それでは、行ってきます。
スパルタ地獄とスキル獲得。そして王都最後の日のお話です。
魔法が全く使えない事で、俺は一瞬混乱してしまった。だが、原因は直ぐに気付いた。俺の固有能力“オール・フォー・ソード”のせいだ。試しに、剣へと水の属性を付与しようと、意識を集中すると簡単にできた。【剣戟1】と【水魔法1】を合わせてみると、水の剣戟が飛んで行った。しかしまだまだレベルが低いので、威力や飛距離は全然出なかった。2mが限界だ。他にも、小さいながら、水のナイフを作る事ができた。
俺の“オール・フォー・ソード”はやっぱり剣に関わらない事は、さっぱりのようだ。便利なんだか、不便なんだか。せっかく取った【水魔法1】も“水の一振り”と能力的にほぼ同じだし、夢見た魔法遣いの攻撃は、頭を捻らないと出来ないだろう。全然アイデアが浮かんでこない。
「テルの個人能力は、本当に使い方を選ぶよなぁ。微妙に不便なのが、笑える。」
「そうなんだよなぁ。普通の人みたいに、魔法が使ってみたいよ。」
「ははは。でも、そのおかげで、短期間で色々覚えられるんだろ?利点もあるじゃん。」
「そこは確かに便利なんだよな。スキルも直ぐにレベルアップできるしな。」
夜も更けてきたので、軽口を叩きながら、俺達はトレーネ湖から王城へ帰って行った。ウラガは少ない魔力を使いきったのか、ベッドに入ると、直ぐに寝てしまった。俺は、今後の事を少し考えていた。北か南、もしくは東に行くか。どんなスキルが必要か。耐性や魔耐はどうやって上げるか。色々考えるべきものがあるが、いつの間にか眠ってしまった。
それからの4日間は、スパルタ地獄漬けだった。シュヴェルトさんやシルトさんは、自分達の持てる全てを注ごうとヤル気に満ちていた。逆に俺達は、殺られるかと思った。耐性や魔耐の向上と、生活魔法の習得を依頼したら、毒や麻痺等のドリンクを渡され、特訓の合間に呑んで、ヤバくなったら、治療班に回復してもらう。ついでに生活魔法できれいにしてもらう。本当に死ぬかと、何度も思った。
おかげで俺達は、数個のスキルを獲得していた。俺は【受け流し1】【カウンター1】【構造把握1】【はやぶさ切り1】【回転切り1】【生活魔法1】を覚えた。ウラガは、【大盾1】【バッシュ1】【受け流し1】【カウンター1】【周辺把握1】【生活魔法1】を覚えたようだ。ウラガの個人能力は、やはり防御に特化しているらしい。これだけスキルを覚えたのは、戦闘系の個人能力を遺憾なく発揮した結果だろう。
そして、王城に来てから7日目になった。午前中は、最後のスパルタ地獄を味わったが、俺達もかなり成長したので、なんなく、こなせる様になっていた。
「テル様やウラガーノ様に、教える事ができて、我々としても、充実した日々でした。まさか、あれほどスキルを覚えられるとは、正に驚愕です。」
「次回は、手合わせして頂けますか?それまでの、お二方の成長を、楽しみにしております。」
「シュヴェルトさん。シルトさん。お世話になりました。」
「師匠達!有難うございました!」
最後は、固い握手でお別れだ。
“リフレッシュ”の魔法ですっきりした後、俺達は買い出しに出かけた。水はウラガが出してくれるので、もう必要ないだろう。冒険用の買い出しなので、ギルドへとやってきた。この7日間一緒に過ごした、アインスさんとクレーさんとも今日が最後だ。ギルドへ入ると、他の冒険者が急にざわめきだした。俺達はすっかり有名人になっていたようで、「あれが噂のダンジョン攻略者?」「若過ぎないか?」「意外とかっこいい。」などが聞こえてくる。ちょっと照れ臭いな。
「クレーさん。ポーションとか、ランタンとかを買いたいのですが。」
「久しぶりに、ギルドのお仕事ですね。承りました。」
「それで、お金の方なんですが、手持ちが少なく・・・」
「あぁ!安心して下さい。トレーネ湖での物資輸送の報酬と、支度金を、王からお預かりしています。お二人の商品の購入後に、お支払いしますね。」
「俺からは、二人のギルドランク昇格の報告があるぞ!なんと、飛び級で、今日から銀プレートだ!じゃぁクレー。登録宜しくな。」
「凄いですね!飛び級なんて滅多にありませんよ。これならC級やB級の依頼と、魔獣に挑めますね。でも無理はしないでくださいね。安全第一です。」
そんな会話の後、俺達は、クレーさんにお勧めの商品を、見繕ってもらった。光魔法のランタン。火の魔法結晶と、薪。練炭に、鍋やフライパン。ユキがいるので、冷蔵庫も買える。氷の魔法結晶は貴重らしいが、ユキは存在するだけで、冷たいからな。もちろん食材も手配してもらった。後は、ポーションや薬類、タオルや着替えを買った。買った物は全部、新しい馬車に積んでおいてくれるらしい。
残ったお金は、3で分けた。俺、ウラガ、パ-ティー用だ。それでも、一人当たり、銀貨15枚と銅貨22枚になった。王様からの支度金が、かなりあったらしい。太っ腹だな。
ギルドを出た俺達は、最初だけだがお世話になった、クレーさんの実家でもある宿屋に来た。お世話になった挨拶と、クレーさんに御礼がしたかったのだ。
「おや。すっかり有名人になった二人じゃないかい。おかげでうちの宿も、運気が上がるってんで、繁盛してるよ。」
「そんなことになってたんですね。数日でしたけど、お世話になったので、挨拶に来ました。その節は、有難うございました。」
「それはご丁寧にねぇ。こっちこそ有難うよ。」
「ところで、クレーさんやアインスさんも含めた、皆さまに御礼をしたいので、厨房を借りてもいいですか?」
「料理でも作ってくれるのかね?もちろん使っていいよ。手伝ってやろうか?」
「いえ。少し変わった料理なので、俺が一人で作ります。その間、ウラガが冒険の話をしてくれますので、聞いてやって下さい。」
そして厨房へ案内された。クレーさんだけは、護衛として見守ってくれている。土でできた竈と、調理台。食材と調味料置き場のあるシンプルな厨房だ。俺の今日の献立は、グラタンとクスクスを使ったパエリア。そしてオニオンスープだ。王都は牧場と漁場があるので、材料は簡単に手に入る。そしてこの国は、野菜が意外と豊富なのだ。なんでも、12代前の王様が、農業改革をしたらしい。そして数十年かけて、今のような豊かな土壌にしたそうだ。
パンの様なものがあった事から、小麦粉もしっかり存在した。そして魚は、漁師に頼んで生きたまま持って来てもらった。タルのなかで、泳いでいる。食材は全部揃っていたので、さっそく料理を開始した。ちなみに、クスクスの元となる生地は事前に準備しておいた。
まずはグラタンを作っていく。干し肉は牛乳でやわらかくしておく。その間に、小麦粉とバターを弱火で炒める。牛乳を少量加えていき、しっかりと固めていく。ある程度まとまってきたら、牛乳をさらに加えて、ちょうどいい固さにしていく。塩と胡椒で味を調える。あとは陶器の器に、細かく切った野菜と肉、ホワイトソースを加えて、チーズを振りかけた。蓋をして、竈の中に放り込んだ。
次にパエリアにとりかかる。まず魚の血抜きと内蔵を取り出し、三枚に下ろす。トマトと香草と野菜で作ったトマトスープに、一度塩茹でした魚と貝類、パスタ生地を細かく切って作ったクスクスを入れる。後は水分が少なくなるまで煮込んでいく。
オニオンスープは、玉ねぎをゴロっと入れて、グラタンで余った野菜の切れ端、少量の干し肉、塩胡椒で味を調えて、香草を入れただけの簡単仕様だ。それでは、食べて頂こう。
「「「「うまーーーい!!!」」」」
「お口に合ったようで、一安心です。」
「この牛乳で作ったソースの濃厚さに、野菜と肉のうまみが溶けてるよ!」
「しかも肉の嫌な臭みがしないし、やわらかい!」
「こっちのパエリア?も美味いな。魚介類とトマトがこんなに合うとは。」
「小さなクスクス?も味が染みていて、モチモチした歯ごたえが良いねぇ。老人でも食べられるよ。」
「そしてスープの深い味わいね。メインの玉ねぎが、とろけるし、他の味の濃い料理の口を、さっぱりとしてくれる。」
「テル!本当に料理が趣味だったんだな。王宮で食べたみたいな味だぜ!」
「それは言いすぎだよ。でも喜んでもらえて良かった。」
この献立にしたのには、理由がある。それは、バリエーション豊富であり、安価であり、栄養豊富でかつ、短時間でできるからだ。実際に、1時間もかかっていない。バターとチーズは値がはるが、多少あればいいので、許容範囲である。具も季節によって変えられる。パスタの生地が寝かす必要があるが、すぐに出来るので、負担にはならないだろう。俺は料理のレシピを、クレーさんに渡しておいた。魚の血抜きも見ているので、大丈夫だろう。後日、王都でレストラン以上の料理が食える、一番美味い料理を出す宿として、一躍有名になるのだった。
その後は、図書館へと赴いた。北のドワーフの国と、南の獣人の国、そして東の山脈、神の腕についての情報収集だ。そして、“ライゼの成り上がり”について、メモできる事は、全てメモしておいた。ウラガと二人がかりなので、あっという間に終わった。
そして夕食は、王と一緒に食べた。王とは最後の晩餐になる。
「次はどこに行くのか決めたのか?」
「いえ。明日の朝、気分で決めようと思っています。」
「そうか。ところで、東には行けなくなったのは、聞いたか?」
「いえ。初耳です。なぜでしょうか?」
「大規模に、川が氾濫したそうだ。神の腕の気温も上がって、雪解け水が押し寄せたらしい。」
「チッ。ネーロの予想どおりか(ボソっ」
「うん?何か言った?」
「いえ。選択肢が減ったなぁと思いまして。でしたら、北と南にも行けないのでは?」
「川の氾濫は毎年あるんだ。それが例年より広範囲なだけだよ。北と南には、大きな渡し船があるから、馬車でも大丈夫さ。」
「なるほど。それならどちらの国にも行けますね。」
その後も俺達は、王やアインスさん、クレーさんと雑談して、楽しい夕食を終えた。最後に、王への感謝として、“ライゼの成り上がり”の本を勧めた。今後の兵士育成に役立ててもらうためだ。王は、本の凄さがわかっていないのか、ふーんという感じだったが、後日、【水魔法】の獲得方法と共に、スキル獲得の教本として、扱われることになる。
そして出発当日。朝食もそこそこに、俺達は部屋で荷物の確認をした後、王城の入り口へ行く。そこには、真新しい馬車が用意されていた。そして、王と筆頭執事さん、アインスさんとクレーさんが、待ち構えていた。
「こちらが、報奨金と贈与の目録になります。報奨金は、ギルドにて振りこんでおきましたので、後日、ご確認ください。そして、ご要望の装備一式も馬車に積んでございます。」
「有難うございます。それにしても、立派な馬車ですね。それでいてパッと見は、普通に見える。」
「お褒めに与り光栄です。王都を代表する職人が、最新技術と共に制作した一級品でございます。」
「俺からは、これもやろう。各国への通行手形と紹介状だ。これで、どの街もタダで、優先的に入れる。手紙は、万が一の時に使え。」
「何から何まで有難うございます。」
「テルさん。最後に、テルさんの物を何かを頂けませんか?ギルドに飾りたいんです。」
「いいですよ。では、この短剣をどうぞ。愛用していたので、ボロボロですが、俺には“水の一振り”がありますので。」
「有難うございます。大切に飾りますね。」
「お前等、道中気を抜くなよ。いつでも頭の隅っこは、警戒に使っとけ。」
「分かりました。7日間の護衛役、有難うございました。」
俺達は、皆と握手を交わして、馬車に乗った。御者はウラガにお願いする。
「それでは、行ってきます。」
こうして、俺達の新しい旅が始まった。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル32
体力:371→421 魔力:342→351 筋力:245→297
速度:169→206 耐性:74→102 魔耐:69→99
召喚獣:氷の精霊【ユキ】:【水神の加護】
神の秘宝:水の一振り
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲2】【剣戟1】【水魔法1】【受け流し1】【カウンター1】【構造把握1】【はやぶさ切り1】【回転切り1】【生活魔法1】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル32
体力:475→560 魔力:84→98 筋力:299→357
速度:102→121 耐性:132→172 魔耐120→175
召喚獣:水の聖獣【シズク】:【水神の加護】
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】【ステップ1】【水魔法1】【大盾1】【バッシュ1】【受け流し1】【カウンター1】【周辺把握1】【生活魔法1】
間の日々は割愛しました。だって話が進まないんだもん。
今さらですが、この世界では、訓練するだけではレベルアップしません。
魔獣を倒すか、誰かと戦って経験値を積む必要があります。
一般の兵士で、体力や筋力が300程です。ウラガくんは、すでに体力バカですね。他のステータスは、個人差が出ます。魔法使いなら、魔力も300は欲しいですね。たぶん。
そしてスキルが増えましたね。これらを話に活かせられるのか?
テル君達は、あたらしい旅立ちです。がんばれー。
( ・∇・)ノシ
次回は、ウラガ君の閑話の予定。