食事、美味しいですね。
王とのお話。
無事ダンジョンをクリアし、脱出を果たした俺達に、盛大な拍手が送られた。
俺達が周りを見渡すと、ダンジョン内に入っていた兵士達と数人の市民が取り囲んで、惜しみない拍手をしてくれていたのだ。
「おめでとう!」
「ありがとう!」
「本当にこんな短期間でダンジョンをクリアするなんてな!」
「俺はやるやつだって思ってたぜ。」
口々に勝算の声がかけられる。
そんな声と拍手の中、ダンジョンで出会った体長さんが歩み寄ってきた。
「君たちには感謝してもしきれないな。俺たちもダンジョンが崩れるときに、炎に包まれて脱出できたんだ。君たちがクリアしたんだと、すぐに分かったよ。」
どうやら炎の女神様は、ダンジョン内に居た人たちもきちんと避難させていたようだ。隊長さんが言うには、俺達と出った後は、増援を待ち、他の冒険者と一緒に、少しずつ進行していたらしい。
「俺達がクリアします」と言ってもそれをどこまで信用できるか。もし失敗したらと考えて、進行していたらしい。
「お。王城の者が来たようだな。」
隊長さんがそう言いいつつ向けた視線の先には、ドワーフの旗を掲げた豪奢な馬車が近づいてきていた。
俺達の目の前で止まった馬車から、御者も兼務している、執事っぽい知的なマッチョドワーフが降りてきた。そして俺達に頭を下げる。
「ウラガ様御一行様に於かれましては、ダンジョンのクリアお喜び申し上げます。また、ドワーフ国を救っていただいた事についても、国王陛下が直接感謝を述べたいと申しております。つきましてはこちらの馬車にお乗り頂けないでしょうか。」
王に招待されたのだから、拒否するのは難しい。というか、なぜこんなに早く迎えに来れたのかと不思議に思う。俺達がボスを倒した時間から、1時間ほども経っていない。
俺が不思議に思い考えていると、隊長さんがハラハラした様子で俺達へと話しかけてきた。
「おい。・・・おい!応えてくれるのか?」
「あ、あぁ。もちろん伺わせて頂きたいのですが、身を清めるために少々時間を頂けますか?」
執事が安心したように、一度頷いて時間をくれた。
俺はウラガへと視線を向けると、ウラガはすぐに【生活魔法】のリフレッシュを発動してくれる。ボス戦で汚れた服や髪があっという間に綺麗になる。
その後、馬車に乗り込んでダンジョンの入口があった王都の端っこから、王城へと移動する。
王城へ移動する間にも、道には多くの人が出てきて、割れんばかりの拍手を送られた。馬車には小さな窓が付いているので、そっと外の景色を見ると、皆が涙を流していた。
服装も体も汚れ、食糧不足で体調が悪い顔をしているし、立っていられないというような状態の人までが拍手をくれていた。
「俺たち、ドワーフ国を救ったんだな。」
俺の横から窓の外を見ていたウラガが、涙を浮かべながらそう言った。他の皆も、誇らしげである。俺もウラガの意見に頷いて、拍手の道を感慨深く進んでいった。
王城につくと、すぐさま謁見の間へと案内された。
俺達が王の目の前にひれ伏す。
「テル・キサラギ他4名、お約束通り、ダンジョンを攻略してまいりました。」
「「「おぉ!!」」」
俺がそう言うと、傍に控える側近や王自身からも、驚嘆の声が上がる。やはり当事者から聞きたかったようだ。
「顔を上げてくれ。まずは礼を言わせて欲しい。そなたらの迅速な攻略により、ドワーフ国は救われた。ありがとう!」
王は玉座から立ち上がり、俺達へと頭を下げていた。王が頭を下げるなど、この世界の貴族制度をよく知らない俺でも異常事態だとわかる。
ウラガたちは、驚愕しているし、ドワーフ国出身のアンは、あたふたしている。
しかし驚いているのは俺達だけで、王の側近達は特に何も言わない。というか、側近達すらも王の後を追うように頭を下げていた。
「王よ。どうか頭をお上げください。。私たちは約束を果たしただけです。」
王はゆっくりと顔を上げ、俺達をまっすぐ見つめる。
「その約束のおかげで、我らは危機を脱したのだ。騎士団長からのダンジョン脱出報告の後、王都を囲んでいた結界が消滅し、枯れていた水もまた湧き始めたと、次々と報告が来ていた。水があるだけでも、命をつなぐのに天と地の差がある。あと半月もすれば、補給物資が足りなくなるところだったのだ。どれだけ感謝してもし足りぬ。そなたらは、ドワーフ国だけでなく、多数の国民を救ってくれた。ありがとう。」
以前感じた、兵隊出身のような元気いっぱいの王様が、涙を浮かべ、声も上ずりながらも、感謝の言葉を続けている。見た目はドワーフとしては長身で130cm程で、筋肉も通常よりついている気印象だった国王も、節制していたのか、やつれた様子だった。本当にピンチだったのだろう。
王が話し終わったタイミングで、先ほど迎えに来てくれた執事さんが、王に耳打ちしている。
「待たせたな。食事の準備ができたそうだ。まだ食料が乏しいが、そなたらだけでも腹いっぱい食ってくれ。」
俺たちは言われるままに、食堂へと案内される。
そこには、パンが一個と鶏肉のソテー、そして生野菜のサラダ、冷製スープが添えられていた。王の主催する食事としては、かなり寂しい部類だが、これが今のドワーフ国の最大限なのだろう。
俺たちは用意された食事を大切に頂いた。ここで遠慮しても、じゃぁ誰が食べるの?ということになるし、用意した王の顔に泥を塗りかねない。
「そうじゃ、先日魔族の国から支援物資が届いてな。そなたらの愛馬なのだが、元気であり、きちんと預かっていると伝えて欲しいと言われておる。」
「そっかぁ。馬子元気なのか。魔族の国に置いてきたからな。王様達には礼を言わなきゃな。」
俺達が食事をしている間にも、王への報告は次々入ってくる。
王都から出られないバリアが消えたことで、各国からの使者が帰っていったとか。【境界の山】で二の足を踏んでいた補給部隊が一斉に移動を開始したとか。ドワーフ国の王都の隣街に備蓄されていた食料等も運ばれてくるらしい。二三日もすれば、十分な食料を配れるようになるそうだ。
そんな報告の中、時折王が悲しい表情を浮かべる。おそらくだが、今回の騒動のせいで、もともと体調の悪かった人達の何人かが亡くなったようだ。俺はレベルが上ったことで聴力も少し良くなっていたのだろう。執事さんの小声でも静かな部屋の中なら聞き取れた。
「そなたらが、そんな顔をするのではない。守りきれなかったのは我らの責任なのだ。」
俺はいつの間にか食事の手を止めて、険しい顔をしていたようだ。
俺は王の言葉を聞くが、それでもなんとかできたのでは無いか。あの階層はこうすれば良かったのではないか。等々を考えてしまう。
俺は無理やり笑顔を作り、王へと頷いてみせた。
「食事、美味しいですね。」
王の言葉には応えず、俺は出された食事の続きを食べ始める。すこししょっぱい、胸が苦しくなる、けれども食べられることを感謝するような、そんな複雑な食事だった。
どうにもならないこと。やるせないこと。わかっていても考えてしまうこと。あるよね。
テルくんは、王都民を救えたと思っていたのですが、完璧には救えなかった。神様でもないのだからと折り合いを付けることもできず。一生心に残る食事になったことでしょう。
次回は、王の話と移動の話の予定。