剣を振るの楽しかった。
56階層からの話。
56階層から出てきた、熱で出来たモルボル。生半可な攻撃ではダメージを与えられない。
近接で体術を使うグラスは危険過ぎる。
クルスの【風魔法】では切り刻めるが、すぐに切り飛ばした体が集まりくっついてしまう。
ウラガの盾を使った攻撃も、高熱に長時間晒されると、盾自体が壊れてしまう。
ということで、アンが大斧に属性を付与させて、モルボルを切り飛ばしていた。
「俺もやってみよ。ユキ。」
「キュ♪」
待ってましたと言わんばかりに、ユキが応えてくれる。ユキは【氷魔法】を俺の【土の一振り】に付与してくる。
本来であれば、【水の一振り】の方が効率というか、相性はいいのだが、この火のダンジョンでは【水の一振り】も維持が大変だ。
ということで、俺も久しぶりに剣を手に持って戦う。
今までほとんど【遠隔操作】に頼って、遠距離から攻撃してきたので、カンが戻るか心配だ。
俺は【氷魔法】が付与された、真っ白くなった【土の一振り】を振ってみる。
ブン!ブン!
【オール・フォー・ソード】のおかげで、剣を振るために体が適応している。カンも鈍っていないようだ。数回振っただけでも実感出来る。さすが神様がくれた固有能力だ。
ちょうどいいところにモルボルがやってきた。
「俺が相手してみる。」
俺はウラガの【大盾】より前に出て、剣を構える。ユキは俺の頭の上から離れて、フヨフヨと見届けるようだ。
俺は久しぶりに【ステップ】で間合いを一気に詰める。モルボルも触手を動かして、俺へと襲い掛かってくるが、それらを切り飛ばす。
切り飛ばした触手に触れないように気を使いながら、モルボルに一気に剣を叩きつける。【スラッシュ】で体をまっ二つに切り裂いた。
スライムのように切れた体を復活させるモルボルだ。長期戦は不利になると思い、早めに終わらせる。
俺の【スラッシュ】によって、モルボルの体の中心にあった魔法結晶が砕ける。
冒険者としては、魔法結晶を得られるように倒すのが理想なのだろうが、ここは火のダンジョン。すでに数えきれないほどの魔法結晶を得ているので、もういらない。
魔法結晶を砕かれたモルボルは、熱の体が崩れていく。崩れた体は迷宮へと吸収され、俺達に熱が襲いかかることはなかった。
「うん。意外といける。というか、体を動かすのって気持ちいいな。」
なんというか、剣士として自覚が出てきたのか、意外と剣が好きになっていた。というか剣以外できないので、好きになるしかないのだが。
「大丈夫だったかテル?」
「あぁ。もちろん大丈夫た。というか俺、前に出たくなったんだが。」
「いいんじゃね?アンと一緒に頼むわ。無理すんなよ。」
仲間の同意も得られたので、俺とアンが前に出る。
その後もモルボルをバッサバッサと切り飛ばしていく。
アンが切り飛ばしたモルボルの触手が、アンに当らないように俺が剣の背で弾き飛ばしてアンを守ったり、俺が対処しきれない触手をアンが【大盾】の背で防いだり。お互いにサポートし合いながら、モルボルを倒していった。
57階はモルボルが増えただけ。
58階は、【火魔法】の吸熱でできた、青白いモルボルが増えた。
吸熱のモルボルは、54階層に咲いていた青白い花のように、体の中に液化した空気が入っていた。
切り飛ばした触手から液体の空気がこぼれ落ちる。
だが偶然にも、赤いモルボルはいない。液体の空気が爆発的に気化することはなく、徐々に空気へと変わっていく。
赤いモルボルが居なくて、本当に良かった。
そんなこともあり、赤いモルボルと青いモルボルがいる時は、赤いモルボルを先に退治した。赤いモルボルが迷宮に吸収されてから、青いモルボルを退治する。ウラガの盾の助けも借りて楽々クリアした。
59階層、60階層も、モルボルが増えて、迷宮が広くなっただけだ。
56階から60階層をクリアするのに、2日かかった。だがたった2日で攻略出来た。
「はぁ。剣を振るの楽しかった。」
俺たちは夕食もしっかりとって、俺達は翌日からの61階層に向けて、早めに休むことにした。
はい。バッサリです。
テル君は運動が好きになったようですね。固有能力に意識が傾いていったようです。
次回は61階層以降の話の予定