政治って面倒くさいですね。
本日2話目の更新です。
王様に出会います。
翌朝、クレーさんが朝食と共に部屋を訪れた。扉を開けると、扉の前では腕利きのギルド職員が、夜通し見張りをしていてくれたようで、二人の男性が仁王立ちしていた。めちゃくちゃ怖かった。
「王から召喚命令が来ています。できるだけ早く来るように言われていますが、もう出発できますか?」
「俺達二人だけですか?正直、礼儀作法とかわからないので、不安なのですが。」
「大丈夫です。私とギルドマスターが同行しますので。顔見知りがいると、心強いでしょ?」
そんな会話をした後、俺達は宿の前に待機していた、馬車タクシーに乗りこんだ。中にはギルドマスターが正装なのか、キチッとした服装で待っていた。俺達は自分の服装を見て、かなり恥ずかしく感じたが、そこは、ギルドマスター。俺達用の服も用意してくれていた。俺達は馬車の中で、着替えを済ませる。ちなみにクレーさんは、召喚状をもっているので、門番の対応のために、御者台にいて、見られる事はなかった。
とにかく王城は広かった。半径約1kmの塀に囲まれていて、玄関?から城の入り口までの距離が長い。ちらっと見えた庭は、花や緑にあふれていて、センスの良さを感じさせた。建物も白を基調としていて、荘厳さを感じさせた。
馬車から下りた俺達は、筆頭執事と名乗った初老の男性に連れられて、場内を進んだ。城内で、庭に面している道は壁が無く、柱だけで天井を支えて、光や風を存分に取り込む作りになっていた。一方、壁に囲まれた道は、光の魔法道具が道を照らし、高そうな調度品がセンス良く飾られていた。正しく、王城!といった佇まいだった。
そして迷路のように数回曲がった先で、一際大きく荘厳で、意匠が施された扉の前で止まった。
「こちらが、謁見の間でございます。皆様。宜しいでしょうか?」
俺は頷くだけで精一杯だった。一応貴族のウラガも、王に会うので緊張でガチガチだ。クレーさんも、少し緊張しているようだった。唯一、アインスさんは堂々としていた。すごい胆力である。
扉がゴゴゴと音を立てて、開かれる。中にはきらびやかな世界が広がっていた。幅50m奥行き100m程の空間には、まったく柱が無く、天井にはシャンデリア、壁には絵画が飾られていた。中央には数段上がった所に、玉座が置かれており、赤い絨毯が道のように敷かれていた。そして、玉座には30歳前半のような、逞しい身体で、精悍な顔立ちの青年が座っていた。そして、絨毯に沿うように多くの武官や文官が並んでいた。
俺達は玉座から少し離れた場所まで連れて行かれ、並ばされた。アインスさんが、片膝をついて、頭を下げるので、俺達も真似をした。ちらっと王様を見たが、なぜか手を振っていた。そして筆頭執事さんは、俺達を紹介し始めた。。
「冒険者、テル・キサラギ様。ウラガーノ・インヴェルノ様。ギルドマスター、アインス・アーベントイアー様。ギルド職員クレー・ガスタウス様。お連れいたしました。」
「良く来てくれたね。顔をあげて、楽にしてくれ。」
そう言われたがどうすべきか判らず、横のアインスさんを見てみる。すると身体はそのままに、顔をあげていたので、例に倣った。
「私は、人族の王をさせてもらっている、ケーニッヒ・メンシュだ。わかると思うけど、この名前は世襲制なんだ。街と同じ名前だから、覚えやすいだろう?」
王と名乗った男性は、俺たちの緊張をほぐそうと、軽い感じで話しかけてきた。しかし俺は微笑み返すだけで精一杯だ。
「ふむ。早速で悪いが、君たちが経験したことを、全て話してくれ。時間は取ってあるから、できるだけ正確に頼む。」
ウラガと視線を交わすが、なぜか俺が説明する事になった。ウラガの貴族としての経験を活かして欲しかったのになぁ。そして三度目となる説明を丁寧にした。もう三度目なので、話すこちらも慣れたものだった。
そして、俺の説明が終わるころに、執事さんが台車にのせられた魔法結晶を、王の元へと運んで行った。その後、俺とウラガへ何度かの質問がなされ、アインスさんへは魔法結晶の鑑定結果を聞いていた。そして話が終わって、何事か王が考えている頃、年老いた、全身が脂肪で膨れた一人の文官が王へと進言した。
「王よ。発言してもよろしいでしょうか?」
「申してみよ。」
「有難うございます。はっきり申しまして、この者たちの発言は信用できません。魔石にしても、大渦で死んだ湖の主の物を、湖の底から拾ってきただけかもしれません。」
俺はため息が出た。どこの世界にも、こういう事をいう官僚がいるんだなぁ。
「ふむ。武官長。湖の主はあの大渦で死ぬと思うか?」
「私にはわかりかねます。運が悪ければ、死ぬ可能性は否定できません。」
「図書館長。過去の文献に、湖の中央に神殿があったか?」
「かなり古い記録に、湖の神殿へ赴いたという記述があったと、記憶しております。」
「司祭長殿。教会の言い伝えはどうでしょう?」
「確かに天使様と神殿の話は、言い伝えとして残っておりますが、トレーネ湖だったかは、存じません。」
「商業長。これほどの魔法結晶は、世界に流通しているか?」
「無い事は御座いません。ダンジョンボスを討伐した際に、出品されますので。」
「では、この倍の大きさはどうだ?」
「大昔に、古いダンジョンのボスから出た物があり、ドワーフ族の王都を守護していると聞きました。」
「魔法長。そもそもこれは、一つの魔法結晶なのだな?複合したわけではなく。」
「はい。魔力の流れから、複合品ではございません。まぎれもなく、一つの魔法結晶です。」
矢継ぎ早に質問が飛び、それに直ぐ答えて行く。官僚達は、実力によって、その地位に就いたことが窺えた。王はしばらく悩んでいるようだった。そこで俺は、意を決して発言する事にした。
「王よ。発言してもよろしいですか?」
「許可する。」
「実は、王に伝えていないことが、2点あります。私たちの命に関わる事なので、人払いをお願いしたく。」
「不敬であるぞ!この謁見の場で、貴殿の命が脅かされると申すか!しかも人払いだと?王に危険が及ぶではないか!」
先ほど俺に、いちゃもんをつけた文官が抗議してきた。ほかの官僚も眉を顰めている。やっぱり拙かったか?
「王よ!私、ギルドマスター、アインスが命をかけてお守りします。ですので、どうか人払いを。」
「わかった。皆は我が呼ぶまで、外に出ていろ。」
「「「かしこまりました。」」」
ここで王へ異論が出ないのは、王の統治がうまくいっている証だった。官僚と、天幕に隠れていた兵士がぞろぞろと退出した。
「ふぅ。疲れた―。もう楽にしていいよ?俺は、どっちかというと、堅苦しいの苦手だし。あ!クレー姉ちゃんも久しぶり!ずっと黙ってるし、手を振っても顔色一つ変えないから、俺ちょっと寂しかったよ。昔みたいに、仲良くしようね。それにしても、君達みたいに若い子が、出来たてでも、ダンジョンを突破するなんてね。恐れ入ったよ。俺も、うかうかしてられないなぁ。あ。君はインヴェルノ家の人だよね?なんか、家が大変なんだって?君の活躍で、日の目を見るかもしれないね。良かったじゃないか。それと、アインス。君が名乗り出てくれて助かったよ。君の言葉が無いと、人払いできなかったかもね。あのタイミング・・・」
「ケーニッヒ!!五月蝿い!」
「ごめん。クレー姉ちゃん。」
すさまじい、マシンガントークだった。いつ息を吸っているのか、わからない程の言葉の嵐だった。それをクレーさんが、一喝して止めた。俺達は、あっけにとられていた。
話を聞くと、クレーさんとケーニッヒ王は、幼馴染みらしい。ケーニッヒ王が20歳の時に、王に選ばれたらしく、それっきり会っていなかったそうだ。ちなみに、王は神が選ぶものらしい。新年に、全種族の王が、神の島に赴き、挨拶をする。その時、もし次代の王がいるのなら、その場で御告げがあるそうだ。他の王達が、証人となる。約10年前に、新たにケーニッヒ王が指名されたらしい。
そして王は、かなり話が好きなようだ。しかし王としては、寡黙な方が格好がつくので、質問という形で、会話を楽しむらしい。ウラガのように、気さくで良い人のようだ。
「それで、人払いさせてまで見せたかったものってなんだい?僕としては、神とか天使様を証明できるものが良いんだよね。例えば、天使様からの・・・」
「ケーニッヒ!」
「・・・見せてくれ。」
すごくションボリしている。ちょっとかわいい。
俺は、右手に意識を集中して、“水の一振り”を出した。そして、ウラガには、あのスライムに名前を付けるよう、言った。ウラガはしばらく悩んでいるようだったので、先にアインスさんに、“水の一振り”を鑑定してもらった。
■水の一振り:攻撃力 最大10,000 耐久∞ 【水神の加護】 所有者 テル・キサラギ
「これは!【水神の加護】が付いてるじゃねえか!正に神器だぜ!生きてる間に、実物が見れるなんてな!ギルドマスターやってて良かったぁ。」
「ちょっと貸してくれないか?私も触ってみたい。」
「どうぞ。」
俺はそう言うと、王へと剣を差し出した。しかし俺の手から離れた瞬間、剣は水となって、俺の手の甲へ消えた。再度出現させ、王へと渡そうとするが、また手の甲に戻ってしまう。どうやら俺専用になっていて、渡せないようだった。王は残念そうにしていたが、俺が触れている間は、他人も触れるので、アインスさんもクレーさんも、王と一緒に眺めたり、触ったりしていた。
そんなやり取りをしている間に、ウラガも名前を決めたのか、喋り出した。
「決めたぜ!今日からお前は、シズクだ!宜しくな。」
そう言うとウラガの胸の証が、光り出した。そして胸からポンっと、こぶし大のスライムが飛び出してくる。ウラガは、魔力が枯渇したのか、直ぐに気を失ってしまった。魔力を最小にすることを伝え忘れていた。ごめんなウラガ。
そんなウラガを心配するように、スライムがウラガの腹の上で、「ピーピー」と鳴き、プルプルしていた。アインスさんに、鑑定するよう依頼した。
■水の聖獣:シズク 主人・ウラガーノ・インヴェルノ レベル1 【水神の加護】
「おぉ!!こんどは聖獣じゃねえか!しかもこいつも、【水神の加護】付きか!今日はとんでもないものが見られるなぁ!」
「・・・かわいい。」
「な!クレー姉ちゃんも、かわいいって思うよな。このプルプルした感じ!さわり心地!抜群だぜ。」
俺もプニプニさせてもらった。確かに、肌にしっとり残るようで、しかも冷たいので気持ちいい。俺達は、寝ているウラガを囲んでスライムをプニプニし続けた。
「さて。そろそろ官僚たちも、痺れを切らす事だろう。確かにこれを見せるには、人払いがいるよな。下手したら、一生、軟禁生活だったな。ははは。」
笑い事じゃねぇ!なんだよ軟禁って!奴隷より怖いよ。
そして俺達は、先ほど同様に片膝をついて、官僚たちが入ってくるのを待った。ウラガだけは、寝かせたままだ。そしてスライムは、ウラガの中に戻ってもらった。官僚たちが並び終わると、王は厳かに言い放った。
「この者たちは、確かに天使を証明した。なので、先ほどのテルの説明を、正当なものとして受け入れる。異論は認めない。」
「王よ。報告申し上げます。トレーネ湖にあった大渦が、完全に消滅したと、速報が入りました。同時に、湖の魔獣も海底に戻ったそうです。」
「わかった。調査隊はそのまま、トレーネ湖の中央へ。海底か湖上かわからんが、神殿の有無を確認するように伝えろ。」
「かしこまりました。」
執事のおじさんはそう言うと、静かに扉に消えて行った。
「さて。テルの発言を後押しする要素が、また一つ増えたな。これより、テル・キサラギおよび、ウラガーノ・インヴェルノを国賓として扱う。知り合いの方が都合がよかろう。ギルドマスター・アインスおよび、ギルド職員クレーには、彼らの身辺警護および身の回りの世話を申しつける。」
「「かしこまりました。」」
「メイド長。彼らを部屋に案内しろ。皆に再度言うが、彼らは今から国賓だ。私の客である。粗相のないように。」
「「「かしこまりました。」」」
俺達は、メイド長さんに連れられて、謁見の間を出た。俺と話について行けなくなり、あれよあれよと、部屋まで案内された。ウラガは、衛兵さんに担がれている。最初は個室、(といってもホテルのスイート並)に連れて行かれるが、広すぎて落ち着かないので、4人で泊まれる部屋に連れて行ってもらった。こちらはテレビでしか見た事がない、ロイヤルスイートのように広くて、なかなか落ち着かなかった。俺達は、小さなソファーに集まって、談笑することにした。
「最初テル君に、いちゃもん付けてきた、おじさんいたでしょ?あれには理由があるの。」
「あの、小太りの文官ですね。理由があったんですか?」
「あれはね、誰かが否定する事で、王が自分で決める道筋を立てたの。最初に強く否定する事で、王が話に流されて頷いた、という印象を消したのね。」
「つまり、全て仕組まれていたと?」
「そうなるわね。誰だって、あの魔法結晶を見たら、ダンジョンのボスを倒したって分かるわよ。しかもケーニッヒが選んだ文官よ?愚かなはずが、ないじゃない。」
「うわー。政治って面倒くさいですね。」
その後も、王都での話題や、これからの予定などに話が尽きることなく、昼食まで会話は続くのだった。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル32
体力:333 魔力:331 筋力:207
速度:145 耐性:74 魔耐:69
召喚獣:氷の精霊【ユキ】:【水神の加護】
神の秘宝:水の一振り
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲2】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル32
体力:420 魔力:76→80 筋力:258
速度:82 耐性:132 魔耐120
召喚獣:水の聖獣【シズク】:【水神の加護】
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】
なかなか王様はやるようです。設定として、官僚達は王様自らが選んでいます。最後にちょろとクレーさんが言ってますね。司祭長は別です。
予定では、宿に戻るはずだったのに、王城で泊まることに。そして国賓に。想定外です。
王城に泊まるなんて、びっくりだねテル君。
Σ(*゜Д゜ノ)ノ
次回は、秘密の暴露とウラガの特訓の予定。