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そう言えば、街中も音楽が鳴ってたな。

“境界の山”のお話。


俺が二週間の眠りから覚めて、さらに3日が過ぎた。グラスが操る馬車は、ドワーフ族と人族の国境に当たる、“境界の山”まで辿り着いたようだ。


「すごーい。見えてきたよ。山―。」


俺はというと、やっと起きあがって歩けるようになったが、まだ全身が痛い。まだまだ回復には時間がかかるようだ。


俺達は馬車の中から前方にそびえる山々を眺める。目の前には5つの山が見えるが、どれも色が無い。まるで水墨画の山がそのまま飛び出してきたかのような、なんとも不思議な空間だ。さらに良く良く観察してみると、その一帯全てが色を失っている。空すらも例外ではなく、墨の濃淡だけで描かれているようだ。


「色が無いな。」

「この山は芸術関係が盛んなんだぞ。」

「へー。芸術が盛んなわりには、色が無いなんてなー。不思議だな。」

「一見味気なさそうだが、中は凄いぞ。たぶん色で酔うんじゃないか?」

「色で酔う?」


どうやらウラガはこの“境界の山”に来た事があるらしい。何やら知っているようでニヤニヤしている。グラスやクルスも、ウラガの話を聞いてとても楽しみだと言わんばかりの笑顔である。


止めた馬車を再び走らせて、俺達は“境界の山”へと入って行く。


見えていた山は想像以上に大きかった。ドワーフの国と人族の国の間には、ちょっとした山脈があり、先ほど見えていた山はその中でも一際標高の高い、“境界の山”を代表する5つだったようだ。見た目は剣山のように、スラッとそびえている。


そのふもと辺りに道があるらしいので、5つの内、一番近い山へと向かう。


だが距離感がおかしくなっていたようで、結局その日は真ん中にある山まで辿り着けなかった。真ん中の山は、比較的掘りやすいそうで、穴を掘って家にしているらしい。家というよりアトリエだろう。


そして翌日。俺達はとうとう“境界の山”へと入って行く。ある一線を越えた途端、それまであった色が消失する。地面の茶色も、植物の緑も、空の青さも。何一つとして色が無い。


なんだか音まで失われたかのような錯覚におちいる。そんな不思議な空間が続いていた。


そんな色の無い道をひたすら進んで、夜になってようやく真ん中の山まで辿り着いた。


真ん中の山へと入ると、そこには巨大な街が広がっていた。そしてこれでもかという程の色で溢れている。


山の中を丸々くり抜いたかのような印象を受ける。昔行ったドームが2つ3つは入るだろう。ドーム状の天井もかなり高い。山の中のドームの壁に沿うように、道が何層にも連なっていて、そこには扉がついている。


内側から外側に向かって土を掘って、部屋にしているようだ。そんな部屋がずらっと並び、高さも10階分はあるだろう。


街の中央には、余った土砂で作ったのか、レンガ造りの家々が建っていた。そこにはギルドや宿屋、教会やお店もある。どうやら壁側の家はアーティスト用、中の街は観光客用とすみ分けられているらしい。


それにしても外とは打って変わって、本当に色とりどりだ。天井にまで色が付けられており、東側には夜が。真ん中には青空と雲。西側には海と夕焼けが描かれている。


天井だけではない。家も赤や青、黄色に緑といった原色を一色だけ使ったものから、花や鳥、自然をモチーフにした絵や、魔獣や動物、天使といったものだけを集めた、まるで動物園かと突っ込みそうになる壁を持つ家もある。


しかも街中には変なオブジェや、考える人のような彫刻。木工作品などの立体的な芸術も所狭しと置かれていた。


「う・・・。気持ち悪い。」

「言った通りだろぉ。色に酔うんだよなぁ。」


俺はその色の多様さに気分が悪くなってくる。常識では考えられないような配色の物が多々あって、脳が処理しきれていないのか、世界が歪んでいると感じているのか、どうにも酔ってしまった。


「綺麗だけどー。わたしも無理―。」

「私もこれはちょっと。」


どうやらクルスやグラスも色に酔ってしまったようだ。


最初に街に入った時は、俺達全員がその鮮やかさにテンションを上げて、大いにはしゃいでいたのに、1時間もしないうちにギブアップだ。


「とりあえず休むか。俺が昔世話になった宿でいいか?」

「あぁ。頼むよウラガ。」


俺はそう言って馬車の中へと引っ込んでいく。グラスもクルスも俺の後に続いて、馬車へと避難した。


「俺も昔はよく吐いたもんなー。ここの洗礼みたいなもんだよw」


ウラガが御者台から俺達へと話しかけるが、俺達はもうふらふらだ。馬車の中の落ちついた茶色と、しっかりした直線が心地よい。


俺達はウラガの案内で、比較的高級そうな宿へとやってきた。馬車から下りた俺が最初に感じたのは、ザ・西洋、だ。


ミロのビーナスや、羽の生えた天使、雄々しい裸の男性等の、陶器か何かで作られた真っ白な彫刻がロビーに置かれ、金や銀で縁取られた絵画にシャンデリア。


映像でしか見たことないが、昔の西洋の宮殿の様な内装だ。


普段ならそのきらびやかな内装に、俺達も委縮するところだが、街の中と比べるとかなりまともに感じる。色の大洪水がないだけマシなのだ。


「とりあえず男と女で二部屋とったから。少し休んだら、夕食だぞ。また呼びに行くから。」


グロッキーな俺達を他所に、ウラガがテキパキと部屋をとってくれた。普段なら観光客でひしめくこの宿も、今はドワーフの国が大変なので観光客は少ないそうだ。なので二部屋も取れたらしい。


俺は部屋へと入ると、早々にベットへ倒れ込む。まだ全身が少し痛いのに、色で酔ったので身体がキツイのだ。


「大丈夫かテル?まだ痛むか?」

「歩けてはいるからな。だいぶ良くはなったよ。でもまだ戦うのは無理だな。」

「そっか。魔力はどうだ?」

「やっと8割ってところだ。明日か、明後日には全回復だ。ようやくユキの呼びだせるよ。」


魔力の回復すら遅くなっていたが、とうとう全回復できそうだ。ユキは念のため魔力が全快するまで俺の中に居て貰っている。呼びだすのも、外に維持するのも魔力が必要なのだ。ここはユキに我慢してもらうしかない。


ユキもそれは理解しているようで、俺の中で大人しくしてくれている。心も繋がっているので、心配してくれているのが手に取る様に分かる。ウラガ達といい、ユキといい、本当に仲間に恵まれていると感じる。


一休みした俺達は、食堂へとやってきた。食堂には、屈強そうな兵士風のおじさま達が数人いるだけで、寂しい。おそらくだが、ドワーフ国への救援部隊の偉いさんだろう。何やら作戦会議や今後の事について相談している。


俺達は彼らから離れた席へと着席して、料理を色々頼んだ。人族の国が近いので、あまり料理には期待していなかったのだが、意外と美味しかった。ドワーフが酒に合う料理が食べたいので、料理に関したはそこそこ進歩しているらしい。その影響がここまで来ているのだ。


なので味付けはちょっと濃い。塩っ辛かったり、ソースが濃かったりする。しかも量が半端じゃない。鳥肉のソテーを頼んだだけで、一羽の半分も出てきたのだ。正直、食べきれなかったので、こっそり“魔法の袋”に入れておいた。明日の朝にでも食べます。


俺達が料理を食べていると、いきなり演奏が始まった。食道の端に置かれていたオルガンのような机に向かって、女性がしっとりとしたメロディーを奏でている。


「そう言えば、街中も音楽が鳴ってたな。」


色のインパクトに圧倒されていてあまり覚えていないが、街中には音楽が溢れていた気がする。クラシックぽいものから、ジャズ、ヘビメタ風まで様々なジャンルの音楽があった気がする。


さすが芸術で有名な“境界の山”だけの事はある。色々な芸術に触れられる。


俺達は、心地よいオルガンの音を楽しみながら、ゆっくり落ちついて夕食を食べ、一時の平和に浸るのだった。



色に酔うとありますが、おそらく曲線の多さも原因でしょう。まっすぐのはずの道が、絵のせいで歪んで見える。まともに歩けそうにありませんね。

テル君は順調に回復しているようです。それにしてもペナルティーが重いですね。それほどまでの無茶をしたのだと伝わるでしょうか。

次回は、“境界の山”の観光の話の予定。

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