窒息しないように、何か考えないとな。
ダンジョン7階と8階のお話です。
水って本当に怖いですよね。
地下7階へと降りてきたが、そこは霧で覆われていた。1m前も見えないほど濃い霧が、視力を奪っていた。視線を飛ばせる【鷹の目2】では、なんの役にも立たない。その事をウラガに伝えると、不思議そうに聞いてきた。
「【鷹の目】ってさぁ。【地形把握】と、何かの複合だって言ってたじゃん?」
「【遠見】スキルだな。」
「じゃあ、目が見えないなら、【地形把握】で道だけでもわかんないのか?」
正論だった。【地形把握】をすれば、道には迷わない。【地形把握】は、感覚的に地形を理解するものだからだ。視線の飛ばせない部屋の中でさえ、部屋の大きさくらいは把握できる。“ライゼの成り上がり”の本にも、【地形把握】が役立つ時があるって書いてあったなぁ。しくった。
ウラガに礼を言ってから、さっそく【地形把握2】を使用する。ここで俺のアレンジとして、剣を地面に刺した。そしてその剣を指で弾くと、“コーーン”と澄んだ音が響いた。“ソナー”を模倣した俺なりの工夫である。これのおかげで、単発で【地形把握2】を使用するより、倍近い距離を知る事ができるのだ。たぶん俺の固有スキル【オール・フォー・ソード】による補正がかかっているのだろう。
おかげで、広いダンジョンでも、【地形把握2】で全体像を知る事ができた。後は、敵に気をつけながら進むだけだった。剣を前に構えながら、おっかなびっくり、ジリジリと進んでいく。すると、前を進んでいたウラガが、いきなり横の壁へと吹き飛ばされた。俺は攻撃してきた方を見ると、そこには体長20cmほどの貝がいた。俺が不思議がっていると、貝は殻を開いて、強烈な水鉄砲を噴出してきた。とっさに、剣の腹で受け止めたが、かなり重たい攻撃だった。ヒトデの出してきた、水鉄砲とは威力が段違いだ。
すぐさま、【甲羅割り1】で切りかかると、貝を簡単に倒せた。防御力は低いようだ。幸い、ウラガも、打ち身程度の怪我で済んでいる。ウラガを起こして、俺たちは貝を警戒するため、壁沿いに沿って、歩いていく。しかし、貝は相当厄介だった。壁に何十匹と張り付いていて、前を通る俺たちを容赦なく撃ってきた。身体を預けている壁の貝は、簡単に倒せるが、反対側の壁までは、霧でまったく見えないので、攻撃をもろに受けてしまう。。
「どうするテル?このままだと、徐々に体力を削られていくぞ。俺の小さな盾じゃぁ、お前は守れないし。俺自身も、前と横からの両方は防げない。」
「どうするって言われても。走って逃げても、意外と貝は反応が良いみたいだから、攻撃は当たるだろうし・・・巨大な、見通しのきく盾でもあれば・・・」
「キュッキュ。キューキュ。」
「なんだユキ。もう魔力が減ってきたのか?わかったよ。今渡すな。」
ユキに魔力を渡して、また魔力が残り30位になってしまった。ちょっとしんどい。ユキは魔力を貰うと、ウラガの方に飛んでいき、氷で何かを作り出した。それは、氷でできた透明な巨大な盾だった。前方と側面を守れるような、L字型の盾だ。かなりの重さがあるようで、盾関係では補正のかかるウラガでさえも、かなり重そうだった。俺には側面だけを守れる盾を出してくれた。ユキは、めっちゃいい奴で頭のいい奴であった。これで防御は完璧だ。冷たいのが難点だけど。
ユキのおかげで、第7階層は、辛くも踏破できた。罠も数える程しかなく、盾のおかげで予想より早く階段まで辿りついたが、全身痣だらけになっていた。以前に買っておいた、ポーションを飲むか悩んだが、ボスに備えて、我慢する事にした。保存しておいた蟹の脚を食べた後、早々に第8階層へ向かう。
第八階層は、霧ではなく、豪雨だった。洞窟内なのに、天井からは、バケツをひっくり返したような雨が降っている。先ほどの霧同様に、視界は最悪だ。【地形把握2】でダンジョンを確認すると、迷路状で、約1km先に地下への階段がある。俺たちは第7階層と似ているので、余裕だと思い、歩みを進めていくが、甘くなかった。
目を開けていられないのである。道を進む度に、どんどん雨脚は強まって、今は滝のように水が降っている。下手をすると、溺れてしまいそうだ。そんな中でも、貝の水鉄砲は撃たれる。不思議な事に、貝の水鉄砲は、雨によって威力が落ちない。理解できない不思議現象だ。
俺が苦しそうにしていると、フヨフヨとユキが、俺のちょっと前の上空で浮いくれた。こちらも不思議な事に、ユキに当たった雨は、ユキの中へと消えて行ったのだ。どこに大量の雨を保管できるのかと思うほど、ユキは軽々と浮いていたのだ。
「ウラガ!ウラガ!!聞こえるか!?」
「なんだ!?お!ユキの下は雨が無いじゃねえか!?」
「そうなんだ!ユキに、ウラガを守って貰う!壁にひっついて、ウラガが敵を倒してくれ!」
「わかった!おまえは、防御に徹してろ!」
ウラガに盾役と、壁の貝を倒す役を頼んだ。今回、俺は役に立ちそうもない。雨で溶けていく盾を補強するユキに、僅かばかりの魔力を与えるだけだった。かなり情けなかった。階段に着くころには、水中かと思える程の雨が降っていたが、ユキのおかげで進む事ができた。俺たちは、階段へと飛び込むようにして、第八階層をクリアした。
「はぁ。はぁ。マジ窒息するかと思った。」
「俺も、ユキがいなかったら、攻撃はできなかったな。」
「ユキ。本当にありがとうな。ユキは体調どうだ?かなりの水を吸ったはずだろ?」
「キュー。キュー。キュッキュキュー。」
「ユキはなんだって?」
「ちょっと重いけど、平気だとさ。少しずつ、魔力に変換できるらしい。」
「さすが上位精霊だな。ユキ、ありがとうな!」
俺たちは、打ち身にあった場所に、薬草を煎じたものを塗りつけて、応急処置をした。ちなみにユキは回復系の魔法は使えないらしい。光の精霊しか使えないそうだ。また蟹のツメを夕食に摂ったあとは、魔力を全てユキに渡して、眠りに着いた。
「窒息しないように、何か考えないとな。」
■ステータス
テル・キサラギ 人族 男 18歳 レベル25
体力:272 魔力:153→170 筋力:172
速度:121 耐性:60 魔耐:55
召喚獣:氷の精霊【ユキ】
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取2】【伐採1】【鑑定2】【スラッシュ2】【二段突き2】【地形把握2】【周辺把握2】【ステップ3】【遠見2】【夜目2】【交渉2】【鷹の目2】【甲羅割り1】【兜割り1】
■ステータス
ウラガーノ・インヴェルノ 男 人族 19歳 レベル26→28
体力:341→373 魔力:62→66 筋力:210→235
速度:72→74 耐性:96→104 魔耐96→104
スキル:【ハイシールド】【交渉1】【鑑定2】【構造把握2】【解析1】
恵みの雨でも限度がありますよね。
ちなみに、降った雨は、不思議な事にすぐに地面に吸われます。
水も滴るいい男だねテル君。
(/´∀`*)キャ
次回は第9階層、第10階層の予定。