暑さ対策を考えた方がいいな。
ダンジョンの3~5階の話。
第二階層は、アンが戦闘のカンを取り戻すのに使った。
すでに200年以上生きており、冒険者の経験もあるアンは、バッサバッサとファイアーマンを狩って行った。
俺達は道案内しながら、魔法結晶を拾うだけ。とっても楽だ。
アンはと言うと、その呪いの副産物である怪力に手こずっていた。普段生活するレベルでの力加減は慣れているのだが、戦闘となるとそうもいかない。
力を入れ過ぎると、金属でできている斧の持ち手すら手の形に凹みそうだし、なにより長いダンジョンだ、スタミナを考えても早いうちに感覚を取り戻さないといけない。
第3階層はまた広くなった。2km四方だ。そしてもっと暑くなってきた。
「みんな。“火の魔法結晶”を配る。一人3つは最低持っててくれ。」
火の魔法結晶を使えば、石に熱を吸収する事もできる。吸熱しないと、俺達は干上がるだろう。それほど暑い。
魔法結晶は内包する魔力を使うために、人が少量の魔力を流して発動する必要がある。長時間使うと魔力の消費量もバカにならないが、俺達は皆魔力が高いので気にする事はない。アンだけが心配だ。
地下3階は相変わらずの迷路だし、壁や床から溶けだす溶岩の量が明らかに多くなっている。水たまりの様に道の半分を塞いでいたりするのだ。溶岩の不気味な赤色が揺らめいている。
ファイアーマンも数を増やしていく。だがまだ俺達にとっては雑魚も同然だ。ここもアンを先頭にバッサバッサと切り倒す事で進む事が出来る。
【地形把握3】とレベルの上がった俺にとって、余裕で感知できる範囲なので、迷わず、最短ルートで地下3階をクリアする。
地下4階へ階段で俺達は休憩する事にした。本当なら階段前にある少し広い安全エリアで昼食をとりたかったのだが、いかんせん暑い。魔獣は来なくとも、その暑さは和らいだりしなかったのだ。
なので俺達は階段の前後を塞いで、火の魔法結晶によって空間全体を冷やしている。俺は事前に用意していたサンドイッチを皆に配って話をする。
「火の魔法結晶の効果はどうだ?」
「あぁ。ちょっと気を使ってないとダメなのが面倒だが、かなり楽だな。無かったらたぶん逆上せてた。」
「私も大丈夫。ちょっと喉が渇くけどね。」
「わかるー。水欲しくなるよねー。」
なるほど、水か。確かに魔法結晶によって自分の周りの空気は冷やせるが、冷やせるのも限度がある。目から入る情報だけでも、暑いと感じて喉も乾いていくのだ。
「ちょっと待ってろ。」
俺はそう言うと一人階段を上がって、第三階層の安全地帯までやってきた。
そう言えば俺の魔力は今日の朝、完全に回復したんだった。久しぶりにユキを召喚する。
俺の心臓の上にある雪の結晶の様な紋様から、光の球となったユキがポワーっと出てきて、ポンっと俺の前に現れる。
「キューーーー!!♡♡♡♡♡♡」
ユキは俺の顔に、そのフカフカの身体を押しつけて、もの凄い愛情表現をしてくる。ユキは氷の精霊なのでとても冷たい。とっても気持ちいい。
「心配掛けたけどもう大丈夫だから。また一緒にいような。」
「キュー♡」
俺はユキを顔から引っぺがして、そう伝えた。今までも俺の中にいたので、俺の心も伝わっていたのだgあ、やはり体を触って、直接言った方が伝わる部分もある。ユキも満足したのか、俺の頭の上の定位置へと移動する。
そして俺は安全地帯へやってきた目的を果たす。水筒作りだ。俺は【土魔法】で陶器の水筒を作って、ストローも土を整形して作りだした。
【水魔法】で水筒の中に水を入れようとするが、なかなか貯まらない。いつも以上に魔力を使って、やっと水筒の中に水を入れるが、すでに温くなっている。
俺にはユキがいるから【氷魔法】を使って中の水を冷やす事は簡単だが、他の人ではそうはいかないだろう。
俺は前世の知識を思い出す。魔法びんの構造は・・・あ、真空だ。真空の層を入れる事で、断熱効果を得ていたはずだ。それを思い出したが、今の俺ではどうにもできない。
俺は人数分の水筒を作って、一端皆の元へと戻る。
「これは水筒って言うんだけど、ちょっとクルス手伝ってくれるか?」
「いいよー。」
「この水筒のは二層構造になってるんだけど、この穴から中の空気を抜けるか?」
俺は二層で作った水筒をクルスへと渡す。側面には水を入れる穴以外に、小さな穴があけられている。
「うーん。ちょっとやってみる―。」
「できたら俺に合図してくれ。」
そうしてクルスは【風魔法】によって、中の空気を抜いて行く。しばらくするとクルスが俺の顔を見たので、俺はすぐさま【土魔法】で穴を塞ぐ。
そして【土魔法】で水筒の強度を上げる。その後は【水魔法】とユキの【氷魔法】で冷たい水と氷を入れて、ストローで蓋をする。もちろんストローも強度を上げている。
「中を真空にすると、断熱効果が断然上がるんだ。これでしばらく水は冷たいままだ。」
「「「へー」」」
俺の言っている事が分かってるのかどうか分からない、生返事を返された。まぁ論より証拠。俺とクルスは残りの水筒を完成させた。
四人とも疑った顔を俺に向けてくるが、そのまま俺達は第4階層へと向かった。
部屋は一気に広くなって4km四方だ。マグマも吹きだす量が増えて、温度もグンと上がっている。
俺達は火の魔法結晶が切れない様に注意しながら、進んでいく。途中、壁から噴き出したマグマが俺に掛りそうになるが、クルスの【危険予知】のおかげで、事なきを得た。だが俺を蹴飛ばさなくても良くないかい?ちょっと痛い。
壁も床もマグマが占める範囲が明らかに増えている。俺達は壁にも触れない様に、慎重に進んでいく。
ちなみに魔獣であるファイアーマンは、尽くアンが倒してくれた。集団で襲ってきても、斧の一振りで一刀両断だし、そのままの勢いで二体、三体、と連続で切って行く。恐ろしい程の力である。
第四階層も2時間ほどで踏破出来た。意外と道が直線的で、遠回りしなかったのが良かった。
「それで、二時間たったけど、水は冷たいだろう?」
「あぁ!こりゃすごいな。氷もまだ溶けてない。」
「空気を抜いただけなのに。さすがテルね。」
「見直したー。」
「私も聞いたことがない技術だわ。どこでこれを?」
アンがちょっとつっこんだ質問をしてくる。俺達が神の使いだと言う事は言ったが、俺が異世界人だとは言っていない。まだ信頼ができていないので、少し早い気がしたので、そのうち話すとだけ言って承知してもらった。
ちなみにウラガは「こりゃ売れるぞ。原価は~【風魔法】を使える人間を雇って~。」等と、商売魂を見せていた。将来、この星一番のお店を持つのが夢のウラガだ。俺の新技術は宝の宝庫なのだ。
地下5階は、もうマグマで埋め尽くされていた。壁も床もマグマで覆われており、所々に飛び石の様な地面が見えるだけだ。
「さすがにここはアンはきついだろ。クルス、頼めるか?」
「まかせてー。」
俺達はクルスを先頭に、ジャンプして飛び石を渡って行く。あまり高くジャンプすると天井のマグマに当たるので、注意が必要だ。
魔獣のファイアーマンはそんなマグマをもろともせず、俺達へと襲いかかってくる。だがクルスの魔法がさく裂する。
「切り裂け。エアカッタ―。」
久しぶりにクルスの魔言を聞いた。魔法はイメージで発動するのだが、魔言があるとイメージが固定化し易く、安定した発動が期待できるし、発動が早いのだ。なのでクルスは好んで魔言を使っている。
当の魔法はと言うと、カマイタチの巨大バージョンだろう。風の刃が遠方にいたファイアーマンを二体、腹から切り裂いた。二体のファイアーマンは上半身をズズズとずらして、バシャっと溶岩に落ちて、その身体を一際燃やして溶けて行った。
「すごい威力だな。さすが巫女だ。」
驚いたのはアンだった。普段眠たそうなクルスからあんなに強力な魔法が繰り出されたら、ギャップもあるだろう。
クルスは久しぶりに魔法を褒められてご満悦だ。フフフンと鼻を擦っている。
さすがにマグマに落ちた魔法結晶は拾えないので、諦めて俺達はどんどん進んでいった。
一度、十字路に出た時に三方からファイアーマンの大群に襲われたが、難なく倒した。クルスの【風魔法】、俺の【土魔法】によるチェーンソー型の砂剣、後はウラガが一つの道を覆う程の【大盾4】を発動させて時間を稼いでいた。いつの間にかレベルアップしたらしい。
接近戦タイプのアンとグラスは、地面がマグマなので手が出せないので、見ているだけだ。
俺は砂剣を【遠隔操作2】でファイアーマンを切り裂いて行く。ゴーレムには程遠い硬さなので、サクサクと切れた。
そんなちょっとした危険もあったが、俺達は第5階層をクリアした。最後はあまりの暑さに、階段へと飛び込んだ。幾ら“火の魔法結晶”で熱を吸収できても、一度に吸収できる量は限界があるのだ。それを越えたら普通に暑い。
「暑さ対策を考えた方がいいな。」
おそらくこのダンジョンはもっと暑くなるだろう。今のうちからきちんと対策を考える必要がある。
ちょうど夕食時になったので、俺は冷製パスタを作って皆に振る舞った。もちろんユキの協力があっての料理だ。
俺体はパスタを食べながら、暑さ対策についてアイデアを出していく。
そして解決策はアンから齎される事となる。
水筒を作るのがメインになってしまった。だってダンジョンをすんなり進めるためには、これくらいのスピードがいるかなって。どうでしょう?
テル君は水筒の出来に満足しているようです。先人の知恵を借りたとしても、再現するのは難しいのです。凄いねテル君。
次回は6階以降の話の予定。