出港式の後は、あっという間に『神の島』だって。
移動の話。
ドワーフ国の王都レイは、ドワーフ国の東に位置している。これは人族の国から運ばれる鉄等の金属を得やすいから、そして火のダンジョンが多く存在することから、鍛冶が好きなドワーフ国にとって都合が良かったのだ。
「はぁ。遠くないですか?三週間もかかるなんて。」
俺たちは昨日、王都を出発して『神の島』へと向かっている。そんな馬車で不満を垂れる。
一昨日、世界で唯一の巫女であるクルスが新年の会議に出なければならないことを思い出し、ドワーフ国の王と一緒にドワーフ国を横断している。
ちなみに、ドワーフ国の王都には俺の愛用しているナイフを一本置いてきた。もし万が一、またドワーフ国の王都へと長距離転移する必要があった時に、剣がなければどうにもならないからだ。
「仕方がないじゃない。そかわりと言ってはなんだけど、ドワーフ国は平野が続くし、道は真っ直ぐだから、少しは楽よ。」
ドワーフ国出身であるアンが俺の愚痴に応える。アンは『不老』の呪いがかかっているので、見た目以上に長生きであり、国中を回ったことがあるそうだ。
「そういえば、アンは火の神獣に名前付けたのか?確かランタンだったよな?」
「えぇもちろんよ。出てきて、フォッゴ」
アンが「フォッゴ」と呼ぶと、アンの胸に中心辺りがひときわ輝いた。心臓の上辺りに、炎をシンボルにしたような魔法陣が浮かび上がる。赤い光が溢れだして、ポン♪と赤い光の玉が出てくる。
光はアンの前で形を変えていく。外郭は紫色をしており、中心の炎は赤と青が混ざり合っている。大きさは、普通のランタン位だろうか。持ち手を上げても30cmちょいだろう。
「ジ♪」
どこに口があるのかわからないが、ランタンのフォッゴから鳴き声が聞こえてくる。
「紹介するわね。名前はフォッゴ。意味は炎よ。」
「ジ♪」
アンは自信満々にランタンを見せつけてくる。
「へ、へぇ。カッコイイ名前だね。よろしくな、フォッゴ。」
「ジ♪」
俺は絞りだすようにフォッゴへと挨拶する。火の神獣に対して、名前が炎だって?直球すぎるだろう。もしかしてアンはネーミングセンスが壊滅的なのか?まぁ、当のフォッゴが気に入ってそうなので、俺達が言うことではないのだが、なんだかなぁ。
「俺は、テル。こっちは俺の相棒のユキ。雪の精霊だ。」
俺は頭に乗っているユキをそっと掴んで、フォッゴの目の前に連れて行く。
「キュ♪」
「ジ!ジーー!!」
ユキが挨拶すると、フォッゴは何故かテンションを上げて、鳴き始めた。そしてフヨフヨと浮き上がり、ユキの周りを飛び回る。
「なんだか、ユキが誇らしそうにしてるんだけど?」
「うーん。いまいちよくわからないけど、フォッゴが尊敬みたいな感情を持っているのが伝わってくるわ。」
俺たちは基本的に心で神獣と繋がっているので、ある程度の感情がわかる。アンがそういうのだから、フォッゴはユキを尊敬しているのだろう。
「やっぱり水と炎の上位精霊だからなのかな?どうなんだユキ?」
「キュー?」
ユキにもわからないようだ。フォッゴと繋がっているアンは、まだ心を正確に理解できないようで、首を振ってわからないと主張する。
「まぁ、わからないことはしょうがない。次の自己紹介だ。」
その後は、ウラガとシズク、グラスとダイチ、そしてクルスが挨拶する。今度は普通に挨拶が終了する。どうやらフォッゴの中でユキだけが、特別のようだ。
その後はフォッゴの話で盛り上がった。ランタンなので、ほんのり暖かくなれるし、逆に吸熱して涼しくもできる。基本的に火なので、明かりにもなれるそうだ。もちろん【火魔法】も難なく使えるそうだ。
そんなこんなで、夕食の時間になった。俺達は食事の準備を始める。今回は王とその護衛も一緒なのだが、基本的に食事は別々にしている。俺たちを信用していない訳ではないが、信頼できる者が作ったものしか食べないそうだ。王の護衛が言っていた。
食後、俺は疑問に思っていたことを王へと質問する。もちろん護衛が周りを囲んでいる。
「今回、なぜ王は護衛が3人だけなのですか?普通、王の移動ともなればかなりの人数が動くと思うのですが。」
「そんなことか。これら以外にも斥候が一人、半日先を行っておるよ。だがそれでも人数はかなり少ないのぉ。理由は色々あるが、最大の理由は、そなたらの存在じゃ。」
「え?俺たちですか?」
「左様。神のダンジョンを4つもクリアした、そなたが率いるパーティーじゃ。普通の兵士とはレベルが違うじゃろう。ましてや、盗賊や平原に出てくる魔獣など相手にもならぬ。」
つまり、数十人の護衛を連れて行くより、俺達の方が戦力になるそうだ。
他にも、食料が少なくて済むとか、王都の復興に人出が必要とか、大人数では移動が遅くなる等、色々あるらしい。
「つまり我々を信じていると、解釈していいのですか?」
「なんじゃ今更。他国からの手紙を読んだ時から信頼しておる。ワシは、そういうのに秀でておるのじゃよ。」
どうやら、ダンジョンに入る前、最初に会った時から俺たちのことを安全だと。信頼できると思っていたらしい。というのも、神に王として選ばれた理由が、他者に対する信頼や、自分や国に向けられる悪意に敏感な事だったそうだ。
さすが神に選ばれるだけの才能を持っている。この世界の統治者は優秀な者ばかりだ。
その後は、王と他愛もない話をしてお開きとなった。
王都三日目からは、野良の魔獣や野生動物が襲い掛かってきた。俺たちは【鷹の目】や【周辺把握】を誰かが常時張っているので、敵をいち早く察知する。
見つけてしまえば、魔法で一撃である。ドワーフ国の魔獣は、うさぎ型のすばしっこいやつや、ネズミ、蛇等、小型が多かった。そりゃずっと平原が続くのだ。大型の魔獣は遠くからでも見つかるので、淘汰されたのだろう。
ドワーフ国は北に東から西までグルっと山脈が横たわっている。それ以外は山がなく平野だ。魔力溜まりには森があったりするが、基本、小川や背の低い草しか生えていない。
俺たちはのんびりと馬車を進める。
もちろんこの移動時間も無駄にはしない。馬車の中でできる魔力操作の練習や、体力を付けるために馬車の横を並走したりしている。
そして馬車にも慣れてきたので、アンに課題を与える。
「アンは【周辺把握】と【地形把握】を覚えてもらう。簡単なスキルだけど、とっても役に立つから。」
ということで、俺はアンを御者台に乗せ、コツを教えながら、ついでに【遠見】や【空間把握】を教えていく。
道中にある小さな街に行くと、毎回大歓迎された。毎年、新年の会議のために王が訪れていたそうなのだが、今回のダンジョン事件で王都が封鎖されたと聞いていた街の人達は、王都の無事を祈っていたそうだ。
無事にダンジョンをクリアした話を王がする度に、俺達が話をさせられる。大好きな酒のツマミに、俺達の話を聞きながら、街へと寄ると宴会が繰り返された。
そして何事もなく、ちょうど3週間で『神の島』へと続く船がでる街へとやってきた。
目の前には広大な海。そして王を乗せるための、巨大な船が浮かべられている。全長100mはあるだろうか。高さもかなりある。すべて木造で、ドワーフとエルフの共同制作なのだそうだ。港にいた海の男ドワーフが自慢していた。
エルフが協力したということで、所々、木造の精緻な彫刻や、飾りが付けられている。まさに王が乗るのに相応しい様相だった。
これからの航海は、途中に街が無いので往復分の食料を積みこむ必要があるそうだが、事前の斥候の人がいたので、準備は済んでいるそうだ。
湖の街でも王は大歓迎された板。もちろん俺たちも酒の席に同席する。もう何度目かのダンジョンの話をして、俺達は早々に船へと乗り込んだ。
「出港は明日の朝だそうだ。出港式の後は、あっという間に『神の島』だって。」
俺はこの街の町長に聞いた話を皆に伝え、早々に布団に潜り込むのだった。
やっと『神の島』へと行きますね。特に何か予定している訳ではないのですが、書いているうちに思いつくかもしれません。
テルくんは、ユキとフォッゴとの関係が気になっているようです。水の神獣のシズクに聞けばと思うのですが、シズクは引っ込み思案な性格なイメージなので、結局わからない気がします。
次回は『神の島』の話の予定。