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・・・もしかして、壁の明かり様の火かもしれない。

15階層と、16階層の話。



ドワーフの団員を助けた翌日、ダンジョンに入って3日目、俺達は15階へとやってきた。


15階層の人魂の数は、尋常ではなかった。1m四方に一個はありそうで、さらに動きも早い。避けて通る事は出来ないだろう。


「俺の土ナイフでもちょっと厳しいかもな。魔力ももたないかもしれない。クルス、お願いできるか?」

「あ、待って下さい。私にやらせて貰えますか?」


申し出てきたのはグラスだった。彼女は、モノリスのダイチと共に、俺達の先頭へと立つ。


「いくよ、ダイチ。」

「ガッガ!」


二人は息を合わせるようにして、【土魔法】を発動させる。発現したのは、砂嵐よりも粒の大きい、小石の嵐だった。小石は人魂へと数発ぶつかると、そのまま人魂を消し去って行く。


魔法の効果範囲も申し分なく、目の前の通路から先、数十メートルの人魂は完全に消滅していた。その結果に満足したのか、グラスはドヤ顔だ。


「おぉ!グラスも【土魔法】の威力が上がってるんだな。それに精度もなかなか良いじゃないか。」

「えへへ。ダイチと一緒にトレーニングしてたんです。」


ドヤ顔を続けていグラスを俺は素直に褒めた。数か月前まで【土魔法】を使えなかった人間だとは到底思えないほどの威力だ。それも、土の聖獣であるダイチの指導があるのなら、短時間での【土魔法】の上達も頷ける。


俺達はクルスを先頭に、ダンジョンを進んでいく。火ネズミは俺とアンが対処する事になった。


アンは、両手に巨大で超重量の斧を持っている。それをぶつけない様に、巧みに操って、小さな魔獣である火ネズミをどんどん倒していった。まるで新体操のバトントワリングでもしているかのような、一種の美しさまで感じられる。


だがその美しさとは打って変わって、威力は半端じゃない。火ネズミの骨を無視したかのように、スパッと首が飛んでいる。彼女の間合いに入るのは、大変危険だ。俺達は自然とアンから距離をとってしまう。


怯える俺達とは対照的に、アンは楽しそうだ。教会の地下でずっと静かに幽閉してもらっていたので、運動不足だったようだ。そして昔の冒険者時代を思い出しているのだろうか、両手斧の使い方を思い出すように、一振り一振りに力と思いがこもっている。


15階層も中場に差し掛かろうかというところで、グラスがギブアップした。


「すみません。もう魔力が無いです。」

「あー。よくもった方だよ。でも、もうちょっと節約するような魔法を学ぼうな。」

「はい。面目ありません。」


もともと魔力が少ない獣人であるクルス。そんな彼女が、ダイチと一緒にとはいえ、広範囲の魔法を連発すれば魔力切れは当然の結果だろう。


グラスの本来の魔法の使い道は、自分の体に魔法を付与したり、まとわせる事だ。そうする事で、魔力の消費を抑える事が出来る。そして、ここぞと言う時に大火力の魔法を発動するのだ。


ギブアップしたグラスの代わりに、クルスが魔法を担当する。


彼女は最初、魔力の消費が少ない【火魔法】で人魂を消し飛ばそうと考えた。ここは火のダンジョンであり、【火魔法】の消費魔力は少なくて済むのだ。


そしてテニスボール大のファイアーボールを人魂目掛けて、無数に飛ばしていくのだが、ここで大きな誤算が起こった。


人魂が巨大化したのだ。


元々火でできている人魂なので、ファイアーボールの炎を吸収してしまったらしい。これにはクルスも苦笑いを浮かべていた。自分の攻撃が、相手に塩を送る形になったのだ。


「それならーこれ―。」


次にクルスは【風魔法】を発動させる。無数の風の刃が人魂へと襲いかかる。だがなかなか人魂が消滅しない。


よく観察してみると、火でできている人魂は風の力を借りて、一瞬大きく燃え上がっているのだ。【風魔法】の一部を吸収して燃え上がった人魂を、残りの風の刃で完全に切り飛ばすのは困難だった。


それでも何発か当てて、ようやく消滅させることが出来た。


「ちょっと効率悪いね。」

「むー。私とはー相性最悪―。」


俺は皆の声を代弁してクルスへと話かける。クルスもそれを自覚しているようだ。


クルスは他に【水魔法】も使えるのだが、この環境下では【水魔法】は効果的だが、魔力の消費が激しすぎる。幾ら魔力の多い魔族のクルスでも、直ぐにすっからかんだろう。


そしてクルスは【土魔法】が大の苦手だ。使えなくはないが、不安定過ぎて使い物にならない。クルスが言うように、相性が最悪だ。


結局、クルスも後ろに下がり、俺が人魂掃除をする事になった。


俺は巨大な土の大剣を3本作りだした。全長1.7mはあるだろうか。人が持つには大きすぎるサイズだ。それを【遠隔操作】して、高速で回転させる。それを壁の様に並べて、毛べ一面を覆うようにして、進めていく。


高速回転する土の大剣に当たった人魂は、まるでミキサーにでも掛けられたように、切り刻まれて、空気へと溶けていった。小さなナイフを当てるより、よっぽど楽だ。


と、色々な発見を経て、俺達は15階を攻略した。15階を攻略する頃には、グラスの魔力も少しは回復していて、顔色も元通りだった。


16階層へと続く階段で小休憩をとった俺達は、さっさと16階層へとやってきた。


16階層で待ちうけていたのは、炎を使った罠の数々だった。


16階は相変わらずの迷路で、壁には明かり様なのか無数の蝋燭ろうそく大の火が灯されていた。そんな幻想的な16階層だが、罠が多様でなかなか先へと進めない。


まず俺達が遭遇したのは、火の壁だった。壁一面の火の壁が俺達へと襲いかかってきたが、ウラガの【大盾】のおかげで事なきを得た。ウラガは【大盾】に薄く【水魔法】で付与しているらしい。スライムのシズクが魔法を担当している。連携がうまく取れているようだ。


「スイッチとかあったか?俺は気付かなかったけど。」

「俺も何もしてないぞ。壁も触ってないし。」

「私もです。床が凹んだりもしませんでした。」

「「私もー。」」


全員が、身に覚えが無かった。どうやて罠が作動したのか分からない。


その後も俺達は慎重に道を進んでいくが、罠は勝手に発動する。


炎のむちに、火の雨、火の床に、魔法結晶の吸収が追いつかない程の急激な気温上昇。


それらをグラスの【危険予知】とウラガの【大盾】によって、なんとかクリアしていくがやはり罠の発動条件がわからない。


さらに罠だけでなく、魔獣も出てくる。この階で出てきた魔獣は火の鳥だった。見た目はカラスくらいの大きさで、色は炎の様に真っ赤だ。それが俺達を見つけると、全身から火を噴き出して飛んでくる。それが平均5羽以上、まとまって襲いかかってくるのだ。


見た目はもの凄く美しい。小説や映画に出てくる火の鳥そのものだ。だがそれが敵に回ったらとても面倒だった。狭いダンジョンの中だが、かなりの速度で飛びまわる。そして自分の燃えている羽を飛ばして攻撃してくる。


やり辛いが、なんとかする。ウラガが飛んでくる火の鳥が俺達を通り抜ける直前で【大盾】を発動させ、【大盾】に衝突させる。その衝突により怯んだ隙に、倒すのだ。警戒して距離を置く火の鳥は、クルスの【風魔法】か俺の土ナイフで打ち落とす。


結局、俺達は罠の発生条件が分からないまま、16階層を攻略してしまった。17階層へと続く階段で、昼食の冷やし饂飩うどんを食べながら、俺達は意見を交えていく。


「もしかて、罠ってランダムに発生するのか?」

「時間的に、自動でって事か?それにしてはタイミングが良すぎるだろう。」

「だよなぁ。俺達が通った時以外は、罠が発動した音もしないしな。」

「魔獣の仕業でしょうか?」

「見てたけどー違うと思う―。」

「じゃあ何なのかしらね?」

「・・・もしかして、壁の明かり様の火かもしれない。」


これまでのダンジョンは、壁が自発的にうっすら光る事で、明かり用の松明などは普段なら必要ない。あえて暗くなっている階層には、分かるはずなのだ。


それなのに16階層は、火が灯っていなくとも明るいだろう。最初は飾りというか、意味も無い物だと思っていた。だが意味の無い物がダンジョンにあるだろうか?何かあると考えるのが普通だ。


そして俺の予想だが、この火はサーモセンサーの様なものだと思われる。熱源の移動を感知しているのだろう。火のダンジョンではあり得る話だ。


俺はその仕組みを仲間へと説明すると、皆も壁の無数の火が怪しいという結論になった。


だが特に解決案は出てこない。俺達は昼食中、ずっと悩みながら過ごす事となった。


相性の話でした。火だけでできた魔獣とクルスは、このダンジョンの中だと相性最悪ですね。通常のフィールドだと【水魔法】で瞬殺なのでしょうが。地形の影響は侮れませんね。

テル君は、やっと答えに辿り着きました。遅いくらいです。いや、最初から疑問には思っていたのかもしれません。どうやって乗り越えるんでしょうか。

次回は地下17階層以下の話の予定。

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