もっと練習しないとな。
新しい技の研究回。
ちょっと短め。
54階層。液体の空気を蓄える、青白い花。そして高温を蓄える真っ赤な花。
ウラガの【大盾】内部で生じた空気の爆発によって、ウラガは重症を負った。そして【大盾】自体にも深刻なダメージを負った。
「完全に閉めるドーム型の限界だな。」
「何か解決方法を探さなきゃ。」
「「うーーん」」
ウラガは未だに眠っている。俺たちは【大盾】を発動できるウラガ抜きで、何かアイデアはないかと頭を捻るが、出てくるのは唸り声だけだ。
「穴―?」
「結局そうなるんだろうけど・・・網戸とか?」
「「あみど?」」
クルスが、【大盾】に穴を開ける提案をするが、それは皆が気づいていた。だが【大盾】に穴を開けると、盾としての意味がない。それに、小さな穴を開けるにしても、そんな精密なことが簡単に出来るとは思えない。魔法をイメージで形作るにしても、慣れが必要だろう。
そして俺は網戸を提案する。この世界でも海や湖で網は使う。だがそれを扉に貼り付けるのは、一般的ではないようだ。
「網って穴が大きいと思うのだけど?」
「あぁ、こっちのは穴が大きいのか。そっかぁ。」
植物を原料にしているので、前世のように穴の小さなものではなく、ある程度の大きさの穴が開いているそうだ。前世ほど精密なものが作れたら、外からの花びらを防ぎつつ、風をよく通すので安全かと思ったんだが。そんなに甘くなかった。
ウラガが目を覚ましたが、その日はウラガの大事をとって、攻略はお休みにする。ウラガは、俺達のアイデアを聞いて、小さな【大盾】で練習を再開した。安全地帯にいるし、体を動かせない分、ウラガの気が晴れるならと、無理をしないように注意するだけで、ウラガの好きにさせた。
ウラガはああ見えて、盾、防ぐこと、守ることについて自身と誇りを持っている。そんな自分が真っ先に倒れたのだ。しかも自分が発動した【大盾】のせいで、被害が拡大した。ウラガの心中は如何程のものか。
ダンジョン攻略を休んだので、俺も新しい剣を試作する。今回はフォークを参考にしてみた。
見た目は、フォークの先端のように五本に分かれている。一応、持ち手のところで一本に収束するので、一本の剣という扱いだ。というか、これが剣に分類されるのか?と疑問に思うが、俺の【オール・フォー・ソード】の効果を考えると、剣なのだろう。
そして、そのフォークを6本使い、互いに刺して箱を形成する。
「フッ。」
バカバカしくて笑ってしまった。こんなもので捕まえられるなら、そもそも剣で切り飛ばした方が早いだろう。
俺はとりあえず、何か思い浮かばないかと、ペン回しでもするかのように、8本の剣を俺を中心としてぐるぐると回転させる。
その回転するスピードをどんどん上げていく。
「・・・おおぉ!!」
回転の速度を上げた剣は、もう視力で追えないほどにまで加速して、俺の周りを回っている。
その速さに風が巻き起こり、風を切り裂く音は、ビュンビュン、ゴーゴーと唸りを上げていた。
「某有名ゲーム、最後のファンタジー15の主人公みたいだ。」
某ゲームでは、これで自分の身を守っていたと思う。発売される前に転生したので、心残りだったなぁ。
「これさえアレば、敵を囲めるんじゃね?」
俺は自分を守ることより、敵を囲い込むことへと利用しようと思う。今も目の前で回り続ける剣は、触れれば確実にみじん切りになりそうなほど凶悪だ。ミキサーの中にいるような錯覚さえする。
「でも上下が、がら空きなんだよなぁ。傘みたいにできるか?」
俺は一旦速度を落として、ゆっくりと剣を回しながら剣の角度を変えていく。
傘を参考にして、剣同士がぶつからない範囲で傾ける。そのまま速度をだんだん上げていく。
ガキン!!ビュン!
「あっぶねー!!」
ちょっと操作を誤り、剣同士がぶつかってしまった。すでに結構なスピードを出していたので、ぶつかった剣同士が激しく砕け散る。その欠片がものすごいスピードで俺の顔の横を通り過ぎていったのだ。もしあと数センチずれていたら、頭に深々と突き刺さっていただろう。
「もっと練習しないとな。」
その後の時間は練習に費やした。剣の角度、速度、本数、回転した状態での移動。俺は【オール・フォー・ソード】のおかげで、尋常ではないスピードで新しい技術をものにしていった。
網戸。これからのシーズン、お世話になります。虫が苦手な私にとっては、無くてはならないアイテムです。そういった敬意をこめて?登場してもらいました。
テルくんは、新しい技を得たようです。ただ回すだけだけど。力は速度の二条に比例するので、威力はバカにならないと思います。ゆくゆくは化ける技術かも。知らんけど。
次回は攻略を再開して、54階層以降の話の予定。