剣の工夫が必要だな。
51,52階層の話。
51階層は、一面の花畑。
茎から葉っぱ、花弁に至るまで真っ赤に染まっている。それが、ポツポツとだが見渡す限りに咲いている。
「明らかに熱そうだよな。」
「大丈夫だ。俺の【大盾】が防いで見せるさ。」
ウラガが自信満々に宣言してくる。
これはどう見てもフラグが立ってしまった。
とりあえずウラガがいつものように【大盾】を発動して俺たちを守る。今回はシャボン玉のように飛んでこないので、全面だけだ。
安全地帯から一歩踏み出して、ウラガの後ろを進んでいく。
ウラガの【大盾】はきちんと花から守って・・・くれていない。
「足元に気をつけろ!」
確かに【大盾】が花を防いでくれるが、それは地面に押し倒しただけ。タンクローリーが通った後のように、地面には押しつぶされた花が残っている。
【火魔法】の熱が花に形を変えているだけで、炎が形を変えたものにすぎない。
地面に押しつぶされた花からは、かなりの熱を感じる。
危うくウラガが踏みそうになったが、その熱を感じ取って寸前に足を引っ込めた。
「私のー出番ー。」
クルスがそう宣言すると、地面すれすれの所を【風魔法】の刃を発動させる。予想通り【風魔法】の刃は進行方向にある花を一気に刈り取った。
「防いで!」
だが刈り取られた花は、花の熱も相まって空へと浮かび上がる。そして周りにひらひらと舞上がり、俺達へと襲い掛かってきた。
グラスの危険予知のおかげで、ウラガが【大盾】をドーム型へと変更していたおかげで、切り取られた熱の花は、【大盾】にへばり付いて板。
ジュー。
やはり、かなりの熱を持っていたようで、【大盾】が焼かれていく。
【大盾】にへばり付いた花をよくよく観察すると、葉っぱや花ビラが、ばらばらになっていた。意外と簡単にバラけるようで、被害が拡大しやすくなっている。
「押しつぶしたら地面が歩けないし、切り飛ばしたら空中に舞う。面倒だな。」
先の階のシャボン玉のように、もとから空気中に飛んでいて、地面に落ちても染みこんで消えるのではなく、扱いが非常に面倒だ。
「皆、アレ。」
アンが指差す先には、地面すれすれから切り飛ばされた茎の先から、熱が蒸気のように噴き出している。
「あれって、熱の残りみたいなもんか?」
「威力は低そうだけど、当たると暑そうだよなぁ。」
「足元注意は変わらないな。」
溶岩なら方舟に乗れるのだが、ここは地面。以前のように、靴の下に土でもくっつけようか?
ということで、切り飛ばすのはやめて、【大盾】で押しつぶす作戦に移る。
そしてしばらく歩いて行くのだが。
「きゃ!」
一番後ろを歩いていたアンが、急に叫び声を上げた。
全員が振り返ると、アンが熱の花に囲まれていた。
「アン。このナイフをもってくれ。【空間魔法】で転移する。」
「ダメみたいね。」
「!皆さん、足元に注意して!」
先ほど【大盾】で押しつぶしたはずの熱の花が、むくりと起き上がってきていた。
グラスが注意すると、アンだけでなく俺たちまで花に囲まれてしまった。
「皆動くなよ。ユキ、ちょっと頑張るぞ。」
「キュ!」
俺はユキへと魔力を提供する。ユキは魔力を使い【氷魔法】を発動する。【水魔法】と【火魔法】の複合上級魔法。ただの熱の塊は、あっという間に凍りつき、熱のないただの花の形の氷へと変化した。
ユキは俺の【空間把握】によって、仲間の位置を正確に把握していたので、仲間が凍りつくことは防げた。心で繋がっているから出来る芸当だ。
「助かったわ。ありがと。」
そんなこともあり、結局はクルスが【風魔法】で花を切り飛ばす作戦へと切り替えた。ウラガは多層式【大盾】で、グラスはダイチと共に【土魔法】で地面に残る茎を、俺とアンは魔獣に襲われないか気を張っている。
結局51階層には魔獣は出てこなかった。
そして52階層。花の量が増えた。51階層のように、人が批難出来る空間は無いほどに、けっこうびっしり生えている。
51階層同様の方法で進んでいく。だが、ここからは魔獣が出た。
というか、魔獣と言って良いのだろうか?それは花だった。
「俺知ってる。配管工のおじさんが、お姫様を救うゲームで見た。」
「また訳の分からんことを。」
ウラガが俺を変な目で見てくるが、それは無視する。
地面に生えている花の一部が、こちらへと花の向きを変えて、花の中からファイアーボールを放ってきた。
火の玉を噴く花である。
グラスによって切り飛ばされた後でも、花がバラけることなく、花の形のまま空を飛び回る。そして空中からファイアーボールを連射してくるのだ。
「この威力。多層式だと保たない。」
ウラガが【大盾】に力を入れて、多層式を止めて、分厚い【大盾】へと変化させる。しかし、そうなると、花びらによって【大盾】が溶けていく。
「急いでくれ!」
俺は【土魔法】で剣を数本作り、【遠隔操作】で空中をふわふわ飛ぶ花の魔獣へと突き刺していく。
だが花の魔獣は、自分の熱やファイアーボールを吐き出すことで、ひらりひらりと躱すのだ。
「あーもー!!イライラする。」
「キュッキュ♪」
ユキが俺をなだめるように、俺の頭で跳ねる。
「悪い。今回も助けてくれないか?」
「キュ♪」
再び、ユキに無理をお願いする。水のない【火魔法】のダンジョンでは、ユキの魔法はかなり疲れるのだ。だからあまりユキに負担をかける事になる。だが俺だと剣でしか対応できない。
ユキの体から白い魔法光が溢れだして、外を飛んでいる数匹の花の魔獣を凍らせていく。
「剣の工夫が必要だな。」
俺はユキにねぎらいの言葉をかける。そして俺は自分の【オール・フォー・ソード】を恨めしく思う。より回避能力の高い敵へと対する方法を考えるのだった。
ユキが頑張る回でした。
と言っても、魔法を使うだけ。だがそこは【火魔法】のダンジョン。環境がユキへと負担をかけています。
テル君は、自分の無力を嘆いています。今までの【遠隔操作】では対処できないことが増えてきたので、焦っています。
次回は、52階層以降の話の予定。