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どうしたんだよ。皆、暗い顔して。

地下31階層の話。


双頭の鳥の魔獣は、俺の土の大剣をヒラリとかわした。その巨体に似合わず、機動力もあり、すばしっこいやつだ。大きな翼を羽ばたかせながら、さらに俺達から距離をとる。どんどん高くなっていき、俺の攻撃はもう届かない。


「俺じゃぁもう届かないな。」

「私も―魔法放ってもー逃げられそうー」

「グラスは飛べないのか?」

「【竜化】のこと?あれ、結構大変なんだよ。しかも気絶するかも。」


遠距離攻撃ができる俺とクルスは、魔法が届かない。そして【竜化】で羽を巨大化できるグラスも、一度使えばその後は疲れて身動きが取れなくなる。攻撃手段が無くなった。


だが鳥の方は、攻撃の手を緩めない。その双頭の口から、ファイアーボールとフリーズボールを発射する。発射というが、もう落とすと言った方が正しいくらいだ。


「もっと集まって、座ってくれ。」


ウラガがそう言うので、俺達はウラガの周りに集まって、座りこむ。ウラガは【大盾】をドーム状に曲げ、地面の上に覆いかぶせるようにする。


ドドーン!

ウラガの【大盾】に直撃した二つのボールが弾けて、火炎と寒波が荒れ狂う。


「逃げるしかないな。」


俺としては本当倒してしまいたかったのだが、もうどうにもならない。カッコよく言えば、戦略的撤退だ。


場所としては31階層の中央にほど近い。30階層に戻ろうが、32階層へ行こうが、差は無いだろう。


「先に進もう。このまままっすぐ行けば階段がある。」

「大丈夫なのか?」

「なんとかするよ。」


俺達は鳥の攻撃の合間を見計らって、一気に駆けだした。いつもかけている【生活魔法】によって、体力や筋力の底上げがなされているので、普通の人に比べて走るのは格段に早い。


だがそれでも鳥は空を飛ぶし、俺達より早く移動できる。鳥は俺達を追い越してから振り返り、再び二つのボールを放とうと魔力を込め始める。


「ユキ!いくぞ!」

「キュー!」


俺とユキは【水魔法】と【氷魔法】を放つ。鳥目掛けて、大量の雪が発生して、俺達と鳥の間に、雪の壁を作り出した。


鳥も俺達の攻撃が届かないとは分かっていながらも、万が一を考えて上空へと避難しているようだ。


俺達はその間も足を止めることなく、ひたすら走る。雪の弾幕から出てきた俺達を見つけた鳥が、再び俺達の方へと急降下してくる。


どうやら鳥の方も、じれったくなったようだ。爪やくちばしによる直接攻撃に切り替えようとする。


「これを待ってたぜ!ウラガ!ギリギリまで引きつけろよ!」

「無茶言いやがって!」


さすがのウラガも俺の指示に、困惑していると思ったが、顔は笑っている。どうやらウラガも反撃したかったようだ。


草原を走る俺達に向かって、巨大な鳥が頭上から襲いかかってきた。まるで、たかが地上のネズミを両足で捕まえるかのように、もの凄い速度のまま通り過ぎようとする。


「オラ!!」


ウラガが【大盾】を縦に長く展開し、地面へと【大盾】を突き刺して固定する。鳥は突然目の前に現れた巨大な盾を回避する事もできず、勢いそのままに激突した。


ドシーン。


そんな轟音を発しながら激突した鳥の勢いは、盾を展開するウラガに一気にのしかかる。


「グッ!」


ウラガが歯を食いしばってなんとか鳥の激突に耐えようとするが、辛そうなのは明らかだ。俺ンはそうなる事を予想していたので、【ステップ】を駆使して、直ぐにウラガの元へと駆け寄って、背中を押す。


ぶつかった衝撃と、鳥の重みを二人がかりで抑え込む。鳥は、脳震盪のうしんとうでも起こしたのか、そのままズルズルと【大盾】に寄り掛かる様に、崩れていった。


ウラガが【大盾】を解除して、俺達は一度距離をとる。離れた俺達を確認したアンが、巨大な2本の斧を持って、鳥へと襲いかかった。


ズン!


という重い音と共に、アンが放った強烈な振り降ろしは、巨大な鳥の頭を二本とも見事に切り飛ばし、地面へと突き刺さっていた。


魔法結晶を取り出して、鳥をそのまま“魔法の袋”へと収納する。


「とりあえず、皆まだ走れるな?先に階段まで行くぞ!」


俺達は休む間もなく、走り続けた。そして30分ほど走る事で階段へと辿りつた。まだ部屋が小さく、草原なので走りやすかったのが良かった。


途中、鳥を二体ほど見掛けたが、それを無視して走り続けた。最後なんて、鳥二羽に背後をとられそうだったのだ。間一髪である。


「はぁはぁ。疲れた―。」

「まったく、むちゃくちゃだな。」

「生きてるのが、奇跡だよ。」

「水―。」

「こんなに走ったのは、何年ぶりかしらね。」


とりあえず、息を整えて水分を補給する。俺はお湯を沸かして、皆にお茶を振る舞った。過度の緊張にさらされたので、精神的なストレスも解消するのが狙いだ。ついでに、罪滅ぼしの意味もある。


「ところで、皆は怪我してないか?」

「俺はちょっと身体を痛めたけど、もう【光魔法】で回復済みだ。」

「あ、鳥のタックルでか。悪かったな、無理させて。」

「そうだな。盾役だから仕方ないけど、もうちょっと作戦立ててくれよなw」


ウラガは俺の指示で、鳥の突撃を一身に受け止めたのだ。【大盾】を地面に刺していたとはいえ、かなりの衝撃だ。当然、身体の節々(ふしぶし)を痛めても不思議ではない。


ウラガは俺がお茶を入れている間に、【光魔法】で回復済みのようだ。


他の仲間は特に怪我はしていないようだ。だが皆、疲れた表情をしている。そして何やら悔しそうだ。


「どうしたんだよ。皆、暗い顔して。」


俺は場を明るくしようと思い、わざと聞いてみた。だが誰も返答してくれない。


だが、もちろん答えは分かっている。攻撃手段が無かった事で、ウラガに無理をさせた事が辛いのだ。自分に何ができたのか、どうすれば遠隔地にいる敵へ攻撃を当てられるのか、それをひたす考えているのだ。


そうして、俺達はしばらくの間、自分のできる事、やるべき事について考え始めるのだった。


結局31階層だけで話が進まない。

いや、これは考える機会の大事な場面。必要なのだ。そうなのだー。

テル君は、少し無理をしていますね。作戦もあってないようなもの。もし鳥が直接攻撃をして来なかったら、どうするつもりだったのでしょう?

次回は、32階層以降の話の予定。

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