何階層まであるんだろう。
49,50階層の話。
「はい。それではここでバターを挟みます。」
「ふんふん。」
「次にこの棒で生地を伸ばします。」
「結構硬いな。」
「そだね。がんばってー。」
「次は?」
「これを重ねて、伸ばしてー重ねてー。」
「地味だな。」
「はい。後は三角形に切って、丸めまーす。」
「後はオーブンだな。」
「そだね。後は【火魔法】で終わりかな。」
俺とウラガはクロワッサンを作っていた。生地づくりから始めたので、結構時間がかかってしまった。
【土魔法】で作った調理台の上で、マッチョの男が並んでクッキング。そういう恋愛もありだろう。ふたりともそっちの気は全く無いが。
そして、これまた【土魔法】で作ったオーブンで、クロワッサンを焼き上げる。ダンジョンの中だというのに、香ばしい匂いが立ち込める。
焼きあがるタイミングを見計らったように、グラスがお茶を入れてくれている。食べる気満々のようだ。
俺たちはテーブルで優雅にお茶の時間を取りながら、ウラガへと質問を投げかける。
「で、多層式ってのは、このクロワッサンみたいなもんだ。イメージできたか?」
「あぁ。この一枚一枚は弱っちいけど、剥がしてしまえば、次の一枚は無傷って訳だな。」
「とっても美味しいわね。」
アンが空気を読まない発言を入れてくる。長く幽閉してもらっていたので、焼き立てパンなど久しぶりなのだ。
「私もこんなパン初めて食べました!美味しいです!」
「美味―。」
どうやらこの世界にクロワッサンは無かったようだ。パンはあるのだが、それを層にするパイの知識は広まっていないのだろう。というか、大量のバターを使っているので、カロリーとしては恐ろしいほど高い。カロリーの概念もなく、冒険という運動をしている人には良いかもしれないが、理解されたら大問題になりかねない。特に女性陣からは怒られるだろう。
そして新しいレシピを発表したことで、アンに俺が転生者であることがバレる可能性がある。もうバレても良いような気もするが、まだ信頼関係が万全とは言えないだろう。もう少し様子が見たい。
「テルって、本当に料理が上手いわね。というか、こういう発想ってどうやって思いつくのかしら?」
「あはは。ありがとう。ところで、ウラガ、本題の【大盾】に応用できそうか?」
アンからの質問を強引にスルーしてウラガへと話を振る。アンは不満そうだが、俺が言いたくないのだと感じたようで、それ以上は追求されなかった。
「イメージはできたんだけどよ。これ、バターって溶けたんだよな?」
「?そうだけど?」
「【風魔法】とか使えれば、すぐに再現できるんだけどなぁ。ちょっとシズクと練習してくるわ。」
どうやら、【大盾】の層と層の間になにかを挟んで、後で抜き取る作戦のようだ。一番楽な【風魔法】はまだ習得していないので、シズクが得意な【水魔法】で代用するのだそうだ。
ウラガは【大盾】を小さく発動させて、シズクと共に修行に集中する。
俺たちは俺達で、各自の修行をしながらその日は終わった。
翌日。
「テル。ちょっと見ててくれよ。」
ウラガはそう言うと、シズクと共に三層の【大盾】を披露して見せた。まだまだ層が厚いが、完全に多層式になっている。
「で、水は抜けるのか?」
「まだそこまでは無理だな。というか、結構しんどい。」
ウラガによると、多層式は【大盾】というスキルを三回繰り返して、同時に発動しているらしい。完全に三層が独立しているので、一つの【大盾】では再現が難しいらしい。
俺の前世である、ビルのように、一つ一つの階を柱でつなげた様な形を取れれば、一回の【大盾】で済むのだが、それでは一層だけ剥がすのが難しいらしい。
まぁやりやすいようにして、このダンジョンをクリアした後に、修行すれば良い話だ。
ということで、一日をウラガの修行に当てた翌日。俺たちは49階層へと足を踏み入れた。
まるで青い雪が舞うように、大量の青白いシャボン玉がウラガの【大盾】にぶつかる。だがウラガは以前のように、いちいち修復したりはしない。
ある程度のシャボン玉を受けて、一番外側の【大盾】が壊れそうにあったら、そのまま【大盾】を解除してしまう。空気へと溶けるようにして消えた【大盾】に付いていた冷気の塊は、そのまま地面へと落ちていく。
水の層も同時に消すので、次の【大盾】が攻撃を防ぐのだ。
そして消えた文の【大盾】を補うように、残っている水層を2つに分割するように、新たな【大盾】を作り上げていく。
もちろん、モグラの魔獣による、内側の【大盾】についても同様である。修復はせず、薄くてもいいので、新しい【大盾】へと張り替えていく。
そうして49階層は、ウラガの新しい【大盾】によって、スムーズに攻略出来た。魔力の消費は激しいが、いちいち修復するために神経をすり減らす必要が無いので、ウラガもリラックスして行動できるようだった。
そした50階層。今度は、赤いシャボン玉と青白いシャボン玉、この両方が大量に浮かんでいた。
だが俺達は止まること無く、進んでいく。
赤と青。温度がかなり違うシャボン玉が【大盾】の同じ所にぶつかることで、急激な温度変化が生じる。これによって、【大盾】はさらに割れやすくなったが、割れるのを前提に作っているので、慌てる必要がない。
ただ、モグラの数が増えて、灼熱の弾丸と、冷気のマシンガンを撃ってくるのが、かなり面倒だった。
ウラガ以外のメンバーは、モグラに専念して、攻撃される前。つまり初めて地面から顔を出した瞬間に、一撃で仕留めるよう心がけた。
俺も【土魔法】で作った振動する砂ナイフで、確実にモグラを切り捨てていく。
何発か被弾したが、【火魔法】によりすぐに熱を中和することで、ダメージの低下を図ることができた。
やはり魔力の消耗が激しいようで、50階層をクリアしたウラガとシズクは、若干魔力切れになりかけていた。
まだ時間的には昼すぎなのだが、ここは無理せず、休憩することにした。俺は【光魔法】により魔力をウラガに譲渡して、多少の回復を促した。そうしないと、女性陣の怪我を治すためにウラガが【光魔法】を使えないのだ。
こうしてウラガとシズクの活躍によりなんとか50階層までクリア出来た。
「やっと50階層クリアか。何階層まであるんだろう。」
ダンジョンの成長はすでに緩やかなものに変化しているはずだが、先が計算出来ないと、精神的に疲れるんだがなぁ。とテルはこれから先のことに頭を悩ますのだった。
やっと50階層まで来ました。
男の料理回。イメージの確保のためとはいえ・・・。ふぅ。
50階層は、スパっと切っちゃいました。話が進まないので。
テル君はいつも考えすぎですね。何階層まであるのか。作者ですら適当に計算しているというのに。
ということで、次回は51階層以降の話。