しかしこの、てんさいに任せれば、万事解決だ。
船を下りて、二日間は特に何もなかった。時々現れるゴブリンやイノシシの相手をしたくらいで、集団に紛れた盗人は、行動を起こさなかった。そして、3日目。今日の夕方には、果物が名産の街へと着くはずだ。そんな日の昼過ぎに動きがあった。
俺達は、小さな森が点在する街道を、ゴトゴトと馬車を走らせていたが、なぜか、3両前の馬車が速度をゆっくりと落としたのだ。街道には、遅れた馬車を含めて、4両の馬車が止まる事になった。俺は【鷹の目】で、遅れた原因の馬車を確認すると、青年達が、武器を構えているのが見えた。
「ウラガ。やっと動いたぞ。」
「遅かったな。もう動かないかと思ってたぜ。」
「俺達より若い奴らみたいだが、一応武器をもってる。気を付けろよ。」
青年と言っても、最年長で17歳くらいだろう。他はそれより若く見える。生前なら、子供扱いされる年頃が多い。そして周りの森からも、ゾロゾロと子供が湧いてきた。
「森からも子供が多数。こりゃぁ孤児か難民だね。」
「それは、やり辛いな。攻撃されない限り、手は出したくないぞ。」
(よくある“難民を救え”的なクエストだろうな。実際の難民なんて、生きるのが精一杯で、必死なんだけどね。まずは兄貴分を探さないとな。)
「怪我はさせる気は無い!ここから先に行きたきゃ、食い物と金目の物を置いて行け!荷物を置いたら、さっさと行って良いぞ!」
俺達の集団に混ざっていた、一番年長っぽい少年が声をかけてきた。彼が一応の、トップなのだろう。子供だと侮っていたが、さすがに20人近くに囲まれると、俺達以外の2組の商人達は諦めたようで、荷物をおいて、逃げて行った。
俺達は、その様子をぼーっと見つめていた。
「お兄さん達も、さっさと食い物置いて行けよ。」
「でも、俺達のは2人分だし、金目の物なんて無いぞ?」
「なんでも良いんだよ!その鎧でもいいから置いてけよ。」
ふむ。確かにこの鎧は金になりそうだが、王からもらった希少なものだから、すぐ捕まると思うよ?
「そんなことより、俺は、君達と話がしたいな。」
「はぁ!?なにバカ言ってるんだよ。さっさとしないと、怪我するぞ。」
「怪我はしないと思う。」
「なんでそう思うんだよ。俺達は全員武器を持ってるんだぞ。」
「君が最初に言ったんじゃないか。怪我をさせるつもりは無いって。それは、俺達だけじゃなくて、他の子供達も含まれているんだろう?君からは、殺意が感じられないもの。」
「・・・クソ!なんだか気が抜けちまった。話はしねぇ!さっさと行け!」
そういうと、馬子の尻を叩いた。馬子はびっくりして動き出すが、止めようと思えば止められる早さだ。けれども俺達は、そのまま街に行く事にした。もちろん【鷹の目2】で彼らの行方は監視しているので、森に逃げられても見失う事は無い。
「ウラガ。しばらく行ったら、すこしだけ馬車を止めてくれ。彼らの行先を確認したい。」
「了解。1kmくらい離れればいいかな。」
「あぁ。それなら俺の【鷹の目2】を使えば、余裕で彼らを監視できる。」
彼らは街道から少し離れた、小さな森の中に入って行った。おそらく魔獣を全部追い出してあるのだろう。森の中央には、木で造られた、簡素な家が建っていた。
「森の中に家があるな。彼らの隠れ家だろう。」
「場所がわかったんなら、街まで行くか。そろそろ出発しないと、日が暮れるぞ。」
「そうだな。馬子、頼むぞ。」
馬子に少し急いでもらって、街には、ギリギリ日没前にたどり着いた。当然だが、俺達が最後の入場者だったので、入った後は扉が閉められた。
果物が名産の街、“オーブスト”は、半径1kmくらいの、ちょっと大きな街だ。街の周りには、様々な果樹が植えられていた。街全体が、フルーツの甘い香りで包まれている。
俺達はさっそく宿屋へと向かった。普段の格安宿より、ちょっと良い宿で泊まる事にした。ずっと盗人を警戒していたから、気疲れしてしまったようだったので、広いベッドと静かな宿が良かったのだ。俺達と馬子で、食事とお湯も付いて、銀貨3枚だ。
「この後、どうするんだ?」
「実は、この街には知り合いがいるはずなんだ。ウラガも会ってるだろ?」
「?・・・あぁ!!王都で最初の、周辺調査の依頼で助けた、果物の商人達か!」
「そうだ。彼らに会って、当時の謝礼金と、盗人の話を聞くつもりだ。」
「すっかり忘れてたぜ。テルって意外と、執念深いんだな。」
「なんでだよ!普通だよ!・・・普通だよね?」
「知らねーよ。ちょっと煽ってみただけなんだから、そんなに不安になるなよw」
俺は意外に小心者なんだよ?そう言うのは、気にするタイプなんだよ?
そして次の日。すぐに俺達は、目的の果物商人を見つけられた。最初にそういった情報が集まりそうな、大手の果物屋を訪れたのだが、まさにその人が、探し人だったのだ。男の家は裕福そうで、普通の家の3軒分の広さがあった。裕福な商人という事で、俺を奴隷に嵌めたネーロの事を思い出してしまって、イヤな気分になる。
「あの時は、本当にお世話になりました。次の日ギルドへ行くと、あのトレーネ湖の事件があったでしょう?皆さんは、すでに出てしまわれた後で、御礼もできなかったことを、悔やんでいたのですよ。」
「急な依頼でしたのでね。この街には、南の獣人国へ行く途中で寄っただけなので、出会えたのは奇遇でしたね。」
本当はこっちが探したんだけどね。やっぱり偶然を装った方が、下手に出られることも無いからね。がめつく思われるのも、嫌だし。
「それでは、今から御礼を用意させますので、しばらくお待ちください。うちの名産の、イチジクを用意させましたので、御賞味ください。」
「テル。俺、イチジクって初めて見たぞ。痛み易くて、王都でもなかなか見られない高級品なんだぜ。」
「へー。ジャムにでもすれば、保存もきいて売れると思うんだけどなぁ。」
「“じゃむ”って何??」
「あーー。果物を、大量の砂糖で甘く煮たものだ。果物が長持ちするから、俺のいたところじゃあ、一般的だったな。」
「そっかぁ。でも砂糖がなぁ。獣人の国に行ったら、作ってくれるか?」
「もちろんだよ。美味いの作ってやる。」
「テル様は、博識でいらっしゃるようですね。私も果物を扱うものとして、“じゃむ”には興味がありますな。」
「砂糖があれば、すぐにでも、お作り出来たんですが。また機会がありましたら。」
「そういえば、俺達、村に来る前に盗人の少年達に会ったんです。彼らは何者ですか?」
「あぁ。彼らは、捨て子達ですね。王都のスラムや、近隣の村で面倒を見切れなくなった親達が、川を渡ったこちら側に捨てに来るんですよ。乾季になれば、自力で川を渡ることもできますからね。川さえ渡れば、子供の力では、帰る事もできません。そんな子供たちが集まって、盗人集団を作っているんです。」
予想していたが、かなり悲しい話だった。通りで俺達に冷たい訳だ。大人は敵なんだろうね。
「ところで、お二人は大丈夫でしたか?荷物などを盗られたのでは?」
「俺達は二人旅なので、食料もあまり持ってなかったですし、金目のものも無いですから。」
「そうですか。不幸中の幸いというやつですね。お怪我がなくてよかった。」
「大きなお世話かもしれませんが、この街で、彼らを迎え入れる事は出来ないんですか?果樹園の手伝いとかの仕事が、ありそうですが?」
「厳しいですね。果樹園は基本、数件の家がまとまって、一つの果樹園を切り盛りします。ですので、家族でこなせる面積しかないのです。増やそうと思っても、果樹は育成に時間がかかるので、今後も増える可能性のある彼ら全員を、雇い入れるのは無理なのです。本当は、どうにかしてやりたいんですが。」
果樹園農家のかなしい現実だった。確かに木に身を付けるには、何年もかかってしまう。その間に、捨て子が増えないとも限らない。
「実は、俺は彼らを、なんとかしたいと思っているんです。」
「本当ですか!?でもどうやって。今説明したように、果樹園はすぐには広げられませんよ。」
「そのためにも、数日この街で準備しようと思うんですが、手伝って頂けますか?」
「もちろんです。助けて頂いた恩もあるので、出来る範囲でお手伝いします。」
「ではさっそくですが、巨大な鍋を二つ用意してもらえませんか?」
「分かりました。すぐに準備させます。昼過ぎには用意できると思いますよ。」
「そんなに早くですか?それは僥倖ですね。あと、火を使いたいので、庭を貸してもらえますか?臭いが出ると思うので。」
「お安いご用です。庭に、簡単にですが竈を作らせましょう。」
「じゃぁ俺達は、宿に一度帰りますので。準備ができる頃に、また来ます。」
「あ。それなら家を使って下さい。恩人ですので、もちろんタダで構いません。」
「やったじゃねーか。タダだぜ!?甘えとこう。」
「ウラガがそう言うなら・・・お願いします。」
正直、タダと商人、契約書という言葉は今でも不信感で一杯だ。ネーロのせいで、気後れしてしまうのだ。だが、ウラガが素直に信じた相手だ。なんだか信じたくなってしまう。ウラガの人を見る目は確かな気がするからだ。
俺達は、馬子と馬車を迎えに行って、商人の家に泊めた。今さらだが、商人の名前は、アップフェルと言うらしい。少し恰幅はあるが、果樹の仕事があるので、がっしりしているだけだろう。俺達は、離れの一部屋を借りうけて、ベッドで休憩していた。
「ところで、どうやって子供らを救うんだ?」
「くくく。ちょっと道端で、面白い食材を見つけてね。これがあれば、色々な事が解決するはずだ。」
「めっちゃくちゃ、あくどい顔してるぞ。」
「これが成功すれば、子供達も救えて、美味いものが作れるんだぞ。顔もにやけてくるだろう。」
「まぁ、テルに自信があるなら任せるがよぉ。何かあれば俺に言えよ?」
「ああ。しかしこの、てんさいに任せれば、万事解決だ。」
ウラガがなんだか、痛い奴を見る目を向けてくるが無視した。俺はこれからの事に胸をワクワクさせながら、準備が整うのを待つのだった。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル32
体力:425 魔力:361 筋力:301
速度:209 耐性:102 魔耐:99
召喚獣:氷の精霊【ユキ】:【水神の加護】
神の秘宝:水の一振り
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲2】【剣戟1】【水魔法1】【受け流し1】【カウンター1】【構造把握1】【はやぶさ切り1】【回転切り1】【生活魔法1】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル32
体力:568 魔力:305 筋力:360
速度:123 耐性:172 魔耐175
召喚獣:水の聖獣【シズク】:【水神の加護】
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】【ステップ1】【水魔法1】【大盾1】【バッシュ1】【受け流し1】【カウンター1】【周辺把握1】【生活魔法1】【魔力回復1】【魔力上昇1】
難民ネタもちょっと世界事情を見ると、避けたかったのですが、やれるうちにやっておきたかったのです。
テル君は、なにやら自信満々ですね。本来の目的は、子供を救う事ですよ?
ヾ(⌒(_*'ω'*)_
次回は、てんさいと砂糖と子供と栽培のお話の予定。