルらしい。純粋な魔力に形を与えているので、魔法ではないそうだが、魔力の消費が激しいらしい。そして【バッシュ】は、盾で相手を弾き飛ばすスキルだそうだ。レベルが上がると、衝撃波まで出るらしい。
俺的には、魔力に形を与えるのは、魔法のような気がするが、要検討だろう。頭のメモに書き留めておく。
子供たちの方は驚きすぎて、口をあんぐりと開けて、目も見開いた状態で放心していた。そして、最初に正気に戻ったツッカー君が、俺に向かって怒鳴ってきた。
「剣は預かる約束だろう!破ったのか!」
え。そこなの?確かに子供達を守るリーダーとしては、当然の反応なのだろう。
「ごめんね。でもこの剣は俺から離れると、水に戻って、俺のところに帰ってくるんだ。」
そう言って、俺はツッカー君に剣を渡そうとする。そして俺から手が離れた瞬間、水に戻ってしまった。
「ナイフを渡した時に言えば良かったね。でも、できれば秘密にしたかったんだ。いや。これは俺の都合だね。素直に謝るよ。申し訳ありませんでした。」
「うっ。・・・わかった。今回は多めに見てやる。でも!子供たちの前で出すなよ。」
俺は自分の行いを、かなり反省した。ネーロにされた“秘密”と“裏切り”を行ったのだ。俺があれだけ嫌だった事を、ツッカー君にしてしまった。深く反省した。
「ありがとう。それじゃぁ、ユキ。残った切り株を凍らせてくれないか?」
「キュ♪」
ユキは切り株の上に乗ると、瞬く間に、切り株は白く凍ってしまった。ウラガが、【バッシュ】で体当たりすると、粉々に砕け散ってしまった。根元まで、完全に砕けている。
そうやって、森の入口から10mを残して木をどんどん切って行った。小さいと言っても、森なので、かなりの甜菜用の栽培地を用意できた。外からは、相変わらず森に見えるはずだ。この辺りは、空を飛ぶ魔獣もいないので、空の心配も必要ないだろう。
途中、ゾクリときたので、ステータスを見てみると、【剣戟2】にレベルアップしていた。さすがに、森一つを開拓する程使い続ければ、レベルも上がる。
切った木々は、使いやすい長さに切りそろえておいた。切りくずは薪に使えるし、木材は家を建てるのに使えるだろう。少しはまともな家ができそうだ。
そして午後は、子供達総出で土地を耕した。元々森だったので、腐葉土などで栄養は満点だ。しかし甜菜の栽培には、排水が良い方がいいので、俺達は、馬車で小石を拾いに向かった。森にあった小川を辿って行って、広範囲から小石を集めた。ついでに、道に生えていた甜菜を拾っておく。小石を畑の土に混ぜて、排水性を確保する。
「だいたい、収穫には一年かかる。冬の寒い時期に、芋を大きめに切ったものを地面に埋めるんだ。水は、ちょこちょこあげるだけでいい。けど、夏になったらいっぱい水をあげてくれ。より甘くなるはずだ。そして、夏の終わりに収穫できる。一度砂糖にしてしまえば、一年くらいは余裕で保存できるけど、湿気には注意しろよ?収穫が終わった畑には、枯れ葉とかを土に混ぜて、栄養の補充を忘れるなよ。あと、この一年間は、数人だけだが、アップフェルさんのところで雇ってもらえるから、もう盗人は辞めるんだぞ?」
「テルが色々言ったが、わかったか?じゃぁ俺達はもう行くからな。がんばれよ。」
武器を返してもらって、俺達はオーブストの街へと帰って行った。色々やったが、結局一日がかりだ。帰る時には、子供達が手を振って見送ってくれていた。ツッカー君も頭を下げてくれていた。なんだか、達成感で一杯だ。
日没ぎりぎりでオーブストに帰った俺達は、アップフェルさんへの屋敷に戻った。夕食を御馳走になりながら、子供たちの件が上手く進んだことを報告した。我が事のように、喜んでくれた。ちなみに、アップフェルさんが子供達を一年間、雇用してくれるのは、アップフェルさんの御好意だ。
食後の鍛錬もそこそこに、俺達はさっさと寝た。さすがに、午後いっぱいスキルを連続使用したり、ユキに魔力をあげたり、普段使わない農作業用の筋肉を使ったから、疲れていたのだ。
翌朝、街で食料などを買い込んだ俺達は、早々に街を旅立った。街の門のところにアップフェルさんが見送りに来ていたので、挨拶をしておいた。
「子供たちの事、本当に有難うございました。皆様の旅路に、幸多からん事を。」
「こちらも色々有難うございます。子供たちの事、宜しくお願いします。」
そして俺達は、獣人国へと馬車を走らせるのであった。
その後、甜菜の栽培は、病気になる事もなく、一年目から大成功だった。もともと、道に生えるくらい、気候にあっていたのが幸いした。そして後に、果物の街オーブストは、ジャムの製造と販売で、果物販売では国一番に成長する。そして、それを支える子供の街の噂が広まり、孤児の受け皿として、国王からお墨付きまで貰い、子供の村“キンダー”へと成長した。そして、キンダー産の甜菜糖は、国中に広まる事になる。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル32
体力:425→431 魔力:365→375 筋力:301→309
速度:209 耐性:102 魔耐:99
召喚獣:氷の精霊【ユキ】:【水神の加護】
神の秘宝:水の一振り
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲2】【剣戟1→2】【水魔法1】【受け流し1】【カウンター1】【構造把握1】【はやぶさ切り1】【回転切り1】【生活魔法1】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル32
体力:568→577 魔力:307→315 筋力:360→369
速度:123 耐性:172 魔耐175
召喚獣:水の聖獣【シズク】:【水神の加護】
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】【ステップ1】【水魔法1】【大盾1→2】【バッシュ1→2】【受け流し1】【カウンター1】【周辺把握1】【生活魔法1】【魔力回復1】【魔力上昇1】
子供達の将来が、明るくなりましたね。
それにしても、森を一日で開拓するなんて、普通は不可能です。ご都合主義発動です。
テル君は、自分の行いを反省する機会を得ましたね。より成長する事でしょう。
(*´∀`*)
次回は、境界の森の予定。