ウラガーノ・インヴェルノの冒険記録1。
ウラガーノ君の閑話です。
本編のまとめ的な役目もあります。
長兄に男の子供が産まれた。これで、インヴェルノ家は存続できる。つまり予備としての俺は、やっと自由になれるのだ!
俺は、ウラガーノ・インヴェルノ。人族の国の東にある、神の腕“アルム”よりもさらに東の辺境貴族の息子だ。特に特産品もなく、絶海で魚をとって暮らしていた。没落貴族なので、自分達の飯は自分達でとってくる。
家は長男が継ぐのが一般的で、家でも兄が結婚ていたが、女の子ばかり産まれていた。別に女でも、婿養子を貰えるが、田舎なので、周りが男の子を欲しがったのだ。そして念願の男の子が生まれて、やっと俺は解放された。
俺には壮大な夢がある。希少な品物を扱った、国一番の大きな店を持つことだ!なので、自由になった俺は、王都を目指す事にした。まずは、今の国一番の店を見るためだ。
季節は冬まっただ中だ。今年の冬は厳しく、アルムには、大量の雪が積もっていた。アルムには通り道のように、二か所の谷間が存在する。そこを歩いて王都を目指すのだ。その道だけは、火の魔法結晶を道に設置しているおかげで、雪は積もらないのだ。近くに、火の魔法結晶を排出するダンジョンがあるおかげで、こんな贅沢ができている。
家を出る時に、金を少しもらったが、馬車に乗る気はなかった。万が一のために残しておく。ということで、とぼとぼ歩いて、約60日ほどかかって、塩の街ザルツにやってきた。鍛えているので、普通の人が歩くより、1.5倍程早い到着だ。季節も春になっていた。
ザルツから湖の街ゼーへと歩いていく途中、ちょっと変わった馬車とすれ違った。男が馬車の後ろを走って、追いかけているのだ。普通なら馬車に乗るだろうが、首の黒いチョーカーが見えたので、おそらく奴隷だ。何かミスでもして、お仕置き中なのかもしれない。
ゼーの街での滞在もそこそこに、王都へ向かった。ここからは盗賊が出るらしいので、注意して進むが、特に何もなかった。なんだか拍子抜けに感じて、王都へやってきた。
王都はめちゃくちゃ大きかった。堅牢な城壁に、白を基調とした街並。ガラスをふんだんに使った商店。俺には、何もかもが新鮮だった。途中の街とは比べ物にならない。俺は、門番のお兄さんに聞いた宿で泊まる事にした。二人の相部屋で、相方は俺がゴロゴロしている時にやってきた。
「テル・キサラギです。」
変わった名前だなと思いながらも、俺も自己紹介した。相手の印象は、知的というか、物静かというか、それでいて、不思議な印象を受ける男だった。
水浴びの時に、氷の精霊を見せてくれた。精霊なんて、産まれて初めて見たから、めちゃくちゃ興奮したのを覚えている。しかしテルは、魔力が足りないのか、ぐったりしていたので、急いで部屋で寝かせた。俺は、これから面白くなりそうな予感で一杯だった。
テルとチームを組んだ後は、本当に色々あった。街の観光で見た、武器屋と総合魔法屋は衝撃的だったし、初のギルド依頼である、周辺調査もメイジゴブリンといった珍しい敵に会えた。武器屋で“帯電の剣”を買った時に、テルが見せた目利きの才能には、ちょっと嫉妬したなぁ。そして極めつけは、トレーネ湖でのダンジョン攻略だろう。
時々不思議な事を言ったり、秘密の多いテルだったが、ダンジョンではその異常性が際立っていた。まず、流れるプールだ。“プール”ってなんだ?俺には水路のようにしか感じなかった。次に“じぇっとこーすたー”という言葉だ。聞いたこともない。さらに蟹と戦った時は、一瞬で新しいスキルを覚えるし、“鏡の壁”も直ぐに理解したようだ。
“うぉーたーかったー”とか、“水の膨張率”とか、あんなにボケっとしてるのに、とにかく博識だ。一般的に筋肉質なやつは、馬鹿だと相場が決まっている。学のある奴は、金持ちだから身体を鍛えないのだ。なのにテルはマッチョだ。例外なのだろうか? それにしては、一般常識が欠けている。というより、知らな過ぎだ。全てが、ちぐはぐすぎると感じた。
戦いに関しては、意外と行け行けな感じだ。この俺がサポートする場面があるほど、ガンガン攻めようとする。剣を使う人間としては好ましいが、素人感が否めなかった。
そこで俺は、素直に聞くことにした。
「なぁ。テルって何かおかしくないか?」
「え。そうかな?」
「常識がないのに、聞いたこともない単語を時々使っていて、博識な感じもする。なにより、スキルを覚えるのが早すぎる。」
「あーー。」
煮え切らない感じで、何か考えているようだ。聞かれたくない事だったんだろうか?
「わかった。ダンジョンを出たら全部教えるよ。」
なんだか言わせたみたいになったが、テルもチャンスを窺っていたのだろう。なんだか決意するような目だった。
ダンジョンを無事クリアして、この時に天使様から、水の聖獣であるスライムをもらった。テルは、こそこそ天使様と話していたが、天使様はテルの秘密を知っているようだった。
そして王都に帰ると、王城に招待された。ダンジョン攻略を証明して、俺達は国賓として扱われた。没落だが貴族出身の俺でさえ、王と直接話すなんて、畏れ多くて、最初はできなかった。なにせ、王とは神に直接選ばれた人間だ。しかも今代の王は、人選に定評があり、大々的に官僚制度を改革した凄い人なのだ。そんな人を見る目がある王に、俺達は認められたようで、凄く嬉しかったのを覚えている。
そして、シュヴェルト師匠とシルト師匠に出会った。この二人のおかげで、今後の俺の土台ができたと、今も感謝している。そして、最初のスパルタ指導のあった夜、ベッドでテルが秘密を打ち明けてくれた。
聞いた内容は、嘘だと思えるほどだったが、実際にテルと行動した俺だから、本当だと感じられた。この場面で嘘をつく奴じゃない。転生とか、神から頼まれたとか、俺だったら逃げ出したかもしれない内容ばかりだ。
「そうか。わかった。ありがとう。」
「こっちこそ。ありがとう。」
話の御礼をしたら、御礼で返された。俺は布団にもぐって、寝たふりをする。テルは枕に顔を埋めているのか、泣いている声がくぐもっていた。テルにとっても不安だったのだろう。そんなテルを感じて、俺はテルを支える覚悟を決めた。
テルの教えてくれた、スキル獲得のコツは、本当に効果的だった。スパルタ二日目、シルト師匠にお願いして、【ステップ1】を獲得させてもらった。テルが言ってたよりは、時間がかかったが、普通より数倍早くスキルを覚えられた。おかげで、シルト師匠に気に入られて、その後、色々盾のスキルを教えてもらった。
テルと【水魔法】を覚えたのも、面白かった。冷たいトレーネ湖に全裸で入るなんて、バカかと思ったが、テルを信じて良かった。テルはあっという間に【水魔法】を覚えたが、俺はテルに手伝ってもらって、約2時間遅れで習得した。そんな俺達を見ていた、アインスさんとクレーさんの驚いた顔は、今でも笑ってします。
そしてテルは、本当に剣が絡まないと、何もスキルが使えないようだった。【水魔法】を覚えても、手から水すら出なかったのだ。本当に、厄介な個人能力を持ってるよな。
そして今日は、テルの手料理を初めて食った。“ぐらたん”と“くすくすのぱえりあ”と“玉ねぎスープ”だ。どれも絶品だった。牛乳の新しい使い方とか、トマトと海鮮の相性は、驚愕だったし、調理法も斬新だ。街で安く手に入る食材で、あんなに変わるなんて、世界を変えるかもしれない。将来は、副業で料理屋でもしようかなぁ。
明日からのテルの料理が楽しみだ。もちろん、テルと世界をまわるほうが、より楽しみなんだけどな。あいつは、本当に面白い奴だ。人族王都出発までは、こんな感じだ。きっとこれからの旅は飽きないだろう。
ウラガーノ・インヴェルノの冒険記録1。
ウラガーノ君は、まっすぐで明るい性格なんですね。
しかもよく人を観察しているようです。
テル君は、こんな親友ができて良かったね。
次回は、閑話にするか、本編にするか迷い中。