巫女のお勤めなんだから。
移動に向けたお話。
朝食後、俺たちは応接室のような場所に案内された。高度品や椅子等からも、ドワーフ用の小型のものではなく、多種族が利用するのを想定した高さのものだった。
基本的に木工が得意な様であり、家具一つとってみても過度な装飾はされておらず、木目や木の風合いを大切にしていて、品がある。
「すぐにエルフの方々をお招きします。」
そう言って執事長のおじさんドワーフが退席する。代わりに給仕担当の品の良いおばさんドワーフが俺たちにお菓子とお茶を入れてくれた。
お菓子と言っても、この非常時である。ちょっとした焼き菓子と、フルーツだった。お茶は普通の紅茶だ。ドワーフ国だからといって、朝から客に酒は出さないらしい。
実は朝食の時から、酒を出されるのでは?と考えていたのだが、どうやら偏見であったようだ。ドワーフもそこのところは弁えている。いくら酒が水代わりと言ってもだ。
そんな座り心地の良い椅子で、一息付いていると、ドアがノックされる。給餌係のおばさんドワーフが扉まで行き、確認してくれる。
「エルフの方々がお見えになりました。宜しいですか?」
俺たちは立ち上がって居住まいを正した後、給仕係さんに頷いた。
扉が開かれて、エルフの使者の方々が入ってくる。
俺たちは入ってくるエルフの姿に、見とれた。よくラノベで出てくる様な、高身長、美形揃いなのだ。やはりと言うか、耳が少し尖っている。服装は、外交用なのだろうか、すこしきっちりした印象を受ける鎧装備だ。鎧と言っても、肩や胸、足等部分的なものである。下に着ているのは麻だろうか。体にフィットしていて、全身タイツの様な印象を受ける。
だが顔や服装以外にも、様々な小物が目につく。植物を編んだウエストポーチや、金属を緻密に細工した耳飾り。他にも鳥の羽根や動物の牙を使ったアクセサリー類が目に入る。数点つけているのだが、何故かジャラジャラした印象は受けず、まるでこのまま儀式でも行えそうな印象を受けた。
「はじめまして。エルフの国で、第5騎士団の団長をしております、ブロッサムと申します。」
「テル・キサラギです。そしてこちらが仲間の~~。」
俺たちは簡単な自己紹介をした後、お茶を飲みながら話を進めていく。
「大体の話は、ドワーフ国の王から聞いております。全国の神にまつわる場所を回っていらっしゃると。」
「はい。この度、エルフ国に『神の吐息』なる場所があると聞き、伺わせて頂きたく思っています。そして大変かってなのですが、皆様とご一緒させて頂けないでしょうか。」
「私は構わないのですが、その・・・時期が悪うございます。」
「時期が悪いと言うのは、雪が積もっているからとかですか?」
「いえ、そうではありません・今から向かってもエルフ国の王は、新年の会議に出ているので、会えないと思います。」
「あーー!」
いきなりクルスが声を上げた。普段喋らないクルスが、こういう公式の場所で声を出すとは、かなり珍しい。何か大変なことを思い出したのだろうと、クルスに話しかける。
「どうしたんだクルス。何か思いついたのか?」
「私巫女だったー。新年の会議に行かなきゃー。」
クスルの話を更に聞いてみると、どうやら新年には全国の国王が集まり、中央の『神の島』で会議をするそうだ。新しい王が選ばれたり、神からのお言葉を各王に伝える重要な会議であるらしい。そこに世界で唯一の巫女であるクルスが出無いのは、非常に問題になるらしい。
まぁ、クルスが怖がっているのは妹と祖母であり、「怒られるー」などと呑気なことを言っているのだが。
「申し訳ありまえん。俺たち、一度神の島に行かなければダメみたいです。」
「あの、発言しても宜しいでしょうか?」
ここで発言を求めたのは、給仕係のおばちゃんドワーフだった。
「こちらも失念しておりました。クルス様が巫女である以上、『神の島』へ行かれるのは当然。さらに我らがドワーフ王も会議に参加致します。申し訳ございませんが、王へ使いの者を出しても宜しいでしょうか。」
「私は構いませんよ。」
「私もです。」
俺と、エルフのブロッサムさんが同意すると、すぐさま給仕係のおばちゃん刃、部屋の外で警備に当たっていた兵隊に言付けし、王へと連絡をとった。
「どうやら行き先が「神の島」になりそうですね。私たちはエルフの国に買えるので、国に行かれるなら同行していただいても構いません。食料等は、王都以外で調達することになるとは思いますので、その間は満足な食事も出せませんが。王都の話し合いが終わりましたら、また連絡ください。私共の予定では、明後日の麻には出立しますので、明日中に連絡をいただけると助かります。」
「私の方でも食料の準備はする予定です。どうなるかわかりませんが、必ずご連絡させて頂きます。なんだかゴタゴタして申し訳ありません。」
エルフ国のご好意により、同行が許可されたが、結局行き先は『神の島』になりそうだ。
ちょど俺達が話し終わった時、扉がノックされて王の使いの方が入ってきた。
俺達に挨拶した後、すぐに要件を伝えてくる。
「我も『神の島』へ行かねばならぬ。至急話がしたい。会議室まで来て頂けぬか。」
王の伝令に対して、俺達は了承の言葉を返す。伝令はすぐさま部屋を出ていき、王へと伝えに戻っていった。
「王が及びですので、失礼させて頂きます。」
「えぇ。お会いできて嬉しかったです。」
俺たちはエルフさんとの別れの挨拶も程々に、王の待つ会議室へと移動した。
そして王との話し合いにより、俺達は王と一緒に『神の島』へと赴くことになった。
早速俺はエルフのブロッサムさん宛てに連絡をとってもらし、エルフコクへ行けなくなったと伝えた。
その返信は、「お気になさらず。またお会いできる日を待ち望んでいます。」という、なんとも懐の大きな返答だった。
そして俺達は翌日、さっそく『神の島』へと向けて出発することとなった。というのも、時間的にギリギリだそうだ。
俺達がダンジョン攻略に間に合わなければ、辞退するはずだったが、間に合うなら行かなければならない。この緊急事態に王がいなくなるのままずいのだが、こんなこともあろうかと、指示は事前に出していたらしい。できる王である。
俺達と王、そして数人の護衛を連れた荷台の馬車は、一路『神の島』へと続く海の道がある街まで向かうのだった。
「諦めろクルス。巫女のお勤めなんだから。」
終始クルス一人だけは、妹と会うこと、そして巫女としての仕事に嫌そうな顔をしているのだった。
すっかり新年を忘れていた。
ということで、急遽『神の島』へ!エルフさんは寛容ですね。
テル君もエルフさんの寛容さには、申し訳なく思っているでしょう。だって急に呼び出されて、お願いされて、それをキャンセルされるんですもの。超忙しい時に。さすがエルフ。
次回こそは、『神の島』への移動です。