明日からドワーフ国を目指そう。
ドワーフ国についての説明回です。
ドワーフ国の絵があります。
少しでも理解の助けになればと。
翌日。“境界の山”の真ん中の山の中にある街で聞きとり調査を開始する。
まず向かったのは冒険者ギルドだ。
俺達はまだ街中の色とりどりの環境に馴染めずにいたので、馬車の中に引きこもっている。馬車と言っても、普段俺達が使っている馬車ではなく、街馬車だ。もちろんこの馬車の中も、色々な絵が描かれていて、目がチカチカする。我慢だ。
街馬車に乗って数分でギルドに着いた。ギルドの扉だけは相変わらず真っ赤に染まっている。よく見なれた景色で、なんだか安心する。扉以外は派手だが。
中に入ると、いかにも兵隊さんというような、規律正しい様相の人達でごった返していた。主に右半分の飲食コーナーに居て、朝から酒を片手に談笑している。
俺はこっそり聞き耳を立ててみると、どうやら今日は休みらしい。明日からはドワーフ国へ向けて物資の搬入の任務があるそうだ。
俺達はギルドの左半分にある受付カウンターへと進む。出迎えてくれたのは人族の女性だった。お姉さんと呼ぶには少々年を召された人。ありていに言えば、おばちゃんだ。
「今日は何のご用ですか?」
「道中盗伐した魔獣の買い取りと、ドワーフ国についての情報を買いたいのですが。」
「分かりました。ではこちらへどうぞ。」
俺達は盗伐した魔獣を買い取りカウンターにぶちまける。俺は道中ずっと寝ていたので、どんな魔獣と出会ったのか、今初めて知る。
ウラガの“魔法の袋”から出されたものの大半は、ゴブリンやオークといった亜人型魔獣と、オオカミやイノシシ、クマっぽい生物ばかりだ。それがカウンターの上に山積みになっていて、それでもまだ出せるようだ。
「こりゃまた大量ですね。これから冬になるので、助かります。」
“境界の山”では、ほとんど魔獣は出てこない。なので、肉を食べたくなったら行商人から買うか、狩りに行くしかない。だが基本アーティストしかいない“境界の山”では、野生の動物を狩れる程の技術のある人はいない。必然的に、買うしかないのだ。
しかもこれから冬になると、クマ等は冬眠する。今が狩り時なのだそうだ。動物達も冬用の脂肪を蓄えるために、ちょっと凶暴になっているそうだ。“境界の山”の安全を守るためにも、俺達のような冒険者の狩りは重要らしい。
「買い取は他の者に頼んできましたので、その間にドワーフ国の話をしましょう。」
おばちゃんの案内で、俺達は受付カウンターへと戻る。買い取カウンターは他の職員が総出で処理を始めていた。おばちゃんは説明を口実に逃げたようで、ちょっと恨めしそうな視線を投げかけられている。
「皆さんも聞いてると思うけど、ドワーフの王都にダンジョンが出現してねぇ。街に近付いただけで、引きずり込まれるそうですよ。」
「それで、街から外へは出られないと。」
「その通り。未だに人が出てきたって話は聞かないわね。」
「ドワーフの国って、元々どんなところなんですか?」
「鉄鋼業が盛んよ。王都は火山の近くにあってね。良質の“火の魔法結晶”が取れるダンジョンがいくつかあったのよ。他にも、ちょっと王都から離れるけど、北の方には良質な金属が取れる場所もあるみたい。でも金属なら人族の東の方が良いわよね。ドワーフ達がこぞって買いに来るんだもの。だから王都も人族の近くにあるのよ。そしてそれらを使って、ドワーフ達が剣や鎧、船なんかを作ってるわ。」
「なるほど。火のダンジョンか。」
俺はおばちゃんの話から、次のダンジョンのテーマが火であると確信する。俺達が得意とする【水魔法】とは相性がいい。
しかも鉄鋼業が盛んなので、上手くいけばより良い装備が買える気がする。人族の王都で用意してもらった物もかなり良い物なのだが、これからの事を考えると欲がでてくるものなのだ。
しかも剣を作っているらしい。俺の【オール・フォー・ソード】の固有能力を駆使すれば、良い物が作れるだろう。
「しかもドワーフは付与が得意なのよ。と言っても、金属だけに限るんだけどね。他の木製の物は、やっぱりエルフ製が良いわ。エルフ国とドワーフ国は仲が良くてね。それぞれが切磋琢磨して、技術交流も盛んなのよ。その拠点が西都よね。あそこは付与がメインで発展してるわ。」
おばちゃんは話し始めたら止まらないタイプの様だ。俺が考え事をしながら、適当に相槌を打っていると、どんどんヒートアップしていく。
「ダンジョンのせいで観光客もめっきり減って、今は兵隊さんが来てるから良いけど。彼らが行ってしまったらまた閑古鳥が~~。」
「ところで、ドワーフの国の地図はありますか?」
「あ!すっかり話し込んじゃったわね。地図ね地図。はいこれ。」
おばちゃんの話を強引に止めて、俺はドワーフの地図を手に入れた。おばちゃんが話していた通り、人族の国に非常に近い場所に王都レイがあるようだ。
人族の国から鉄鉱石を輸入するために、この立地が最適らしい。
そう言えば人族の東側にある山って、ウラガの地元じゃなかったけ?あとで聞いてみよう。
地図と大体のドワーフ国の情報を聞けた俺達は冒険者ギルドを後にして、買い出しへと向かう。
「次のダンジョンのテーマなんだけど、火っぽい。」
「やっぱりか。」
「知ってたのか?」
「そりゃドワーフの王都はお得意様だからな。何度も行っているし、街の様子も知ってる。だからダンジョンが出来たのなら、火かなって思ってな。」
「そうそう。ウラガの地元って、人族の東にある山脈の東側だよな?鉄鉱石が取れるんだろ?」
「ギルドで聞いたんだな?そうだ。あそこの山脈は良質の金属が取れるんだ。だけど実家の領土は南の方でさ。北の貴族達の方が頑張ってて、うちはそれほど儲かって無かった。」
「?でもどっちみち山越えて行くんだろ?」
「北の奴らは、絶海を通って船で大量に運ぶんだよ。絶海は大型の魔獣がいるし、天候も不安定、おまけに陸地と海は崖になってる。けど北の方は地面を掘って、船に積みやすくしてるし、距離が短いから、博打にでるだけの価値があるんだよ。」
ウラガが羨ましそうに、北の領主の話をしている。なんでも北の領主は固有能力のおかげで、そういった危険を感じ取れるらしい。グラスの【危険予知】に似た能力だ。そして、大昔の領主が【土魔法】を使える人間を集めて、大々的に船着き場を整備したおかげで、今日の発展に繋がっているらしい。
「話がずれたな。俺は火だと思ってたから、王都で水の魔法結晶、大量に買っといたぜ。」
「さすがウラガ。でもよく大量に魔法結晶なんてあったな。」
「あぁ。“神の涙”のトレーネ湖で、天使様の神殿が復活しただろ?それを機に色々調べて、湖近くにダンジョンを見つけたんだと。そこで水の魔法結晶が取れるようになったって、王様が言ってた。」
「懐かしいなぁ。あのマシンガントークの王様。そしてクレーさんに頭が上がらない。一瞬だけ見た記憶しかないからなぁ。」
事の顛末はともかく、ウラガのファインプレーで水の魔法結晶は大量にある。これで火のダンジョンも優位に進む事が出来るはずだ。
「買い出しした後は各自自由行動って事で。明日からドワーフ国を目指そう。」
そうして俺達は旅に必要なもので、消耗品や新鮮な野菜類を購入していく。念のために火に強い布のマントや、替えの衣服も買っていく。そうして準備万端にした俺達は、各自観光を楽しむために、“境界の山”の内部を探検していくのだった。
折角の“境界の山”ですが、観光は書けていません。
というか、元気なのはウラガだけで、テル君達はまだ色に酔っている状態です。なので観光と言っても宿まで歩くのが精一杯でしょう。
テル君は、ドワーフ国のダンジョンが火であると確信してますね。ウラガもそう思っているようです。その通りになるのでしょうか。
次回は、ドワーフ国への移動の話。