仕掛けは単純なのに、時間だけは食うよな。
43,44階層の話。
二手に別れての43階攻略は、上手く行った。敵が弱いだけで、精霊や神獣を介した遠距離の通信手段を駆使することで、怪我もなかったし、スムーズに終われた。
それでも合計4時間はかかってしまった。
ユキとシズクは、離れ離れだった時間が寂しかったのか、俺とウラガに出会った時に、飛びついてきた。なんか愛されてるなぁと実感する瞬間だった。
ユキには一番さみしい思いをさせたので、いっぱいナデナデ、モフモフしておいた。キュ♪と鳴いて嬉しそうだった。ありがとうな。
44階層前に昼食を取り、一息ついた。
やってきた44階層。そこには、一本の松明が置かれていた。数字も何も無い。
「??この松明をどうしろっていうんだ?」
部屋自体はダンジョンがほんのり光っているので、暗くはない。明かり用では無いらしい。そしてこのステージは数字を追うのがテーマっぽいので、これで火をつけるのだろう。
「火をつけると思うんだけど、肝心の灯す場所はどこだよ。」
「とりあえず、持って行きましょう」
「そうね。とりあえず今まで通り、ゴールの確認からでしょうね。」
ひとまず俺たちは松明を持って、先へと進むことにした。【地形把握】によると、3km四方で大きさは変わっていない。ゴールまで迷わずに進む。
そしてゴールには、火の壁で塞がれ、火の文字で「/20」と書かれていた。今までの経験から、単純に1から数字を増やすだけで良さそうだ。
「数字の順番はわかったけど、灯す場所がなぁ。」
「「「うーーん。」」」
「とりあえず、この辺りで手分けして探すか。」
俺たちはゴール付近で、それらしいところは無いか探し始める。そして2分もしない間に、声が上がった。
「見つけましたよ!来てください!」
グラスの声に俺たちは駆け寄って行く。グラスは壁の一箇所を指差している。
そこには、本当に薄っすらと壁が凹んでおり、数字の1が書かれていた。厚みにして1cmも無いだろう。凸凹している壁なので、パット見では気づけない。
「とりあえず、火を付けるか。」
グラスが【火魔法】でその窪みに対して火を放つと、一瞬数字の1の形に象られるが、すぐに消えてしまった。
「「「???」」」
「!敵が来ます!」
俺たちは攻略法に頭を悩ますが、グラスの【危険予知】によって意識を敵へと向ける。足元から、冷気が一気に吹き出し、アイスマンへと姿を変えた。
そのアイスマンの数がかなり多い。少なくとも30はいるだろう。道の奥の方までアイスマンが湧いている。
俺たちはすぐさまウラガの【大盾】の中に避難して、【大盾】内の敵から倒す。安全地帯を確保した後、魔法で殲滅していった。数が多いが、魔法の範囲攻撃で一網打尽なのだ。
「しかし、どうすりゃ良いんだ?」
「そりゃ、松明じゃね?」
ウラガが零した疑問に対して、俺は一つの可能性を示唆する。どう考えてもこのフロアの鍵は、階段前にあった松明だろう。どういう仕掛けか知らないが、普通の魔法と、松明の炎を区別している気がする。
「とりあえずやってみるか。」
俺は松明を窪みへと突っ込んでみる。すると今度は火が消えること無く、燃え続けた。
「正―解―。」
クルスがパチパチと手を叩いて、俺を褒めてくる。見方によってはバカにされていると誤解しかねないが、きっと褒めているのだろう。クルスは良い子なので。
だがハプニングは起こるものである。正解しても魔獣が出るこのフロアにおいて、下から吹き出した冷気が、俺へと向かってきたのだ。
俺はとっさに後ろへと飛び、回避しようとする。だが、松明までは防ぎきれずに、冷気によって松明の炎が消えたのだ。
「チッ!やっちまった。」
俺は悔しくて舌打ちしながらボヤいていると、嫌なことは連続するようで、先程まで壁に灯っていた火まで消えてしまったのだ。更に壁の火が消えたことで、失敗とダンジョンが判断したのか、更に下から吹き出す冷気がの数が増える。
正解の15体と、失敗の30体。合わせて45体ものアイスマンに囲まれてしまった。
敵は弱いので一体一体は簡単に倒せるが、流石に数が多い。狭いダンジョンの中で、ぎゅうぎゅう詰めで押し寄せてくる。
【大盾】の安全地帯から【火魔法】で溶かそうとするが、前に居たアイスマンでガードするように、後方のアイスマンを溶かしきれなかった。
二発目の【火魔法】を準備する間に、後方のアイスマンが【大盾】へと群がる。アイスマンの体は予想以上に冷たいようで、ウラガの【大盾】が、アイスマンが触れた箇所から凍り始めていた。
俺たちは急いで【火魔法】を放つ。幸い、二発目の【火魔法】で完全に敵を殲滅できた。
「危なかったぁ。」
「テル、怪我はないか?」
「ああ大丈夫だ。だが松明は消えちまった。悪い。」
「怪我が無いなら構わねえよ。」
「どうですよ。それに最初に松明の重要性に気づけてラッキーです。」
「幸―運―。」
「そうね。もし最後の方で松明が消えたら、このフロアいっぱいに魔獣が溢れたでしょうね。」
女性陣が行っていることを俺はすぐに理解した。もし数字の20まで灯した時、運悪く松明の炎が消されたら20箇所で失敗した事になり、最低でも600体のアイスマンに取り囲まれることになる。なので最初である今、松明の重要性に気づけた俺達はラッキーなのだ。
皆からの励ましのおかげで、俺も落ち込まずに済んだ。俺たちは早速スタート地点へと戻ることにした。
最初に松明が置かれていた場所に、消えた松明を掲げると、勝手に火がついた。やはりこの松明が鍵のようだ。
今回は松明が一つしか無いので、攻略には時間がかかった。皆で手分けしてわかりづらい窪みの数字を把握していく。とりわけ、俺とウラガ、そしてグラスが【鷹の目】と【地形把握】を駆使して、くまなく探した。
探すだけでも1時間。それがバラバラの場所にあるので、移動と攻略に4時間もかかって、最初の時間も合わせて合計6時間かかって、ようやく44階層をクリアした。
正直、もうヘトヘトだ。ちょうどダンジョンも夜の時間帯へと移行したので、俺達は夕食を取り、そうそうに寝ることとした。
「明日の45階層で、面倒なエリアは最後だな。仕掛けは単純なのに、時間だけは食うよな。」
俺は明日でこのエリアが終わりだと、自分に言い聞かせて、ストレスで潰れそうになる自分をなだめるのであった。
ただ単に、松明で付けるだけ。それなのにこの文章量。同じような仕掛けなので、読者様が飽きてしまう。話が進まないわけだ。もっと精進せねば。
テル君は、自己暗示をかけて乗り切る作戦のようです。よく聞く「明日行けば、お休み。明日頑張れば、自由。」というやつですね。ダンジョンなので、次の次が、楽かどうかわかりませんが。
次回は45階層以降の話。