炎の女神が出てくるだけだから。
ボス戦後半。
アンが一撃入れた巨大ランタンは、俺達と対峙するとスーーっと空中を移動して距離を撮り始める。
俺たちは逃すまいと【ステップ】を使える俺とグラス、ウラガが追いかける。クルスは【風魔法】を使い、ランタンの行動を阻害しようと、無数の風邪の刃を放出する。
だがランタンは【火魔法】を使い、質量のある炎の壁を作り出す。俺が青い壁を回避したことから、青と赤の二食をランダムに配置してくる。その壁に遮られるようにして、クルスの風の刃も防がれる。
距離をとったランタンは、次の攻撃に移る。ランタンの白い炎が、ゆらゆらと揺らめいた後、ランタンから無数の火花が吹き上がる。色は赤一色。まるで花火の噴水おようだ。その火花が、先ほどの人魂とは異なり、花びらへと変化していく。
一瞬で、赤い花びらが上空を覆い尽くす。
「まずい!下層で見た赤い花だ!ウラガ!」
「おうよ!」
俺たちはすぐさまウラガへと集まる。ウラガはすぐさま多重の【大盾】をドーム型に形成する。ウラガの【大盾】に降り積もるように、赤い花びらが舞い降りる。
ジュー。
ウラガの【大盾】は多層式にしてあるので、一番外側の【大盾】だけがダメージを負っている。だがすぐにでも溶けてしまいそうだ。
「ピ!」
ウラガの背中に張り付いていた、スライムのシズクが、するするとウラガの腕へと移動して、ウラガへと振り返った後、一声鳴く。
それにウラガガ、大きく頷いて返事を返す。
言葉は無いが両者の気落ちは繋がっている。
シズクはすぐさま【水魔法】を発動する。多層式の【大盾】に薄っすらと水の膜を張り巡らせる。そして【大盾】自体にも【水魔法】を付与して、ウラガの【大盾】は水色へと変色する。
これで、すぐに【大盾】が壊れることはなくなった。
俺は次々に降ってくる花びらをどうにかするために、クルスへと声をかける。
「クルスいけるか?」
「後すこしー。・・・いける!」
クルスの準備ができたところで、ウラガが【大盾】に穴を開ける。魔法を外に発動するための動線のようなもので、ほんの小さな穴だ。
クルスは底に向かって、一気に魔法を放つ。【大盾】の外では巨大な竜巻が発生していた。
【大盾】を中心に、次々に降り積もる花びらが集まってくる。クルスの【風魔法】で作った竜巻はあっという間に、赤い花びらで埋め尽くされる。
綺麗。とか幻想的。とか桜っぽいとか思ってしまうほど、美しい。
クルスは徐々に風邪を操って、花びらを上方へと集める。そして発生源であるランタンめがけて、竜巻の先を叩きつける。
【火魔法】のダンジョンボスであるランタンに、ランタンが作った炎の花びらは効果が無いだろう。だがおかげで、ウラガの【大盾】から外へと出ることが出来る。
俺は炎の花びらに埋もれたランタンめがけて、【土魔法】で作り上げた大剣を5本、突き刺す。この大剣はクルスが花びらを始末している間に、俺が魔力を込めて、ガッチガチに圧縮したものだ。
そんな超圧縮した大剣を受けたランタンは、埋もれた花びらから飛び出してくる。見てみると、ランタンの体に3本、深々と突き刺さっている。
ランタンはまた俺達から距離を取ろうと、スーッと移動を開始する。だがそれを防いだのはグラスだった。
いつの間にか移動して、土の神獣であるモノリスのダイチと協力して、ランタンの周りに、コの字の壁を作り出していた。
逃げ道を無くしたランタンは、俺達へと向かい直り、攻撃へと転じる。
ランタンの白い炎が、カッと光った瞬間、火炎放射が放たれた。
だがこれも予想通りの攻撃であり、ウラガがシズクと一緒になって、【大盾】で完全に防いでくれた。
「アンは左、俺は右!」
そいうと、俺達は【大盾】から飛び出して、ランタンを囲っている壁の左右へと別れる。
【ステップ】を使える俺が先に到着すると、そこには「待ってました」という顔のグラスが居た。
俺は【ステップ】の勢いのまま壁へと突っ込んでいく。手にはユキの【氷魔法】を付与した【土の一振り】がある。
俺が壁に激突する寸前で、グラスが【土魔法】で目の前の壁を消し去ってくれた。
ランタンは、急に自分の横の壁が消えたことに、驚いたようだが、すぐに火炎放射を放ったまま体を振り向かせる。
だがそれより先に、俺がランタンへと接触する。
「今度は逃さねぇ!」
今回は蜃気楼は無いので、目の前のランタンは本物だ。
俺は【スラッシュ】を発動して、スピードと体重を思いっきり乗せて、上段の構えから斬りつけた。
おれの剣が届く一瞬前に、ランタンは火炎放射をやめて、自分の体の熱量を増大させる。
熱自体に形を与えているランタンの体は、熱量が上がるだけで、その強度ガ飛躍的に向上する。もともと自分の体を形成しているものだ。その反応速度はまさに一瞬。ランタンの表面を形作る熱は、赤さを一気に増した。
だが俺も止まらない。俺は構わず、剣を振り下ろす。
グニュゥ。
ものすごく硬いゴムでも切っているかのような感触だ。
そんな硬い装甲のせいで、俺の剣は中心の白い炎まで剣を入れられなかった。
ランタン自身は、俺の攻撃を防ぎきった事で、攻撃へとすぐさま移行しようとする。
しかしまだ俺達のターンだったようだ。
俺の正面。ランタンからすれば背中に当たる壁が消え去る。そこにはアンが大斧を振りかぶっていた。
その小さな体で、めいいっぱいジャンプしている。そしてジャンプしながら、俺とランタンの状況をとっさに理解したアンは、すぐさま攻撃方法を変更した。
両手にそれぞれ持っていた大斧の一本を、側面にしてランタンへと叩きつける。その大斧を足場にして、アンは更にジャンプして、俺とランタンの間へと飛び込んでくる。
飛び込みながら、アンはもう一本の大斧を両手で持ち、ランタンへと突き刺さっている俺の剣の上へと叩きつける。
俺の剣の上へと精確に落ちてきたアンの大斧に押されるようにして、俺の剣がランタンの体を切り裂いていく。
そしてそのままランタンの中心である、白い炎を切り裂いた。
白い炎は、真っ二つに裂けた瞬間、ボン!!っと爆発するように消え去った。白い炎が消えるのと同時に、どす黒い靄が溢れて、空気へと溶けていく。
白い炎が消えた後には、赤と青が渦を巻くような、炎の形をした巨大な魔法結晶が落ちていた。
白い炎が消えた後、ランタンの外郭を作っていた熱の塊も、空気へ溶けるように消え去る。
ランタンの外郭すべてが消え去るまで俺たちは臨戦態勢だったが、流石に終わりだと気を抜く。
俺達が緊張を解いたところで、今度は魔法結晶から、真っ白い10cm程の球体が現れる。
俺の目の前にいたアンが、バッと大斧を構える。
「大丈夫だ。炎の女神が出てくるだけだから。」
俺はアンの方に手を置いて、もう安全だと告げる。アンは自分以外が安心しきっている姿を見回して、本当に終わったのだと、大斧を下ろした。
ウラガ達は俺の元へと集合する。これから変化するはずの白い球体へと注目するのだった。
やっと【火魔法】のボスが終わりました。長かったぁ。
テルくんは結構危なかったですね。アンが追撃しなかったら、火炎放射に焼かれていたかもです。まぁ、ウラガ辺りがなんとかした気もしますが。
次回は、女神の話と帰還の話の予定。