思いっきりやってくれ。
ダンジョンの第11階層と第12階層です。
ダンジョン6日目。さっそく第11階層へと降りてきた。そこは、第10階層同様に、柱一本無い、だだっ広い場所だった。しかし眼前には、海が広がっていた。俺の予想では、毒の池が続くと思っていたのだが、水自体はきれいだった。白い波を立てる海の、約2km先に、地下への階段が存在する。その海の上を大きく蛇行する形で、片足分の細い水の道が続いていた。それはまるで、山でよく見る、つづら折りのようだった。
「うーーん?なんか普通だな?」
「もう普通が崩壊してるけど、別段おかしなところは無いな。」
「でもダンジョンの下層だもんなぁ。」
「そうだな。何が出るかわかんないから、わかるまでは、特に注意して行こうか。ユキは、周りを警戒していてくれ。」
「キュ♪」
そう確認をとると、前をウラガ、後方に俺、周りをユキが位置する、いつものフォーメーションで海の中を進んでいく。案の定、クラゲがフヨフヨと接近してくるが、俺の投げナイフ【投擲1】で、接近される前に撃退した。順調に進んでいると、俺はいきなり横から重い衝撃を受けて、海へと落ちてしまった。そのまま海を押し戻されていくが、なんとか水の道にしがみ付く事ができた。おかげで、30分前に歩いていた場所まで戻された。俺は原因を探るために、周りを探る。すると、海の上をスライムが滑る様に移動して、ウラガに体当たりしているのが見えた。ウラガも俺と同様に、海へと落とされた。俺の近くまで流されてきたので、ウラガを掴んで、水の道の上に上がらせる。
「テル!やばいぞ!スライムだ!」
「え?ただのスライムだろ?雑魚魔獣じゃねえの?」
「何言ってんだ!?スライムって言えば、剣が効かないので有名じゃねえか。おまえのナイフも刺さるかもしれないが、魔石を砕かない限り、ダメージにならないんだぞ!?」
「じゃぁユキにお願いして、凍らせてもらえば?」
「スライムと水の相性はやばいんだ。さっき、すごい速さで移動してただろ?しかも直接触れると、溶かされるぞ。」
「え・・・ヤダ。」
「普通は魔法で退治するんだが、ユキは広範囲攻撃とかできないのか?」
「キュッキューキュ。」
「できるけど、魔力をかなり使うから、俺の方がもたないかもだって。」
「じゃぁ、最終手段だな。俺の“帯電の剣”のスキル【帯電】で、一瞬だけでもスライムを止めるから、ユキは凍らせてくれ。それをテルが、投げナイフで砕くんだ。」
「もしかして、海に電気を通すのか?俺達まで被害を受けないか?」
「それは・・・ジャンプするとか?」
「・・・それしかないか。まぁ、やってみよう。」
それ以外に案が浮かばないので、とりあえず、やってみる事にする。俺たちは、再びスライムがいた場所までやってきた。すると、スライムが凄い勢いで近づいてくるのが見えた。ウラガは帯電の剣を準備して、タイミングを計っている。
「・・・・・飛べ!」
俺達がその場でジャンプすると、ウラガは剣だけを海へと突き刺し、意識を集中させ、【帯電】を発動させる。俺達の周り数mに、電気が広がり、スライム達は痙攣した。すかさずユキがスライムに近付いて、次々に凍らせて行く。それを俺が、氷の投げナイフで破壊していった。もちろん、近づいて来るクラゲも撃退していく。
「やればできるもんだな。いいアイデアだったな、ウラガ。」
「あぁ・・・けど、何度もは使えないな。結構、魔力使っちまう。」
「辛そうじゃないか。ウラガはもともと、魔力が少なかったから、余計に堪えるんじゃないか?」
「まだ大丈夫だ。けど早めに休みたいな。」
「わかった。ウラガは守備に集中してくれ。幸い、スライムが出る場所は限られているみたいだ。」
【鷹の目2】で詳細に視線を飛ばしていくと、スライムは群れを作るのか、数か所に固まっていた。
少し急ぎ足で、どんどん道を進んでいくが、第12階層の階段に近付くにつれて、波が高くなってくる。水の道は固定されていたので、揺れたりはしないが、どうしても敵を発見するのが遅れるし、歩くことを邪魔してくる。階段近くでは、胸の高さ程の波に襲われた。
一般に、膝ほどの波で、人は立っていられなくなる。最後の方は、波の来ない間しか進めなかった。波が来ている間は、水の道にしがみついて耐えるのだ。
やっとの思いで、俺たちは第12階層への階段にたどり着いた。時間は、昼を少し過ぎていた。結局、ウラガは合計6回の【帯電】を発動させた。徐々に魔力が回復するとは言っても、かなり辛そうだった。俺たちは干し肉を齧りながら、話しあった。
「ウラガ、大丈夫か?なんなら、今日はここまでにして、休むか?」
「いや。それは拙い。ダンジョンがどんどん難しく、魔獣も厄介になっている。今日と明日を休むと、また階層が増えちまう。俺たちでは、ボスを倒せなくなるぞ。」
「そうかもしれないが、ダンジョンでの無理は禁物なんだろ?もし階層が増えても、意外と大丈夫かもしれないぞ。」
「イヤ。このダンジョンは普通じゃない。今日はまだ時間もあるし、進もう。」
「ウラガがそこまで言うなら・・・」
「悪いな。だが俺を信じてくれ。ここで無理をしないと、ヤバい気がするんだ。」
そんな話をしながら、昼休憩をはさんで、いざ第12階層へと踏み込んだ。そこは、これまでの階層で最悪だった。第10階層の汚染水と、第11階層の海が合わさっていたのだ。しかも最初から波がかなり高い。さらに、クラゲとスライムが、うじゃうじゃ居た。
俺とウラガは、顔を真っ青にしながら、お互いを見た。これはどうやっても、攻略できないと思えるほど、ひどい景色が続いていた。幸いなのは、部屋の広さが2km四方で、他の階と変わらない点だけだ。俺は決断した。
「ウラガ。体力は、まだ大丈夫か?」
「?体力はまだまだ余裕だぜ?魔力もちょっと戻ってきて、だいぶ楽になってきたし。」
「そうか。じゃぁ、後の事は頼むぞ。ユキ!俺はお前を信じてる。思いっきりやってくれ。」
そう言うと俺は、ありったけの魔力をユキに渡した。ユキは任せろと言わんばかりに、俺の魔力を取り込んだ。そしてユキは腐敗した海へと近づいて、第13階、ボスへの階段がある方向に向かって、魔法をぶっ放す。すると、トンネル状に、海や魔物が凍りついて、一本の道ができたのだ。おれはそれを確認すると同時に、意識が無くなった。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル27→28
体力:290→305 魔力:290→312 筋力:181→186
速度:129→133 耐性:64→66 魔耐:59→61
召喚獣:氷の精霊【ユキ】
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲1→2】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル28
体力:380 魔力:66→68 筋力:240
速度:74 耐性:104 魔耐104
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】
波は本当に怖いのです。
ウラガ君と、テル君が男気を見せましたね。ユキちゃんも頑張ってます。
(´;ω;`)カッコイイネ
次回は、ボス戦と、世界の秘密に迫る予定。