無事、火のダンジョンクリアだ!
女神祝福の話。
俺達は、ボスランタンの魔法結晶から現れた10cm程の白い球を注視する。
以前に見たことのないアンだけが、その白い球体を興味深そうに見つめている。
白い球は、徐々にその姿を変えていく。みるみる内に、白い球から長さ40cm程の翼が生えてきた。
明らかに翼が大きく、中央の球体とのバランスが悪い。
次に5cm程の手足が、申し訳程度に伸びて行く。そして目がクリっとした感じで非常に可愛らしい姿になった。そして最後に、白から赤と青のまだら模様へと変化した。
「あーよく寝た。起こしてくれてありがと。・・・ふむふむ。いろいろ知ってそうね。」
とても活発そうな声で、火の女神らしき物体が俺たちを下から上へと眺めながらそう言ってきた。というか、「よく寝た」と言うとは、懐が大きいというか、豪快というか。
「水と、土と、・・・くらいかしら?」
「攻略したダンジョンのことですか?それなら、生活もクリアしました。」
「うんうん。いい感じね。私で4人目ってことね。おっと。いい忘れていました。火の女神でーす!」
最後に「キャピ♡」とかつきそうな、女子高生のような話し方と陽気さだ。火のイメージ通りだ。
「3つもクリアしたなら、少しはわかってるのね。この世界が侵略されてるとか。」
「やはり侵略されてるんですね。」
「?そうだよ?あぁ。侵略が確定した瞬間に、私が捕らえられたから、先に捕まった女神達は確証が無かったのね。」
「あの、誰から侵略されてるんですか?」
「え?知らないよそんなの。私寝てたもん。」
「・・・」
たぶん侵略については、これ以上の情報は出てきそうにない。俺達が呆然と女神を見ていると、女神は話がしたいのか、いろいろと話してきた。
まとめると、火の女神は初撃を担当しているのだそうだ。いわゆる特攻隊長である。生活の女神の補給を待って突撃したのだが、抵抗むなしく捕らえられたそうだ。その後は、強い睡魔に襲われたそうで、もういっそのこと寝てしまおうと、今の今まで寝ていたそうだ。
「あーもうこんな時間。お礼する時間が少ししか無いじゃない!なんでなのよ!」
延々、喋り通したのは火の女神様なのに、理不尽である。八つ当たりだ。
「それじゃ、各自あげるから、ちゃっちゃと脱出しちゃって。」
そう言うと、火の女神の体が白く輝き、白い綿毛のようなま方向がそれぞれへと行き渡る。
俺がその光に触れると、一瞬で剣へと姿を変えた。そこに現れたのは、2本の剣だ。一本は真っ赤な炎の文様が全体に伸びている。そしてもう一方は、剣全体が青白い。
「あ。それね。本来は一振りなんだけどね。まだあなたが弱いから、2本に分裂してるのよ。」
「【火の一振り】。俺の力不足かぁ。」
少しは成長したと思ったのだが、まだまだ【火の一振り】を扱うには足りていないそうだ。伸びていた鼻をへし折られた気がした。ありがたく頂戴する。
そして他の人達を見ていると、ウラガは盾である【火の一畳】をもらったようだ。勾玉のように、盾の半分で赤と青で分かれている。
クルスはというと、特に変わった様子がない。クルスも?と顔をしかめている。
「あなたには、身体強化をさせてもらったわ。あなた龍族よね?変身したら姿に変化があるかもしれないけど、人の姿だとわかんないね。ちょっと地面でも殴ってみてよ。」
クルスは言われるがまま、地面を思いっきり殴る。
ズシン!
「「「!?!?」」」
「うんうん。火は力。ちゃんとパワーアップしてるわね。あ、魔力を消費するから、コントロールしなさいよ。」
クルスが殴った地面は、直径1m、深さ1cmほど大きく凹んでいた。いくらレベルが上った獣人でも、ただのパンチでここまでの威力は出ない。魔力を力に変えて、身体強化をしているおかげだそうだ。
クルスもグラス同様、変化がない。クルスはワクワクした顔で火の女神を見ている。
「あなた、巫女よね。魔法の威力を上げたわ。でも火だけよ。火だけなら消費魔力を少なくてもいままで通りの威力が出せるわ。」
そう言われたクルスは、誰も居ない方に向かって、ファイアーボールを打ち出した。
今までだと野球ボールサイズだったものが、女神からの祝福によって、バスケットボールサイズにまで大きくなっている。
「おー。熱量とー大きさとースピードとー。いろいろ調整できそー。」
今回は大きさのみ変化したようだが、意識すれば、ファイアーボールに込める熱量や、打ち出す速度等も変化できるらしい。
「頑張れば、鉄でも溶かして突き抜けるから。」
怖いことを女神が何でもないかのように言ってくる。さすが女神の特攻隊長。
「そんで、あなたには私の神獣をあげる。とどめを刺したご褒美ってところね。」
アンの手には、ランタンが握られていた。外郭は紫色をしているが、中心の炎は赤と青が交じり合いながら揺らめいている。
「ジ♪」
ランタンから火花が弾けるような音が聞こえてくる。アンはものすごく気に入った用で、ランタンにいろいろ話しかけている。
「アン、後でもいいから名前付けてやれよ。そうして初めて繋がれるんだ。」
俺はそういいながら、ユキへと手を延ばす。ユキはキュー♪と鳴いた後、俺の胸の中へと消える。そしてすぐさま出てくる。
アンは、ランタンへと向き直り、「すぐに名前、考えるからね!」と喋りかけていた。
「そんじゃ、あとの精霊や神獣のブンは、主に預けるから。有効活用してやってね。」
ユキやシズク、ダイチの分の祝福は俺たち主へと貰えた。またいろいろと活用方法を考えないといけないな。
俺達が、それぞれの祝福を確認していると、ゴゴゴとダンジョンが揺れ始めた。
「さてさて。お開きの時間ね。街まで送るわ。あ、いい忘れてた。助けてくれてありがとう。じゃ、またねー。」
火の女神は、自分だけ言いたいことを言った後、俺達へ向かって魔法を放ってきた。
色は青と赤が交じり合っている火炎放射のようだ。俺たちは身構えたが、熱さや冷たさは全く感じない。その不思議な炎に包まれていると、体がふわりと浮かび上がった。
「あ、魔法結晶の半分あげるね。」
女神はそう言うと、魔法結晶に触れる。すると今まで40cmほどあった火の形の魔法結晶がピカッと光り、まったく同じ形だが、半分サイズの20cm、2つに綺麗に別れた。その一つを投げてよこす。俺はそれを無事にキャッチする。
「そんじゃ、ほんとにバイバーイ。」
女神が手を振ると、俺達を包んだ炎が、かべに向かって動き始めた。壁は土で出来ているのだが、俺達を包む炎が接触する前に、壁一面に円形状の火が発生して、一瞬で土がどろりと溶けて穴が空いた。
もちろん溶けた土は溶岩となって、垂れている。
円形の炎は、どんどんと壁を溶かして斜め上へ、そしてしばらくすると垂直に登っていく。俺たちは穴ができた中を、炎に包まれながら移動していく。まるでエレベーターのような感覚だ。速度はかなり出ているようだが。
そしてものの10分もしないうちに、頭上が明るくなった。炎はそのまま地上へと出て、勢いそのままに俺たちも宙へと放り出される。
そして放物線を描くように、自由落下したが、きちんと包んでいた炎が衝撃を吸収してくれて、怪我なく脱出出来た。
俺達が地面へと足を着けると、炎は空気に溶けるように消えていった。
「ふぅ。今回はちょっと駆け足で大変だったけど。無事、火のダンジョンクリアだ!」
俺たちは互いに健闘をたたえ合って、無事に乗り越えられたことに安堵するのだった。
やっとダンジョンから出たー!
火というと、力、元気!ということで、活発な女の子設定です。ベタがいい。
テルくんは、まだまだ力が足りていないので、【火の一振り】を完全な姿で使えないようです。どうすればいいんでしょう?私も知らない。
次回は国王への報告と、再会の話の予定