一緒にアンの戦闘スタイルにあったフォーメーションを考えて行こう。
ダンジョンに入りました。
「申し訳ありませんが、彼女と我々だけにして頂けませんか?」
「いや、それは・・・分かりました。」
ドワーフ国の教皇は、さすがに巫女を、隔離している人物と同じ空間に長時間いさせる訳にはいかないと思ったようだ。だが巫女からのお願いである。教皇は悩んだ末に承諾してくれた。
地下の薄暗い牢屋には、俺達以外は、ドワーフの子しかいない。
「俺はテルって言うんだ。冒険者をしてる。」
「冒険者が私に何の様なの?」
「君って、アバランチャ・コンヘラルさん、であってる?」
「そうだけど。」
「ちょっと前から、突然部屋に手紙が投げ込まれたりしなかった?」
「よく知ってるわね。でも読んでないわ。」
神様が言っていた通り、手紙が来ても読んでないそうだ。
「神様って信じてる?」
「神なんて信じないわよ。私がどれだけ祈っても、呪いを解いてくれないのよ!どうやって信じろって言うの。」
どうやら神様を毛嫌いしているようだ。道理で夢にも出て来れないはずだ。
「神の言葉によると、人一人のために神が力を振るう事は、そうそう出来ないそうなんだ。」
「なんで神の言葉をアンタみたいのが知ってるんだ。」
「あんたじゃなくて、テルね。うーん詳しくは言えないけど、ここにいる女性は巫女なんだ。それで少しは納得してくれる?」
「巫女・・・だから教皇も頭が上がらないのね。」
クルスの存在のおかげで、なんとか俺達が神の使いだと信じてもらえたようだ。
「それで何の様なの?」
「君の力を貸してほしい。一緒にダンジョンに挑んで貰いたい。」
「嫌よ。どうして私が。」
「神様がね、アバランチャさんがダンジョンクリアに協力して世界を救った時は、呪いを解くって言ってたよ。」
「さっき人一人に力を振るえないって。」
「でも世界を救うんだよ?それなりの報酬は必要でしょ?ちゃんと確認したから。」
「そう。解いてくれるの。・・・でもダメよ。私が触れると壊れちゃう。」
「呪いの事?」
「そう。私は力が強すぎるの。見てて。」
彼女はそう言って、近くにあった小石をつまむ。そして本の少し力を加えただけで、小石が粉々に砕けてしまった。もの凄い力だ。
「でも力が強いだけなの?」
そう。力が強いんだけなら、コントロールを覚えればいい。呪いとは言えない。
「いいえ。本当の呪いは老いないのよ。これでも200年以上生きているの。」
彼女の姿はどう見ても20そこそこだ。ドワーフの寿命は人族と同等か、少し短い。60近くで死んでしまう。それを軽く3倍は生きているのだ。
「自殺もできないのよ。なぜか生かされる。もう生きていたくないのよ。」
その後詳しく聞いてみたが、ダンジョンに入っても自分が危機になると、誰かが身を呈して庇ってくれたり、致命傷を負っても仲間が死に物狂いで助けてくれる。
自分がいるだけで、他人を不幸にしてしまうので、こうして地下牢に幽閉してもらっているそうだ。
話を聞く限り、とても優しい子だと思った。他人に迷惑をかけないために、自ら幽閉される。普通の人なら出来ない事だろう。
「大丈夫だよ。俺達強いから。アバランチャさんも守って見せる。な、ウラガ。」
「おう!盾職として、仲間は守って見せるぜ!」
「それでも・・・」
どうやらアバランチャさんんは、決断しかねているようだ。俺達の強さも分からない。しかもダンジョンへと挑むのだ。死なせるかもしれない。これまでの長い人生を振り返って、他人に関わる事を恐れているようだ。
「悪いけど、時間が無いんだ。無理やりにでも連れて行くけど?」
「分かったわ。行くわ。」
俺達が折れる事は無いと分かったようで、アバランチャさんも決心がついたようだ。神の報酬も魅力的なのだろう。
「それじゃぁ教皇さんに話を付けてくる。グラスとウラガは彼女を綺麗にして、食事を出してあげて。」
「「了解」」
俺とクルスは地下から一階へと上がり、教皇さんに話を付けようとしたが、断固拒否された。いくら巫女様のいう事でも了承できないと。しばらく説得を試みたが、どうやってもアバランチャを外に出す気はないようだ。
俺達は先を急ぐ身だ。埒が開かなかったので、強制的に連れだす事にした。俺は一端地下へと降りる。そこには、服を着替えて、【生活魔法】のリフレッシュで綺麗になったアバランチャの姿があった。赤い髪がより赤く見える。まるで燃えているようだ。
「話がつかなかった。強行突破する。グラスは教会の外までの道を開けてくれ。」
俺がそう言うと、グラスは直ぐに教会から外へと出て、道端で待機してくれた。グラスが通った道は、全て扉を開けている。
俺は【鷹の目】を使って視線を飛ばして、建物の外、ちょうど地下の俺達がいる上辺りを見る。そこに【土魔法】で作ったナイフを置く。
「ウラガ。誰も来ないよう、見張っててくれ。アバランチャさん、行くよ」
俺は【空間魔法】の転移を使い、ナイフと場所を入れ替えた。転移は本来見える場所にしかできないので、グラスに道を作ってもらったのだ。
外に出た俺はアバランチャをグラスに預けて、ウラガの元へと戻る。地下へと戻った俺とウラガは、そのままクルスを呼びに行き、怪しまれることなく教会を出る事に成功した。
俺達は直ぐに武器屋へと入り、アバランチャの装備を見繕い、武器を購入する。アバランチャは力が強いので、並の武器では使い物にならない。なので全てが金属でできて、持ち手だけ木のグリップがついた斧を選んだ。持ち手が木だけだと、握っただけで粉々だ。
装備は、ダンジョンが火だと言う事で、金属は使わない。魔獣の革で作った全身防具を選んだ。
とっとと買い物を済ませた俺達は、街馬車へと乗り込んで、そのままダンジョンへと向かう事にした。ちょうど俺達が馬車に乗り込んだところで、教会から慌てた様子の人達が出てくるのが見えた。アバランチャが居なくなったのに気付いたようだ。だが走り出した馬車に追いつけるはずもない。何か教皇が叫んでいるが、全く聞こえなかった。
そうして俺達は北にある農場を越えて、ダンジョン入口へとやってきた。まだ時間としては9時近く。ダンジョン初日は、慎重に進むが余裕がある。
ダンジョンの入り口は、山の斜面に、真っ赤な溶岩で縁取られた特徴的な入口だ。明らかに暑そうでる。
俺達はダンジョンの入り口にいたドワーフに、王から貰った手紙を渡して、すんなり入る事を許可された。
「それじゃぁ皆、行くぞ!」
「「「おー!」」」
掛け声と共に俺達はダンジョンへと入って行った。
「うわ。あっつー。」
ダンジョン内は、一階だと言うのに既に暑い。前世の夏を思い出すようだ。
中は特に変わった様子は無い。普通の迷路の様だ構造で、所々赤い溶岩が見える程度だ。
「じゃ、さっそく。」
俺は剣を地面に突き刺して【地形把握】を発動させる。
この1階はそれほど広くないようだ。1km四方といったところだ。
中は迷路の様になっているが、俺達は迷うことなく最短ルートで一階を進む。本当に何事も無く進むので、アバランチャさんに声をかけた。
「ところでアバランチャさん。アバランチャさん事、なんて呼べばいい?」
「何とでも呼べば良いだろう。」
実はアバランチャって呼びにくいんだよね。戦闘中に呼んだ場合、舌を噛みそうだ。
「じゃぁアンってどうかな?」
「いいですね。呼び易そうです。」
「いいと思う―。」
「それでいいわよ。」
実は俺達のメンバーの中で最年長なのだが、見た目が若いため既に敬語ではなくなっている。命を預ける仲間なので、他人行儀でいるよりは連携の意味からも敬語は面倒なのである。アンもその事は理解しているようで、特に何も言わない。
ただ、クルスが巫女さんバージョンの凛とした佇まいから、ふだんの眠そうな様子へ変貌した事には、少なからずショックを受けていた。
「人ってすごいわ。」
アンの長い人生の中でも、クルスの豹変ぶりは珍しいのだろう。変な褒め方をしている。
そんな他愛も会話のをしながら、1階は1時間もかからず攻略した。
俺達は二階へと降りる。
二階はより広く、より暑くなっている。1km×2kmってところだ。しかも魔獣の気配もする。俺達は少し慎重に歩みを進める。
地下二階からは、溶岩が噴き出す地点が何か所かあった。吹きだすと言っても、ポコポコと地面から湧いていて、時折プシューっと吹きだす位だ。だが確実に暑いし、溶岩なので当たれば火傷になる。
俺達は気をつけながら進んでいく。しばらく歩くと、魔獣の姿を確認できた。今回は修行も兼ねてグラスの【周辺把握】で魔獣を探している。初めての敵と言う事で、ちょっと遠回りだが、一匹だけのところへと態々(わざわざ)出向いたのだ。
出てきた魔獣は、ファイアーマンだ。全身を包帯の様なものを巻いて、その包帯が燃えているのである。ゾンビ系の一種だ。
「ここは私の力を示させてもらうよ。」
アンはそう言うと、自分の身長程もある鉄の斧をブンブンと振り回し始めた。しかも片手でだ。幾ら力の強いドワーフでも、普通なら両手で持つ斧を、軽々と扱っている。さすがだ。
アンはゆっくりと魔獣へ近づいて行く。ファイアーマンは遠距離攻撃が無いのだろう、向こうもゆっくりと近づいてくる。不気味だ。
そしてアンは自分の射程圏内に敵が入ったところで、斧を豪快に振りぬいた。アンへと抱きつこうとしていたファイアーマンは、お腹のあたりからまっすぐ横に切り裂かれており、上半身がズズズとずれて、床へと落ちて行く。
敵を倒したのを確認した俺達は、アンの元へと駆け寄った。
「凄いなアン。ファイアーマンが綺麗に切れている。」
その断面は、本当に綺麗に切り裂かれていた。斧の切れ味もさることながら、アンの力で遠心力も乗っていたのだろう。これなら戦力として申し分ない。
「でもあたしは、リーチが短いんだよ。それが問題なのよ。」
ドワーフは元々小柄だ。なのでリーチが短いし、アンの持つ斧は槍とかに比べると短い。どうしても接近戦になってしまう。それはアンが呪いを危惧する要因の一つになっている。だがそれをカバーするのがチームだ。
「一緒にアンの戦闘スタイルにあったフォーメーションを考えて行こう。」
ダンジョンのまだ浅い階層で、俺達はよりベストな戦い方を模索していくのだった。
ごねたのは、教皇でしたね。アンは比較的あっさりテル達について行きましたね。余程報酬が魅力だったのでしょう。
テルは、アンを連れ出すため少し無茶をしましたね。今後どうやってアンを活かそうか。難しい。
次回はダンジョン2階層以降の話の予定