結構、悔しかったんだな。
地下46階層の話。
結局、ウラガは多層式の【大盾】を完成することは無かった。
「イメージがなぁ。今度、パイの作り方を教えてくれよ。」
イメージが魔法の発言に大きく影響を与える世界にとって、料理ができないウラガにとって、多層式を作るというのが、なかなかイメージしにくいそうだ。
そしてそれを学ぶために、テルにパイの作り方を聞いてきている。
マチョな男が並んでエプロン姿で料理・・・絵面がすごい。
そして47階層。
「数が増えてますね。」
「まぁ普通だな。」
「シズクー大丈夫か??」
「ピー。」
安全地帯から見える景色は、相変わらずだだっ広い荒野だ。所々草が生えているが、基本は茶色い土で覆われている。そんなフロアの空中には、赤いシャボン玉がふわふわ飛んでいる。その数が、増えているのだ。
そして【大盾】に水の付与を与えているシズクは、結構お疲れのようだ。鳴き声が弱々しい。
だがこればかりは、ユキにも難しい。魔力に練り込んだり、表面に膜のようにするなど方法はいくらかあるが、【大盾】を発動するウラガの魔力との親和性が必要だ。
ただ、【大盾】の表面に、お面のように氷の膜を貼るくらいなら、ユキでも出来る。だがそんなことをしたら、【大盾】が重くなり、ウラガが動けなくなるだろう。
それよりも気をつけたいのが魔獣だ。出るとしたらこの階層からだろう。
俺は皆に注意を促してから、進んでいく。
俺たちはいつもより足早に進んで行く。荒野なので障害物はほどんど無く、【地形把握】で調べたゴールへまっすぐに進んでいく。
「お。来たか。って、早いな。」
俺が【周辺把握】を発動していると、敵の反応がした。だがその反応の移動速度がとても早い。
「地面の中。数1、距離100、あと10秒。」
猛スピードで地中を移動してくる敵に対して、【空間把握】でより正確に敵を把握する。
「もぐらだ。」
俺がそう行ってからすぐに、【大盾】の内側の地面から、もぐらが一匹出てきた。
もぐらと言っても、地面から出ているのは50cmはありそうだ。めちゃくちゃでかい。
「攻撃来ます!」
グラスが【危険予知】で攻撃の発動を先んじて察知する。いや。見ていればわかる。口を大きく開けているのだ。しかも口の中は真っ赤に光っている。
「!俺の後ろへ!」
俺の声にすぐに皆が集まってくる。俺は【土魔法】で大剣を作り出す。それを横にして剣の半分で堤防を作る。それを何本も、もぐらとの間に設置する。一瞬で、ちょっとした障害物が出来上がる。
そこへ、もぐらが口から赤いヘドロのようなものを吐き出した。今、空に浮かんでいる赤いシャボン玉が割れた後に残る、熱の塊と同じだ。それをつばでも飛ばすかのように、ペペペと俺達へと投げつけてくる。
だが土の剣でなんちゃって盾に防がれて、俺達へは届かない。だがその赤い唾液に触れた剣は、あっという間に溶岩へと姿を変えていた。もし直撃していたら、大火傷では済まなかっただろう。
「せい!」
アンが俺の創りだした土の大剣を一本引っこ抜いて、もぐらへと放り投げる。アンの怪力によってゴオ!っと空気すら裂くような速度で剣が飛んで行くが、もぐらは地面へと逃げこみ、難なく避ける。
「もぐらたたきゲームだな。」
俺はそんな印象を受けた。ただし、敵が早いのでなかなか当たらないのが面倒だ。
その後も、地面を移動して出てきては、熱の塊である唾液をペペペと飛ばしてくる。汚い。
「どうしましょう。私の火魔法じゃぁ、ダメージ与えられそうにないし、逃げられる。」
「アタイの斧も、投げた剣も間に合わないよ。」
「俺は【大盾】に、かかりっきりだ。」
「私のー出番―。」
グラス、アン、ウラガがお手上げの状態で、クルスは自身があるようだ。
出てきたもぐらに対して、見えない【風魔法】の刃をぶつける。
ブシャ!
もぐらに直撃して、深いキズを追わせることはできたようだが。もぐらはまだ死んでいない。また地面へと潜ってしまった。
その後は、地面から出るのはほんの一瞬で、クルスが的を絞り、魔法を発動するのが間に合わない。
「もー。一撃でー仕留めるべきー。」
クルスが悔しそうにしている。最初から力を込めて、一撃で倒すべきだったと公開しているのだ。
「ほんじゃ、俺が手伝うよ。」
俺は【土魔法】で大量の短剣を作り出す。ちょっと魔力がもったいないが、小さいので意外と魔力は食わない。
俺の創りだした小型ナイフが、地面のあちこちへと散らばる。
俺は手に一本の土ナイフを持ち、【空間魔法】の準備をする。【空間把握】も併用して、もぐらの位置を完全につかむ。
そして、もぐらが地面から出てくる少し前に、上空に向かって短剣を投げる。
もぐらが地面から出てきた瞬間、もぐらが触れている土の短剣と、空中にある短剣の場所を入れ替える。
一気に空中に放り出されたもぐらは、訳がわからないという顔をしている。というか目はないので、表情は想像だ。
「ん。ありがとー。」
俺の創りだしたチャンスをクルスは無駄にせず、力を込めた【風魔法】で、こんどこそ、もぐらを切り飛ばす。
スパン!
という音が似合いそう切り口で、体が2つに分かれている。
「結構、悔しかったんだな。」
クルスの力の入れように、俺達は怖くなった。もしクルスを怒らせれば、先ほどの風の刃が飛んでくる。・・・確実に死ぬ。
などと、敵がいなくなったことで余裕ができた俺達は、無駄口を叩いている。
もうスピードを上げるのは、諦めました。無理に上げ過ぎると、内容が薄くなりそう。文章力が上がれば、そのうち早くなるはず!
テルくんは、結構無茶をしますね。かなりの魔力とスキルを複数同時使用するので、疲れるはずです。でも時間を優先したのでしょう。クルスは意外と負けず嫌いですね。
次回は46階層以降の話の予定。