明るい未来の、話合いを始めよう。
砂糖とジャムと大金と。
すっかり忘れてたので、お金の話を入れました。
昼になってから、アップフェルさんに呼ばれて裏庭に行く。そこには、ラーメン屋とかで見た寸胴が置かれた、巨大な竈が設置されていた。
「言われたものを用意しましたよ。私も興味があるので、見ていても良いですか?」
「もちろんです。ユキ。悪いけど、1つの鍋半分くらいに、水を出してくれないか?」
「キューー♪」
「ユキから出る水は、綺麗なので、安心して下さい。ウラガ。ちょっとこの水を温めておいてくれ。」
「りょーかい。」
「では我々は、厨房に行きましょう。」
厨房に行くと、俺は道の途中で見つけた、甜菜っぽい野菜を取り出した。見た目は、大根とカブを足したような野菜だ。皮を剥いたそれを、約5mm程の角切りにしていく。結構な量があったので、借りた寸胴の半分くらいになった。
それを持ってウラガの待つ裏庭に行く。お湯はポコポコと気泡が出始めるくらいで、ちょうどいいタイミングだった。そこに甜菜を放り込んで、混ぜる。ひたすら混ぜる。沸騰させないように、時折ユキに作ってもらった、氷を加えて温度を調節して、1時間ほど混ぜた。
それを粗めの布で濾して、汁を絞りとる。それをまた鍋に移して、強火で水分が飛ぶまでひたすら混ぜる。すると、ドロっとした液体になった。さらに煮詰めてから、鍋を竈から降ろして、粗熱をとる。
熱がとれるに従って、ドロっとした液体は固まって行き、最後にはうす茶色の固形になった。甜菜糖の出来上がりだ。俺達はそれを味見してみた。
「ふぅ。けっこう疲れたが、まあまあの出来かな。」
「スゲー!めっちゃ甘いじゃん!」
「本当は石灰とか使ったり、上澄み液だけ使ったりするんだけど、材料も時間も無かったからな。」
「いやはや。こんな植物から砂糖ができるとは。獣人族のものより少し癖がありますが、引けを取らない甘さですぞ。この野菜をどこで手に入れたんですか?」
「ここに来るまでに、生えていたんですよ。ではこれを使って、ジャムを作りますか。」
俺はそういってから、アップフェルさんにあらかじめ用意してもらったイチジクを見つめる。
「これが商品にならない、痛み始めたイチジクです。こんなものを使うんですか?」
「大丈夫ですよ。ちょっと痛んだくらい、加熱すれば消毒もできますので。」
「はぁ。テルさんがそこまで言われるなら、大丈夫なのでしょう。お任せします。」
俺はイチジクの皮をむいて、砂糖とは別の寸胴に入れて行く。それに火を付けて、またひたすら混ぜる。温まったら、甜菜糖を加えて、また水分が減るまで、ひたすら混ぜる。適当なところで、火からおろして粗熱をとってから、ユキに冷やしてもらった。
「これがジャムです。食べてみて下さい。」
「「あっまーーい!!」」
「これを沸騰したお湯で除菌した容器に入れれて、密封すれば、王都へも売りに行けますよ。」
「テルってホントすげーな。さすがだぜ。」
「本当にすごいですね。イチジク特有の風味を残しつつ、甘さはこれまで以上だ。しかも保存できて、売れなくなった商品も使えるなんて。」
「もちろん他の果物でも出来ますよ。俺のいたところだと、林檎は一般的でしたね。それで、アップフェルさん。これは売れそうですか?」
「間違いなく、売れます。これは、食文化に改革が起きますよ。」
果物専門の商人から、太鼓判を頂いた。これで、一つ目の課題はクリアである。
「俺はは、甜菜の栽培と、甜菜糖の製造を子供達にさせようと思っています。それを、この街の方が買って、ジャムにして売る。」
「なるほど。そうすれば、子供達も自立できるという事ですか。」
「はい。ですので、アップフェルさんには申し訳ありませんが、甜菜糖の作り方は忘れて下さい。子供たちの独占技術として、収益を確実なものにしたいのです。」
「そうですね。どれでは、原料の甜菜の事も、忘れましょう。街の連中が、偶然にも作り方を発見しかねないですし。」
「忘れて頂くかわりに、情報を早く知れたと思って下さい。そして、将来の販売先には、子供達に、アップフェルさんを頼る様に言うつもりです。」
「それはありがたい。御礼に私からは、子供たちの為に、寸胴などをプレゼントしましょう。」
なんとか話がまとまったな。アップフェルさんも、ごねる気配がないみたいだ。さらに、プレゼントまで用意してくれるらしい。ネーロとは違って、まともな商人の様だ。やっぱりウラガを信じて良かった。
「じゃぁ、明日の朝に、少年達の元に行こうか。」
「そうだな。もうしばらくすると、日も落ちるからな。」
「アップフェルさん、この砂糖とジャム、ちょっと貰っていきますね。」
「どうぞどうぞ。子供たちの事、お願いしますね。それはそうと、夕食は家で食べて下さい。この街の名物を出しますよ。」
俺とウラガは一端、離れの部屋に戻ってから、買い出しに向かった。出来るだけ多くの食糧と名産のフルーツを買いこんでおく。金額にして、銀貨10枚だ。そして、すっかり忘れていたギルドへと向かった。
大きめの街には、ギルドの支部が建てられている。ここオーブストにも、支部が存在した。街の外れにある赤い扉を押しあけて、ギルドの中に入った。受付へと歩いていく。おばちゃん職員さんに話しかける。
「すみません。俺達のギルド証を更新したいのですが。」
「はいよ。ギルド証を預かるね。」
ギルド証をレジスターの様な機械に乗せると、光が一瞬輝いて、更新が完了した。レジスターに表示された金額に、おばちゃん職員は、腰を抜かして、後ろの椅子に腰を落としてしまった。おばちゃん職員は、かろうじて手を伸ばして、俺達にギルド証を返してくれる。
レジスターに表示されたのは、白金貨100枚であった。銀貨1枚が1万円なので、金貨1枚だと100万円。白金貨1枚は、金貨1枚。つまり、白金貨1枚は、一億円だ。桁がおかしい。俺達は一応、3当分するために、再びおばちゃん職員にギルド証を渡して、手続きしてもらった。おばちゃん職員は最後に、何かの小冊子をくれた。
俺達は周りをキョロキョロしながら、アップフェルさんの家へと逃げ帰った。
「やばい。やばいよ、あの金額。テルどうしよう?」
「どうしようって言われても。俺もこんな大金、見たことないし。」
「これって、ダンジョンクリア報酬と、魔法結晶の値段だよな?」
「そうだな。魔法石が国宝級だって話だからな。相場がわからないから、切りのいい金額をくれたんだろう。」
「切りが良いって。こんなの他人に知られて襲われたり、ギルド証を紛失したら、大損だぞ!」
「だからあのおばちゃん職員が、この小冊子をくれたんだな。」
小冊子は、“ギルドにお金を預けよう”という名前だった。もともと、ギルド証に入っているお金は、ギルドが管理しているのだが、ギルドはあまり手を付けられないらしい。前世の銀行と少し違うところだね。冒険者は、金の出入りが激しいから、支払いが滞ると拙いみたいだ。
そこで、この“ギルドにお金を預けよう”だ。一年単位で、一定金額をギルドに預ける。預けた金額は、一年経たないと、ギルドの責任者の承諾がない限り、どんな非常事態でも取り出せない。代わりに、ちょっと利子がついたり、魔獣の素材の買い取り価格が上がるのだ。そしてギルドは、投資や設備に、安心してお金を使えるというわけだ。
そんな内容が、親切に分かりやすく書かれていた。頭の悪い冒険者でも理解できるように、言葉を選んでいるみたいだ。
「これを利用しよう。とりあえず、手元に一人白金貨1枚あれば、生きていけるだろう。」
「そうだよな。預けないと、おちおち冒険なんてできないもんな。」
「じゃぁ明日の朝は、ギルドに行ってから、子供たちのところに行こうか。」
そんな話をしていると、アップフェルさんから、夕飯の誘いが来たので、食堂へと案内してもらう。そこには、野菜のスープと、肉団子のフルーツソース添えが並べられていた。
俺はそれを見て固まってしまった。それは、スウェーデン家具で有名なお店の、ミートボールそっくりだった。イチジクと赤ワインやトマト、玉ねぎなどで作ったソースが添えられていたのだ。
「この地方の郷土料理で、肉団子のフルーツソース添えです。お客人や、祝い事に出す定番料理なんです。」
「おぉ!こんな料理見たことない!うまそうだなテル!」
「ぁ、あぁ!そうだな。あまりに変わった料理で、ちょっと気が抜けていた。」
ウラガがジーっとこっちを見てくる。嘘がばれているようだ。それでも何も言わずに、料理を味わってくれた。ありがとう。だって、アップフェルさんが、ドヤ顔してるんだもん。水を差すわけには、いかなかったんだよ。
料理は、普通に美味しかった。失礼だが、今まで食べた一般人の料理では、めずらしく深い味わいのする料理だ。イチジクの優しい甘さで、肉もさっぱりと頂けた。きっとフルーツを使った料理を必死に考えて、ここにたどり着いたのだろう。他の街でも、料理に気合を入れてほしいものだ。
夕食後は、俺達も特にする事も無いので、【生活魔法1】の“リフレッシュ”をウラガにかけてもらって、さっさと寝た。ずっと部屋にいた、ユキやシズクには、魔力をあげておいた。
翌朝、朝食を終えた俺達は、さっそくギルドへとやってきた。昨日と同様に、おばちゃん職員に話しかける。
「きのう頂いた冊子に書かれていた、ギルドへの預金をしたいのですが。」
「いらっしゃると思っていましたよ。では、誰かギルド職員に知り合いはいますか?その方とギルドマスターが、責任者としてお金をお預かりします。」
「では、王都のクレーさんでお願いします。」
「はいよ。それで、いくら預けますか?」
「白金貨97枚でお願いします。」
「今まで、そんなに預けた方が少ないから、特典はどうなるかわかんないね。決まったら、またギルドで伝えるよ。どこにいても、ギルドの連絡は共通だからね。」
今の話を聞く限り、独自の連絡網があるようだ。ただし、書類関係を送る方法ではないようだ。俺がゼーの街で受けた、緊急の書類運びが、それを裏付けている。たぶん、メールのようなものだろうと、あたりを付けておく。
そして俺達は、馬車一杯の食料と共に、子供たちの元へと向かった。森に近付くと、見張りの子供が俺達に気付いたようで、森の中へと伝令に走って行くのが見えた。俺はもっと前から、【鷹の目2】で見ていたんだけどね。
俺達は、森の少し前で、責任者のお兄さんが来るのを待った。しばらくすると、昨日、俺達と話した17歳くらいの青年が走ってきた。
「なんでここがわかった。俺達を追い出すように、街の連中に頼まれたのか!?」
「俺はこう見えて、スキル持ちだからね。昨日、監視させてもらったのさ。それと、今日来たのは、誰かに頼まれたからじゃない。君達と話がしたかったんだ。」
「昨日もそんな事言っていたな。お前達は、よっぽどのバカか、お人好しのどっちかだ。」
「お前って言うのは失礼だなぁ。俺は、テル・キサラギ。こっちは、ウラガーノ・インヴェルノだ。宜しくね。」
「よろしくなー。」
「チッ!やっぱりペースを乱される。俺は、こいつらを纏めてる、ツッカーだ。」
「よろしくツッカー。とりあえず、プレゼントとして、馬車いっぱいの食料を持って来たんだ。代わりに、お茶する時間くらい、くれないかな?」
「わかったよ。けど、子供達に手は出すなよ。その証として、剣を預かる。出せ!」
「俺は渡せる武器は、ナイフしかないんだ。はいどうぞ。」
「俺は、剣と盾を預けよう。大切に保管してくれよ。」
俺達は、小さな森の中にある、ボロボロの隠れ家に案内された。家の中には、女の子を含めた子供達が大勢いた。地下も掘ったらしく、階段も見えた。とりあえず、俺は、馬車を開けて、子供達を呼んで、食料を渡していった。最初子供達は、不信がっていたが、ツッカー君が「大丈夫だ」というと、一斉に群がってきた。
「さっそくで悪いけど、年長者を集めてくれ。明るい未来の、話合いを始めよう。」
ツッカー君だけでなくウラガにも、思いっきり不信な目で見られてしまった。ちょっと芝居がかっていたからな。俺も今になって、恥ずかしい。
俺達は家から出て、家の裏手にある河原の近くに連れて行かれた。子供達はツッカー君以外に、男女合わせて5人。全員15歳か16歳くらいだ。俺達は、河原の近くの地面にドカリと座って、話合いを開始するのだった。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル32
体力:425 魔力:361→365 筋力:301
速度:209 耐性:102 魔耐:99
召喚獣:氷の精霊【ユキ】:【水神の加護】
神の秘宝:水の一振り
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲2】【剣戟1】【水魔法1】【受け流し1】【カウンター1】【構造把握1】【はやぶさ切り1】【回転切り1】【生活魔法1】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル32
体力:568 魔力:305→307 筋力:360
速度:123 耐性:172 魔耐175
召喚獣:水の聖獣【シズク】:【水神の加護】
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】【ステップ1】【水魔法1】【大盾1】【バッシュ1】【受け流し1】【カウンター1】【周辺把握1】【生活魔法1】【魔力回復1】【魔力上昇1】
料理の話で、なぜこんなに?
さっさと、子供達と話して解決させるつもりだったのに。
話が進まない!
テル君は、色々知ってますねぇ。不思議ですね―。さすが料理が趣味な男と思って、笑って見逃して下さい。
♪~(´ε` ;)
次回は、子供たちのお話も終わりの予定。