秘密が無ければ、化け物だもんな。
水を使ったダンジョンも、最終シリーズです。
純粋な水を使ったアイデアも、限界が近い・・・
ダンジョンも5日目です。今日が終わるころには、ダンジョンは13階まで増えている事だろう。少し憂鬱な気分になりながらも、朝飯の干し肉を齧って、ユキに魔力を渡した。するとゾクリと、スキルを獲得する時の感覚が襲ってきた。先ほどまでの憂鬱な気分も吹き飛び、意気揚々とスキルを確認する。俺は笑いを堪えられなかった。
「ふふふ。ついにやったぞ。ついに手に入れた!」
「・・・気持ち悪い。」
「なんでやねん。俺はついに【魔力回復1】と【魔力上昇1】を手に入れたんだぞ!」
「えぇ!?まだ3日目だろ!早すぎる!」
「そこは、俺だからとしか答えられないな。尊敬してもいいんやで?」
「・・・気持ち悪い」
「二回も!ちょっとショック。」
「ははは。それは置いといて、俺にも教えてくれよ!さっそく取りたい!」
「置いとくのかよ。でも今日から9階だろ?13階のボスに着くには、時間がないぞ。」
「そっかぁ。じゃあ、ダンジョン出てからでいいから、サポートしてくれよ。」
「もちろん。ほんじゃぁ、今日も頑張って行きまっしょーい!」
第九階層には、ピンポン玉サイズの水滴が、数個浮いていた。第八階層や、第七階層の様に、霧や雨ではなく、ただの水が浮かんでいた。めちゃくちゃ怪しい。迂闊に触れると、大参事になりかねないと、これまでの経験で学んでいた。とりあえず、近くにあった小石を、水滴にぶつけてみる。すると、水滴が爆発して、俺たちは後方に吹き飛ばされた。
「テル!無事か!?」
「ああ。なんともない。けど、凄い威力だな。」
「そうだな。どうやったら、水が爆発するだけで、ここまで威力が出せるんだ?」
「たぶん水が、一気に水蒸気になって、体積が急激に膨張するからだろう。体積比で約1700倍だったかな。」
「ただの愚痴だったのに、答えが返ってくるとは思わなかった。」
ウラガに呆れられた後、対応をどうするか考えた。
(氷の球で全部破裂させるか?いや。破裂した勢いで、壊れてしまう。盾は、面で爆発を受けるから、余計にダメージを食らいそうだ。全部小石で爆発させて行くか?的が小さいから、時間がかかるだろうなぁ。水で押し流す?ダメだ。もし溶けずに、水の中に紛れ込んだら、それこそ手に負えない。)
「キュ♪キュ♪キュー♪」
「楽しそうだねユキ。あの水をどうにかする、いい案ないか?」
「キュ?キューーー♪」
楽しそうに飛んでいくと、浮いている水滴に近付いた。「危ない!」と言いかけたところで、ユキから白いモヤのようなものが、水滴に掛けられた。すると、水滴が凍りつき、浮力を失ったのか、床にカコーンと落ちる。割ってダメなら凍らせろってね。
「ユキーーー!」
「キューーー!」
俺はユキに抱きついた。ユキもノリよく、腕の中に飛び込んできた。めっちゃカワイイ。ユキにまた助けられる形で、問題を解決できた。ちなみにウラガは、生温かい視線を送ってくれた。
ユキのおかげで、第九階層はサクサク進んだ。相変わらず、貝による水鉄砲はうざかったが、これもユキの氷の盾で問題ない。ただ、ユキの魔力消費は激しいようで、俺から度々、魔力を提供した。運よく、朝に【魔力回復1】を習得していたので、魔力は回復し易かったが、それでもギリギリの魔力である事には変わらなかった。
昼前には第10階層へと続く階段にやってきた。ユキのおかげで、すこぶる順調である。しかし、魔力を渡すだけだった俺が、一番ヘトヘトに疲れていた。まだ身体の方が、急激な魔力回復に、対応できていないようだった。とにかく身体が重い。
「テル、つらそうだな。長めに昼休憩するか?」
「ありがとう。けど大丈夫だ。次の第十階層がどんなのか、気になるし、夜にしっかり休んだ方が、俺的には嬉しい。」
「わかった。でも無理すんなよ。おまえの魔力が無いと、ユキも俺も困るんだからな。」
素直に喜べない心配を、してもらった。剣の腕も当てにしていいのよ?
昼休憩をとって、第十階層へとやってきた。そこには、だだっ広い、一つの空間が広がっていた。【空間把握2】と【鷹の目2】で確認すると、壁も柱もない、一辺が2km程の四角い部屋だ。そしてそこには、大小様々な池が、所せましと並んでいた。その各池を縁取るように、足を一歩置ける程度の道が、網の目の様に張り巡らされていたのだ。
そして、一番重要なのが、池の水である。腐っているのか、緑色をしており、悪臭を放っていた。時折、ポコポコと気泡が浮かんでくる。落ちたら、絶対に毒とか麻痺とかになりそうである。氷の盾は、重すぎてバランスが取れないので、ここでは役に立たない。そう判断して、入口に置いてきた。いままでありがとう。
細い足場に注意しながら、前をウラガ、後ろを俺として、ゆっくり進んでいく。すると、クラゲの様な魔獣が浮いた状態で現れ、攻撃を仕掛けてきた。足場の悪い俺たちは、四苦八苦しながら剣を振るうが、どうしても力が入らない。一方クラゲは、長い触手を鞭の様にしならせて、叩いて来る。そして逃げる。また叩くといった、ヒット・アンド・アウェイ攻撃を仕掛けてきた。非常にやりにくい。ユキも敵に近づいて、凍らせようとするが、クラゲが逃げてしまう。俺たちは、それでもなんとか、近づいた時に剣を振って、クラゲを倒す事に成功した。
「テル。このフロアは俺達と相性が悪すぎるぞ。」
「そうだよな。魔法とか弓とかの遠距離攻撃なんて、俺達できないもんな。ピンチだな。」
「この前の蟹みたいに、新しいスキル覚えて、バーーン!ってやっつけてくれよ。」
「無理言うなよ。魔法の使い方も、弓用の道具もないんだぞ。ユキに氷で作ってもらっても、しならないから、威力が出ないし。」
「ユキに足場作ってもらえないのか?そしてら踏ん張って、力が出せる!」
「キュッキュ。」
「できるけど、滑っちゃうよ?だって。」
「あーー。もーー。何かないのか?」
そう言うとウラガは、狭い足場ながらも、地面を蹴った。蹴られた衝撃で、土が飛び、池の中へと落ちていく。俺はそれを、ぼーっと眺めていると、閃いた!
「そうだ!投擲だよ!剣を投げつければいいんだ!」
「確かに投擲だと、遠くにも攻撃できるけど、剣は一本しかないぞ?バカか?」
「誰がバカじゃい。時々、辛辣だよなウラガは。剣といっても、ナイフみたいなやつを、ユキに作ってもらう。」
「氷でか?いけるのか?まぁ、【投擲】スキルは、テルなら、すぐに入手できそうだけど。」
「やってみるしかないな。ユキ。できるだけ堅くて、切るんじゃなくて、刺さる様なナイフを、作ってくれるか。」
「キュ!」
自信満々に鳴いたユキは、俺の目の前に、透明な氷でできた、全長20cmほどの投げナイフを作った。それを受け取ると、次のクラゲの場所まで移動した。
(ナイフは剣だ!剣を投げる!剣を投げて、敵に突き刺す!)
そう念じながら、ナイフを投げる。しかし敵には当たらなかった。クラゲはひらりと、避けてしまった。しかしここで諦めずに、次のナイフをユキに作ってもらい、何度も投げた。最後の方は、やけくそだ。すると、一本のナイフが、クラゲの触手を切り落とした。直後にゾクリと、スキルを獲得した感じが全身を駆け巡った。
【投擲1】を確認するとまたすぐに、ユキからナイフを受け取り、狙いを定めて投げた。すると、先ほどとは違い、すごいスピードで、まっすぐクラゲを射抜く事ができた。振り返ったウラガと、頷き合った後、俺は次々にナイフを投げて行った。
ユキに魔力を渡してナイフを作ってもらう。俺はそれを投げる。ウラガは守る。この陣形が功を奏し、順調に敵を倒していった。途中、ウラガが敵に押されて、汚染水の池に落ちそうになったが、ユキが池を凍らせてくれたおかげで、毒を浴びずに済んだ。そんなこんなで、時間はかかったが、なんとか第十階層を攻略できたのだ。
「ちょっと早いが、今日はもう休むか?」
「そうだな。魔法系のスキルのせいで、まだ身体が重いから、もう休もう。」
「焦っても、危ないしな。それにしても、今日だけで、スキル3つも取ったのかぁ。羨ましいけど、尋常じゃないぞ?」
「俺もそう思う。秘密が無ければ、化け物だもんな。」
そう言って、俺たちは笑いあいながら、残り少ない干し肉を齧った。もうすぐダンジョンも終わりに近付いているからか、気持ちは浮足立ている。
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル25→27
体力:272→290 魔力:170→290 筋力:172→181
速度:121→129 耐性:60→64 魔耐:55→59
召喚獣:氷の精霊【ユキ】
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】【魔力回復1】【魔力上昇1】【投擲1】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル28
体力:373→380 魔力:66 筋力:235→240
速度:74 耐性:104 魔耐104
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】
第8はウラガ君。第9はユキちゃん。第10はテル君が無双するお話でした。
テル君も、活躍できて一安心だね。
ヾ(゜ω゜)ヨシヨシ
次回は、第11階層、第12階層の予定。