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この魚って、さすがに食えないよなぁ。

地下21階層の話。


地下21階層へと挑む朝、アンがこんなことを言ってきた。


「ちょっとハイペースすぎない?」


それはそうだろう。たった4日程度で、ダンジョンの20階層までやってきたのだ。尋常なスピードではない。


「それに、以前より体力がある気がするのよ。なんで?」


アンは筋肉痛に悩まされていたが、今さらながらその体力に疑問を持ったようだ。幽閉してもらっていたのなら、体力も減っているはず。それなのに、一日に20km近くを歩いているのに、全然疲れない。


「まずハイペースなのは、時間が経つほどにダンジョンが深くなるんだよ。そして強力になる。攻略が不可能になる前に、攻略しようと思ってな。」

「ダンジョンってそんなに急激に難しくなったかしら?」

「まぁ、神様が関わる特別なダンジョンだって思ってくれればいいよ。」

「それに、王都に出来たんだ。早く攻略しないと、食糧難になっちまうだろ。」

「そうよね。それなら急がなきゃね。」


ウラガが補足してくれる。ドワーフ国の王都に出来たこのダンジョンは、王都もダンジョンのエリアとして認識しているようで、王都から出る事が出来ない仕組みになっている。アンもその事は分かっているようで、とりあえず急ぐ理由を理解してくれた。


「そんで、体力については俺の【生活魔法】で底上げしてるんだ。楽だろう?」

「いつの間に。というか、【生活魔法】にそんな使い方があるなんてね。」


ウラガの生活魔法の腕は確実に上がっている。朝一で、俺達に【生活魔法】による体力上昇をかけると、半日はもつ。夜は確実に休むので、体力の回復もばっちりなのだ。


アンは【生活魔法】の便利さを改めて実感する。【生活魔法】は、あらゆる魔法を弱く発現できる事に真の魅力があるのだ。だが、それよりも体力上昇の様に、生活に直結する力の方が便利なのだ。


アンの疑問を解消したところで、俺達は地下21階層へとやってきた。


地下21階層は溶岩でできた川が流れていた。目の前の大きな川の先には、通路がある。


俺は先に【地形把握】と【鷹の目】を使って、21階層の全体像を把握しようとする。


この階層は、川が何度も蛇行するようにして流れている。なので、川を何度も越えて地面を歩くか、ずっと溶岩の川を下るしかなさそうだ。


「懐かしいなぁ。水のダンジョンを思い出すよ。」

「あれは面白かったな。うぉーたーすらいだーっだったけ?何回も同じ所まわったりしたよなw」


俺とウラガはトレーネ湖で経験した最初のダンジョンを思い出していた。しかしあれは水だったが、今度は溶岩だ。どう見ても泳げる物ではない。


「どうやって進むの?」

「まほうー?」


トレーネ湖では、偶然拾った樽を船代わりにして、水路を移動した。だが今回は都合の良い乗り物は見当たらない。


「普通の土の船だと、熱くなって座って垂れないし、そのうち溶けそうだよなぁ。」

「・・・付与とか?」

「付与だけでもなぁ。何かもう一つ欲しい。」


俺達は何かないかと必死に考える。部屋が乾燥しているのか、考えていると無性に喉が渇いてきたので、俺は水筒の水を一口飲む。キンキンに冷えており、とても美味しい。


「おぉ!!水筒だよ。忘れてた!」


俺は自分が作った水筒の事をすっかり忘れていた。この水筒は中を真空にしているので、断熱効果がとても高い。この方法を利用して船を作れば、溶岩の暑さをなんとか凌げるのではないだろうか。


俺達はさっそく船を作り始める。と言っても、ダイチとウラガが【土魔法】で船を作り、中を空気の層を作るために、中を空洞にする。その土の船をさらに【土魔法】で出来る限り圧縮して硬くする。そして、穴を開けたところからクルスが【風魔法】で空気を抜けば出来上がりだ。


出来上がった船は。お風呂のバスタブを大きくしたかのような、船というより箱だった。とりあえず、試作という意味も込めて、簡単な形からだ。


俺?俺はほら、【オール・フォー・ソード】のせいで、そんな大きな物は剣以外作れない。水筒作る時だって、剣と無理やり関連付けて、めちゃくちゃ時間かけたんだぞ。だから、船を作る監督をしていた。必要だよね、指示する人って。


出来上がった船に、今度はアンが付与の紋章を彫って行く。俺達が持っている暑さ対策用の袋と同じ文様を、船の手すりの部分に何か所も刻んでいく。その刻んだ紋章の上に、ダンジョンの中で大量に拾った、火の魔法結晶を乗せていく。


後は、俺が魔力を船全体に注いで完成だ。俺の魔力が、淡い光を伴いながら船へと吸収されたかと思うと、船の側面がどんどん冷たくなっていく。


「ちょっと指向性ももたせてみたの。どうかしら。」


さすが付与のプロである。船の外側の温度をより吸収するように、指向性を持たせたらしい。


「凄いよアン。後はこれを溶岩の川に浮かべるだけだな。」

「なら、私が持つよ。」


そう言うと、アンは両手の斧を地面へと刺して、おもむろに巨大な箱舟に手をかける。すると、見るからに重そうな箱舟がゆっくりと地面から浮かび上がり、アンがトコトコと歩いて、ゆっくりと溶岩の川へと沈めていった。


溶岩の川に船が沈むと、ジュワアという音と共に、赤い溶岩が、船の周りだけ黒く変色し始めた。冷まされて、石へと戻っているのだ。


「急いで乗ろう。」


アンと後退して、俺は船を支える。だが意外と船は流れていこうとするので、【遠隔操作】も発動させて、なんとか船を維持する。


その間に、アンが自分の斧を拾い上げ、次々に船へと乗り込んだ。最後に俺も乗り込む。


「おっと。意外と揺れるな。」

「熱くは・・・ねえな。付与が効いてるんだな。」

「溶岩の川を下るなんて、想像もしてませんでした。」

「いい経験―。」

「なんとかなったみたいね。」

「あぁ。皆のおかげだな。」


というか、俺とグラス以外のおかげだろうか。いや、グラスはモノリスのダイチに魔力を渡していた。俺は船に魔力を少し貯めただけ。俺が一番何もしてない。


「ところで、どうやって方向転換するんだ?」


俺は今さらながら大変な事に気がついた。オールを準備していなかったのだ。


「ふふふ。そう言うと思って、ダイチと一緒に作っといたぜ。」

「私が気付いたんですよ!」


どうやらグラスがオールの必要性に最初に気付いて、ダイチとウラガに作ってもらったようだ。ウラガの“魔法の袋”の中には、長さが2mはありそうな、立派なオールが数本入っているらしい。どうやら、溶岩で溶ける可能性も考えて、複数用意した様だ。


これで、一番何もしていなったのは俺だと確定した。正直、凹む。


適材適所だと自分に喝を入れた俺は、【周辺把握】を利用して、魔獣を探す。すると直ぐに反応があった。


「真下から何か来る!」


俺がそう言って、しばらく経った後箱舟がガツンと大きく揺さぶられる。魔獣がぶつかってきたようだ。


「まさか溶岩の中を泳いで!?」


俺とウラガが【空間把握】によって、正確に周りを知覚する。すると船の後方、溶岩の中に体長80cm程の巨大な魚影を捕えた。


俺達の船を下から叩いた後、後ろ側へ移動した様だ。俺とウラガは土のオールで、船の後方を突きまわす。


【空間把握】によって正確に場所も分かる俺達の攻撃が、魚を的確に叩く。すると魚は嫌がったのが、船から距離をとる。


そして魚は、溶岩の川から空中へと跳ねる。


色は全身黒。おそらく【火魔法】によって、自分の体に触れる熱を吸収しているのだろう。なので溶岩が冷えて黒く見えているようだ。


そんな分析をしていると、空中に跳ねていた魚の口が大きく開かれる。


「何か来ます!ウラガさん!」

「おう!任せろ!」


グラスの【危険予知】を聞いたウラガが、オールを手放して、“土の一帖”を装備して【大盾】を展開した。土属性を帯びて、一際硬くなった【大盾】が俺達の箱舟の後方をスッポリ覆う形で展開される。


【大盾】が展開されるのと同時に、魚の口の中から、真っ赤な野球ボール大の球体が放たれた。


その赤い球体はウラガの【大盾】に衝突すると、一気に弾けた。


ドゴーン!!!


赤い球体の正体は、純粋な熱だった。その熱が空気を一気に膨張させて、爆発を引き起こす。


「クッ。シズク!」

「ピ!」


ウラガがその衝撃に耐えながら、スライムであるシズクに救援を求める。シズクは名前を呼ばれただけでウラガの考えを理解して、【大盾】へと【水魔法】の付与を与える。


ウラガの【大盾】は、球体から発せられた熱によって、溶け始めていたのだ。それを【水魔法】によって、全体を濡らして、気化熱も利用して熱を遮断する。


【水魔法】によって発生した水が一気に水蒸気となって、辺り一面は真っ白になる。魚の姿も見えない。


だがそこで俺は動く。【土魔法】によって、大剣を一本生成して、それを【遠隔操作】で一気に魚目掛けて投げつけたのだ。


魚は赤い球体を放った後、溶岩の中へと避難している。粘度の高い溶岩が爆発の衝撃を防いでいるようだ。魚は無傷で、俺達へと追撃を食らわそうと接近していた。


普通なら魚の居場所は、濃い水蒸気の幕と、溶岩のせいで分からないが、俺には【空間把握】がある。正確に土の大剣が魚へと突き刺さった。


俺は魚が刺さったままの大剣を【遠隔操作】で近くの陸へと持っていく。魚はその一撃で絶命した様だ。俺は魚が倒れた事を確認してから、船へと持ってきた。


「お!魔法結晶の中サイズじゃないか!」

「本当だ!そりゃあれだけの熱を貯め込めたはずだな。」


魚の中から出てきた魔法結晶は、中サイズ。品質は普通だった。だが中サイズでもなかなかの物だ。蓄えられる熱量も持続時間も、小サイズとは比べ物にならない。さすが、溶岩の中を泳いでいただけの事はある。


「この魚って、さすがに食えないよなぁ。」


俺の発現に、皆がドン引きする。


だって久しぶりの魚だよ!?しかも新鮮だよ!?そりゃ溶岩の中を泳いでたりする、普通の魚とは違うけど。ダンジョンの中は食料の確保も難しいんだよ!?


俺はどうしても魚を諦められず、冷めるのを待ってから“魔法の袋”へと入れておいた。


皆は再び俺の事を、可哀そうな目、奇妙な人を見る目を向けてくるが、俺は気にしない。元日本人にとって、新鮮な魚は食べてみる価値があるものなのだ。


新しいステージ、地下21階層。

どうでしたか?少し丁寧に書いてみました。溶岩を泳ぐ魚。ポピュラーですが、その攻撃は苛烈。ウラガ君もピンチになってました。

次回からは、またスピードを上げようかと思ってます。

テル君は魚を食べる気です。おそらく昼ごはんに出てくるでしょう。どうしよう。食べれる事になるのでしょうか。

次回は21階層の続きの話の予定。

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