どっちみち魔獣が出てくる仕様なのね。
41階層の話。
ウラガの休憩が終わって、41階層へとやってきた。
「また迷路か。面倒だな。」
それまで広大で壁のないフロアが続いていたので、迷路となると、急に狭く感じるのだ。ダンジョンぽいといえば趣があるが、精神的、戦闘面、共に面倒なのだ。
「で、今回はどんな仕掛けかな?」
「どう見ても、あの数字が鍵だろうね。」
アンが指差す先には、炎で象られた数字の1が壁に浮かんでいた。
俺たちはとりあえず数字へと近づいてみる。もちろん【周辺把握】によって索敵は行っている。
「これは、どうすべきなんだ?」
「消しちゃいますか?」
「松明―?」
グラスは消す気満々で、クルスは・・・何かを燃やすための火種にでもするってことなのか??
「とりあえず先へと進んでみるか。」
【地形把握】によって、部屋全体の構造を調べる。2km四方と少し狭めだ。これはありがたい。
俺たちは、炎作られた1という数字には何もせず、まずはゴールを目指すことにした。
不思議なことに、この階層では魔獣が出てこなかった。そのおかげで、ゴールへと一直線に進んでいく。
「あ、あそこに7があるよ。」
「こっちは2だな。」
と、途中で他の数字も発見したが、それも無視して、とりあえずゴールへとやってきた。
42階層への階段を見つけて、階段へと入ろうとした時、ゴオ!っと、階段の前に炎の壁が発生した。
「あっぶねー」
ウラガは後ろへと飛び退いて、間一髪火の壁に突っ込まずに済んだ。【大盾】は安全地帯ということもあり、解除していたので、本当に危なかった。
「うーん。こりゃ結界みたいなもんだな。」
「生活のダンジョンで見たやつに似てますね。」
「あー。数字―浮かんできたー。」
グラスが言っているのは、魔族の国で攻略した生活の女神さまのダンジョンで、上層階へと上がる階段の前に張られていた結界だろう。それと似た様に、条件をクリアしないと炎の壁は消えないだろう。
そしてクルスが指摘するように、階段の壁の前に現れた炎の壁の上に、これまた炎で作られた数字が浮かび上がったのだ。
「見づらい。」
炎の壁の上に、炎の文字なのだ。そりゃ読みにくい。
「 /10かな?」
「つまり、最初にみた炎の数字は消すのが正解だったみたいだな。」
「はー。戻るのかぁ。」
俺たちは元来た道をすぐさま引き返した。そして歩きながら考察する。
「順番は適当で良いのか?」
「普通は数字の順番通りだろ?」
「でも順不同なら、楽じゃね?」
「ダンジョンが、そんな簡単かしらね?」
俺の楽観的観測は、アンによってバッサリと切り捨てられる。
「とりあえず、一番近かった2の数字を消してみようよ!」
うなだれる俺を哀れんだのか、グラスが提案してくれた。いい子だ。
俺たちは、ゴールから一番近い2の数字の前までやってきた。
壁には縦横20cmの大きさの2という数字が、炎を浮かび上がっていた。
「ウラガ。とりあえず【大盾】を。」
「ほいほい。」
ウラガが【大盾】で俺たちをグルっと囲むように通路の前後を塞ぐ。
それを確認してから、【土魔法】で土をかけて消してみる。
炎は一瞬だけ消えた。だがすぐさま再び燃え始めた。
「どうやら順番通りじゃないとダメみたいね。」
アンが、ほらね。と言わんばかりの声で、そう結論づけた。俺の淡い期待は、結果をもって綺麗さっぱり否定されたのだ。
「え!?皆さん注意して!なにか来ます!」
グラスの【危険予知】が発動したようで、とりあえず俺たちは何が起こっても良いように身構える。
すると、突然地面から火が噴き出し、みるみる人の形へと変化していく。
ファイアーマンが突然現れる。しかもウラガが貼った【大盾】の内側にだ。そしてファイアーマンは一体ではなく、地面から次々に炎が吹き出して、現れてくる。
「とりあえず、盾の中のやつからだ!」
俺の声に、驚きから引き戻された皆が、戦闘態勢へと入る。俺つグラスが【土魔法】でファイアーマンの火を消す。そして消えきらなかった敵は、俺が剣で切り飛ばす。が、先の階層で出会ったファイアーマンとは少し違い、実態が炎なので、剣では切れないようだ。炎が揺らめいて、ダメージが入らない。
ダイチが俺のミスをフォローするように、【土魔法】を発生させて、完全に消火する。
「チッ。物理攻撃は効かないか。」
「まかせてー」
そういうと、クルスが【風魔法】を使って、【大盾】の外側で俺たちへと迫ってきていたファイアーマンを一瞬で消し飛ばす。おそらく【風魔法】で空気を抜いたのだろう。酸素が無いので燃え続けられないのだ。
【大盾】の中で空気を抜かなかったのは、俺達が窒息するからだ。ナイスな判断だ。いや、常識か?
「ともあれ、皆無事か?」
「俺は無事。」
「「「私もー」」」
女子は皆でハモって答えた。わかりやすくて良い。
「ダンジョンの罠の一環なのか?順番通りにしないから、敵があふれたとか。」
「どうかね。1番を消すまではわからんさ。」
ダンジョンの先輩であるアンにも、判断はつかないようだ。罠かもしれないし、順番通りでも数字を消すだけで敵が出る仕様なのかもしれない。
俺たちはとりあえず、最初の場所へと戻る。途中、【空間把握】や【周辺把握】、【鷹の目】を使って、数字と場所と記録していく。
それまでマッピングをしてこなかった俺達は、初めてのマッピングを体験した。まぁ、【地形把握】等のスキルで、かなり詳細に構造は把握できるので、それを絵に起こすだけなのだが。
そして、最初に戻ってきた俺達は、再びウラガに【大盾】で守られながら、戦闘準備バッチリで1の炎の数字を消した。
今度は、数字が再び燃えることは無かった。
「あ。何か来ます。」
だが魔獣は出てきた。数はかなり少なく、5匹ほどだ。俺たちは【魔法】を駆使して、あっという間に退治した。
「どっちみち魔獣が出てくる仕様なのね。」
火を消すだけでも魔獣は出る。順番を間違えれば、ペナルティーとして出現する魔獣の数が増える。さすがダンジョン。優しくはなかった。
41階層は、火を使った仕掛け部屋にしました。一気に難易度が下がった気がしますが、でもダンジョン内をぐるぐる廻るというのは、精神的に疲れると思うのです。深くなれば、なおさらです。
テルくんは、慎重すぎましたね。最初から消していれば良かったのに。なのに一方ではズボラ。順不同で行きたいなんてね。それじゃぁ数字の意味が無いよ。
次回は、41階層以降の話の予定。