ちょっと自分に酔ってるかも。
王軍との話と、地下12~14階層の話。
俺達は拍手でもって迎えられた。ダンジョンの中、ドワーフの厳つい兵士、総勢15名の視線が、俺達へと注がれる。正直、逃げたい。
「皆さんのお陰で、仲間も無事一命を取り留めました。いくら感謝してもし足りません。有難うございました。」
「「「有難うございました!」」」
一斉に感謝の言葉をかけられる。かなりの声量だ。
「あのお気持ちは分かりましたから、静かにお願いします。魔獣が寄ってきちゃいます。」
「「!!」」
「そうでした。あまりの嬉しさに場所もわきまえず。ささ、こちらへ。」
俺達は彼らの中央へと招かれた。辺りを見渡すと、壁際には先程まで治療していた兵士が寝ころんでいた。しっかりと目を開けて、俺達の事を見ている。
「まだ喉に負担をかけさせないよう、声を出す事を禁じさせてます。申し訳ありません。」
「いえ。そう言う事なら仕方ありません。安静が第一ですから。」
「そう言ってもらえると助かります。ところで、皆さんは王のご紹介だそうですが、なぜダンジョンに?」
「あー。秘密です。王にはきちんと説明してありますから。」
「なにやら訳有りの様ですな。分かりました。理由は聞きません。王の指示もありますが、私達の方からも、皆さんの冒険を手助けさせて下さい。我々と行けば、確実にダンジョンを攻略できますよ。」
そう言って、王軍の団長さんは胸を張る。王軍というだけの事はあり、皆強そうに見えるし、装備も充実している。よほど自信があるようだ。だがそれではダメだ。
「生憎ですが、我々は先を急ぎますので。」
「急がれると言われても・・・ここまで何日かかりました?」
「えーと、今日で三日目です。」
「「「えぇ!!三日!」」」
隊長さんとしては、どれだけ急いでも一日2階層が関の山だと思っていたようだ。たった三日、しかもまだ午前中の時間帯で12階層まで来ているなんて、尋常ではないスピードだ。
「いやはや。皆さんお若いので、油断しました。それほど早くここまで来れるとは。ならば私達では足手まといですな。何か物でも良ければ、お渡ししますが。」
「俺は特にないなぁ。」
「私も無いよ。」
「俺も思いつかねえな。」
「わたしもー」
「あのー。予備の斧があれば一本欲しいのですが。」
アンだけが、欲しい物を提示した。ここで全員が断るよりも、だれか一人でも要求するようほ、団長さんの顔も立つ。しかも予備の斧だ。それほど相手の負担にもならないだろう。っていうか、アンは斧を持っているはずなのだが、必要なのか?
「ございます。今お持ちしますね。おい、予備の斧をくれ。」
団長さんは、仲間のドワーフに声をかけた。魔法使いが着そうなローブをまとったドワーフが、魔法の袋から斧を3本取り出した。
どれも金や銀で取っ手の部分が装飾されているが、そこは実戦用として切れ味も保証している。
「これを貰えますか?」
アンが選んだのは、3本の中でも一番大ぶりなものだった。見ただけでも数十キロはありそうな、金属の塊だ。長さは90cm程、刃渡りだけでも30cm四方はある。小柄なドワーフが持つには、両手で持つしかない、所謂両手斧だ。
「良いですけど、持てますか?」
「もちろんですよ。」
そう言ってアンは片手でその斧を持ち上げた。
「「「えぇえ!!!」」」
ドワーフの王軍の兵士たちは、アンの怪力に心底驚いている。普段鍛えている彼らであっても、片手でなど持てる重さではない。それなのに、アンは重さを感じさせない様な軽い動作で、ブンブンと斧を振り回して、感触を確かめている。
「いやはや。皆さん桁外れの才能をお持ちの様で。」
たぶん俺とウラガの【光魔法】の事も含めているのだろう。習得が困難な【光魔法】を二人も使えて、しかも効果が高い。それだけでも、普通の人より優れた才能が必要だろう。まぁ、俺達の場合は固有能力をフルに使って覚えたんだけどね。
ひとしきり話をした後、少し早いが昼食を御馳走になった。
モノリスのダイチによって【土魔法】で両方の道を塞いで、人魂や火ネズミが侵入して来れない、即席の安全地帯を作りだした。
昼食は、先の階層で獲得したヘビ肉をふんだんに使ったスープだった。スープと言っても、水分はほとんど無く、具だくさんだった。暑い中で、熱い料理を食う。拷問だ。しかもヘビ肉は滋養強壮効果でもあるのだろうか、身体がポカポカしている。それでも料理人の腕が良いのか、美味しいのは美味しかったので文句は無い。しかもここは逃げだせないダンジョンである。食料は命の次に重要なのだ。
あまり長いもできないので、俺達は先へと進む事にした。軍の人達には、俺達がダンジョンをクリアする事。もしクリアしたらダンジョンが消滅する事を伝えておいた。ダンジョンが消滅する事については半信半疑だったが、俺達の言う事なので納得してくれた。そしてそれまで無茶しないように、とも伝えておいた。
彼らと分かれて、少し行ったところでアンが話しかけてきた。
「テルさんって、やっぱり世話好きなんですね。」
「いきなり何言ってんだよ。そんな事無いと思うよ?」
「いや。アンの言うとおり、世話好きだな。っていうかお節介だなw」
「私が地下牢にいた時も、服装や汚れにまで気を使ってくれましたものね。」
ウラガもアンに乗っかって、俺を茶化してくる。確かに、アンが教会の地下牢から地上に出る際に、ウラガに頼んで【生活魔法】のリフレッシュをかけてもらったり、目立たない様にフード付きのマントを貸していた。それを言っているのだ。
「俺としては普通だと思うんだけどなぁ。」
「そこがーテルの良い所―。」
「そうだね。テルさんは優しいもの。」
クルスとグラスまでもが、俺を褒めてくる。普段言われない事なので、、俺もどう対処して良いのか分からず、ただただ顔を赤くして、話を終わらせる事しかできなかった。
そんな俺の評価を聞きながらも、ダンジョンをどんどん進んでいく。まだまだダンジョンの上層なので、厄介な仕掛けや魔獣もいない。俺達は後れを取り戻すようなスピードで、ダンジョンを攻略していった。
12階層は昼過ぎには攻略出来た。先程ドワーフ達と昼食を食べたので、昼飯は無しという事になった。俺達は13階層へと続く階段の中で、水筒への水分補給や、冷房用の魔法結晶を新しいのに入れ替えて、準備を整えるだけだ。
13階層は、人魂が数を増やして、より活発に移動するが、それだけだ。俺の土ナイフは【遠隔操作】もできるし、高速で射出する事もできる。よく動き回る人魂ごとき、取るに足らない存在だ。
「ちょっと自分に酔ってるかも。」
先程、皆から褒められた事が意外と嬉しかったようで、俺も気分がとても良い。自分の力を過信して、“人魂ごとき”とか考えるようになってしまっている。
(いやいやダメだ。慢心して万が一人魂を打ち漏らしたら、さっきのドワーフさんみたいにひどい火傷を負ってします。火傷を負うのが自分ならまだしも、仲間に被害が出たら顔向けできない。気を引き締めないと。)
俺は自分で自分を戒める言葉をかけて、慎重に行動するように心がける。慣れてきた頃が一番危ないとはよく言ったものだ。
俺の慢心によって事故を起こす事も無く、13、14階と無事にクリアした。途中で、火ネズミの革を採集するために、魔法結晶を取り除いて、“魔法の袋”へと収納していたので、いつもより時間がかかってしまった。
少し早いが、15階をクリアするには時間が足りないという微妙な時間だ。なので俺達は15階へと続く階段で早めの夕食をとり、残った時間は、火ネズミの革を剥ぐ作業に当てた。
以外にも火ネズミの毛皮は、表面が大量の極細の体毛で覆われ、つるつるした肌触りだ。気持ちいい。
黙々と作業を進めた後は、いつも通りウラガに【生活魔法】のリフレッシュをかけてもらってから、袋に魔力を込めて、拾った魔法結晶を入れて快適な眠りにつくのだった。
慢心が事故に繋がる。ダンジョンの事故は死に繋がる。軍の人は守ろうとして怪我を負いましたが、事故はいつ起こるか分からないもの。自分を戒めることで減らせるのなら、慢心なんて捨てましょう。という回でした。
テル君も仲間からの言葉に浮かれていましたね。でも自分で冷静さを取り戻してます。これはこの世界で成長した点なのでしょう。過酷な状況がテル君達を精神的にも強くしています。
ダンジョンについては、今後、もう少しだけ詳しく書いて行こうかなぁ。あまりに淡白過ぎる気がする。
次回は15階層以降の話の予定。