仕切り直しだな。
ボス戦その1。
やっと来たボス部屋。俺達の目の前には高さ3mはありそうな、巨大な扉が行く手を阻んでいる。
見た目は黒くて鉄かな?と思ったりもしたが、よく見ると扉自体がゆらゆらと揺らめいている。どうやら濃い紫色の炎のようだ。
そして扉に描かれている火の文様だけが、ひときわ怪しく、赤色と青色で揺らめいている。
俺たちは目を交わして頷き合う。皆準備はできているようだ。
「行くぞ。」
俺はそう言ってから紫の炎で作られている扉に手をかける。すると火の文様がカッと輝き、巨大化する。
まばゆい光の後には、火の輪くぐりのように赤と青で区切られた通路のようなものが出来上がっていた。
俺たちはその中を進んでいく。
俺達が扉をくぐり抜けると、いつものボス部屋の様に天井が高く、柱も何もない巨大な空間が広がっていた。
更に歩みを進めると、部屋の中心にポっと炎が灯る。色は白。神々しくもあるその火は、ゆらゆら揺れて、俺達を誘っているようだ。
念のためにと俺達の前にウラガが出て、【大盾】を構える。
そのまま歩いて近づくと、中央にあった火は形を変えていく。火はあっという間にランタンの形をとった。
俺達が臨戦態勢に入るのと同時に、ボスランタンから、多数の火花が飛び散る。赤と青い火花が無数に飛んで、花火のように美しい。
しかしそんな悠長なことを言っていられなく。小さな火花は徐々に巨大化していき、人魂程度に成長する。
「来ます!」
グラスの【危険予知】が発動したようで、俺達へと警告してくる。ウラガガぐっと力を入れて、魔力を増加させて【大盾】の強度を高める。
ウラガの【大盾】の強化ガ終わった瞬間に、人魂から熱線が無数に照射される。
しかも赤と青は、今までどおり性質が正反対のようで、発熱と吸熱である。最初、ウラガの【大盾】は赤い熱線で急激に熱せられる。
俺たちは中に居たから熱さも感じなかったが、中から見る【大盾】は完全に真っ赤に染まっていた。
そして加熱が終わった後は、青い光線が発射される。今度は一気に温度が奪われていく。いくらウラガの【大盾】が魔力で作られていようとも、急激な温度変化によって罅が入る。
「まずいな。あと数回で壊れる。」
さすがに一度の温度変化では壊れないが、急激に温度が下がった【大盾】に、再び熱線が発射される。また一気に高温になっていく。
【大盾】を張っている本人が言うのだ、あつ数回で【大盾】は砕けるだろう。だが敵の攻撃は切り替えの時間が短くて、逃げられる様なものではない。
いきなりのピンチだ。
「ガッ!!」
俺達がどうしようか迷っていると、土の神獣であるモノリスのダイチが声をかけてきた。
「俺がどうにかする。と言ってます。」
グラスが通訳してくれると、ダイチは地面へと触れる。
ダイチは土の神獣なので、触れてさえいれば、少ない魔力で土を自在に操れる。ダイチは【大盾】に沿うように土のドームを作った後、地面に穴を開けて、逃げ道を作ってくれる。
俺たちは戸惑う時間も惜しいと、ダイチが作った穴に飛び込む。ウラガが最後になるように、【大盾】を展開し続けたが、限界が来たようで、パリンと砕け散る。
すぐさまウラガも穴へと逃げこむ。敵は土でできたドームに向かってまだ光線を送っているのだろう。土のドームがグラグラ言っているのが、後ろの方から聞こえる。
俺たちはダイチが作った地下の抜け道を通って、100mほど離れたところへと到達した。
ダイチがこっそりと穴を開ける。そこから俺は【鷹の目】を使って、視線だけを飛ばす。どうやら人魂の包囲網の外にいるようだ。未だに人魂は俺達がいると思っているのか、土のドームへと攻撃を繰り返している。
「まずは赤い人魂を壊す。ユキ、グラス、クルス、【氷魔法】と【火魔法】を頼む。」
「「「(こくり」」」」
「その後はすぐに青い方もやる。」
敵に気づかれるわけにはいかないので、小声で作戦を伝える。ユキがいるので、最初に赤い方を倒すのだ。
俺は指で、3.2.1.とカウントダウンした後、一気に飛び出す。飛び出した俺達に人魂が一瞬遅れて気づいて振り向く。
だが遅い。もう魔法は完成している。ユキの【氷魔法】が炸裂する。あたり一面が居旬で銀世界に変化した。冷気だけは、青い人魂があるので、足りるのだが、空気中の水分が少ないので、雪というか霜は少ない。
だが赤い人魂には大ダメージだったようだ。熱を貯めておけなくなった赤い人魂は、マッチの火が消えるように、フッと消えてしまう。
すべての赤い人魂が消えたのを確認した後、クルスとグラスが【火魔法】を発動させる。今度は加熱だ。
クルスは【並列計算】も使用しているようで、いつもより倍の火力が出ている。二人はあまり広範囲にはできないので、範囲を区切って火力を上げる。
一瞬のことで戸惑っていた青い人魂も、二人の【火魔法】によって、冷気が消え去ったようでフッと消えてしまった。
一方の俺とアンは、穴から出た瞬間、白いランタンに向かって走っていた。遠くから見たら小さいように見えたランタンも、近くで見ると2mはありそうだ。まじでかい。
俺は【土の一振り】に魔力を限界まで込めて切れ味を増していく、更に土を砂に変えて、高速で振動させる。チェーンソーの様に振動させるのだ。更に事前にユキに【氷魔法】を使って付与を得ているので、投信は白い砂粒が震えているように見える。
俺は【ステップ】も使い、一気にランタンへと近づいた。さすがにランタンも俺の接近に気がついているので、防御策を講じてくる。
ランタンの炎が揺らめいた瞬間、赤い火の壁が5枚、俺とランタンの間にできたのだ。
普通なら速度を落として急速に回避するだろう。だが俺はそのまま突っ切る。アンにもらってあった、自動で【火魔法】の吸熱を発動する袋の効果を信じているからだ。
もしこれの中に青い炎の壁があったのなら、俺も回避した。だが全て赤色だ。俺は怖いと思いながらも、火の壁を突っ切る。
「アッツー!!」
さすがに熱かった。だが全身やけどするほどでもない。ちゃんと袋の付与魔法陣は効果を発揮してくれた。
ランタンは俺が接近するとは思っていなかったのだろう。いきなり火の壁から出てきた俺に対して、全くの無防備であった。
そこに俺はいろいろと強化した剣を、【スラッシュ】を発動しながら振り下ろす。
サク。
「??」
剣を振り下ろした俺の頭にはハテナマークが浮かんでいた。確かに直撃コースで振り下ろしたはずなのに、剣に伝わる切れた感触は、切っ先数センチのみだったのだ。
しかしすぐに折れの?は解消される。俺が切ったランタンはゆらゆらと揺れて、空気へ消えていく。そして消えた残像の後ろに、同様の大きさのランタンが居たのだ。その姿は縦一直線切られていた。
「クソ。蜃気楼かよ!」
ランタンは意外と用心深いようで、自分の前に急激な熱の差を発生させて、本体との距離をごまかしていたようだ。
「テル!しゃがめ!」
俺がその答えに気づいた瞬間、後ろから声がかけられた。俺はとっさに体を屈める。すると俺の背中を踏みつけて、アンが飛んだ。
アンの手には、ただの大斧が2本、両手に握られていた。アンは飛び上がった勢いを殺さず、そのまま大斧を振りかぶり、ランタンへと叩き下ろした。
本来の姿を見せていたランタンめがけて、振り下ろされた大斧は、直撃していた。だが大斧も頑丈な用で、頭部をせこませるだけで、肝心の中央の白い炎までダメージが入っていたない。
「チッ。アタシも付与が欲しいよ。」
もちろんアンも紋章術を使って付与を与えられる。だが魔法結晶をおとにするアンの付与は、今【火魔法】の付与しかできない。
【火魔法】のダンジョンのボスに対して、【火魔法】をの付与なんて、下手したら相手を回復しかねないと思い、何も付与せずに普通の斧で切ったのだ。
ダメージが立て続けに入れられたランタンは、スーッと空中を飛ぶようにして逃げていく。俺は層させまいと、【ステップ】を使ってランタンを追い、剣で切ろうとするが、今度は青い壁を作られたせいで、深追いすることができなくなった。
そこえウラガ達が合流する。
「ふぅ。仕切り直しだな。」
俺たちはまたダンジョンの部屋に入った時のように、ランタンと向かい合う。
そして次の一手を打ちに出る。
ちょっと長くなりそうなので、切らせて頂きました。
どういうボスにしようか悩んだんですが、ランタンってかわいいよねということで、ランタンです。
テルくんは、短時間で勝負を決めたかったのか、結構無茶をしています。大丈夫でしょうか?
次回はボス戦その2の予定。