で、なんで街から離れたところで止まってるんだ?
ドワーフ国への移動の話。
翌朝。俺達はドワーフ国へ向けて出発した。
俺達が出発する少し前、人族の救援部隊が先に出発するのを見届けた。俺達が先に行っても良かったのだが、それだと、慣れない環境で、魔獣に襲われる事になる。そうなれば、短時間でも泊まる事になるので、どんどん後方に迫る大部隊に迫られる。
俺達の戦闘は遠距離からの魔法がメインだし、魔力が人並み以上なメンバーだ。疑問に思われたり、スカウトされたり、ドワーフの王都での支援を要求されては、ダンジョンへと進めなくなる。
なので、俺達はわざと時間を遅らせて部隊が進んだ後を、のんびりと進む事にした。
「のどかだよなー。」
「っていうより、暇じゃね?」
大部隊の後を行く俺達には、魔獣は全く襲ってこなかった。ダンジョンが出来た事で、ドワーフ国の魔獣や動物が活性化しているはずなのにだ。
「やっぱり狩りつくされたのか?」
「どうだろう?いない事は無いんだけどなぁ。」
俺は【周辺把握】をフルに使って、さらに【鷹の目】も使って周りを見る。先を行く部隊が戦った後だろう、魔獣の血で地面が赤く染まっている場所は何か所も見られる。そして所々にある山の穴の中からは、魔獣の反応がしっかりと感じられる。
「ま、良いんじゃないか?今のうちに修行でもしてようぜ。」
「だな。」
ドワーフの国は、小さな丘や山がそこかしこにある土地柄だ。人族の土地の様に草原が広がっている訳でも、獣人国の様に森ばかりという訳でもない。
山と山の間を縫うように、蛇行して進んでいく。山と言っても色んな種類が見受けられる。木が生い茂っている山もあれば、岩や土だけの山。何やら煙のような、水蒸気のような物を噴き出している山まである。
そして俺らの山には洞穴が無数に空いており、そこが魔獣や動物達の住処になっているようだ。
俺達はそんな山の間を進みながら、各自で修行を開始する。次のダンジョンのテーマが“火”であると予想がついているので、グラス以外は【水魔法】で何かできないかと思案している。
グラスは未だに【水魔法】を覚えられていない。クルスが言うには、グラスには【水魔法】の適性が低いそうだ。クルスは他の魔法を伸ばす事を進めるが、グラスは頑として【水魔法】の修行にこだわった。
「どうして【水魔法】をとるんだ?」
「だって、私の目的は同族を見つける事ですよ?【水魔法】が使えた方が良い場面はきっと来ます。その時に使えませんじゃ、進めないじゃないですか。」
確かにグラスの言うとおりだ。俺達は一通り世界をまわる事になるのだろうが、それでも竜族であるグラスの仲間が見つかるかは分からない。何せ、竜族自体が世界を移動する修正を持っているのだから。行き違いにもなるだろう。
俺達が居なくなった後に、竜族を見つける旅を続ける可能性があるのなら、【水魔法】が使える俺達がいる間に、覚えようと思っているようだ。
そういう話しならと、ウラガがスライムのシズクを貸している。水の神獣であるスライムのシズクは、水のエキスパートだ。何か教えられるかもしれない。
「じゃ、シズクちゃんお願いね。」
「ピー♪」
グラスがシズクに何かを頼むと、シズクは一鳴きした後、全身の形を変えてグラスの首から下を包み込んでしまう。見るからに気持ち悪い。
「何やってるんだ?」
「シズクはスライムでしょ?なら水とほぼ一緒と思ったんです。テルさん達がトレーネ湖で、水に浸かりながら【水魔法】を習得した話を聞いたので、それを参考にしてみました。」
確かに俺とウラガはトレーネ湖に入って、魔力を垂れ流しにしながら、魔力が水へと変化する感覚を掴んだ。それをスライムであるシズクでやろうと言うのだ。
「いくよー。」
グラスはそう言うと、全身から魔力を放出し始める。放出された魔力は、スライムのシズクに吸収されることなく、逃げ道を探す様にして首の横から空気中へと逃げて行った。
「ほとんど吸収できてないじゃないか。」
「なんで?どうしてなのシズクちゃん。」
「ピー。ピー。」
「波長が合わないんだとよ。魔力を食べるにしても、少し早すぎるって。もっとゆっくり少しずつ魔力を出してやってくれ。」
シズクと心でも繋がっているウラガによると、ウラガの魔力の波長と同じであるシズクの魔力が、グラスの波長と合わないので、身体の中へと吸収するのが難しいらしい。
スライムの特性として、魔力すら食べて自分の魔力へと変換する事が出来るのだが、それでも食べられる速度は決まっている。グラスの放出する魔力をシズクが食いきれないようだ。
話を聞いたグラスは可能な限り魔力の放出を抑えようとするが、なかなか上手くいかない。もともと獣人族は魔力の量も少ないし、コントロールも苦手とされている。その例にもれずグラスも繊細な魔力コントロールが苦手らしい。一気にぶっ放す方が性に合っているのかもしれない。
そうして俺達は各自で修行しながら、馬車を走らせていく。
夜になっくると、道の途中にある休憩スペースで寝るのだが。もちろん前を進んでいた大部隊さんが、先にいる。俺達は彼らの邪魔にならない様に、一番端っこで、静かに夕食をとろうとする。
だが俺達の夕食はかなり豪勢なようで、チラチラと部隊の人が視線を送っては、涎を垂らしている。豪勢と言っても、サラダとスープとパン、それにお肉のソテーとフルーツなのだが。
俺はこっそりと【鷹の目】を使って部隊の食事事情を観察する。皆が食べているのは、野菜がほんの少し入ったスープと、サイコロ状のお肉が2切れ。あと硬そうなパンが半分だ。指揮官たちでも、お肉がちょっと増えるくらいだ。
うん。俺達の食事は、場違いな程豪勢だな。
しかも俺達は【土魔法】を使って、テーブルや椅子まで使っている。部隊の人達は地べたに座ったり、立ったまま食べている。向こうからしたら、まるで別世界のように感じるだろう。
そんな状況に耐えられるはずもなく、俺達は部隊の人からの熱い視線を受けながら、急いで食事を済ませた。あんなに見られてたら、味も何も分からない。
そしてそそくさと馬車へと戻って、早々に寝る事にした。
ちなみに、この馬車は椅子の部分を変形させるとこで、二段ベットを二つ作れる。馬車という狭い空間だが、それでも4人で寝る分には十分なスペースを確保できている。そんな事が出来るのも、俺達が“魔法の袋”を二つも持って、人並み以上の魔力によって収納力が格段に高いからだ。普通なら馬車の中には物資が詰まっているはずなのだ。
そして翌日からも同様な感じで進んだ。
途中、ワーム型の魔獣や、火を吹くトカゲ等の魔獣に襲われたが、魔法であっさりと倒す事が出来た。どうやらドワーフ国の魔獣は、このワームやトカゲが主流の様だ。特段、肉にして食べたいと思えるような魔獣でもなかったので、綺麗に討伐できたものだけは“魔法の袋”の中へと収納しておいた。あとで、ギルドに売ってしまおう。
そんなこんなで、10日程馬車を走らせると、遠くに王都が見えてきた。
ドワーフの王都は山の中にあるらしい。なので王都が見えてきたと言うよりは、王都の始まりが見えてきたといった方が良い。王都のある山へと入る場所から既に、宿屋や民家が立ち並んでいるのだ。
もちろん街を守るための城壁が築かれているが、入口がそんなに広い訳ではないので、せいぜい500mといったところだ。魔族の国の様に、何kmに渡って城壁があるわけではない。いわば、山自体が砦なのだ。
「あれが入口かぁ。で、なんで街から離れたところで止まってるんだ?」
俺は【鷹の目】を使って、視線を飛ばしていたのだが、王都へと入る手前、数百m前で救援部隊の人達が止まっていた。
何やら線の様なものが引かれていて、そこからは一歩たりとも近づこうとしていない。
どうやらあの線が、ダンジョンの外と中の境界線なのだろう。あそこを越えると、ダンジョンへと引きづり込まれると言う訳だ。
俺達はゆっくりと部隊の後ろへ馬車走らせて、救援部隊の人達へと声をかけるのであった。
ドワーフ国には温泉がありそう。絶対ある。どうやってか出そう。
テル君は、ようやく自分達の食事事情が豪勢なのだと理解しました。もともと人族は料理が美味しくないのですが、救援部隊は物資を運ぶのが任務。質素で当然なのです。それを横で豪勢な食事をされたら・・・。よく無事だったな。
次回はドワーフ国の王都とダンジョンの話。